理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-07
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セレクション口述発表
バランス練習アシストを用いた外乱対処練習前後の運動学的,筋電図学的分析
伊藤 慎英田辺 茂雄平野 哲川端 純平海藤 大将伊藤 和樹才藤 栄一村上 涼
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抄録

【はじめに、目的】我々は, トヨタ自動車が開発した立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを利用したバランス練習を考案し,コンピュータを含むシステム全体を“バランス練習アシスト”と命名した.昨年の本学術大会において,バランス練習アシストを用いた練習によって,中枢神経障害患者10 名の継ぎ足歩行速度やFunctional Reach Testなどの動的バランス能力と下肢筋力の改善が認められたことを報告した.しかし,これらバランス能力改善の機序解明には,動作習熟に伴う運動様式の変化についての検討が必要と考えられるが,現在までに十分な検討は行われていない.よって,本研究では,バランス練習アシストのゲームのひとつである外乱対処練習について,練習初期と習熟した時期でその動作および筋活動を計測し,運動様式の変化について検討を行った.【方法】対象は健常成人8 名(うち男性7 名,年齢23 ± 1 歳,身長172.6 ± 7.3cm,体重62.5 ± 6.8kg)とした.バランス練習アシストに用いたロボットは倒立振子制御を採用している.ヒトが重心を前方に移動させると,タイヤを正転させて直立位に復帰させる.一方で,後方に移動させると,タイヤを逆転させて復帰させる.外乱対処練習では,この制御に外乱の成分を付与することによって,ロボットを自律的に前後方向に傾ける.被験者には,その傾きに抗して逆方向に重心を移動し,出来るだけ初期位置に留まるよう指示した.使用した外乱はロボットの傾き角度を指定値とし,周期2 秒,振幅4°の正弦波とした.1 ゲームを1 分間とし,5 ゲーム連続して実施した.評価項目は,ロボット移動距離,関節角度,筋活動とした.ロボット移動距離は,1 ゲームの開始から終了までロボットが移動した軌跡を記録し,総移動距離を算出した.関節角度は,三次元動作解析装置KinemaTracer(キッセイコムテック株式会社製)を用いて算出した.右側の肩峰,大転子,膝関節裂隙,外果,第5 中足骨頭にマーカを取り付け,ゲーム中の軌跡をサンプリング周波数60Hzで計測した.その後,矢状面の股,膝関節の屈伸角度と足関節の底・背屈角度を算出し,解析では外乱制御の29 周期分を加算平均した値を用いた.筋活動は,マルチテレメーターシステムWEB5000(日本光電株式会社製)を用いてサンプリング周波数1.8kHzで計測した.表面電極は右側の大腿直筋,ハムストリングス,前脛骨筋,下腿三頭筋に間隔が約1cmとなるよう貼付した.全波整流後20ms毎に積分し,最大筋収縮(Maximum voluntary contraction:MVC)時の筋電位で正規化した(%MVC).1 ゲーム目を練習初期,5 ゲーム目を習熟した時期とし,運動様式の変化についての比較をt検定で行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,当大学の疫学・臨床研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.【結果】ロボット移動距離は,10.5 ± 3.0mから7.1 ± 1.7m(p<.05)となった.関節運動範囲は,股関節11.8 ± 4.8°から7.3 ± 1.9° (p<.05),膝関節3.8 ± 3.0°から2.0 ± 0.8°(p=.12),足関節11.8 ± 2.6°から9.6 ± 1.5°(p<.05)となった.筋活動は,大腿直筋2.6 ± 1.7%MVC から2.1 ± 1.1%MVC(p=.47),ハムストリングス2.6 ± 1.5%MVC から1.6 ± 0.7%MVC(p=.10),前脛骨筋4.2 ± 2.9%MVCから3.2 ± 2.3%MVC(p=.44),下腿三頭筋7.9 ± 3.7%MVCから6.0 ± 2.4%MVC(p=.25)となった.さらに,関節運動と筋活動それぞれの1 回目に対する5 回目の割合は,股関節67.7 ± 19.3%,膝関節62.5 ± 18.0%,足関節83.0 ± 15.6%,大腿直筋79.4 ± 14.4%,ハムストリングス62.2 ± 22.1%,前脛骨筋75.5 ± 15.2%,下腿三頭筋76.5 ± 13.3%であった.【考察】動作習熟前後を比較すると,ロボット移動距離は減少し,股,足関節の運動範囲は減少した.筋活動は減少したが,有意差を認めなかった.1 回目に対する5 回目の割合は,相対的に足関節運動は残存する結果となった.筋活動は,足関節周囲筋の前脛骨筋,下腿三頭筋が相対的に残存していた.以上により,外乱対処練習の動作習熟を認めた運動様式の変化は,Hip strategyの要素が減少し,Ankle strategyの要素が残存する傾向であった.今後は,対象数を増やし,この傾向をさらに検証するとともに,動的バランスの改善と運動様式の関係を解明していきたい.【理学療法学研究としての意義】理学療法を実施する上で,バランス改善のメカニズムを解明し,練習方法を考案することは,理学療法学研究として大変に意義のあるものである.

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© 2013 日本理学療法士協会
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