理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-10
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一般口述発表
Point Cluster法を用いた前十字靭帯再建膝の降段時の膝関節運動の解析
田中 彩木藤 伸宏佐々木 美紀子廣濱 賢太森口 晃一原口 和史
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抄録
【はじめに】膝前十字靭帯(ACL)再建術の変形性膝関節症(膝OA)の発生率は30-90%と報告されている。膝OAを発症する要因として,膝関節異常運動が報告されている。日本の住環境において,階段昇降は日常生活活動において重要な動作である。特に,降段動作は膝関節への負担が非常に大きいことが報告されており,膝関節屈曲時に大腿四頭筋の遠心性収縮による脛骨の前方移動が生じやすく,ACL再建者にとって難易度が高い動作である。ACL再建者を対象とした歩行動作の運動力学的ならびに運動学的分析を行った報告は散見されるが,降段動作における膝関節の運動学的計測を行った報告は少ない。そこで今回,Point Cluster法(PC法)を用いて,ACL再建者の降段動作における膝関節の運動学的分析を行ったので報告する。【方法】対象は,過去に片側ACL再建術を施行された8名(ACL再建群,平均年齢:20.4±1.5歳)と膝関節に外傷歴や手術歴のない健常女性8名(健常群,平均年齢:20.0±0.9歳)とした。身体特性は,身長1.62±0.06m,体重58.3±5.6kg,肥満度22.1±1.4kg/m²であった。ACL再建群の術式は全例膝屈筋腱を用いた解剖学的二重束法であり,術後期間は1年半~9年(平均4.1±2.5年)であった。身体特性は,身長1.60±0.05m,体重55.8±7.0 kg,肥満度21.7±2.9kg/m²であった。課題動作は,20cm台上にて支持側を計測肢とし,非計側肢から前方に下肢を降ろす降段動作を行った。計測システムは,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON Motion Systems)を用いて,サンプリング周波数120Hzで計測した。マーカーはPC法に準じて下肢に25個貼付した。解析区間は,降段時の支持側の膝関節屈曲開始時から最大屈曲時までとした。パラメータは,支持側の膝関節屈曲開始角度と最大屈曲角度,それらの角度時間での内外反角度,内外旋角度,大腿骨座標系原点に対する脛骨座標系原点の前後位置を求めた。また,最大屈曲時の各値から屈曲開始時の各値を減じた膝関節内外反運動角度,内外旋運動角度,脛骨座標系原点の前後移動量を算出した。パラメータは,3施行分を平均した値を代表値とした。統計解析は,Dr.SPSSⅡfor windowsを使用し,2標本のt検定もしくはMann-Whiteney-U検定を行い,ACL再建群と健常群で比較した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施に先立ち,広島国際大学の倫理小委員会にて承認を得た。なお,すべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得た上で計測を行った。【結果】膝関節屈曲開始角度と最大屈曲角度,膝関節屈曲開始時と最大屈曲時での内外反角度、内外旋角度はACL再建群と健常群で有意差は認められなかった。しかし,膝関節屈曲開始時においてACL再建群の大腿骨座標系原点に対する脛骨座標系原点の前後位置は,健常群よりも有意に後方に位置していた(ACL再建群:1.54mm,健常群:0.85mm)。また,膝関節内外反運動角度,内外旋運動角度,大腿骨座標系原点に対する脛骨座標系原点の前後移動量は,ACL再建群と健常群で有意差は認められなかった。各群内における膝関節運動の特徴は,膝関節屈曲開始時から最大屈曲時にかけて,すべての健常群において外旋と脛骨の後方移動が生じていたのに対し,ACL再建群では,6名に外旋が生じ,2名は内旋が生じていた。脛骨の前後運動は,6名に後方移動が生じ,2名は前方移動が生じていた。【考察】降段時の運動学的特徴として,膝関節屈曲時に大腿四頭筋の遠心性収縮が起こり,脛骨座標系原点が前方移動すると仮説を立てていた。しかしながら,本研究の結果は,ACL再建群では膝関節屈曲開始時における脛骨座標系原点は,健常群よりも有意に後方に位置していた。この要因として, ACL再建群はハムストリングの筋活動を増加することで,脛骨を後方に引くことによって降段動作を対応している可能性が示唆された。本研究は,ハムストリングの筋電図解析を行っていないため,今後,筋電図解析を行う必要がある。また,本研究の結果から降段動作においても健常群と異なる膝関節運動を呈するACL再建者が確認できた。これらのACL再建者は,日常生活においても主観的不安定性を訴えており,これらの運動学的特徴と主観的不安定性との関係は今後検討が必要である。さらに今後,変形性膝関節症変化へと進むか否かは非常に興味深く,縦断的観察が必要である。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果より降段動作において,ACL再建群は健常者とは異なる戦略を用いて行っていることが示された。また,ACL再建者のなかに健常者と異なる膝関節運動を呈する被験者がおり,それらの被験者は主観的不安定性との関係が示唆された。本研究によって降段動作は,ACL再建術後の膝関節機能を評価する動作としての重要性を示すエビデンスにつながる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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