理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述
  • 石垣 智也, 植田 耕造, 藤原 菜津, 脇 聡子, 菅沼 惇一, 森岡 周
    セッションID: 0001
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】力学的に立位姿勢の安定化に寄与しないとされる程度の力(1N未満)で,固定点に指先を接触させると姿勢動揺が減少する。これをLight Touch(LT)効果という。これまでLT効果は,固定点への接触によって効果が得られるとされていた(Holden, 1994. Jeka, 1997)。しかし,固定点がなくとも,指先からの感覚入力があれば姿勢動揺が減少する報告(Backiund Wasling, 2005. Nagano, 2006)もあり,LT効果の成立要因について一定した見解を得ていない。本研究の目的は,異なる立位条件によるLT効果の違いを比較し,LT効果を成立させる要因を検討することである。【方法】対象は右手が利き手の健常成人17名(男性10名,女性7名,平均年齢22.7±2.2歳)とした。測定肢位は,閉眼閉脚立位で左上肢は自然な体側下垂位とし,右上肢は肘関節屈曲90度で示指伸展位とした。立位条件は,身体の揺れに注意し出来るだけ揺れないように立つControl(C)条件,右示指の揺れに注意し出来るだけ揺れないように,固定されたスタンドにLTするNormal Light Touch(NLT)条件,右示指の揺れに注意し出来るだけ揺れないように,右手関節に装着したリストバンド(重さ28.5g)からワイヤーを通して,右示指で自己の姿勢動揺を反映した非固定接触点にLTするSensory Light Touch(SLT)条件,何にも接触せず右示指の揺れに注意し,出来るだけ揺れないように立つAttention Light Touch(ALT)条件の4条件を設定した。C条件を除く,各条件に含まれるLT効果に寄与する要因は,NLT条件では固定点接触,感覚入力,指先への注意,SLT条件では感覚入力,指先への注意,ALT条件では指先への注意のみである。SLT条件はリストバンドから右手関節に固有感覚,触圧覚が入力されるため,他の条件でも,同じ重さに調整したリストバンドを右手関節に装着した。各条件の測定時間は20秒とした。姿勢動揺の測定には重心動揺計G-6100(ANIMA社製)を用い,サンプリング周波数は100Hz,使用パラメータは総軌跡長,実効値面積とした。NLT条件のみ,ひずみセンサーELFシステム(ニッタ社製)を用い,サンプリング周波数20Hzで接触力の測定をした。測定手順は,事前に1N未満の接触力の練習を行った後,最初にC条件(C1)の測定を行った。その後,被験者によりNLT条件・SLT条件・ALT条件をランダムで1回ずつ測定し,最後にもう一度C条件(C2)を測定した。統計解析は,測定前後において,閉眼閉脚立位姿勢保持の学習効果の有無を確認するために,C1条件とC2条件の重心動揺計各パラメータを対応のあるt-検定を用いて比較した。その後,C1条件・NLT条件・SLT条件・ALT条件の重心動揺計各パラメータの比較を対応のある一元配置分散分析(多重比較検定法Holm)を用いて4条件比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に対し,研究内容を説明し同意を得た。なお本研究は本学研究倫理委員会(受付番号H25-26)にて承認されている。【結果】全ての被験者において,NLT条件で接触力が1Nを超えることはなかった(平均0.51±0.17N)。また,測定前後のC条件の比較では有意差を認めなかった。4条件比較では,総軌跡長はC1条件に比べ全ての条件において,有意な減少(平均減少率:NLT条件29.6%・SLT条件18.2%・ALT条件10.9%)を認めた(P<0.01)。また,NLT条件・SLT条件・ALT条件間の比較でも,全てにおいて,有意差を認めた(P<0.01,SLT条件vs. ALT条件のみP<0.05)。実効値面積では,NLT条件のみ他の条件と比較して有意な減少(平均減少率:C1条件に比して68.4%,SLT条件・ALT条件に比して63.4%)を認めた(P<0.01)が,他の条件間においては有意差を認めなかった。【考察】測定前後のC条件の比較において有意差を認めなかったため,閉眼閉脚立位姿勢保持の学習効果はなかったと考える。つまり,4条件比較における重心動揺計各パラメータの条件差は,学習効果によるものではなく,立位条件の違いによるものであることを示している。総軌跡長では注意のみのALT条件であっても総軌跡長の減少を認め,かつ,NLT条件,SLT条件,ALT条件の順でその減少率に差を認めたため,指先への注意がLT効果を成立させる最小要因であり,感覚入力,固定点接触と寄与する要因が増えるほど,その効果を増加させていると考える。一方,実効値面積では,固定点接触のNLT条件のみ有意な実効値面積の減少を認め,他の非固定点条件では差を認めなかったため,実効値面積の減少には,固定点接触という要因が必要であることを示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究は,LT効果は注意のみでも得られ,複合要因で成立しており,重心動揺計パラメータの特性の違いにより,寄与する要因が異なるという基礎的知見を示した。
  • ~半球間差異を考慮した検討~
    辻本 直秀, 阿部 浩明, 大鹿糠 徹, 大橋 信義, 齊藤 麻梨子
    セッションID: 0002
