理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-18
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一般口述発表
脊椎圧迫骨折症例における腹筋群と歩行の関連性
小畠 啓伸薦田 昭宏窪内 郁恵中澤 伸哲渡邉 彩花掛水 將太
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キーワード: 脊椎圧迫骨折, 腹筋群, 歩行
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抄録

【はじめに,目的】体幹は協調した筋収縮をすることで脊柱・骨盤が安定化され,下肢への荷重伝達が効率的に働くと言われている.脊椎圧迫骨折における理学療法の目的は,疼痛緩和・廃用予防・歩行能力向上・椎体の圧潰を防止し脊柱のアライメントを保つなどがあげられる.一般的には圧潰防止のために脊柱起立筋を中心とした運動療法が推奨されているが,腹筋群(外・内腹斜筋,腹直筋,腹横筋)の報告は少ない.今回脊椎圧迫骨折症例において腹筋群と歩行の関連性を経時的に調査検討し,若干の知見を得たので報告する.【方法】脊椎圧迫骨折で保存療法目的に当院入院した17例(全例女性,平均年齢77.5±11.0歳)を対象とした.全例MRI所見にて急性期例であり,運動・知覚麻痺など神経学的異常所見を認めるものは除外した.椎体骨折数は単椎体13例,多椎体4例,コルセットは軟性14例,硬性3例である.腹筋群の評価として,Sahrmannが推奨する腹筋群の段階的評価を基に腰部過負荷及び上肢を使用するものを除外し5段階の評価として用いた.全段階において開始肢位を屈膝臥位とし,(1)片側下肢を屈伸,(2)片側下肢を挙上,(3)片側下肢を股関節90度屈曲させた状態で対側下肢を挙上,(4)片側下肢を股関節90度屈曲させた状態で,対側下肢を挙上後降ろし踵を滑らせ下肢を伸展,(5)段階4の動作を踵が床面に触れないように実施する,とした.これらの各段階の動作を両下肢で行い,代償や疼痛なく連続10回実施可能か評価した.段階的腹筋群評価において初期から5週目までに向上した群をI群(12例),向上しなかった群をII群(5例)とし,2群の年齢,疼痛(NRS),圧潰率,歩行速度,ケイデンス,ストライド長を比較検討した.統計処理はt検定を用い,有意水準5%未満とした.また各症例には腹筋群を同時収縮させる方法(Bracing)と,疼痛や機能・能力面に応じ運動療法を実施した.【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全患者に本研究の趣旨を説明し同意を得て実施した.【結果】段階的腹筋群評価の分類では,初期時 (1)1例,(2)14例,(3)1例,(4)1例,(5)0例であり,5週目ではI群は全例1段階の向上であり,II群は段階が初期時と同様であった.年齢:I群76.9±11.4歳,II群78.8±11.1歳であり有意差は認めなかった.椎体骨折数:I群単椎体10例,多椎体2例,II群単椎体3例,多椎体2例,コルセット:I群軟性10例,硬性2例,II群軟性4例,硬性1例,脊椎圧迫骨折既往歴:I群有8例,無4例,II群有2例,無3例,受傷原因:I群転倒5例,軽作業4例,その他3例,II群転倒3例,軽作業0例,その他2例であった.初期評価では疼痛:I群6.9±2.7,II群7±2.1,圧潰率:I群33.7±18.4,II群37.2±13.4であった.歩行速度:I群0.5±0.2m/秒,II群0.3±0.1m/秒,ケイデンス:I群83.4±17.9,II群99.6±14.2,ストライド長:I群0.7±0.2m,II群0.4±0.1mであり,歩行速度に有意差(P<0.05)が認められた.評価5週目では疼痛:I群4.3±3.4,II群6.0±1.4,圧潰率:I群44.4±20.0%,II群40.5±12.3%であった.歩行速度:I群0.7±0.2m/秒,II群0.4±0.1m/秒,ケイデンス:I群105.0±15.3,II群95.4±1.8,ストライド長:I群0.8±0.2m,II群0.5±0.1mであり,歩行速度とストライド長に有意差(P<0.01)が認められた.【考察】腹筋群の役割として脊椎の安定化,脊柱と骨盤の最適なアライメントを保つ,四肢運動時の体幹や骨盤の代償運動を防ぐなどが言われている. 腹筋群の収縮様式の一つであるBracingは深部筋と浅部筋を同時収縮させるため脊椎安定化に優れていると言われており,今回の対象症例にも運動療法として取り入れた.2群間で年齢や圧潰率に関係なく歩行能力に有意差がみられたことから,歩行能力向上につながった要因の一つとして腹筋群向上が前斜系制御による脊椎安定化に貢献したと示唆される. また,今回使用した段階的腹筋群評価が腹筋群の評価の一つとしてなりえると考える.その他の要素として5週目の疼痛でもI群は低い傾向があり,疼痛が歩行能力に関与しているとも考える.今後も症例数を増やし更なる調査検討をしていきたい.【理学療法学としての意義】本研究により脊椎圧迫骨折症例の腹筋群が歩行能力に関与すると示唆され,腹筋群へのアプローチの重要性が確認できた.

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© 2013 日本理学療法士協会
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