理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-22
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ポスター発表
肩腱板機能不全による挙上困難例に対する機能的電気刺激を用いた三角筋の筋力強化の経験
山本 泰雄当麻 靖子米澤 遥小畠 昌規中野 和彦皆川 裕樹
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抄録
【目的】肩腱板広範囲断裂などでは、肩周囲筋機能の著しい低下のため、重度の肩挙上制限を示す症例を経験する場合が少なくない。このような症例では運動時の疼痛や著しい腱板機能不全による骨頭求心位の低下のために、肩の機能回復を得るための運動の遂行に難渋し理学療法の遂行に苦慮することを多く経験する。我々は以前より肩腱板の機能回復が困難であると考えられた症例においては、三角筋機能の向上が重要と考えている。今回、機能的電気刺激を併用した三角筋の強化を行い、比較的良好な結果が得られた症例を経験したので、考察を加えて報告する。【方法】症例1:右肩広範囲腱板再断裂例の62歳男性。他院にて鏡視下腱板修復術が施行された。経過観察中に縫合腱板の再断裂が生じ、その後当院受診となった。受診時、再断裂腱板の縫合は困難と判断され保存療法を優先して行うこととなった。理学療法開始時、肩挙上時に、上腕骨頭の上方変位と随伴するインピンジによる激しい疼痛を訴えていた。臥位での肩他動屈曲可動域は100°程度あるものの、座位での自動挙上は引っ掛かり感と肩に力が入らないと訴え、40°程度までが可能な程度であった。症例2:左肩広範囲腱板再断裂例の61歳男性。左肩広範囲腱板断裂の診断で関節鏡視下腱板修復術が行われ経過観察を行っていたが、術後6か月で修復腱板の再断裂が確認され関節鏡視下腱板再修復術が行われた。再手術後、6週間の固定中にアンカー脱転と摘出を経験したが、段階的理学療法を行い、術後15週で肩自動挙上100°程度可能となるなど肩機能の回復が見られた。しかし経過観察中、再度インピンジ徴候と疼痛が出現、肩挙上は40°程度までに低下、再々断裂の徴候を呈した。腱板の修復は困難と判断され保存療法が継続となった。両例とも腱板機能の著しい低下のため、肩挙上時には骨頭求心位がとれず骨頭上方偏位と礫音、疼痛が著しく、本人の随意収縮による肩周囲筋の機能回復は困難と考えられた。そこで、肩周囲筋の筋収縮による骨頭の上方変位を予防するために、腕の重みが利用できる座位を基本肢位とした、機能的電気刺激装置(Compex:シグマックス社)による三角筋の等尺性運動による筋力強化を試みた。電気刺激は疼痛が生じない範囲で等尺性収縮が見られる程度、刺激強度は疼痛が生じない程度から開始、徐々に電気刺激を加えながらの自動介助挙上運動、自動運動に変化させていった。【説明と同意】2症例とも今回の報告に対する理解と同意を得ている。【経過及び結果】症例1:当初より可動域拡大運動と電気刺激による等尺性筋力増強運動を開始した。経過観察中に鏡視下デブリドマンが施行された。刺激開始後3カ月で肩挙上は90度程度まで回復した。対象2:機能的電気刺激開始後もインピンジ傾向が継続したため、再手術後18週で鏡下デブリドマンと残存アンカーの摘出が行われた。その後再び機能的電気刺激を開始、経過は良好に推移し肩挙上140°まで可能となった。【考察】肩腱板広範囲断裂症例では、腱板機能の著しい低下のため骨頭求心位が取れずインピンジ徴候による疼痛の発生、骨頭の上方変位による肩甲上腕リズムの破綻による肩挙上障害など腱板機能の重要性を強く認識させられる。一方で無症候性の腱板断裂の存在や保存療法に反応する広範囲断裂が少なくないことなど、肩の代償作用について深く考えさせられことが多い。また肩腱板広範囲断裂に対する手術治療においては損傷腱板の修復が難しい場合や症状の再発例なども少なくないなどの問題点もある。これらは肩腱板広範囲断裂例に対する保存療法を検討する必要性を示唆するものである。肩腱板広範囲断裂例での肩挙上動作の力原は三角筋に頼らざるをえない。しかし臨床場面においては、腱板機能が著しく失われた症例では三角筋の随意収縮で疼痛が容易に発生してしまう。疼痛発生に対し恐怖心が生じ、筋の収縮そのものを躊躇する症例が少なくないなど、三角筋の機能を向上させるための運動遂行に難渋することが少なくない。今回用いた機能的電気刺激による強化は三角筋の効率的な筋収縮が行える、筋力強化に際し疼痛の発生を軽減できる、心理的負担が少ないなどの利点があると考える。従って重度の腱板機能不全を示す症例の問題を解決する糸口となる特徴を持つものと考える。今後さらに、症例を重ねて検討を加えたい。【理学療法学研究としての意義】肩広範囲断裂例など挙上困難な症例に対する理学療法場面での治療選択の一つに成りえると思われる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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