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】脳損傷後には自覚的視覚的垂直位(以下,SVV)の偏倚が生じ,この偏倚はバランス障害の一要因として推察されている。また,右半球損傷(以下,RBD)例ではSVVの偏倚が長期間に及ぶことや,左半側空間無視がSVV偏倚に関与する事が報告されており,SVVの偏倚には半球間で差異が存在するとされている。脳損傷後の特徴的な姿勢定位障害であるpusher現象(以下,PB)においても,その異常姿勢の背景としてSVVが調査されており,PB例のSVVには健常人ではみられない異常が存在すると報告されている。また,PB例におけるSVVの偏倚においても半球間での差異が報告されており,RBD例では左半球損傷(以下,LBD)例よりSVVが偏倚するとされている。我々は先行研究において,PBの改善経過とSVVの偏倚の改善経過に着目し,PBの重症度とSVVの偏倚量における関連性を調査した。その結果,いずれの測定時期においてもPBの重症度とSVVの偏倚量は相関せず,さらに両者が改善する時期には乖離がみられた。SVVの偏倚がPBの改善に及ぼす影響を調査するうえでは,SVVの偏倚の半球間差異が考慮されるべきだと思われたが,先行研究では対象者数が不十分なために半球間差異を考慮した検討ができなかった。そこで本研究では,先行研究を上回る対象者をもって,PBとSVVの改善経過をLBD群およびRBD群それぞれで調査し,各測定時期におけるPB重症度とSVV偏倚量との相関関係を検証した。【方法】PBの重症度を測定するScale for contraversive pushing(以下,SCP)にて各下位項目>0を満たし,発症早期(発症後期間:7.4±2.6日)からSVVの測定が可能であったテント上病変を有する初発脳卒中片麻痺者12名(RBD群8名,LBD群6名)を対象とした。重度の意識障害(JCS:10以上),注意障害,失語症,精神障害,視力,視野障害を呈する者,前庭機能障害の既往や眩暈の訴えがある者は対象から除外した。SVVの測定は,静かな暗室で実施した。ヘッドレスト付き座位装置に,被検者の頭部と体幹を正中位に固定した。座面は足底が床面に全面接地する高さに設定した。直径20cmの円盤に幅1cmの発光シールを張り付けたSVV測定装置を用意し,この装置を被検者の目の高さで前方50cmに設置した。装置に取り付けた紐を非麻痺側上肢で水平方向に操作することで,発光シールを左または右方向へ45°傾斜させた位置から垂直にする課題を実施し,垂線からの誤差角度を測定した。課題は各方向を4回ずつ,計8回施行し,絶対値の平均(以下,SVV値)を算出した。計測期間は初回評価から3週間とし,週2回ずつ,計6回のSCPとSVV値を測定した。統計処理は,RBD群とLBD群における各測定時期のSCPとSVV値との相関をSpearmanの相関係数にて検討した。また各群におけるSCPとSVV値の経時的変化を多重比較検定にて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】対象者には本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】初回評価を含めいずれの時期においても,各群のSCPとSVV値には統計学的に有意な相関を認めなかった。RBD群におけるSCPとSVV値の経時的変化について,初回評価時の値との差異が生じる時期は,SCPでは3回目の測定以降(初回:4.0±1.4,3回目:1.8±1.2,p<0.05),SVV値では4回目の測定以降(初回:4.2±2.5°,4回目:2.7±1.2°,p<0.05)であり,改善する時期が異なっていた。LBD群のSCPは,3回目の測定以降(初回:4.0±0.9,3回目:2.0±1.4,p<0.05)で初回評価時の値との差異が生じた。一方で,LBD群のSVV値は有意な変化を示さなかった(初回:2.4±1.0°,6回目:1.9±1.5°)。【考察】本研究では,PBを呈したRBDおよびLBD例において,初期評価を含めいずれの時期においてもSCPとSVV値には相関はみられなかった。さらにRBD例ではSCPの改善はSVVの改善よりも早期にみられ,LBD例ではSCPが改善しているのに対してSVVの変化はみられなかった。この結果は,LBD,RBDの両群において,PB重症度とSVV偏倚量の関連性は乏しく,PBの改善とSVVの偏倚の改善がそれぞれ独立して生じることを示唆していると推察される。すなわちPB例に対する理学療法介入を検討するに際して,SVVの偏倚にみられるような外部中心座標系の空間認知の異常よりも,姿勢的(身体的)な垂直判断のような自己中心座標系の空間認知の異常(Karnath et al. 2000,Pérennou et al. 2008)を修正していくことに重点を置いた介入を選択していくことの重要性が示唆されたものと思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,外部中心座標系の空間認知の異常が,自己中心座標系の空間認知の異常よりPBに関与しているとは言い難く,PB例の理学療法では自己中心座標系の空間認知の異常に対する介入方法の模索が重要であることを示唆したものと思われた。
  • ワイヤ筋電図を用いた検討
    安彦 鉄平, 島村 亮太, 小川 大輔, 廣澤 全紀, 嶋田 浩平, 中尾 陽光, 相馬 正之, 安彦 陽子, 竹井 仁
    セッションID: 0003
