理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-38
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ポスター発表
人工膝関節全置換術後症例におけるRocker Function改善が歩行時膝関節周囲筋活動に及ぼす即時効果
工藤 優渡邊 勇太前田 健太郎浜口 英寿
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抄録

【はじめに、目的】歩行時に膝関節が1歩行周期に2回の屈伸を行うdouble knee actionがみられ,衝撃吸収と振幅の小さい重心移動を可能にしている.人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後の歩行において,立脚初期の衝撃吸収不良例を散見する.そのような症例では,立脚初期の下腿前傾不良や Forefoot Rockerの欠落を呈していることが多い.立脚初期の膝屈曲による衝撃吸収はHeel Rockerに連動して起こるが,Ankle Rockerにて前方回転へのブレーキをかけ,Forefoot Rockerにより遊脚側の滞空時間を稼ぐことで,衝撃吸収が起こるための環境を整えることが重要である.そこで本研究は,TKA術後で立脚初期の衝撃吸収不良例に対し,Rocker Function改善を目的とした足関節への治療介入を行い,表面筋電図(以下,EMG)にて電気生理学的視点で歩行時の膝関節に及ぼす即時効果を検証した.【方法】症例は,両側変形膝関節症と診断され,両側同日TKAを施行した69歳女性.他関節の整形外科的既往はなし.関節可動域は両側とも膝屈曲110度,伸展0度,足背屈15度.下肢筋力はMMT4~5,extension lagなし.歩行時痛なく1本杖歩行可能だが,立脚初期の衝撃吸収不良で膝屈曲はみられなかった.術後37日目に治療介入前後の歩行時筋活動を計測.治療介入は,1)立位で下腿前傾を伴う前方重心移動,2)片脚にてゆっくりとHeel Raise,3)1歩踏み出した肢位での前方重心移動,を両下肢へ10分程度実施.筋活動の測定には,多チャンネルテレメータシステムWEB-1000(日本光電社製)を用いた.同時にフットスイッチを両踵部に貼付し,歩行周期の特定を行った.被検筋は右下肢の大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋とした.得られたデータは全波整流処理し,歩行周期時間が100%となるように補正後,階級幅10%で積分処理した(1歩行周期を10区間).さらに最大筋随意収縮時の筋活動で除し,相対的EMGとした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被検者には研究の趣旨および内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】治療介入前後にて歩行時筋活動が大きく変化がみられたのは,大腿二頭筋では立脚中期から立脚後期にかけて増加し,立脚後期から遊脚中期にかけて減少した.外側広筋では初期接地から荷重応答期にかけて増加した.また,歩行速度は0.89m/secから0.93m/secへ向上,1歩行周期は1.32秒から1.25秒に減少し,踵離地から対側踵接地までは0.09秒から0.1秒に増加した.【考察】歩行速度は向上したが踵離地から対側踵接地までの時間は増加したことは,下腿三頭筋の遠心性収縮にて下腿前傾が向上し,床反力作用点が中足骨頭まで移動し,MP関節を回転軸としたForefoot Rocker機能が向上したためと考えられる.また,Forefoot Rocker機能向上がみられたことで立脚後期での足底屈モーメントが高まり,伸ばされた下腿三頭筋がバネが縮むように振り出しに作用し,遊脚期での受動的な膝屈曲運動となり,大腿二頭筋活動が減少したと考えられる.外側広筋活動の向上は,Heel Rocker機能向上による立脚初期の下腿前傾が増加したことで,床反力ベクトルが膝関節後方を通過し,求められる膝伸展モーメントが増加したためと考えられる.本症例の術前ACLは残存しており,十分に機能する状態であったがTKAではACLは切除される.ACL不全ではQuadriceps Avoidance Gaitといわれる立脚初期の膝伸展モーメントを減少させて脛骨前方偏位を避ける歩行を呈することが報告されており,本症例においても同様の状態になったことも推測される.立脚初期の膝屈曲を促されたことで膝関節が不安定となり,その直後から膝伸展モーメントを減少させるために股伸展モーメントを増加させたことで,大腿二頭筋活動が向上したことが考えられる.今回は足関節への治療介入であったが,Rocker Functionでは足部機能も重要であり,今後検討する必要がある.また,TKA術後における立脚初期の衝撃吸収は正常とは異なるメカニズムである可能性も考えられる.【理学療法学研究としての意義】臨床において,治療介入が適切であったかを介入前後の即時効果で確認することは重要である.TKA術後の理学療法にて足関節に着目した報告は少ない.今回,Rocker Function改善を目的とした足関節への治療介入が歩行時膝関節周囲筋活動に影響を及ぼしたことは,運動療法の展開を考える上で有用であると考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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