抄録
【はじめに、目的】転倒予防事業などでは,転倒予測として運動機能評価を実施するケースが多い.しかし,転倒経験者と転倒未経験者で差がみられないことやカットオフポイントが適応できない事を経験する.近年,歩行のバラツキの指標であるCoefficient of Variation Stride Time(STcv)や歩行予備能力は高齢者の転倒と密接に関係すると報告されている.本研究の目的は,地域在住の特定高齢者において,STcv,歩行予備能力と転倒との関連性および転倒予測因子としての有用性を検討する事である.【方法】対象は地域在住特定高齢者の女性36名 (74.2±8.3歳)とした.運動機能の評価では,握力,長坐位体前屈,開眼・閉眼片脚立位,Functional Reach Test,10m最大歩行速度を実施した.応用歩行機能検査としてTime Up and Go Test(TUG)を用い,至適速度(TUGcom)と最大速度(TUGmax)にて歩行予備能力の指標(TUG‐Reserve:TUG‐R)を算出した. TUG‐Rは以下の式から算出した(TUG‐R =[(TUGcom‐TUGmax)/TUGmax]*100/TUGmax).またSTcvについては第3腰椎棘突起に加速度計(MA-04AC;マイクロストーン社製)を装着し,約16mの直進路で自由歩行を2回実施し,その後歩行中の加速度データから1歩行周期を抽出した.さらに連続する1歩行周期時間から変動係数を算出しSTcvとした.その他,生活活動量の指標としてLife space assessment score(LSAスコア),転倒恐怖感の指標としてModified Falls Efficacy Scaleを調査した.統計学的解析はSPSS15.0J を使用し,有意水準はすべて5%未満とした.過去1年間の転倒経験有無から全対象者を転倒群と非転倒群に群別し,各評価指標の値をt 検定で比較した.各評価指標の関連性についてSpeamanの順位相関係数を用いて検討した.また,過去1年間の転倒経験の有無を従属変数,各評価指標を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を実施した.さらにROC曲線からArea Under the Curve(AUC)とカットオフ値を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の内容を十分に説明し紙面にて同意を得た.尚,本研究は国際医療福祉大学の倫理委員会の承認(10‐42)を得て実施した.【結果】過去1年間の転倒歴調査から,転倒経験者は13名(転倒群),転倒未経験者は23名(非転倒群)であった.年齢は転倒群75.6±7.2歳,非転倒群73.4±9.0歳であり,有意差は認めなかった.両群間のt検定の結果,STcv,TUG‐RとLSAスコアの3つの評価項目に有意差を認めた.その他の評価項目については有意差を認めなかった.またTUG‐Rと有意な相関を示したのはLSAスコア(r=0.50)のみであり,STcvについては各評価項目との有意な相関を認めなかった.一方,多重ロジスティック回帰分析の結果,転倒に対する予測因子としてSTcvとLSAスコアに有意な結果が認められた.また,転倒に対する予測精度はAUCからSTcv(0.80),LSAスコア(0.81)であり,中等度の予測精度を示した.カットオフ値は各々,STcv (2.26%),LSAスコア(47.3点)であった.【考察】地域在住高齢者の転倒予測指標としてSTcv,LSAスコアの有用性が確認され,より効果的な転倒に対するスクリーニングが期待できる.また歩行予備能力については転倒群で有意に低い値を示すものの,転倒予測指標としては有意性を認めなかった.しかし生活活動量との関連性が高く,予防介入の指標として使用できる可能性が示唆された.一方STcvについては,転倒恐怖感や生活活動量との関連性もなく,運動能力の高い高齢者の転倒リスク評価である可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,歩行のバラツキが大きく,生活活動量が地域在住女性高齢者の転倒予測指標として有用であることが確認され,多面的な介入指標として期待できる.一方,歩行予備能力は簡易的に測定できるため,生活活動量と同時に使用することで転倒予測に対する補足的な値として使用できると考えられる.