理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-11
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一般口述発表
要介護高齢者の介護度の悪化に影響を及ぼす要因の検討
~4212名を対象とした2年間の追跡調査~
秋野 徹波戸 真之介鈴川 芽久美林 悠太石本 麻友子今田 樹志小林 修島田 裕之
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キーワード: 高齢者, 介護度, 介護予防
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抄録

【はじめに、目的】我が国では急速な高齢化が進んでおり、要支援や要介護状態となる高齢者は増加の一途を辿っている。その背景として、加齢や廃用による心身機能、認知機能の低下によって、日常生活活動(activities of daily living: ADL)が低下し、介護度が悪化する例は多く存在するものと考えられる。介護度の悪化がどのようにして起こったのか、介護度の悪化の傾向や要因を縦断的に大規模で調査した報告は、介護予防への取り組みにおいて重要性が高い。そこで本研究は、縦断的な調査により要介護度の悪化に影響を及ぼす要因を検討することを目的とした。【方法】対象は2005年10月から2012年10月の間で全国のデイサービスを利用し、2年間の追跡調査が可能であった要支援1から要介護4までの高齢者4212名(平均年齢82.2±6.6歳、男性1354名、女性2858名)とした。なお、追跡期間内に要介護度の改善が認められたものは対象から除外した。調査は、追跡調査開始時にベースラインとしてFunctional Independence Measure (FIM)、握力、歩行速度、Chair Stand Test- 5 times(CST)、開眼片脚立ち時間、Mental Status Questionnaire (MSQ)を測定した。その後2年間、1年ごとに要介護度の追跡調査を実施し、2年以内に要介護度の悪化した者を悪化群、悪化しなかった者を維持群とした。 統計学的解析は、ベースラインにおける各調査項目について、悪化群と維持群の間の差異を単変量解析(t検定、U検定、χ2検定)にて比較した。また、要介護度の悪化発生までの期間を考慮したうえで、要介護度の悪化に対する各調査項目の影響を検討するため、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。独立変数は性別、ベースラインにおける年齢、介護度、FIM運動項目の合計点、FIM認知項目の合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQとし、ステップワイズの変数減少法による分析を用いた。また、要介護度の悪化と有意な関連を示した変数に関してはハザード比を算出した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行い、同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】2年間の追跡期間における悪化群は2693名(平均年齢82.4±6.4歳、男性879名、女性1814名)、維持群は1519名(平均年齢81.8±7.0歳、男性475名、女性1044名)であった。単変量解析により、悪化群と維持群間を比較したとき、年齢は維持群が有意に低く、ベースラインにおける介護度は維持群が有意に重度であった。加えて、FIM運動項目合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQは維持群が有意に高い値を示した。Cox比例ハザード回帰分析の結果、モデルχ2検定は有意となり、要介護度の悪化に有意な関連を認めた変数は、性別(ハザード比:0.749、95%信頼区間:0.724~0.776)、ベースラインにおける介護度(ハザード比:0.819、95%信頼区間:0.740~0.906)、FIM運動項目合計点(ハザード比:0.996、95%信頼区間:0.994~0.998)、MSQ(ハザード比:1.063、95%信頼区間:1.049~1.077)、歩行速度(ハザード比:0.759、95%信頼区間:0.655~0.880)握力(ハザード比:0.988、95%信頼区間:0.981~0.996)となった。【考察】2年間の追跡調査にて要介護度が悪化した群と維持していた群を比較した結果、ベースラインでのFIM運動項目や運動機能は維持群のほうが有意に高かった、また、縦断的な解析により、ベースラインにおけるFIM運動項目、MSQ、歩行速度、握力が高いほど、要介護度の悪化の発生が増加することが示され、これらの評価指標が介護度の悪化の予測に有用である可能性が示唆された。特に歩行速度に関しては、ADLの低下に関連することや、将来の要介護度発生に影響を与えることが報告されており、本研究も先行研究を支持する結果となった。しかし、要介護高齢者においては歩行困難な対象が多く存在することを考慮する必要があり、今後は対象を限定したうえで要介護度の悪化への影響を検討することも課題である。【理学療法学研究としての意義】介護予防は、現在要介護状態にあるものを要介護状態に陥らないようにすることに加え、現在要介護状態にあるものの要介護状態を悪化させないことも含む。理学療法士としての介護予防への取り組みとして、歩行を含む心身機能、生活機能の維持・向上を図ることの重要性が縦断的に確認されたことは、重要な知見と言える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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