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】予測的姿勢制御とは,身体の一部を運動させるとき,全身の平衡が乱れるのを防ぐ姿勢制御である。そして,同時期に体幹深層筋のフィードフォワード活動(FF)が起こる。この活動は,方向特異性がないことから幾何学的な位置の崩れを予測して活動する姿勢制御とは異なり,体幹と骨盤帯の安定性に寄与する筋活動であると推測されている。しかし,先行研究は少なく,特に体幹深層筋のひとつである腰部多裂筋深層線維については,十分に検討されていない。そのため,本研究目的は,異なる方向への上肢運動課題が腰部多裂筋の反応時間に及ぼす影響を検証することとした。【方法】対象は整形外科的,神経学的疾患のない健常成人男性10名とした。対象者の取り込み基準は,床への垂線と恥骨結合と上前腸骨棘を結ぶ線のなす角が±5°以下とし,骨盤アライメントが不良な者は予め除外した。運動課題は,「前」「後ろ」音刺激に反応し,できるだけ素早く肩関節を屈曲90度まで,伸展45度までの随意運動とした。なお,課題遂行中の体幹の代償動作ができるだけ生じないようにと指示をした。音刺激は3秒から7秒の不規則な間隔で,ランダムに前と後ろ5回ずつとした。立位姿勢は,両上肢をリラックスさせ,体重は両足に均等に載せ,足幅は15cmとした。測定は,表面筋電図とワイヤ筋電図(TRIAS,DKH社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。表面筋電図の測定筋は,右三角筋鎖骨部と肩甲棘部とした。ワイヤ筋電図の測定筋は,左腰部多裂筋浅層線維(SM)と深層線維(DM)とした。ワイヤ電極(ユニークメディカル社製)は,整形外科医が超音波画像を確認しながら挿入した。なお,ワイヤ電極はカテラン針に通した状態で,過酸化水素低温プラズマ滅菌システム(ステラッドNX)を用いて滅菌処理を行った後,使用した。三角筋の筋活動の開始は,安静立位で測定したRoot Mean Squareの平均値±2SDを超えた地点とした。SMとDMについては,先行研究に準じブラインドされた1名によって視覚的に決定し,三角筋との差を反応時間とした。なお,上肢の動きに関与しないとされている三角筋の筋活動開始-100msec以前と+200msec以降の活動は除外した。解析に用いた変数は反応時間とし,筋毎に運動方向の比較および運動方向毎のSMとDMの比較について,対応のあるt検定を用いた。すべての統計学的解析はSPSS ver.19を使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に研究の主旨と方法を説明し,書面にて承諾を得た。なお,所属機関の研究倫理委員会の承認を得た後,実施した。【結果】屈曲では,DMは-4.5±29.3msec,SMは-5.3±23.3 msecであった。伸展では,DMは78.5±27.3 msec,SMは61.1±42.6 msecであった。統計学的解析の結果,いずれの筋も,伸展に対し屈曲で反応時間は有意に早かった。また,いずれの運動方向についても,DMとSMの反応時間に有意差は認めなかった。【考察】先行研究において三角筋の発火-100msecから+50msecの範囲内での活動をFFとし,DMは運動方向に依存せずFFが生じることが報告されている。しかし,本研究結果は,DMは伸展に対し屈曲で反応時間は有意に早かった。さらに,+50msec以前の活動をFFとすると,屈曲ではFFとして活動し,伸展ではFFとして活動しない対象者が多く,MacDonaldら(2009)の結果と一致した。このDMに方向特異性が示された要因は,DMは腹横筋とは異なる解剖学的な特徴のためと考える。腹横筋は,矢状面において腰椎の屈曲の作用と,胸腰筋膜を緊張させることによる伸展の作用をもつ。一方,DMは腰椎伸展作用のみであり,そのため上肢伸展課題では,FFとして活動しなかったと推測される。また,手を後ろに動かすこと自体が日常的な動作ではなく,DMを用いて脊柱を安定化させる中枢神経機構が成熟していない可能性が推測される。また,SMとDMの反応時間に差が認めなかったから,今回の課題ではSMとDMの機能的な差を示すには至らなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】DMの研究は少なく,十分に検討されていない状況にも関わらず,臨床応用が進んでいる。本研究結果は,体幹深層筋においても,必ずしもFFが生じないことを示したことは,体幹筋群の基礎的研究および臨床応用として意義深いと考える。
  • ―事象関連電位による検討―
    平井 達也
    セッションID: 0004
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動学習はフィードバック(FB)により進行することが想定され(Wolpert, 1995),その根拠が事象関連電位(ERP)を用いて明らかにされてきている(Eppinger, 2008)。FB処理は様々な要因に影響されることから,効率の良い学習を進めるために理学療法士はそれらの要因を統制する必要がある。しかし,たとえば上肢による到達運動を行う際に姿勢の不安定性はパフォーマンスを低下させると考えられるが,不安定性が到達運動に対して単に外乱として影響を与えるのか,FB処理自体にも影響を与えるのか十分明らかになっていない。外乱のみへの影響であればERPに反映されず,処理への影響があればERPに反映される可能性がある。本研究の目的は,日常でよく使用される上肢到達運動課題を使用し,その際,姿勢の不安定性がFBに関連したERPの特に注意成分とFB処理にどのような影響を与えるかを検討することとした。【方法】対象は健常若年成人6名(23.3±2.9歳)であった。課題は標的ボタンを直接的な視覚情報なしで押すことであった。ボタン押し1秒後に成功(緑LED点灯)か失敗(黄色LED点灯)かの視覚的FBを1秒間与えた。参加者は安定条件では,座面高が股関節,膝関節90度に設定された椅子に座って到達課題をおこない,できるだけ多く標的ボタンを押すよう要求された。不安定条件では安定条件と同様の座面高に設定された不安定板上に座って到達課題をおこなった。