抄録
【はじめに、目的】全身関節弛緩性とスポーツ外傷・障害の関係には、競技によって関節のやわらかさがプラスに働くといった報告や体操などの競技において関節弛緩性の高い上下肢に大きなメカニカルストレスを与えるといった報告がある。重心動揺計で測定した片脚立位の総軌跡長はバランス能力と関係があり、下肢アライメント評価のleg-heel angleと相関があると述べた研究も見受けられる。そのような中で、全身関節弛緩性者のバランス能力とスポーツ外傷の発生機序を考える際に重要な下肢アライメントにおける報告は少ない。そこで我々は片脚立位バランスと下肢アライメントの関係について着目し、この関係が外傷・障害を発生するリスクの指標として考えられるかを検討する。【方法】下肢に整形外科疾患の既往がなく、全身弛緩性テスト(東大式)で7点満点中4点以上の健常成人女性22名(平均年齢25.0±4.3歳)を対象とした。測定項目は以下のものとし、その順序はランダムとした。①片脚立位による重心動揺の測定:ツイングラビコーダGP-6000(アニマ株式会社)を使用した。測定は右下肢を被験肢とし、3回測定し、動揺の少ない値を代表値とした。測定時間は30秒で、総軌跡長、外周面積を測定した。②下肢アライメントの測定:ゴニオメータ(OG技研社製)を使用した。a.脛骨捻転角:膝関節伸展位、足関節底背屈0°、膝蓋骨を真上に向けた肢位にて床面に対する足関節内外顆を結ぶ線の角度を計測した。b.thigh foot angle:腹臥位にて検査側膝関節90°屈曲位に保持し、大腿中央線と踵骨中央から第2趾先端を結ぶ線のなす角を測定した。c.leg-heel angle:荷重位にて下腿遠位1/3の長軸線と踵骨の縦軸線がなす角度を測定した。d.navicular drop test:股関節・膝関節を90°、足関節中間位とした坐位にて床面から舟状骨下端までの距離を計測し、その後、立位にて床面から舟状骨下端までの距離を計測し坐位と立位での距離の変化値を計算値とした。統計処理は重心動揺と各変数の関連性を検討するためにSPSS19.0を用いてPearsonの積率相関係数(有意水準5%未満)を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員会(受付番号11R085号)に承認されている。なお、対象者には研究の目的及び研究方法を十分に説明して文章にて同意を得た。【結果】各変数の平均は、脛骨捻転角13.1±3.0°、thigh foot angle12.8±7.3°、leg-heel angle8.9±3.4°、navicular drop test12.1±4.6mmであった。総軌跡長と有意な相関がみられたのは脛骨捻転角(r=0.451、P<0.05)のみであり、他の計測項目とは有意な相関はみられなかった。【考察】総軌跡長と脛骨捻転角が有意な正の相関を示したことにより、脛骨捻転角は片脚立位バランスに影響を及ぼす因子の一つであるとわかった。この結果は脛骨捻転角が距骨下関節の特徴から足部の内外反に関与するため、片脚立位に影響したと考える。よって全身弛緩性を持つ健常者では、脛骨捻転角の評価はバランス能力の一指標である片脚立位と関係があるために有用であると示唆された。一方で、相関が得られなかったleg-heel angleやnavicular drop testは測定肢位が立位姿勢であった。重心動揺計で測定した片脚立位の総軌跡長は大腿四頭筋や中殿筋の筋力と相関があるといった報告がある。よって筋力の関与が影響してleg-heel angleやnavicular drop testは重心動揺検査と相関が得られなかったと推察する。また、thigh foot angleは測定肢位が膝関節90°屈曲位であり、重心動揺検査での膝関節角度と等しくないことにより相関が得られなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】関節弛緩性を持つ健常者の片脚立位バランスと下肢アライメント評価の中で脛骨捻転角に相関が認められた。スポーツ動作で多く見られる片脚立位と脛骨捻転角を合わせて評価することは、その身体的特徴を得る手段の一つに挙げられるとわかり、本研究に意義があると考える。今後は、関節弛緩性を持つ健常者と持たない者や整形外科疾患の既往歴のある関節弛緩性者と比較し、外傷や障害を発生するリスクの指標になるか検討していきたい。