抄録
【はじめに・目的】歩行評価の定量的解析には床反力計や三次元動作解析装置が臨床的に使用されている。しかし、これらの装置は高価で操作や解析処理が煩雑であり測定環境も限定される。その一方で、近年加速度計の小型化が進みコストや簡便な操作性からも臨床現場で実用性のある評価機器として使用されている。歩行時の下肢の運動評価として注目され、木藤ら(2004)は変形性膝関節症(以下、膝OA)患者の下腿側方動揺の定量的評価を行っている。膝OAに対する観血的手術として高位脛骨骨切り術(以下、HTO)の臨床成績は良好であるとされている。しかし佐粧ら(2001)の報告は術後1年から5年で大腿脛骨角(以下、FTA)が増大し再内反してくる。今回術後1年経過したHTO患者の歩行評価が加速度計において有用であるか検証し、HTO患者の下腿側方動揺の定量的評価を行うことを目的とする。【方法】対象は2010年2月~2011年9月に当院にてHTOを施行し1年以上経過(術後18.1±6.4ヵ月)した患者(以下、HTO群)13名16膝(男性2名3膝,女性11名13膝,平均年齢63.9±6.3歳,平均BMI24.6±3.0)であった。膝OA患者(以下、膝OA群)は膝OAと診断され、歩行が自立し両膝関節に手術既往がない者10名13膝(男性2名2膝,女性8名11膝,平均年齢歳60.9±7.2歳,平均BMI26.3±3.0,K/L分類 Grade2:6膝、Grade3:7膝)であった。方法は歩行評価の測定は裸足での10m自由歩行とし、被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示した。下腿の側方動揺評価は3軸加速度計(MA3-04Ac マイクロストーン社製)を木藤ら(2004)の方法を参考に腓骨頭直下(以下、膝部)、足関節外果直上(以下、足部)に経験10年以上の同一理学療法士が貼付し、加速度波形をサンプリング周波数100Hzにて導出した。足部の波形から踵接地を同定し、膝部の波形で下腿の側方加速度(+を外側)を算出した。野見山ら(1993)の方法を参考に、側方加速度パターンを踵接地後の最初のピークが外側のものを外側スラスト型(以下,LTP)と内側のものを内側スラスト型(以下,MTP)に分けた。歩行の加速と減速を考慮し、各試行中の6歩・8歩・10歩目から得られた加速度波形を分析した。測定は2回行い計6歩を解析対象とし、各パラメーターの平均値を被験者の代表値とした。電子カルテ(ソフトウェアサービスニュートン)にて臥位でのレントゲンよりFTAを計測した。統計解析として膝OA群とHTO群の側方加速度パターンをX²検定にて検討した。各群間の年齢・BMI・側方加速度・FTAには対応のないt検定を行った。FTAと側方加速度の関連をピアソンの相関係数で求めた。全ての統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属機関の倫理委員会より承諾を得た(FRH2012-R0022)。被検者には研究の目的を説明し同意を得て計測した。【結果】各群間の年齢・BMIに有意差はなかった。膝OA群は13例すべてLTPであった。HTO群は9例がMTP、7例がLTPであった。側方加速度はOA群9.6±3.1m/s²、HTO群0.2±8.2m/s²であった。FTAは膝OA群179.2±1.2度、HTO群171.5±2.3度であった。膝OA群とHTO群のパターンの比率は異なり、X二乗値において膝OA群ではHTO群に比べLTPが有意に多かった(p<0.01)。側方加速度では膝OA群はHTO群に比べ有意に大きかった(p<0.01)。FTAでは膝OA群はHTO群に比べ有意に大きかった(p<0.01)。FTAと側方加速度の相関関係は膝OA群では認めた(r=0.500)が、HTO群では認めなかった (r=‐0.152)。【考察】今回、HTO群は膝OA群と比べ、LTPの比率は有意に減少し、FTAと外側への側方加速度は有意に減少していた。膝OA群はFTAと側方加速度に相関を認めたが、HTO群には相関は認めなかった。その原因は約43%に外側スラストが残存したことが考えられる。島田ら(2012)はHTO術後の歩行において三次元動作解析装置では約36%で増大していることやTakemae(2006)は約30%の症例で外側スラストは残存するとされ本研究と類似した結果である。そのため加速度計でも簡便に評価可能であることが考えられた。次にLTPの症例は膝OAには膝関節だけでなく大腿骨の外彎(桜吉ら、1998)や足部・股関節・骨盤の運動連鎖(石井ら、1998)などが関係しているため、HTOによる脛骨のアライメント変化だけでは限界と思われる。また外側スラストの原因も、大腿四頭筋の筋力(西上、2009)・股関節の筋力(内藤ら、2002)や遊脚期の制御(太田ら、2002)など様々である。佐粧ら(2001)報告では術後1年から5年で再内反しているため、再内反を予防するにはと下肢のアライメントと外側スラストの関係について検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】歩行の定量的評価として加速度を用いた下腿の側方動揺評価は十分有用である。またHTO術後でもFTAの変化に伴い側方動揺は改善するが、LTPの症例については原因追究し、再内反を予防する必要がある。