理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-14
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ポスター発表
歩行時の足圧中心軌跡と距骨下関節の関係
江戸 優裕西江 謙一郎根本 伸洋中村 大介
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キーワード: 歩行, 足圧中心, 距骨下関節
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抄録
【目的】足圧中心(以下、COP)は荷重位において床面が身体を支持しているとみなせる点と解釈され、その分析は身体運動を力学的に理解する上で有用である。歩行立脚期におけるCOPは、踵から足底外側を経由して前足部で内側に向かうという認識が一般的だが、詳細には様々な報告がなされており、統一した見解が得られていない。こうした歩行時のCOP軌跡の多様性は、床との接地部位である足部の機能の影響を受けるものと推察される。足部の関節の中で、距骨下関節(以下、ST関節)は足部全体の剛性と柔軟性を調節する関節としてとりわけ重要視されている。このような機能的背景から、本研究では歩行時のCOP軌跡とST関節の関係を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常成人10 名(男性7 名・女性3 名:平均年齢27.4 ± 4.6 歳)とした。歩行時の足圧の計測は、足圧分布測定器Footview Clinic(NITTA社製)を用い、十分に練習した後に3 回計測した。得られた足圧分布図を以下に示す本岡ら(2005)の方法に従い台形で表現した。進行方向に直角で足趾前縁との接線を上底、踵後縁との接線を下底とし、足底内外側縁を脚とした。そして、台形の高さ1/4・2/4・3/4 高位に3 つの直線をひき、各直線において内側脚からCOP軌跡との交点までの距離を両脚間の距離で除し百分率で表した(以下、%COP)。尚、これら3 つの高位を後・中・前足部とした。また、台形の両脚が成す角の二等分線が進行方向に対して成す角を足角とした。ST関節に関わる理学所見は以下の8 項目を計測した。(1)ST関節の内反可動域、(2)ST関節の外反可動域、(3)ST関節の内外反中間位は山嵜ら(1998)の方法に従い、(1)と(2)の和を(4)ST関節の内外反総可動域とした。(5)立位での踵骨側方傾斜角度と(6)下腿側方傾斜角度はSeibel(2004)の方法[外方傾斜(+)]に、(7)Heel-Leg angleは新関(2005)の方法[内反(+)]に従って計測した。(8)果部外捻角度はSeibel(2004)の方法を用いた。尚、計測は1 度単位で判定可能な角度計(Otto Bock社製)を用いて3 回行った。分析は平均値を用い、右足データを解析対象とした。各足圧データとST関節の理学所見との関係をPearsonの積率相関係数を求めて検討した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意・倫理的配慮】対象者には事前に研究の主旨を説明し、書面で参加に同意を得た。【結果】%COPは後足部55.1 ± 2.9%、中足部52.0 ± 7.6%、前足部43.8 ± 5.3%であった。足角は10.5 ± 6.0°であった。相関分析の結果から、後足部%COPと相関の認められた項目は(2)ST関節外反可動域(r=-0.68)・(5)立位での踵骨側方傾斜角度(r=0.73)であった。中足部%COPはいずれの項目とも相関を認めなかった。前足部%COPと相関の認められた項目は(2)ST 関節外反可動域(r=-0.70)・(5)立位での踵骨側方傾斜角度(r=0.78)・(7)Heel-Leg angle(r=0.72)であった。また、足角と(8)果部外捻角度(r=0.70)にも相関を認めた。【考察】後・中・前足部%COPの結果より、歩行時のCOPは後足部から中足部までやや外側を通って前足部で内側に抜けていく軌跡を描いており、多くの先行研究と大筋で一致していた。%COPと理学所見との相関分析の結果より、COPが後足部と前足部レベルで外方を通過するほど、ST関節外反可動域が小さく、立位における踵骨の外方傾斜が大きいことが分かった。COP位置は足部モーメントによってほぼ決定付けられることと、後・中・前足部%COPは立脚初期・中期・後期でのCOP位置に該当する(Root1977)ことを踏まえると、後足部と前足部レベルでCOPが外方を通過することは、立脚初期と後期にST関節回外筋の活動が回内筋よりも優位であることを意味している。正常歩行において、立脚初期は前脛骨筋、後期は下腿三頭筋などが特に大きく活動し、どちらもST関節に回外力を生じさせる。これらのST関節回外筋の活動が回内筋よりも習慣的に優位なほど、立位時の踵骨外方傾斜角度は大きく、更にST関節外反可動域は減少する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】本研究はCOP軌跡が多様化する一要因がST関節の働きにある可能性を示すものである。ST関節の肢位が立脚初期と後期のCOP位置と関与することからは、立脚初期と後期のCOP位置のコントロールを目的としたST関節への介入の有用性が示唆された。
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© 2013 日本理学療法士協会
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