理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-05
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一般口述発表
短下肢装具による足関節背屈制限の利用が歩行時筋活動におよぼす影響
機能障害残存中における歩容指導への可能性
岡村 和典廣瀬 伸児金井 秀作江川 晃平栃本 利紀井出本 裕貴片山 善樹
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抄録
【はじめに、目的】 下腿三頭筋(triceps surae muscle:以下TSM)は立脚終期で足関節の剛性を保ちheel offを生じさせるための重要な役割を果たすが、下腿および足関節周囲の外傷ではTSMの筋力低下が頻発する。 我々は先行研究(2012)にて、立脚終期で足関節の剛性を保つTSMの働きを、短下肢装具(ankle foot orthosis:以下AFO)の背屈制限(0°)を利用することで代償できないか検証し、heel offの出現、制限側立脚時間および膝関節の最大伸展角度についてはコントロール群と同様であったことを報告した。以上のことから、外傷後TSMの筋力が不十分な段階においても、AFOの背屈制限を利用することでより正常に近い歩容が再現できる可能性が示唆された。このような知見は、上記外傷後における早期歩容指導および跛行学習の予防に利用できる可能性があるが、こうした歩行時における筋活動を分析した報告は見当たらない。 本研究の目的は、AFOの背屈制限を利用した場合の歩行時筋活動を健常成人において分析し、上記外傷後の歩行練習について考察する上での基礎データを得ることである。【方法】 対象は健常成人男性9名(27.67±6.08歳)とした。対象の左下肢に金属支柱付きAFO(double adjustable ankle joint)を装着し、被験筋は同じく左側の腓腹筋内側頭、内側広筋、大腿直筋、半腱様筋、大殿筋とした。また、AFOの足底面(a.踵部、b.第1中足骨頭、c.第5中足骨頭)にはfoot switchを貼付した。試行はAFOの足継手を底背屈freeおよび背屈0°固定に設定した2条件で行い、対象は各条件下にて10m歩行路を3回ずつ歩行した。定常歩行移行後の歩行時筋活動を計測し、得られたEMG波形データは全波整流後RMS処理を行い、最大等尺性随意筋活動をもとに正規化した。解析には最もfoot switchの波形が明確に記録された3歩行周期分のデータを用いた。本研究ではfoot switch a.の接地をheel contact(以下HC)、HC後のb.およびc.の接地をfoot flat(以下FF)、a.の離地をheel off(以下HO)、b.c.の離地をtoe off(以下TO)と定義した。立脚期(HC~TO)および立脚期の各phase(HC~FF、FF~HO、HO~TO)における各筋の%MVCの平均値を3歩行周期分の値で平均し、対応のあるt検定にて条件間の有意差を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象には事前に口頭および文書にて本研究の主旨を説明し、同意を得た後、実験を行った。【結果】 AFOの背屈制限によって、立脚期における半腱様筋の筋活動に有意な増加(p<0.05)が確認された。また立脚期のphase別に比較した場合、FF~HOにおいて大腿直筋の筋活動が(p<0.05)、全てのphaseにおいて半腱様筋の筋活動が(HC~FF:p<0.05、FF~HO:p<0.01、HO~TO:p<0.05)有意に増加していた。腓腹筋内側頭およびその他の筋については、統計学的に有意な筋活動の違いは認められなかった。【考察】 立脚期における半腱様筋の筋活動の増加は、AFOの背屈制限によって生じる膝関節伸展方向へのモーメントを制動するためのものであると考えられる。また、背屈制限が下腿の回転を阻害する以前のHC~FFからすでに半腱様筋の筋活動が増加していることからは、この運動制御がフィードバックに依存しているものではなく、予測的に膝関節のstiffnessを高める戦略によっておこなわれている可能性がうかがえる。さらに実際に下腿の回転が阻害されるphaseであるFF~HOにおいて、半腱様筋に加え拮抗筋である大腿直筋の筋活動も増加していることからは、co-contractionによるstiffnessの増加や関節運動における三相性の筋放電パターンが彷彿させられる。 また、本来下腿の前傾を制動し足関節の剛性を保つために活動するとされているTSMであるが、背屈制限によって既に剛性を獲得された環境下においても腓腹筋内側頭の活動に変化は生じなかった。これは半腱様筋と同様に膝関節のstiffnessを高めるための代償的な活動なのか、または荷重刺激に伴う反射的な活動なのか、今後更なる検証が必要である。 以上より、健常成人においては背屈制限付きAFOを使用することで、膝関節の制動のために半腱様筋や大腿直筋の過剰な筋活動が必要となるものの、その他の筋については正常歩行に近い活動が再現できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 TSMの筋力低下をきたしている症例に対し、背屈制限付きAFOを用いた歩行練習の実施を検討する上での基礎データとして、本研究の結果は意義がある。 また背屈制限による早期のheel offを考慮し、foot switchを用いてphase別に筋活動の変化を比較した点でより詳細な検証が行えたと思われる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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