理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-04
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一般口述発表
退院後の療養環境ががん患者のQOLに及ぼす影響
在宅復帰群と転院群の比較検討
近藤 心加藤 真介中村 友香大澤 俊文江西 哲也佐藤 紀
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キーワード: がん患者, 在宅復帰, QOL
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抄録
【はじめに、目的】平成22年度診療報酬改定によりがん医療推進の一環として「がん患者リハビリテーション料」が設けられ,がん治療中および治療後の患者に対するリハビリテーションへの認知度ががん診療連携拠点病院を中心に高まっている.しかしながらそれらの病院のほとんどは急性期病院であり,原疾患の治療終了とともに在宅復帰もしくは転院が検討される.原疾患あるいは治療の副作用等により,心身機能の低下のみられる患者が退院に際して不安を訴える事も少なくない.そこで本研究では,在宅復帰群と転院群において退院時におけるADLおよびQOLを比較することにより,治療終了後のがん患者が抱える心身面での問題について明らかにすることを目的とした.【方法】平成22年9月から平成24年10月の間,当院にてがん患者リハビリテーションが実施された患者を帰結に応じて在宅復帰群(n=28)と転院群(n=11)に分類し、ADLおよびQOLについて,入院時と退院時の比較および両群間での比較を行った. ADLの評価にはBarthelIndex(以下BI) ,QOLの評価にはEORTC QLQ C30(以下QLQ C30)を用い, Global health status/QoL(以下GHQ),Physical functioning(以下PF),Role functioning(以下RF),Cognitive functioning(以下CF),Emotional functioning(以下EF)およびSocial functioning(以下SF)のスコアを採用した.ADLおよびQOLともに初期評価はベッド上での座位が安定して可能となった時点,最終評価は退院時に実施した.ADLおよびQOL各項目の初期・最終時のスコア比較はWilcoxon符号付順位和検定,両群間での対応した項目の比較にはMann-WhitenyのU検定を用いて検討した.分析にはIBM SPSS Statistics Base 19を使用し,統計学的有意差判定基準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,徳島大学病院倫理委員会(承認番号:第1392 号)の承認を受けるとともに,個人情報の取り扱いには十分に留意し検討を行った.【結果】両群における各項目の中央値(在宅復帰群,転院群の順に記載)は,初期評価時でBI(77.50,45.00),GHQ(33.33, 50.00),PF(33.33, 26.67),RF(0.00, 16.17),CF(50.00,50.00),EF(66.67, 33.33),SF(58.33,33.33)であり,最終評価時でBI(92.50,60.00),GHQ(50.00,50.00)PF(50.00,40.00),RF(50.00,0.00),CF(74.98,50.00),EF(75.00,58.33),SF(66.67,16.67)であった.初期評価と最終評価との比較では,在宅復帰群においてBI(P<0.01),GQL(P<0.01),PF(P<0.01),RF(P<0.05),CF(P<0.01)およびEF(P<0.01),転院群ではGQL(P<0.05)に有意差が認められた.またBI,CFおよびSFの各スコアにおいて,初期評価では両群間に有意差を認めなかったが,最終評価では在宅復帰群が高値であり有意差が認められた(P<0.05).【考察】治療後の療養環境として,一般的に病院と比較し在宅の方がよりQOLの向上に寄与すると考えられているが,本研究においてはCF(認識機能)・SF(社会機能)の2項目で有意差がみられたのみに留まった.特にPF(身体機能)・RF(役割機能)については転院群において退院時に改善を認めなかったにも関わらず,両群間比較においても有意差を認めなかったため,在宅復帰に向けて患者が自身の身体面および役割面での不安感を感じていることが示唆された.在宅復帰患者のADLは,退院時において有意に改善しており,転院群との比較においても有意に高値を示したが,QOLの観点からみた身体機能や役割機能の改善には,基本的ADLのみならずIADLや具体的な社会復帰に向けてのアプローチが必要であると考えられる.また地域との連携においても当院での入院日数や疾患管理等の理由により,転院後のリハビリテーションが十分に受けられない事も少なくない.がん診療拠点病院として転院後のリハビリテーションを見越した連携が必要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】がん治療において,QOLの維持向上はもっとも重要な目的の一つである.本研究により,がん治療後の患者におけるQOL変化を把握し、退院後のQOL向上により有効なアプローチを考える契機になると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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