抄録
【はじめに、目的】 筆者は2011の本大会にて,臨床実習を通して,学生の対人関係を円滑にする社会的スキルが向上することを報告した。そこで本研究の目的は,臨床実習の感想文を内容分析し,臨床実習を通して,学生がどのような要因を経験し感じとることが,社会的スキルの向上に関連するかを検討することとした。【方法】 理学療法学科3年生43名を対象とし,調査表の回収が得られた39名(男性25名,女性14名)を分析対象とした(回収率90.7%)。 社会的スキルの調査には,Kikuchi’s Scale of Social Skills 18 items(以下,Kiss-18)を使用し,3年次に実施される臨床実習2(評価実習に相当する内容)の開始前,終了後に調査した。臨床実習2前後の社会的スキル調査を実施し,社会的スキルが向上したもの21名(以下,向上群)と,低下したあるいは変化しなかったもの18名(以下,非向上群)の2群に分けた。 臨床実習2終了後に提出した実習の感想文をKH Coderを用いて分析した。KH Coderは内容分析の考え方を基盤にし,開発された計量テキスト分析のためのフリーソフトウェアである。まず,感想文から抽出された語句ををWard法にてクラスター化した。また,語句と語句の結びつきを示す共起ネットワークを作成した。抽出された語句から社会的スキルに関連したコードを決定し,向上群と非向上群で社会的スキルコードの出現する文章数をカイ二乗検定にて分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,本研究への協力は自由意志に基づくものであり,Kiss-18の調査表提出は任意であるが,Kiss-18の提出を以て,実習感想文を研究目的で利用することにも同意を得たことになる旨説明した。また,調査結果から個人が特定できないように充分に配慮した。【結果】 社会的スキル尺度Kiss-18の平均値は,実習開始前が55.9±9.9点,実習終了後が57.4±10.2点であった。実習開始前のKiss-18には,向上群と非向上群の2群間で有意な差はみられなかった。Kiss-18のスコアは実習前に比し実習後で,向上群では平均6.3±4.3点増加し,非向上群では平均-4.3±3.1低下した。 感想文のテキストデータは,26846語からなり,1554種類の語句が分析対象として抽出された。頻出20回以上の語句を対象にし,5つのクラスターに分類された。「評価・治療の必要性」「統合・解釈の難しさ」「4年次の臨床実習に向けて」「経験を通して感じたこと」「理学療法士として必要な能力」の5要因が抽出された。 語句と語句の関連やテキスト中の語句の意味内容を確認しながら,社会的スキルに関する3つのコードを決定し,それぞれの語句を含む文章数から出現率を算出した。[挨拶・言葉遣い・態度など]の語句を「A情意領域」とし,[コミュ二ケーション・意思・説明]の語句を「Bコミュニケーション」とし,[関係・信頼・職種など]の語句を「C関係づくり」と分類し,これらのコードの総合を「D社会的スキル」のコードとした。コードA,C,Dは,すべて非向上群に比し向上群で多く出現していた(p<0.05)。 さらに,自身の実習での経験をどのように捉えたかを検討するために,[反省・不足・難しかったなど]の語句を「Eネガティブ」とし,[役立てる・学んだ・有意義・重要だなど]の語句を「Fポジティブ」コードとして分類し,出現文章数を比較した。Eは非向上群にて出現が多く,Fは向上群での出現が多かった(いずれもp<0.05)。【考察】 感想文のテキスデータから抽出された5つの要因から,臨床実習2の教育目標として挙げている「理学療法評価から問題点の推測,治療計画の立案を通して,理学療法士に必要な問題解決能力を高める」という内容を,臨床実習を通して学ぶ機会を得ていることが確認された。 社会的スキルに関するコードの出現率から,向上群では,臨床実習の中でコミュニケーション能力や患者との信頼関係や他職種連携の必要性に気づき,それが重要であると捉えていると考えられる。また,向上群は,臨床実習での経験を反省点として否定的に捉えるだけでなく,臨床実習での学びや今後に繋げる自らの課題として捉えていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,社会的スキルを向上には,臨床実習という実践の場で,コミュニケーションや関係づくりの難しさとその重要性に学生が気づくよう促すことが必要である。また,学生指導において,経験を次に繋げるよう導くまでが重要であり,今後の理学療法教育のあり方について示唆を得ることができた。