理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-21
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一般口述発表
バレエダンサーにおけるFunctional Movement Screen ™の検者間信頼性
藤井 絵里浦辺 幸夫前田 慶明水村 真由美吉田 康行笹代 純平
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抄録
【はじめに、目的】外傷・障害予防やパフォーマンス向上のための包括的な身体機能評価としてFunctional Movement Screen ™(以下、FMS)が注目されている。FMSは「動きの制限と非対称性」をスクリーニングするものであり、stabilityとmobilityを基盤とした体幹および四肢の複合的な基本動作7項目で構成されている。手軽に動作パターンを評価できる一方で、ひとつの動作に含まれる身体的な要素は多い。得点は、「体幹が安定しているか」「バランスを保持できているか」などの大まかな基準によるため、検者の経験や判断に左右されやすいことが難点である。これまでの先行研究により結果の信頼性は「概ね良い」とされているが、対象の属性や動作の項目によるばらつきもある。本研究では対象としてバレエダンサーに着目した。バレエダンサーは脚を高く拳上する、最大限のつま先立ちでバランスを保持するなど極端な動作を行うが、その際に体幹や骨盤で代償せず行うことが、審美的な観点だけでなく障害予防の観点からも重要である。そのため、FMSはダンサーにおいても有用なツールであると思われる。本研究の目的は、バレエダンサーを対象としてFMSを実施し、検者間信頼性と結果からみえてくる身体的な特徴を検討することとした。【方法】対象は大学の舞踊の専門教育コースに所属する学生バレエダンサー28名(全て女性、年齢19.8±1.2歳)とした。測定時にFMSを安全に遂行することが不可能な疾患を有する者は除外した。対象全てに、Deep Squat(DS)、Hurdle Step(HS)、Inline Lunge(IL)、Shoulder Mobility (SM)、Active Straight-Leg Raise(ASLR)、Trunk Stability Pushup(TSPU)、Rotary Stability(RS)の7項目で構成されるFMSを実施し、その様子を前額面と矢状面よりビデオ撮影した。採点は撮影した動画によるビデオ分析で行い、他競技者の評価経験のあるセラピスト1名(検者A)と、舞踊を専門とするFMS初心者1名(検者B)、計2名により項目ごとに0点から3点の4段階で評価した。DSとTSPU以外の5項目では左右それぞれ採点した。各項目における検者間の一致度をKappa係数により分析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1239)。研究に先立ち、対象に十分な説明を行い書面にて同意を得た。【結果】DS(K=0.64)、SM、ASLR(K=1.00)、TSPU(K=0.49)の4項目において中等度から高い一致度が示された。特に柔軟性が反映されるASLRでは、検者A、B共に全ての対象で3点であった。その他のHS(右K=0.05、左K=0.08)、IL(右K=0.14、左K=0.12)、RS(右K=0.17、左K=0.13)については低い一致度を示した。合計点の平均は検者Aで17.2±1.4点、検者Bで17.9±1.5点であった。【考察】本研究において、検者間の一致度は項目により差が大きく、経験者と初心者の検者間信頼性は高いとされている先行研究(Minick et al,2010)とは異なる結果となった。中等度から高い一致度を示した4項目については評価基準が比較的明確に定量化されているため、検者間で相違が少なかったと考える。低い一致度を示した項目の中でも、特にHSとILについては体幹の動揺や代償動作の有無が評価基準であるため検者の判断に左右されやすい。HSは先行研究においても信頼性が低いことが報告されている(Onate et al,2012、Smith et al,2012)。本研究の検者AはFMS経験があることから判断する上での比較対象があったこと、検者Bは舞踊を専門としており、対象のダンス歴や技術レベルといった背景を把握していたことも採点する上でのバイアスになったと思われる。先行研究により経験レベルに左右されず評価が可能であることは示されているが、対象数を重ねるうちに自己判断基準が変化していくことは初心者でも起こりうるため、測定前には十分な導入が必要である。合計点の平均は先行研究(Kiesel et al,2007、Schneiders,2011、Teyhen et al,2012)と比較して高く、SMやASLRに代表されるようなmobilityの要素は、柔軟性に秀でているバレエダンサーではほぼクリアできたことが影響したと考えられる。FMSを実施する際は検者のバイアスと対象の身体的な特徴を考慮し、詳細で明確な評価基準を設ける必要があるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】FMSの基盤であるstabilityとmobilityに秀でているバレエダンサーは得点が他の対象よりも高いことが示された。FMSは動作パターンを容易に評価できる点で汎用性が高いが、対象の身体的特徴に応じて詳細な評価基準を追加することで、パフォーマンステストとしての有用性をより示すことができると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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