不安定板は左右方向のみ不安定であり,参加者は不安定板をできるだけ水平に保ち,板の端が台に触れないよう,かつ,できるだけ多く標的ボタンに到達することを要求された。順序効果の交絡を防ぐため,安定条件と不安定条件の実施順序はカウンターバランスされた。脳波は国際10-20法に従いFz,Cz,C3,C4,P3,P4から導出した。ERPの処理は安定条件,不安定条件それぞれで成功時と失敗時に分け,視覚FBをトリガーとして加算平均し,成功FB-ERP,失敗FB-ERPを算出した。また,失敗FB-ERPから成功FB-ERPを引いた差電位を算出した。標的ボタン押し成功率の安定条件と不安定条件の比較にはt検定を用い,各FBタイプの区間平均電位を従属変数として条件(安定,不安定)×FBタイプ(失敗FB-ERP,成功FB-ERP)×電極部位(Fz,Cz,C3,C4,P3,P4),各区間の差電位を用いて条件(安定,不安定)×電極部位(Fz,Cz,C3,C4,P3,P4)の分散分析を用い,多重比較にはRyan法を用いた(p<0.05)。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨と倫理的配慮について説明し,署名により同意を得た。また,所属施設の倫理委員会の承認を得た(承認番号:025-007)。【結果】安定条件の標的ボタン押し成功率(49.1%)は不安定条件(38.1%)と比較し有意に高かった(p<0.05)。ERP波形の視覚的観察によると安定条件,不安定条件ともFB後100ms付近から陽性方向に発達し,失敗FB-ERPはFB後100-200ms付近と200-300ms付近で成功FB-ERPと分離し陰性方向に発達していた。そこで100-200msを初期成分,200-300msを後期成分として各区間の平均電位を分析対象とした。初期成分の両条件で共通したERPの特徴は失敗FB-ERPと成功FB-ERPの差電位はFzが最も大きいことであった。条件間の違いはFzとP4部位での不安定条件の差電位が安定条件より大きい陰性電位を示した。後期成分の特徴は,差電位を観察すると全ての部位で不安定条件の陰性電位が安定条件より大きく,P4部位が優勢であった。【考察】初期成分の陰性電位はFz優勢であり,成功,失敗FB-ERPの両方に見られたことからより一般的な注意処理に関わる前頭部N1に相当すると考えられた。初期成分と後期成分の各差電位を見ると共通して不安定条件の陰性電位が安定条件より高く,これは到達運動課題のパフォーマンスを維持するため,補償的に注意に関わる活動を高めた結果と推察された(Talsma, 2006)。200-300ms区間における失敗FBに惹起された陰性電位は従来,フィードバック関連陰性電位と呼ばれ前頭-中心部優勢であり,エラーの検出やエラーに伴う負の情動を反映するとされる。本研究の200-300ms区間の陰性電位はP4優勢であり,空間情報と体性感覚情報の統合処理(Ghilardi,2000;Andersen, 1997)がエラー検出に重畳したことを反映したと考えられた。不安定条件での陰性電位が高かったのは注意処理資源の豊富な若年では,補償的に注意に関連した活動とエラー処理に関連した活動を高めることを反映したと推察された。【理学療法学研究としての意義】運動課題中の姿勢不安定性の影響は注意処理そのものに影響を与えることが確認され,今後の理学療法の臨床に有益な情報を提供するものである。
  • 二階堂 泰隆, 畑中 良太, 城野 靖朋, 谷 恵介, 野村 佳史, 中條 雄太, 平岡 浩一
    セッションID: 0005
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】外乱に対する筋反応は,20-40 msの潜時でshort latency stretch reflexが生じ,次いで50-60 msの潜時でlong latency stretch reflexが生じると報告されている。しかし,これまでの外乱に対する筋反応の研究では,外乱を1方向で誘発しているため,事前に外乱方向を予測することが可能である。したがって,これら先行研究の知見は外乱予測の要因を除外できていないと考える。本研究では異なる2方向の外乱を試行ごとに無作為に実施して,外乱予測を生じさせずに外乱前および反応前期の皮質脊髄興奮性と筋反応を観察した。他方,外乱予測は外乱前および反応前期の皮質脊髄興奮性と筋反応に影響すると考えられる。そこで,外乱方向および外乱タイミングの予測が外乱に対する筋反応と反応前期の皮質脊髄興奮性に与える影響について検証した。【方法】健常成人10名(20-34歳)を対象とした。外乱装置のアームに右示指を固定した。右第一背側骨間筋(FDI)から筋電図(EMG)信号を記録し,15 Hzから3 kHzの周波数帯域で増幅した。外乱前に0.25 kgfの伸展方向トルクを発生させた状態で右示指中間位を保持させ,閉眼させた。外乱予測を誘発する聴覚precueを提示し,その1000 ms後に右示指に対して1.0 kgfの外乱トルクを発生させ,その外乱に対して右示指を外乱前の位置に保持するよう努力させた。実験条件はprecueなし条件,タイミング予測を生じさせる方向情報なしprecue条件,方向とタイミング予測を生じさせる方向情報ありprecue条件とした。経頭蓋磁気刺激(TMS)は円形コイルを用いて運動閾値の1.2倍の強度で右FDIのhotspotに実施した。TMSは外乱前100 msと反応前期(0-60 ms)に施行した。実験条件は試行間でランダムな順序で実施した。TMSを実施しないno-TMS試行も試行間にランダムに挿入した。no-TMS試行ではEMG反応時間,EMG反応開始0-20 msのEMG振幅を算出した。