理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-14
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一般口述発表
腸蠕動運動が弱くイレウスを繰り返す重症心身障害者への前傾座位と腹部体操の導入
大田原 幸子羽原 史恭西 達也大下 浩希永田 裕恒山本 奈月青山 香久山 美奈子美濃 邦夫梶 睦籔内 あさ子太田 淳子花田 華名子
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抄録
【はじめに、目的】重症心身障害児(者)では摂食・嚥下障害や消化管運動の機能障害に伴って、胃食道逆流症、逆流性食道炎、呑気症による腹部膨満、イレウス、便秘等の消化器疾患を伴うことが多い。その中でイレウスの治療・予防として食事制限・ガス抜き・浣腸等が行われるが、本人にとってはQOLの低下につながる。今回、麻痺性イレウスを繰り返した既往があり、慢性的な腸蠕動運動低下により食事制限が必要な症例を担当した。本人の「食べたい」希望を実現するために、姿勢ケアと腹部体操を日常に導入することで腹部状態を良好に維持した経過について報告する。【方法】対象は当院に入所中の60代男性。ジストニー型四肢麻痺でGMFCSレベルIV、脊柱後弯変形がある。臥位から正座位への姿勢変換が行え、短距離ならば寝返りや左下肢で床を蹴って車椅子を自走する移動が行える。簡単な会話を理解し、発声と身振りで意志表示できる。呑気による腹部膨満に加え、腸蠕動運動が慢性的に低下しており、腹部レントゲンで腸管の著しい拡張を常に認める。年に数回イレウスを発症し絶食点滴となることを繰り返しており、毎日浣腸とガス抜きを行い、主な栄養は高カロリー栄養剤である。腹部状態が良好なときは、少量の食事摂取も可能だが、中止になることも多く、食事に関する本症例の不満は強かった。そこで本症例の「食事を毎日食べたい」という希望実現のために、病棟への姿勢ケアと運動療法の導入により腹部状態を良好に維持する目的で理学療法開始となった。理学療法では、実施前後で本症例の腹部聴診を行って腸蠕動音が増加する姿勢や運動を検討し、病棟生活に導入可能な、簡便で安全なポジショニングと腹部体操を導入した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者とご家族には、本報告の主旨と個人情報の保護について十分に説明し、同意を得た。【結果】本症例は脊柱後弯変形があり、床上および車椅子座位では常に体幹屈曲・骨盤後傾位で、腹部が過度に長時間圧迫されていた。姿勢を検討した結果、体幹伸展位の保持と適度な腹部の圧迫で腸蠕動音が増加することから、当初は四つ這いクッションを用いた腹臥位の導入を検討した。しかし本症例は胸郭の圧迫や体幹前面での体重支持を好まず、四つ這いクッションへの不安感や、好きなテレビの視聴しづらさ等から腹臥位の受け入れが不良であった。そのため腹臥位の代替として、高さ40cmのカットアウトテーブル・前傾クッション・サドル型座面を用いた前傾座位が安全に行えるよう設定し病棟へ導入した。また、運動内容を検討した結果、前傾座位後に腹部のマッサージや腹筋運動を行うと腸蠕動音が増加することから、前傾座位保持後ガス抜きを行う前に、腹部のマッサージと腹筋運動を併せて導入した。前傾座位の実施時間は昼食後からガス抜き・排泄までの1時間に設定し、毎日取り組んでもらった。その結果、前傾座位と腹部体操を導入後、時間帯によっては腸蠕動運動の低下が認められるものの、長期間イレウスの発症なく腹部状態を良好に維持できている。【考察】本症例は呑気による腹部膨満や消化管運動の機能障害によって腸蠕動運動が著しく低下しているため、消化管の残存する運動機能を良好に維持していく必要があった。しかし、本症例は脊柱後弯変形による体幹屈曲・骨盤後傾した座位で日中のほとんどを過ごすことから、長時間同一姿勢での腹部の過度な圧迫が本来行える腸蠕動運動を妨げる一因であると考えた。そのため、前傾座位のポジショニング導入で体幹伸展し、前傾による適度な腹圧を加えることで、姿勢による腸蠕動運動の妨げを取り除くことができたと考える。また、前傾座位への姿勢変換と腹部体操を必ず病棟スタッフが関わる時間帯に設定することで、習慣化しやすく、効率的に腸蠕動運動・排気を促進することができたと考える。姿勢と運動の取り組みを新たに病棟へ導入する際には病棟スタッフの負担増は避けられないが、ポジショニングの安全性を高め、簡単で有効な腹部体操を選択し、本症例が独自に行える運動も含めたことで、病棟スタッフにとっては実践しやすく、本症例にとっては自主的に腹部体操に取り組めるようになり、腹部状態の安定につながったと考える。【理学療法学研究としての意義】腸蠕動運動の慢性的な低下に対するポジショニングとして腹臥位はよく選択される姿勢であるが、前傾クッションを用いた前傾座位も腹臥位と同様に腸蠕動運動促進に対し有効であると本経験から推察できた。また、腹圧が加わる姿勢保持と腹部体操の併用が、腸蠕動運動を促進し良好な腹部状態の維持につながった貴重な経験となった。
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© 2013 日本理学療法士協会
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