抄録
【はじめに】腱板断裂のある腱板筋には病理組織像で筋線維の脂肪変性がみられ、脂肪変性の程度は腱板の退縮の程度に関連するといわれている。当院では症例毎にMRI画像所見にて腱板断裂の範囲を確認するだけでなく、脂肪変性・萎縮の評価を行っている。今回、MRI画像の脂肪変性の程度とJOA scoreの改善度との関連性について検討し、腱板断裂保存療法の予後予測の一因子になるか検討したので報告する。【対象と方法】対象はMRI所見から腱板断裂と診断され保存療法を実施し、6ヵ月以上の経過観察が可能であった11例11肩(男性5肩、女性6肩)である。治療開始時年齢は平均70.4歳(61~77歳)であり、経過観察期間は平均10.4ヵ月(6~36ヵ月)、発症から初診までの期間は平均8.1ヵ月(1日~5年)であった。これらの症例に対して理学療法を中心とした保存療法を行い、一部の症例は投薬や関節内注入を併用した。理学療法は、安楽肢位や生活指導、リラクゼーション、関節可動域・腱板機能強化運動などで、外来リハビリにて週1-3回施行した。治療成績は日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA score)を用いた。検討項目は初診時、3ヵ月時、6ヵ月時のJOA scoreおよび推移(初診時、3ヵ月時、6ヵ月時)、関節可動域(自動屈曲、外旋)とした。脂肪変性の評価はGoutallierの提唱する棘上筋の脂肪変性と筋委縮の分類を用いた。Goutallier分類とは、Stage0:脂肪変性なし、stage1:軽度の脂肪変性と筋委縮、stage2:筋よりも脂肪変性の範囲が広い、stage3:筋と脂肪変性が同程度の範囲、stage4:筋よりも脂肪変性の範囲が大きい、と提唱されている。今回、stage1・2群を脂肪変性軽度群(以下、軽度群)、3・4群を脂肪変性重度群(以下、重度群)として群分けし、各検討項目を比較した。MRI画像の確認はT2強調斜位冠状断像にて同一の医師によって行った。統計学的検討にはt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は院内における倫理委員会の承認を受けて実施されており、対象者の個人情報は特定できないように配慮した。【結果】初診時、JOA scoreは軽度群(stage1:4肩、stage2:2肩)が59±7.64点、重度群(stage3:1肩、stage4:4肩)は52.6±10.36点であった。両群間に有意差は認められなかった。3ヵ月時では軽度群75.5±10.66点、重度群は65.1±7.35点、6ヵ月時では軽度群84.67±7.85点、重度群にて70±8.25点であった。軽度群と重度群を比較すると3ヵ月時にて軽度群がより改善する傾向にあり(p= 0.065)、6ヵ月時においては有意差が認められた(p< 0.05)。6ヵ月時のJOA score各項目別では、疼痛が軽度群にて24.17±3.44点、重度群にて17±5.1点、機能が軽度群15.5±2.75点、重度群10.8±2.56点であり、それぞれ統計学的有意差を認めた(p< 0.05)。【考察】本研究の結果から、JOA scoreにおいて軽度群が重度群に比べ3ヵ月時により改善の傾向がみられ、6ヵ月時では有意な差を認めた。6ヵ月時におけるJOA score各項目の詳細な検討では、疼痛と機能の項目で有意な差を認めた。軽度群は脂肪変性が少ないことから残存腱板機能が高いことが考えられ、疼痛の軽減に伴い残存腱板機能が十分に発揮されJOA scoreの機能項目が有意に改善したと考えられる。中垣らは、腱板断裂のある腱板筋には筋線維の脂肪変性がみられ、脂肪変性の程度は腱板の退縮の程度に関連すると報告し、Gerberらは腱板修復術にて筋委縮は回復するが、脂肪変性は回復しないとしている。このことは、腱板断裂症例における脂肪変性の評価の重要性を示している。本研究において腱板断裂症例の脂肪変性の程度とJOA scoreの改善度との関連性が示唆されたことから、初診時より脂肪変性を評価することで、残存腱板機能を踏まえた理学療法を展開していく事が重要であると考える。本研究の問題点として、断裂のサイズは統一していないこと、保存療法から手術へ至った症例や6ヵ月以上の経過観察が不可能であった症例は除外しているため、症例数が少なく、治療成績やその他因子に影響を与えている可能性がある。今後は症例数を増やし、手術療法例も含めた検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】腱板断裂症例の保存療法において、MRIでの脂肪変性の評価は予後予測の一因子となりうる。