TMS試行では外乱前100 ms,外乱後0-20 ms,20-40 ms,40-60 msにおける反応前期の運動誘発電位(MEP)振幅とTMS前12-2 msの背景EMG(BEMG)振幅を算出した。MEP振幅とTMS前BEMG振幅は外乱前100 msにおける振幅で除算して標準化した。統計処理は分散分析を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】実験は倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】EMG反応時間は伸展外乱で約75 ms,屈曲外乱で約85 msであった。EMG反応時間は予測条件間で有意差を認めなかった。伸展外乱に対するEMG反応振幅は方向情報あり条件において他の予測条件と比較して有意に増大し,方向情報なし条件においてprecueなし条件と比較して有意に増大した(p<0.05)。屈曲外乱に対するEMG反応振幅は方向情報あり条件と方向情報なし条件においてprecueなし条件と比較して有意に大きかった(p<0.05)。方向情報あり条件におけるMEP振幅は伸展外乱後0-60 msを通して有意に増大し(p<0.05),方向情報なし条件において伸展外乱後40-60 msで有意に増大した(p<0.05)が,precueなし条件ではMEP振幅は有意な変化を認めなかった。伸展外乱後40-60 msではMEP振幅は方向情報あり条件,方向情報なし条件,precueなし条件の順で有意に大きかった(p<0.05)。屈曲外乱のMEP振幅は予測条件間・時系列間で有意差を認めなかった。【考察】EMG反応時間が視覚や聴覚刺激反応時間と比較して短いことや,EMG反応時間に予測の効果が認めなかったことから,外乱反応が視覚や聴覚刺激反応とは異なる機序を介していることが示唆された。外乱に対するEMG反応はどちらの方向の外乱後にも生じたことから,外乱に対するEMG反応には筋伸張以外の感覚(たとえば皮膚感覚)も関与すると考えられた。予測なし外乱では反応前期皮質脊髄興奮性は有意な変化を認めなかったことから,外乱予測なしでは反応前期皮質脊髄興奮性は増大しないと考えられた。タイミング予測により伸展外乱時においてのみ反応前期皮質脊髄興奮性が増大したことは,タイミング予測は筋伸張を予測できないにもかかわらず伸展外乱反応前期のみで皮質脊髄興奮性増大に作用することを示唆する。したがって,タイミング予測による反応前期皮質脊髄興奮性増大には筋伸張求心性インパルスが関与すると考えられた。これに対して外乱方向予測の場合,外乱による筋伸張を事前に予測できることから,伸展外乱による皮質脊髄興奮性増大への筋伸張求心性インパルス関与は結論できなかった。【理学療法学研究としての意義】理学療法対象疾患において外乱に対する運動制御が困難な患者は少なくない。本研究は,外乱方向やタイミング予測の影響を考慮した効果的な理学療法アプローチの開発に資するものである。
  • 中川 浩, 二宮 太平, 高田 昌彦, 山下 俊英
    セッションID: 0006
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】物をつかむなどの手指巧緻動作は,自立した日常生活活動を行ううえで重要な要素のひとつであり,その動きは主に皮質脊髄路によって制御されている。そのため,皮質脊髄路の損傷を引き起こす脊髄損傷においては,どの髄節で損傷されたかがその後の日常生活活動に大きな影響をおよぼす。損傷レベルと可能な日常生活活動の関係については,追跡研究よりその関係性は示されているが,手指機能改善に焦点をあてた報告はほとんどみられない。また,外傷を起因とすることが多い脊髄損傷では,外傷の程度や範囲が異なることが想定され,損傷レベルと運動機能の関係性を正確に関連付けることは難しい。そこで,本研究はサル脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復に焦点をあてた。また,手指屈筋由来の運動ニューロン分布と運動機能回復を解析することで,手指機能回復に必要な解剖学的知見を明らかにすることを目的とした。【方法】対象はマカクザル(年齢:4歳,4歳,4歳,11歳,体重:4.1 kg,4.3 kg,4.9kg,5.1 kg)とした。脊髄損傷は,深麻酔下にて各種モニタリング(心電図,血圧,SpO2,呼吸数,体温)のもと,それぞれ右頸髄5/6,6/7,7/8間の片側2/3切断モデルを作成した。行動学的解析には上肢・手指機能の量的評価であるBrinkman board testとReaching testを,質的評価としてReaching test時の精密把持(Precision grip)の割合(%)を用いた。評価は損傷後3,5,7,10,14日目とその後各2回/週に行った。手指屈筋由来の運動ニューロンの同定は,逆行性トレーサー(Wheat Germ Agglutinin-Horseradish Peroxidase:WGA-HRP)を右長母指屈筋,深指屈筋に注入して脊髄レベルで可視化した。皮質脊髄路の可視化は,順行性トレーサー(Biotinylated dextran amine:BDA)を左一次運動野に注入して行った。【倫理的配慮】本研究はNational Institutes of Health(NIH)のガイドラインに沿い,京都大学霊長類研究所の倫理規定に基づいて行われた。【結果】Brinkman board testでは,自然経過にともなう機能回復率はC5/6,C6/7,C7/8それぞれ0%,11%,84%であった。Reaching test(縦・横)では,それぞれ0.6%・0.6%,49%・22%,96%・100%であった。質的評価であるPrecision gripの割合(縦・横)は,0%・0%,0%・0%,17%・86%であった。