理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-07
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一般口述発表
多段階負荷による自転車エルゴメータ駆動中の大脳皮質血流の変化
椿 淳裕小島 翔古沢アドリアネ 明美菅原 和広大西 秀明
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抄録
【はじめに】近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy; NIRS)は,近赤外線光に対する吸光度の違いによる酸素化ヘモグロビン(O2Hb)と脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化量により,神経活動に伴う大脳皮質血流変化を非侵襲的に測定するものである.機能的核磁気共鳴画像法などに比較して測定中の身体の拘束が少なく,ほぼリアルタイムに長時間の連続測定が可能であることから,粗大運動中の血流変化を測定するには最も適しているとされる.歩行中や運動療法介入中の変化に関する報告が多く行われ,慢性閉塞性呼吸器疾患患者を対象に定常負荷運動中の呼吸困難感との関係を調べた報告もなされている.しかし,運動強度が変わることによって大脳皮質血流がどのように変化するかは明らかになっていない.エネルギー供給を血流に依存している脳組織において,運動療法中の脳循環変動を明らかにすることは,安全な理学療法の実施において非常に重要な課題である.よって本研究の目的は,多段階負荷により運動強度を変化させたときの大脳皮質血流の変化を明らかにし,運動療法実施中のリスク管理における基礎的知見を得ることである.【方法】健常成人7 名(男性3 名,女性4 名)を対象とした.自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による下肢ペダリング運動を課題とし,安静4 分,軽負荷でのウォーミングアップ4 分の後,最大酸素摂取量の30%(30%V(dot)O2max),50%(50%V(dot)O2max),70%(70%V(dot)O2max)の負荷量で,それぞれ5 分間の運動を実施した.この間の頭部酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)を,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20 法によるCzを基準として送光プローブと受光プローブを配置して測定した.また運動中には,呼吸代謝測定装置(エアロモニタAE-300,ミナト医科学)により酸素摂取量(V(dot)O2),二酸化炭素排泄量(V(dot)CO2)をbreath by breathで測定した.運動中の心拍数(HR)および平均血圧(MAP)は,左第III指に装着した連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により,beat by beatにて計測した.計測値はすべて,安静時平均値に対する課題中の変化量を算出した後1 分ごとの平均値を求め,経時変化を観察した.【説明と同意】本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号17368-121108).また対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.【結果】運動強度の増加に伴い,V(dot)O2,V(dot)CO2,HR,MAPは段階的に増加した. O2Hbはウォーミングアップ中に0.008 ± 0.024mM・cm上昇し,30%V(dot)O2maxから50%V(dot)O2maxの3 分までほぼ一定に保たれた.50%V(dot)O2maxの4 分目以降から70%V(dot)O2maxの2 分目にかけて,0.035 ± 0.011mM・cmまで著しく増加した.その後著明に低下し,運動終了後1 分目では-0.007 ± 0.069mM・cmと,安静時以下まで低下した.【考察】脳の神経細胞は,その活動が活発になると周辺部位の血管拡張と血流量増加が生じ,活動のエネルギー源となる酸素が供給される.NIRSはこの神経活動に伴う血流の変化を測定しているとされ,安静時に比べO2Hbが増加した場合,増加した部位に神経活動があったと解釈される.しかし,体表から照射した近赤外線光を用いて脳組織血流を測定するため,皮膚や皮下組織,あるいは体循環変動など大脳皮質以外の血流変化を含むことも指摘されている.70%V(dot)O2max前半までに生じたO2Hb の増加は,運動強度の増加に伴って増加する大脳皮質の神経活動と血圧上昇を反映する変化と考えられる.一方,70%V(dot)O2max後半ではO2Hbが著明に低下した.高強度運動中には内頸動脈の血流量および中大脳動脈の血流速度が低下し,外頸動脈の血流量が増加することが報告されている.運動強度の増加に伴いMAPが増加していること,外頸動脈の血流量が増加する運動負荷量であることを考えると,70%V(dot)O2max後半におけるO2Hbの著明な低下は,頭蓋内血液量の低下を示している可能性も考えられる.【理学療法学研究としての意義】脳循環は,自動調節能によりある範囲内での血圧変動であれば一定に保たれるとされてきた.しかし,運動時の脳循環は一定ではないとの報告や,運動強度の増加に伴い脳血流量が低下するとの報告もされている.安全な運動療法の実施には運動療法中の脳循環動態の解明が不可欠であり,本研究においてこの解明の糸口となる基礎的な知見を得ることができた点で,理学療法学研究としての意義を持つものと言える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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