抄録
【はじめに、目的】認知、情意、精神運動領域といった3つの学習目標のうち、医学教育では認知領域偏重が指摘されている。理学療法士養成課程も例外ではない。この情意、精神運動領域の学習に対する問題点を解決するため、多くの理学療法士養成校で客観的臨床能力試験(以下、OSCE)が導入されている。しかし、OSCEはあくまでも試験であり、学生の行動変容に対してはより長期的な教育的介入が必要である。そこで筆者が指導教員を務めるゼミでは、学生を模擬患者(以下、SP)とした実技演習(以下、学生SP演習)を実施している。学生SP演習とは、3年生がSPとなり、2年生が2人1組でSPに対して理学療法検査・測定を実施し、4年生が2年生の演習内容を評価する演習である。2年生の知識・技術の確認・獲得という学習目標に加え、3・4年生についても「教える」ことによる学びの場となることを狙いとしている。演習は中枢神経障害と整形外科疾患の2症例についてそれぞれ40分間の検査・測定の後、3・4年生から40分間のリフレクションを受ける。本研究では同一年度に複数回実施した演習における学生のリフレクション内容の変化から、同演習の教育効果を明らかにすることを目的とした。【方法】同実習は、夏期休暇期間を自主学習期間として同休暇期間明けの10月と、後期授業の後半である12月の2回/年実施する。本研究は平成23年度に実施された2回の演習を対象とし、同実習後に、2年生に対して「演習でできたこと」「演習でできなかったこと」および自由記載の各項目を記載させるリフレクション・シートを配布し、後日回収した。回収後、各項目別に一文に1つの意味が含まれるよう学生の意見を抽出し、KJ法を用いて分析し、グループ編成を行った。上記の手順で抽出された2回の演習におけるリフレクション内容を比較、検討した。また、「演習でできたこと」「演習でできなかったこと」の記述数の変化については、χ²検定を用いて検討した(有意水準5%未満)。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、対象者に対して本研究の趣旨、内容を説明し同意を得て実施した。【結果】初回の学生SP演習に対するリフレクションから抽出した記述数は「演習でできたこと」が27であるのに対して「演習でできなかったこと」は71であった。「演習でできたこと」についての記述は「接遇」「理学療法検査・測定」「協力」の3つのカテゴリーに、「演習でできなかったこと」については「検査・測定技術」「検査・測定時のコミュニケーション」「接遇」の3つのカテゴリーに分類できた。対して、第2回目の学生SP演習に対するリフレクションから抽出した記述数は「演習でできたこと」が56、「演習でできなかったこと」が57となり、初回のリフレクション内容と比して「演習でできたこと」が増加し、「演習でできなかったこと」が減少した(p<0.05)。「演習でできたこと」および「演習でできなかったこと」についてのカテゴリーは第1回目と同様であったが、その下位項目の内容が変化していた。特にカテゴリー「検査・測定技術」の下位項目の、「検査・測定結果を勘案した検査・測定項目の選定・変更」や「活動(activities)レベルの考慮」など初回には見られなかった記述内容が加わっていた。【考察】記述数の変化から、初回の演習では学生達にとって課題の多い演習となっていたが、複数回の実施により「演習でできたこと」の記述数が増加し、検査・測定に対する自信が向上していることが推察できる。特に2回目の演習ではSPとの一方的なコミュニケーションへの反省が強く、さらに「検査・測定結果を勘案した検査・測定項目の選定・変更」に対するコメントが加わった。以上のことから、初回の演習を踏まえ、2回の演習を通じて学生は双方向型コミュニケーションや仮説検証過程に基づいた理学療法検査・測定を学習し、実践しようとしていることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】学生SP演習により、情意、精神運動領域の学習という演習の狙いは達成されていることが明らかとなった。また複数回の演習およびリフレクションにより、理学療法検査・測定過程におけるコミュニケーションの質や、仮説検証過程を勘案するなどの深い学習が期待できる。