理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-03
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ポスター発表
股関節肢位の違いが脊柱アライメントに及ぼす影響
政宗 卓也川口 ゆい岡田 純樹金子 依未新沼 慎平上田 泰久山﨑 敦
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抄録

【目的】 臨床において,股関節疾患の症例では腰痛を併発している場合が多く見られる。近年, Hip-spine syndromeとして股関節と腰椎の密接な関係が報告され(帖佐ら2004),股関節の状態は腰椎に影響を及ぼしていることが考えられる。また,股関節疾患では大腿骨前捻角に過度の前捻がある場合は股関節内旋の対応を,後捻がある場合は股関節外旋の対応をすることが多いと報告されている。股関節の内外旋の対応(以下,股関節肢位)では,筋および靱帯や関節包などの状態も変化することから,股関節肢位によって股関節の運動が制限されて脊柱が代償すると考えられる。本研究の目的は,股関節肢位の違いが体幹の前後屈位の脊柱アライメントに及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 下肢および脊柱に整形外科疾患の既往のない健常な成人男性20名を対象とした。被験者の身体的特徴として,左右の股関節屈曲・内旋・外旋可動域, SLR,Craig testによる大腿骨前捻角の5項目をゴニオメータで測定した。測定肢位は30cm台上の立位姿勢とし,股関節の内外旋を調節するために足位を自然にした肢位(以下,自然位),足位を30°外転させた肢位(以下,外旋位),足位を20°内転させた肢位(以下,内旋位)の3条件とした。測定機器にはスパイナルマウス(インデックス社製)を使用した。静止立位・体幹前屈位・体幹後屈位における矢状面の脊柱アライメントを測定して,仙骨前傾角・腰椎前弯角・胸椎後弯角を算出した。さらに,体幹前屈位では指床間距離(以下, FFD)を同時に測定した。測定は各2回ずつ行い平均を代表値として用いた。統計処理には,身体的特徴5項目における左右差を比較するために対応のあるt検定を用いた。また,股関節肢位3条件における静止立位・体幹前屈位・体幹後屈位の脊柱アライメントおよびFFDについては,各3条件間を比較するために一元配置分散分析後に多重比較(Bonferroni)を用いて相関分析を行った。さらに,FFDと仙骨前傾角・胸椎後弯角・腰椎前弯角の関係についてPearsonの相関係数を求めた。統計解析には,PASW Statistics18を用いて,有意水準は全て5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の内容を十分に説明し,本人に承諾を得た後に測定を実施した。【結果】 身体的特徴5項目について左右を比較したところ有意差を認めなかった。股関節肢位3条件における脊柱アライメントは,静止立位と体幹前屈位では仙骨前傾角・腰椎前弯角・胸椎後弯角に有意差を認めなかった。一方,体幹後屈位では仙骨前傾角は内旋位で自然位と外旋位よりも有意に増加(p<0.01),腰椎前弯角は内旋位で外旋位よりも有意に増加(p<0.01)し,胸椎後弯角は有意差を認めなかった。股関節肢位3条件におけるFFDでは有意差は認めなかった。また,FFDと脊柱アライメントの関係では,FFDと仙骨前傾角は股関節肢位3条件とも有意な正の相関(p<0.01)を認めた。FFDと腰椎前弯角は,自然位と外旋位に有意な負の相関(p<0.05),内旋位に有意な負の相関(p<0.01)を認めた。FFDと胸椎後弯角は,股関節肢位3条件とも有意な相関を認めなかった。【考察】 体幹後屈位では,仙骨前傾角は内旋位で自然位と外旋位よりも有意に増加し,腰椎前弯角は内旋位で外旋位よりも有意に増加した。股関節中間位から内旋位にすると主な股関節周囲筋は内側方向への筋性モーメントが増加して(今井ら2010),靭帯も緊張する(Neumann DA2010)。つまり,内旋位では自然位や外旋位よりも筋性モーメントや靱帯の影響により,大腿骨頭が内側方向にある臼蓋への圧縮応力が生じて股関節の可動性が低下したため,内旋位での体幹後屈位では仙骨前傾角が増加して腰椎前弯角の増加で代償したことが考えられる。またFFDと脊柱アライメントの関係では,股関節肢位3条件ともにFFDが増加するほど仙骨前傾角が増加し,腰椎前弯角が減少(腰椎の後弯)した。その中でも,内旋位では腰椎前弯角が減少する傾向が強かった。これは,股関節屈曲が90°を超えると股関節内旋筋筋力を発揮しやすく,股関節内旋位で内側への筋性モーメントがさらに増加するため,内旋位で股関節の安定性が高まり骨盤が動きにくくなったことが伺える。さらに,内旋位により股関節外旋筋群や後方関節包の緊張が股関節屈曲を制限する因子となったことが示唆される。これらのことから,内旋位によって仙骨前傾角が増加し,腰椎前弯角の減少で代償する傾向が強くなったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,股関節肢位と前後屈時の脊柱アライメントの変化について詳細に検証した。股関節と腰椎には密接な関係があり,股関節肢位を考慮して脊柱の評価を展開することは,臨床的に意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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