手指屈筋由来の運動ニューロンは,C6,C7,C8・T1に限局して分布しており,その割合はそれぞれ11.2%,49.0%,39.8%であった。【考察】行動学的解析の結果より脊髄損傷後の自然回復では,C7/8損傷より上位で損傷を受けてしまうと,手指機能改善による巧緻動作の再獲得が困難になることが考えられた。手指屈筋由来の運動ニューロン分布から,手指の屈曲動作は主にC6-CT1領域によって行われていることが考えられた。しかし,C5/6損傷でもわずかではあるが機能回復がみられた。我々は,これまでサル脊髄損傷後の自然回復過程において皮質脊髄路が損傷部位を越えて運動ニューロンとシナプスを形成し運動機能回復につながることをつきとめている。これらのことより,皮質脊髄路の神経回路網再形成によって損傷レベル以下の機能回復がもたらされる可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】脊髄損傷レベルの違いによる手指機能回復過程と手指屈筋由来の運動ニューロン分布を同定することができた。これらの結果は,脊髄損傷後であっても損傷レベル以下の機能回復を念頭においた理学療法プログラム構築に結びつくものと考える。
  • 野口 泰司, 濱川 みちる, 玉越 敬悟, 高松 泰行, 戸田 拓弥, 加藤 寛聡, 早稲田 雄也, 赤塚 慎也, 豊國 伸哉, 石田 和人
    セッションID: 0007
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳梗塞の後遺症に苦しむ患者数の増大から,脳梗塞の予防的介入が重要視されている。動物実験では,脳梗塞発症前に一定期間運動を行うことで,脳梗塞後の運動機能障害が軽減し,脳梗塞体積も減少するという報告がなされている(Wang RY. et al., 2001)。この作用機序について,我々の研究室では脳梗塞の二次的傷害の主要な要因である酸化ストレスに着目し,脳梗塞発症前に運動を行うことで酸化ストレス産物(8-OHdG,4-HNE修飾タンパク)の生成が軽減されることを報告し,酸化ストレス抑制の関連を示唆した(Hamakawa M. et al., 2013)。しかし,この酸化ストレス抑制の機序は明らかになっていない。そこで,本研究では脳内の主要な抗酸化ストレス物質の1つであるsuperoxide dismutase(SOD)に着目し,事前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序を検討することを目的とする。【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(5週齢)を用いた。無作為にSham群(n=6),運動+sham群(n=6),脳梗塞群(n=8),運動+脳梗塞群(n=12)の4群に分け,運動+sham群と運動+脳梗塞群は3週間のトレッドミル運動(15m/min,30分/日)を毎日行った。Sham群と脳梗塞群は走行させずにトレッドミル装置内に曝露させた。3週間後,脳梗塞群と運動+脳梗塞群に対し,小泉法により90分間左中大脳動脈を閉塞することで脳梗塞モデル作成手術を施した。手術24時間後に,感覚-運動機能に関し,麻痺の重症度の評価としてneurological deficits(ND)を,前肢の感覚運動機能の評価としてlimb placing test(LP)を,前肢の協調運動機能の評価としてladder testを,歩行時のバランス能力の評価としてbeam walking test(BW)を行った。その直後に脳梗塞周囲の大脳皮質感覚運動野を採取し,SOD-Assay kit-WST(同仁化学研究所)を用いてSOD活性を測定した。また,SODの遺伝子発現について,real-time PCR法によりSOD1(Cu,Zn-SOD),SOD2(Mn-SOD),SOD3(EC-SOD)のmRNA発現量を定量化した。統計学的解析はSPSS ver. 16.0を用い,感覚-運動機能評価に関しND,LP,BWについてはMann-Whitney U testを,ladder testについてはStudent’s t-testを行った。また,SOD活性,SOD1,2,3の遺伝子発現については一元配置分散分析にて比較し,事後検定としてTukey’s testを行った。統計学的検定における有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究における前処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。【結果】運動+脳梗塞群は脳梗塞群に比べて,ND,LP,ladder testにおいて有意に障害が軽度であった(p<0.05)。一方でBWでは群間に有意差は認められなかった。またSOD活性は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。さらにSOD1は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に発現が高かった(p<0.05)。SOD2,3は群間に有意差は認められなかった。【考察】脳梗塞モデル作成前に3週間のトレッドミル運動を行うことで,脳梗塞後の感覚-運動機能障害が軽減することが示された。またSOD活性およびSOD1発現量の増加が示された。これらの結果より,事前に運動を行うことは,脳梗塞時のSOD発現,活性が促進され,虚血/再灌流により生じる大量の活性酸素を迅速に消去し,酸化ストレスを抑制する作用があると考えられる。よって,脳梗塞発症前の運動が及ぼす障害軽減効果には,SODの抗酸化ストレス能に伴う神経保護作用が関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序の一端を分子生物学的に示した。これらの結果は,脳梗塞の予防として推奨されている運動の効果を科学的に検討し,予防医療分野における理学療法のさらなる発展に寄与するものと考える。
