理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-S-03
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セレクション口述発表
日本語版修正歩行異常性尺度による転倒リスク評価に要する歩行路の短縮
小林 まり子森 佐苗三谷 由佳原田 和宏
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抄録
【はじめに、目的】加齢や疾病に伴う転倒リスクの増大を,歩行動態の観察を通して評価する試みがなされている。我々は前回までの学術大会において,日本語版修正歩行異常性尺度の信頼性と妥当性、精度について報告し,それが転倒リスクを反映する評価として有用であることを示してきた。しかし,本評価の定められた歩行距離が25フィート(約7.6m)であるため,在宅環境下では利用できないことも多い。そこで今回,日本語版修正歩行異常性尺度による評価の実施可能性を拡大することをねらいに,地域高齢者を対象に本尺度の歩行路の距離を3mにした場合の原法に対する真度を検証したので報告する。【方法】対象の包含基準はA病院外来診療の利用者のうち60歳以上で10mの歩行が可能な者とした。除外基準は,1)重度な四肢の麻痺を有する者,2)認知力が低下し意思の疎通に支障があると考えられる者,3)研究の同意が得られない者とした。最終的に16名(平均年齢75.1歳,標準偏差7.4)を研究にエントリーした。疾患の内訳は骨関節疾患5名、脳血管疾患6名、骨折5名であった。歩行撮影のために,直線7.6mごとの直行した歩行路を作り,歩行の側面像と前後像が撮影できる位置に家庭用のデジタルビデオカメラ(SONY製DCR-DVD508,SPモード)を置いた。撮影は,通常の歩行スピードで2つの歩行路それぞれを1往復させて実施した。危険防止のため介助者が必ず横についた。同じ手順で3mの歩行路でも歩行撮影をおこなった。日本語版修正歩行異常性尺度による歩行評価を,撮影した歩行動画をパソコンで繰り返し再生しながら,対象者を直接担当していない理学療法士2名(A:経験年数12年,B:1年)が実施した。最初に3mの動画について評価し,1週間以上おいて7.6mの動画を評価した。評価データ収集は2012年10月におこなった。データ解析では,データの正規性を確かめた後に,7.6mの総合得点をゴールドスタンダードとして3mでの得点との一致度を評価者ごとに級内相関係数(1,1)により検討した。さらに下位項目についても,重みづけカッパ値を求めてその一致度を調べた。解析にはSPSS ver. 19.0JとExcelを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究計画は所属の倫理審査委員会の承認を得たのち,対象者に,本研究の意義・方法・不利益等を文書で説明し,文書による同意を得た。【結果】総合得点に関する級内相関係数は,A評価者が0.889,B評価者が0.859であった。項目ごとのカッパ値は1~7の順に,A評価者が0.603,0.714,0.229,0.548,0.784,0.495,0.509で,Bが0.701,0.582,0.425,0.417,0.510,0.185,0.400であった。【考察】ICCは,0.7以上であれば信頼性が高いと考えられている。今回のデータでは,総合点においては経験年数の異なる2名の評価者共に(経験年数との関連はみていないので)3m歩行路での評価が良好な真度を有することが示唆された。このことは訪問サービス等の際に3m程度の歩行路しか設定できない場合でも評価が可能となることを意味すると考える.下位項目ごとの検討では,多くの項目で入職1年目の評価者の一致度が経験12年目の者よりも低くかった。カッパ値が0.6以上で比較的良好な一致度を示すものは,1年目の評価者で1項目,経験12年目の者で3項目であった。両者とも項目3の「よろめき」と6の「腕ふりの後方化」において一致度が低かった。これらの項目については,短い距離では評価が難しい項目と考えられ,3m歩行路での評価の特性として把握しておくべきであろう。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,在宅環境下のように十分な長さの歩行路が得られない場合でも,日本語版修正歩行異常性尺度を用いた定量的な歩行評価が可能となり,地域高齢者の転倒リスク発見の機会提供に寄与すると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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