理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-06
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ポスター発表
老齢ラットにおける運動が棘上筋腱骨付着部に及ぼす影響
村田 健児金村 尚彦国分 貴徳藤野 努高柳 清美
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抄録
【はじめに】肩関節障害のなかで棘上筋腱や棘上筋腱骨付着部に起因する腱障害は理学療法の対象となることが多い。肩関節の腱障害は,加齢による退行性変性の影響を受け,老化に伴う腱組織の変性や腱骨付着部のリモデリング機能の低下によって,疼痛や機能障害が生じている。一方で,運動療法は組織の恒常性を維持するための必要な機械的ストレスであり,変性予防や治癒を促進することが報告されている。Norin(1994)やSoslowsky(1996)は,ラット肩関節構造の特徴として腱板の存在や烏口肩峰アーチを形成するという点で,ヒトと構造学的類似性を報告したことから,我々はラット棘上筋腱付着部について肩関節障害に対する基礎研究の対象となり得る可能性を考えた。本研究では,退行性変性をきたした棘上筋腱に運動負荷を実施した際に組織学的な変化を呈すると仮説から,老齢ラットにおける棘上筋腱を用いて,運動の影響を組織学的に検証することを目的とした。【方法】2 年齢Wister系雄性ラット7 匹を用い,トレッドミル運動群5 匹とコントロール群2 匹に分類した。運動群はラット用トレッドミルを用いて,速度5.8m/min(中等度以下の運動負荷量),週5 回,1 ヵ月間の運動介入を実施した。運動介入時間を除いて,両群ともに一定の環境で管理し,飼料や給水は自由摂取とした。運動介入期間終了時,4%パラホルムアルデヒド(PFA)にて還流固定を行った後,肩甲骨および上腕骨を含む肩関節複合体として組織を採取した。採取した組織は,4%PFAにて24 時間後固定を行い,10%EDTA溶液を用いた脱灰処理を6 週間実施した。その後,肩関節前額面を上に向けた配置でOCT コンパウンドを用いて凍結包埋し,肩甲骨と上腕骨を含む組織を前額面20 μm厚で薄切した。組織学的観察部位は棘上筋腱付着部とし,一般染色はHE染色,トルイジン青染色を採用した。染色された腱骨付着部は,解剖学的視点に基づき顕微鏡による形態評価を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,本学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】腱骨付着部の組織学的観察では,運動群は腱,非石灰化線維軟骨,石灰化線維軟骨,骨と4 層構造を呈しており,多くの標本で運動による腱付着部組織の構造が維持されていた。しかし,コントロール群の多くは非石灰化軟骨層と石灰化軟骨層の間に位置するタイドマークの確認は困難であり,運動群とは明らかな腱付着部の構造学的変化が確認された。また,腱実質部においては,運動群は線維芽細胞が腱に並行して配列し,腱のコラーゲン線維は規則正しく配列されていた。一方,コントロール群は腱実質部の線維像の破壊や線維芽細胞の不規則性が確認された。【考察】腱は筋が骨に付着するために必要な組織であり,腱骨付着部は力学的強度を維持するために必須な組織である。それと同時に,退行性変性や機械的ストレスによって障害を受けやすい部位でもあり,理学療法の対象となることが多い。本研究結果では,運動群の棘上筋腱付着部構造が組織学的観察において維持されていた。腱障害に関連する基礎研究では,過度な運動による腱の力学的強度を減少(Soslowsky 2002),腱の血管新生関連因子(Perry 2005)やタンパク質分解酵素(以下MMP)の産出が増大による変性進行(Bedi 2010),線維軟骨関連遺伝子マーカーの増大による骨腱付着部の構造変化(Archambault 2007)など様々な報告されている。一方,腱のリモデリング機構においても,老化や血管新生,MMPなどの炎症関連部物質,MAPキナーゼといった伝達シグナルの重要性(Kanbe 2011)が報告されており,腱骨付着部では退行性変性と各因子が変性と再生の各々に関与し,恒常性を保つことが推察される。本研究結果のような腱骨付着部構造の維持は,運動による機械的ストレスが変性と再生に関連する分子レベルでの因子が関与し,腱骨付着部のリモデリング機能や力学的強度を老齢ラット棘上筋腱においても維持している可能性が示唆された。しかし,本研究では強度や分子レベルでの関連因子の発現を測定しておらず,今後,力学試験やmRNAレベルでの解析を進めていくことが課題である。本研究結果では,老化に伴う腱障害は腱や腱骨付着部に関連し,運動が組織学的変化をもたらす可能性を示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,理学療法分野においてヒトと類似した構造を呈するラット肩関節の棘上筋腱骨付着部を用いた基礎研究である。本研究は,肩関節疾患に対して運動が組織学的に影響を与えることを示し,今後の肩関節障害における運動療法の基礎的検証として用いることが可能である。
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© 2013 日本理学療法士協会
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