  • 石田 章真, 石田 和人, 伊佐 正, 飛田 秀樹
    セッションID: 0008
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】麻痺肢に対する積極的なリハビリテーションは,使用に伴う中枢神経系の可塑的変化を惹起し,運動機能回復を促進すると考えられている。これまでに我々は内包出血モデルラットを用いて,麻痺側前肢の集中的使用が中枢神経系に及ぼす効果について検討を行っており,その結果出血側の運動野領域で栄養因子発現の増加や体部位表現マップの拡大などの変化が導出されることを見出した。そこで本研究では,麻痺肢集中使用がどのようなマクロ構造の変化を惹起したかを確認するため,同様のモデルを用いて運動野からの軸索投射を解析した。【方法】実験動物にはWistar系雄ラット(250-300 g)を用いた。脳出血手術として,利き手と対側の内包にcollagenase(type-IV,15 units/ml,1.4 ul)を注入し出血を生じさせた。出血後1-8日目にラットの非麻痺側前肢をギプス包帯にて拘束し麻痺側前肢のみを使用させた。出血後12日および26日目に運動機能評価(リーチ・ステップ機能)を行った。並行して出血の5日前および1,10,24日後に皮質内微小電流刺激法にて出血側運動野のマッピングを行った。出血後42日目にマッピングにより規定された吻側運動野および尾側運動野にbiotin dextran amine(BDA,10%,0.5 ul)を注入し,3週後に組織学的解析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究における全処置は大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程に従って実施した。【結果】内包出血1日後の時点で麻痺肢に重篤な運動麻痺が生じ,運動野における前肢領域の消失を確認した。出血群(n=6)では,術後10,24日目とも尾側運動野の比較的狭い範囲において前肢領域の再出現を確認した。それに対し集中使用群(n=6)では出血のみの群に比して吻側・尾側運動野においてより広範な前肢領域の出現が確認された。前肢運動機能に関しても,集中使用群では出血群に比して良好な改善を認めた。また,これらの前肢領域にmuscimol(1 uM,1 ul)を投与することで運動機能が再度低下することを確認した。同領域にBDAを注入した結果,出血群・集中使用群とも脊髄への投射は殆ど途絶したままであったが,集中使用群では赤核大細胞部への豊富な投射を確認した。【考察】以上の結果から,内包出血後の麻痺肢集中使用は出血側運動野における前肢体部位表現マップを拡大していること,また同領域からは赤核への軸索投射が豊富に確認できることが示された。また,この再編により前肢機能回復が促進されていることが示唆された。これらの結果は,麻痺肢の集中的な使用に伴い,皮質から赤核を介した下行性投射路が活用されるようになったことを示すと推測する。【理学療法学研究としての意義】損傷後の運動野において電気生理学的手法およい組織学的手法を用い,再編過程を同一個体で縦断的に解析し,行動の変化と関連付けた。一連の研究成果は上肢運動麻痺に対するリハビリテーションが及ぼしうる影響の理解において重要な知見である考える。
  • 玉越 敬悟, 高松 康行, 野口 泰司, 戸田 拓哉, 早稲田 雄也, 加藤 寛聡, 石田 和人
    セッションID: 0009
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中後の運動療法は,中枢神経系の可塑的変化を引き起こし,運動機能の改善を導くことが知られている。また,運動療法の種類により運動機能改善および中枢神経系の可塑的変化に違いがあることが知られている。脳卒中モデルラットに対するスキルトレーニングは,単純動作の反復運動より麻痺側の運動機能回復および中枢神経系の可塑的変化を促進することが報告されている。しかし,脳出血後の両運動の効果の違いについて検討した報告はなく,中枢神経系における可塑的変化の具体的メカニズムは不明な点が多い。本研究の目的は,脳出血モデルラットを用いて,スキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能および組織傷害に与える影響の違いについて検討した。【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(250~270 g)を用いた。対象を無作為に非運動群(ICH群:n=8),スキルトレーニング群(ICH+AT群:n=6)およびトレッドミル走行群(ICH+TR群:n=6)の3群に分けた。脳出血モデルは,深麻酔下にて,頭頂部の皮膚を切開し,頭蓋骨表面のブレグマから左外側3.0 mm,前方0.2 mmの位置に小穴をあけ,マイクロインジェクションポンプにつないだカニューレを頭蓋骨表面から6.0 mmの深さまで挿入し,コラゲナーゼ(200 U/ml,1.2 ul)を注入して作製した。ICH+AT群には,全身の協調運動,運動学習が必要な訓練としてアクロバットトレーニングを実施させた。トレーニング内容は,格子台,縄梯子,綱渡り,平行棒,障壁の5課題で各コース長1 m移動させた。このトレーニングは,術後4~28日まで,1日4回実施した。ただし,術後4~6日のトレーニングには必要最低限の補助を加えた。ICH+TR群は,トレッドミル走行を術後4~28日まで実施した。