理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0004
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口述
姿勢の不安定性が運動課題中の注意処理とフィードバック処理に与える影響
―事象関連電位による検討―
平井 達也
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抄録

【はじめに,目的】運動学習はフィードバック(FB)により進行することが想定され(Wolpert, 1995),その根拠が事象関連電位(ERP)を用いて明らかにされてきている(Eppinger, 2008)。FB処理は様々な要因に影響されることから,効率の良い学習を進めるために理学療法士はそれらの要因を統制する必要がある。しかし,たとえば上肢による到達運動を行う際に姿勢の不安定性はパフォーマンスを低下させると考えられるが,不安定性が到達運動に対して単に外乱として影響を与えるのか,FB処理自体にも影響を与えるのか十分明らかになっていない。外乱のみへの影響であればERPに反映されず,処理への影響があればERPに反映される可能性がある。本研究の目的は,日常でよく使用される上肢到達運動課題を使用し,その際,姿勢の不安定性がFBに関連したERPの特に注意成分とFB処理にどのような影響を与えるかを検討することとした。【方法】対象は健常若年成人6名(23.3±2.9歳)であった。課題は標的ボタンを直接的な視覚情報なしで押すことであった。ボタン押し1秒後に成功(緑LED点灯)か失敗(黄色LED点灯)かの視覚的FBを1秒間与えた。参加者は安定条件では,座面高が股関節,膝関節90度に設定された椅子に座って到達課題をおこない,できるだけ多く標的ボタンを押すよう要求された。不安定条件では安定条件と同様の座面高に設定された不安定板上に座って到達課題をおこなった。不安定板は左右方向のみ不安定であり,参加者は不安定板をできるだけ水平に保ち,板の端が台に触れないよう,かつ,できるだけ多く標的ボタンに到達することを要求された。順序効果の交絡を防ぐため,安定条件と不安定条件の実施順序はカウンターバランスされた。脳波は国際10-20法に従いFz,Cz,C3,C4,P3,P4から導出した。ERPの処理は安定条件,不安定条件それぞれで成功時と失敗時に分け,視覚FBをトリガーとして加算平均し,成功FB-ERP,失敗FB-ERPを算出した。また,失敗FB-ERPから成功FB-ERPを引いた差電位を算出した。標的ボタン押し成功率の安定条件と不安定条件の比較にはt検定を用い,各FBタイプの区間平均電位を従属変数として条件(安定,不安定)×FBタイプ(失敗FB-ERP,成功FB-ERP)×電極部位(Fz,Cz,C3,C4,P3,P4),各区間の差電位を用いて条件(安定,不安定)×電極部位(Fz,Cz,C3,C4,P3,P4)の分散分析を用い,多重比較にはRyan法を用いた(p<0.05)。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨と倫理的配慮について説明し,署名により同意を得た。また,所属施設の倫理委員会の承認を得た(承認番号:025-007)。【結果】安定条件の標的ボタン押し成功率(49.1%)は不安定条件(38.1%)と比較し有意に高かった(p<0.05)。ERP波形の視覚的観察によると安定条件,不安定条件ともFB後100ms付近から陽性方向に発達し,失敗FB-ERPはFB後100-200ms付近と200-300ms付近で成功FB-ERPと分離し陰性方向に発達していた。そこで100-200msを初期成分,200-300msを後期成分として各区間の平均電位を分析対象とした。初期成分の両条件で共通したERPの特徴は失敗FB-ERPと成功FB-ERPの差電位はFzが最も大きいことであった。条件間の違いはFzとP4部位での不安定条件の差電位が安定条件より大きい陰性電位を示した。後期成分の特徴は,差電位を観察すると全ての部位で不安定条件の陰性電位が安定条件より大きく,P4部位が優勢であった。【考察】初期成分の陰性電位はFz優勢であり,成功,失敗FB-ERPの両方に見られたことからより一般的な注意処理に関わる前頭部N1に相当すると考えられた。初期成分と後期成分の各差電位を見ると共通して不安定条件の陰性電位が安定条件より高く,これは到達運動課題のパフォーマンスを維持するため,補償的に注意に関わる活動を高めた結果と推察された(Talsma, 2006)。200-300ms区間における失敗FBに惹起された陰性電位は従来,フィードバック関連陰性電位と呼ばれ前頭-中心部優勢であり,エラーの検出やエラーに伴う負の情動を反映するとされる。本研究の200-300ms区間の陰性電位はP4優勢であり,空間情報と体性感覚情報の統合処理(Ghilardi,2000;Andersen, 1997)がエラー検出に重畳したことを反映したと考えられた。不安定条件での陰性電位が高かったのは注意処理資源の豊富な若年では,補償的に注意に関連した活動とエラー処理に関連した活動を高めることを反映したと推察された。【理学療法学研究としての意義】運動課題中の姿勢不安定性の影響は注意処理そのものに影響を与えることが確認され,今後の理学療法の臨床に有益な情報を提供するものである。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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