抄録
【はじめに、目的】大腿骨顆部・顆上骨折は重篤な膝関節屈曲制限を呈するとの報告が多く,その屈曲制限の予防には早期からの関節可動域運動が推奨されている.しかし当院では固定術翌日から関節可動域運動に取り組んでいるにもかかわらず,ADLを阻害する膝屈曲制限が残存する症例を多く認めた.今回我々は理学療法士が手術中に膝関節角度と抵抗部位及び運動終末感(end feel:以下EF)を確認した上で関節可動域運動を進める機会を得た.そこで上記3項目において術中からの経時的変化の特性を見出したので報告する.【方法】平成23年2月から平成24年10月までに当院に搬送された大腿骨顆部・顆上骨折4例4膝を対象とした(男性2名,女性2名,平均年齢46±23歳).各症例のAOの系統的骨折分類は症例A:33-C3,症例B:33-C2,症例C:33-B1,症例D:33-C2で術式は全例とも観血的整復内固定術であった.測定項目は膝屈曲角度,抵抗部位,EFとした.測定肢位は急性期では主治医の安静度指示に準じたが,可能な範囲で端坐位にて測定した.抵抗部位とEFについては信頼性を高めるため,それらを確認し合う回診を1年間実施した理学療法士7名で測定した.測定は術中閉創後,及び術後1日目から術後1週間までの毎日と,その後退院まで毎週1回実施した.なお手術中に関しては2名で測定した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は理学療法行為の一環として対象者に十分説明し同意を得た上で,ヘルシンキ宣言に基づく配慮を行い実施した.【結果】症例ごとに膝屈曲角度を術中(以下0D),術後1日目(以下1D),術後3日目(以下3D),術後1週目(以下1W)から各週ごとに記載する.なお記載は全例で角度変化を認めなくなった13週目までとする.症例A:0D60°1D30°3D55°1W60°60°55°55°65°70°90°90°95°95°100°110°110°.症例B:0D70°1D30°3D50°1W70°70°70°70°70°75°80°85°90°95°95°100°105°.症例C:0D70°1D30°3D55°1W75°85°85°85°90°90°95°95°100°100°105°105°100°.症例D:0D75°1D30°3D65°1W60°65°65°70°70°75°75°75°75°75°80°85°90°.術中抵抗部位は症例A:膝蓋骨中央,症例B及び症例C:膝蓋骨底外側,症例D:膝蓋骨外側縁であった.術後1日目からの抵抗部位とEFの変化は全症例で同様の傾向を示した.術後1日目は腫脹が強く膝周辺全体に張った抵抗を感じた.腫脹は徐々に軽減するが,術後3~5日目には大腿部の様々な部位で疼痛,防御性収縮による抵抗が増強してきた.防御性収縮が軽減してくると角度は術中角度付近で停滞し,抵抗部位も術中と類似した部位で変化を認めなくなった.その後 90°付近で再度角度変化が停滞すると大腿骨外側顆の前方隆起部上で抵抗部位の変化も止まり,それは最終まで大きく変化しなかった.また最終のEFは健常人よりも硬く,筋の伸長感は得られなかった.【考察】小形によると関節拘縮は固定開始直後から始まるとされている.対象は受傷から手術までの期間(平均7.3日)は膝伸展位での安静を強いられており,術中角度に関しては全例75°以下であったことから,術中にはすでに膝屈曲制限が存在している可能性が示された.また膝屈曲角度,抵抗部位,EFの経過は術中角度に到達するまでの時期(以下1期),術中角度付近で角度が停滞する時期(以下2期),屈曲90°付近で角度が停滞する以降の時期(以下3期)に分けられると考えた.1期は全例で腫脹,疼痛,防御性収縮が著明で,それらの軽減とともに膝屈曲角度は改善することから,受傷と手術操作による炎症が制限因子と考えられた.2期は症例Cを除く3例で術中角度付近で角度が停滞した.2期での抵抗部位は術中と類似していたことから,術中までに形成された制限因子が2期までの期間で強固となり角度が停滞したと考えられた.3期は全例で90°付近で角度が停滞または停止した.また角度が90°以上に改善した3例についても抵抗部位は90°時と大きく変化しなかった.小形は関節拘縮は2週目以降で関節包など関節構成体の影響が優位となると報告している.結果より屈曲90°に到達するまでの期間は最短症例でも5週間経過していた.また最終のEFで筋の伸長感が得られなかったことから,4例の最終制限因子は膝関節構成体の瘢痕化であると推察された.90°以上の角度改善に難渋するのは大腿骨顆部横径が90°で最大となり側面の組織に大きな伸長性が必要となるなど解剖学的要因も影響していると考えられた.【理学療法学研究としての意義】大腿骨顆部・顆上骨折では術中までの期間にすでに膝屈曲制限が形成されている可能性がある.また術中角度と屈曲90°付近で角度変化が停滞する可能性があり,膝屈曲制限を予防するには,術中までに形成される制限因子への対策の検討と解剖学的に難渋する屈曲90°を早期に超える必要性が示された.