理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-17
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ポスター発表
婦人科悪性腫瘍術後の早期下肢リンパ浮腫増悪の危険因子について
第2報
日熊 美帆岡道 綾川藤 沙文塩田 美智子樋口 謙次高倉 聡上出 杏里安保 雅博
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抄録

【はじめに、目的】第46回日本療法学術大会において婦人科悪性腫瘍術後の下肢リンパ浮腫予防指導がリンパ浮腫の重症化を防ぐ可能性を調査したが、発症したリンパ浮腫は外来において、セルフケアで維持できる状態と複合的治療の適応となる状態があり、詳細な検討が必要であると考えられた。そこで今回、国際リンパ学会の分類(以下、ISLの分類)2期以上のリンパ浮腫を呈す患者(複合的治療の適応)と1期以下またはリンパ浮腫未発症の患者の基礎情報と特徴から早期リンパ浮腫増悪の危険因子を調査することを目的とした。【方法】対象は、平成20年4月~平成22年3月までの間に当院婦人科においてリンパ節郭清を伴う子宮頚癌、子宮体癌、卵巣癌に対する手術を施行した患者72例 (子宮頚癌25例、子宮体癌18例、卵巣癌29例、平均年齢51.3±11.8歳)である。方法は、年齢、BMI、疾患名、臨床病期(FIGO臨床進行期分類)、リンパ節郭清範囲(骨盤内リンパ節のみ、骨盤内および傍大動脈リンパ節)、後療法(未実施、化学療法、同時放射線化学療法)の各項目とISLの分類で2期以上のリンパ浮腫発症者(以下、2期以上)、未発症者を含むISLの分類1期以下の患者(以下、1期以下)について診療録より後方視的に調査した。リンパ浮腫発症の有無および段階は、当院の婦人科悪性腫瘍術後のプロトコール(術後より6ヶ月毎に2年間評価)に準じ、下肢の視診・触診、周径計測により確認した。リンパ浮腫の段階は、ISLの分類で評価した。統計解析は、1期以下、2期以上の2群間において年齢、BMI、疾患名、臨床病期、リンパ節郭清範囲、後療法についてχ²検定を使用し検討した。有意水準は5%未満とした。2期以上の症例は発症までの期間、発症の誘因、活動性、リンパ浮腫の治療経過を診療録より個別に調査した。【倫理的配慮、説明と同意】本学倫理委員会の承認を得た上で調査を実施した。【結果】リンパ浮腫未発症者は44例、ISLの分類1期23例、2期早期5例で、リンパ浮腫発症率は38.9%(2期以上は6.9%)であった。年齢では、1期以下で60歳未満が49例、60歳以上が18例、2期以上で60歳未満が4例、60歳以上が1例であった。BMIでは、1期以下で25未満が52例、25以上が15例、2期以上で25未満が3例、25以上が2例であった。疾患名では、1期以下で子宮頚癌が24例、子宮体癌が18例、卵巣癌が25例、2期以上で子宮頚癌が1例、卵巣癌が4例であった。臨床病期では、1期以下で早期が52例、進行期が15例、2期以上で早期が3例、進行期が2例であった。リンパ節郭清範囲では、1期以下で骨盤内リンパ節のみが29例、骨盤内および傍大動脈リンパ節が38例、2期以上で骨盤内リンパ節のみが1例、骨盤内および傍大動脈リンパ節が4例であった。後療法では、1期以下で未実施26例、化学療法32例、同時放射線化学療法9例、2期以上で未実施1例、化学療法4例であった。各項目において早期リンパ浮腫増悪と有意な関係を認めなかった。2期以上の詳細な調査をしたところ、平均年齢は58.2±1.9歳。リンパ浮腫出現までの平均期間は6.6ヶ月。4例には明らかな誘因があり、炎症徴候を伴っていた。誘因となった行為は、オーバーワークが3例、下肢の損傷(剃毛)が1例であった。活動性は、3例が復職、2例が無職、1例は運動習慣があり、4例は運動習慣がなかった。リンパ浮腫の治療は複合的治療を行い、1例は全身状態の悪化で中止となったが、4例は浮腫症状が軽減しセルフケア中心の介入へ移行した。【考察】今回の結果からは、年齢、BMI、疾患名、臨床病期、リンパ節郭清範囲、後療法がリンパ節郭清を伴う婦人科悪性腫瘍術後の早期リンパ浮腫増悪の有意な危険因子とはいえなかった。ISLの分類で2期以上の症例が少なかったことも原因と考えられる。増悪例の傾向として、化学療法施行例、発症の誘因がある、中高年層、術後6ヶ月前後に浮腫症状が出現している、視診・触診上の炎症徴候を伴うことが考えられた。現段階では基礎情報や医学的情報から早期リンパ浮腫増悪の予測を行うことは困難であるが、浮腫症状の有無と共に炎症兆候の評価や生活状況の聴取を適切な時期(術後6ヶ月前後)に行い、経過を追うことは早期リンパ浮腫増悪の予防において重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】リンパ浮腫は発症すると完治がなく、がん治療の合併症で見過ごすことのできない疾患である。しかし、リンパ浮腫発症の危険因子や増悪例の特徴は十分な研究がされておらず、リンパ浮腫発症に不安を抱える患者は多い。本調査はリンパ浮腫予防や治療において注意すべき症例を把握する上で意義のあるものだと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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