理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-01
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一般口述発表
身体に対する注意は経頭蓋直流電気刺激法による運動皮質興奮性変化を促進する
守屋 耕平山口 智史藤本 修平立本 将士田辺 茂雄近藤 国嗣大高 洋平田中 悟志
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抄録
【はじめに、目的】臨床において、自己身体に対する注意を促すことで訓練効果が向上することをしばしば経験する。これは、身体への注意の誘導が運動皮質興奮性を促進し、運動学習を促進するためだと考えられている(Jueptner et al,1997,Rowe et al,2002)。一方、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は、頭蓋上に貼付した電極から微弱な直流電流を与えることで、簡便かつ非侵襲に運動皮質興奮性を促進する手法であり、リハビリテーションへ応用されている(Nitche and Paulus,2000)。したがって、身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動遂行や運動学習と関連の深い生理学的指標である運動皮質興奮性をより効果的に促進できる可能性がある。本研究では、その可能性について健常者を対象とした実験により明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人7 名(平均年齢24.7 ± 1.3 歳、男性3 名、女性4 名)を対象とした。被験者には左半球運動皮質にtDCSを行っている最中に、右手への電気刺激およびクリック音による聴覚刺激が呈示された。電気刺激は右側の第一背側骨間筋(FDI)に対し、パルス幅1msの単相矩形波を単発刺激し、感覚閾値の1.1 倍の強度で行った。聴覚刺激は0.1msのクリック音を用い、聴覚閾値の1.1 倍の強度で行った。電気刺激と聴覚刺激はそれぞれ平均30 秒に1 回の頻度で独立に呈示した。被験者は以下の3 条件に参加した。1)電気刺激検出条件では、被験者は電気刺激に注意を向け、電気刺激を知覚したら口頭で報告を行った。聴覚刺激は無視をした。2)聴覚刺激検出条件では、被験者は聴覚刺激に対し注意を向け、聴覚刺激を知覚したら口頭で報告を行った。電気刺激は無視をした。3)安静条件では、被験者は電気刺激、聴覚刺激ともに無視をし、検出課題は行わなかった。tDCSは全ての条件で刺激強度を2mAとし10 分間行った。陽極電極は左上肢一次運動野の直上に置き、陰極電極を対側の上腕部に貼付した。評価は、皮質脊髄路興奮性の変化の指標として経頭蓋磁気刺激を左上肢一次運動野に対して行い、右側のFDIの運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)を測定した。MEPは、TMSの最低刺激強度(resting motor threshold: rMT)を50 μVのMEPが50%の確率で出現する強度として定め、rMTの120%の刺激強度にて10 回刺激し、測定した。計測はtDCS介入前、介入直後、10 分後、30 分後、60 分後に実施した。電気刺激を検出するためFDIに対し持続的に注意を向ける電気刺激検出条件では、tDCSによるMEPの振幅が他の条件よりも増加するという仮説を立てた。データ処理は、各条件において、介入前の平均MEP振幅値を基準とし、介入後の変化率を算出した。統計解析は、反復測定二元配置分散分析(条件×時間)、Dunnetにて多重比較検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】所属機関の倫理委員会で承認を受けた。被検者に実験内容を事前に十分に説明し、本人の意志により書面にて同意を得た。【結果】分散分析の結果、条件と時間の交互作用(F[1,8]=2.12,p=0.042)、条件および時間の主効果(条件:F[1,2]=24.36,p<0.001,時間:F[1,4]=3.23,p=0.016)がそれぞれ有意であった。聴覚刺激検出条件および安静条件条と比較し、電気刺激検出条件において有意にMEPが増大した(p<0.001)。条件間での効果の違いを詳細に分析するために、各測定時間での条件間の比較を行うと、介入直後,10 分後および60 分後のすべてで電気刺激検出条件が他の2 条件と比較し、有意にMEPが増大した(p<0.05).また介入30 分後では,電気刺激検出条件において,聴覚刺激検出条件と比較し,有意なMEP 増大を認めた(p<0.05).これらの結果は、電気刺激検出条件においてtDCSによるMEPの振幅が他の条件よりも増加するという本研究の仮説を支持するものである。【考察】全ての条件で、物理的には同じ触覚および聴覚刺激が呈示されていたにも関わらず、被験者がどの刺激に注意を向けているかによって、tDCSによるMEPの振幅の増加に有意な差を認めた。被験者が、FDIへの電気刺激に注意を向けた時のみ、FDIにおけるMEPの振幅の増加が他の2 条件に比べて有意に大きくなり、仮説を支持する結果が得られた。本研究の結果から、身体への注意がtDCSによる皮質脊髄路の興奮性を更に促進し、一次運動野の可塑的変化に影響を与えることが示唆された。今後は、身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動皮質興奮性の変化と共に、運動学習や運動遂行などにも促進的な効果があるかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動学習と関連の深い生理指標である運動皮質興奮性を更に促進させることができた。身体への注意とtDCSの組み合わせは、理学療法の効果を促進させる補助的な手法として有効である可能性を示した。
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© 2013 日本理学療法士協会
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