トレッドミル走行条件は,前述のアクロバティック課題の総距離(20 m)と遂行時間に合わせて,術後7~8日目までを5 m/分で4分間,術後9~10日目までを8 m/分で2分30秒,術後11~28日目までを13 m/分で1分10秒とした。運動機能評価には,motor deficit score(MDS)(自発回転,前肢把握,角材歩行,後肢反射の4項目を0点(正常)~3点(重度)で点数化)と後肢の協調性評価としてbeam walking test(角材歩行中の後肢の使い方を7段階で評価)を経時的に実施した。beam walking testは,幅の広い(幅2.5cm;wide beam walking test)角材と幅の狭い(幅1.0cm;narrow beam walking test)角材の上を歩かせて行動評価を行なった。narrow beam walking testはwide beam walking testより課題の難度が高く,より高度な協調運動を評価することができる。運動機能の評価日は手術後1,3,7,11,14,21,28日目に実施した。組織学的評価には,脳出血後29日目に切片を作成してヘマトキシリン・エオジン染色を施し,脳出血後のスキルトレーニングが脳出血後の傷害と二次的変性による大脳皮質の萎縮に与える影響を調べるために組織損失体積および大脳皮質の厚さを画像解析ソフトウェアで解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:22-027)。【結果】運動機能評価は,MDS,wide beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して11,14日目に有意な回復を示し(P<0.05),narrow beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して28日目に有意な回復を示した(P<0.05)。組織学的解析から,組織損失体積と大脳皮質の厚さには全群間に有意差はなかった。【考察】脳出血後のスキルトレーニングは同運動量のトレッドミル走行運動よりも運動機能の回復促進効果があることが分かった。このことから,脳出血後の運動機能障害に対して,強制的な単純課題より,運動学習を取り入れたトレーニングの方が,同運動量で効率的な回復効果を得ることができると考えられる。この両者の運動課題は共に,組織傷害への影響は見られなかったことから,スキルトレーニングでより回復効果が認められたことについては神経可塑性が関与している可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は脳出血後のより効果的な運動療法を検討するために,同運動量のスキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能障害に与える影響について比較検討した。スキルトレーニングとトレッドミル走行運動の更なる作用機序を解明することで効率的かつ効果的な治療法として理学療法に貢献できると考えられる。
  • 上 勝也, 田口 聖, 仙波 恵美子
    セッションID: 0010
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】神経障害性疼痛はアロディニアや痛覚過敏を主症状とし,その治療方法が十分に確立されていない難治性の痛みである。最近,走運動や水泳運動が神経障害性疼痛モデル動物に出現する機械的アロディニアと熱痛覚過敏を軽減することが報告された。しかし運動が神経障害性疼痛を軽減するメカニズムの詳細は不明である。遺伝子発現のエピジェネティクス修飾の一つにヒストンのアセチル化があり,この過程はヒストンアセチル化酵素とヒストン脱アセチル化酵素(HDACs)により制御されている。脊髄後角でのHDACの変化と痛みとの関係が注目されている。例えば神経障害性疼痛モデル動物の脊髄後角へのHDAC阻害薬の注入は,痛覚過敏とアロディニアを軽減することや脊髄後角におけるHDAC1発現の抑制は神経障害性疼痛を緩和することが報告された。これらの結果は,HDACは脊髄において疼痛の発現に関与することを示唆している。本研究の目的は,マウスの脊髄後角においてHDACを発現している細胞タイプを特徴づけ,神経障害性疼痛に対する応答を検討し,PSL後の走運動がHDACに及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】実験動物にはC57BL/6Jマウスを使用し,神経障害性疼痛は坐骨神経部分損傷(PSL)により誘導した。マウスの走運動は,中等度強度のトレッドミル走(12m/minの走速度で60分間の走運動)をPSL術前2週間およびPSL術後2日目から6日目までマウスに負荷した。走運動を行なったマウスはPSL術後7日目に潅流固定し脊髄を摘出して分析に供した。対照としてPSLだけを施し走運動を負荷しない「コントロール群」とPSLも走運動も行わない「ナイーブ群」も設けた。機械的アロディニアと熱痛覚過敏の程度は,「von Freyテスト」と「Plantarテスト」により評価した。脊髄後角におけるミクログリア,アストロサイト,HDAC1などの変化は免疫組織染色とそのイメージ分析により観察した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての動物実験は和歌山県立医科大学動物実験規程を遵守し,動物の個体数や苦痛は最小限にとどめて行なった。本実験は和歌山県立医科大学動物実験委員会の承認のもとで行った(承認番号:642)【結果】アロディニアの発現に走運動が影響を及ぼすかどうかについてvon Freyテストにより検討した。コントロール群の閾値は低値を維持したが,走運動群ではアロディニアの軽減が観察された。次にナイーブ群,コントロール群,走運動群の脊髄をCD11b抗体で免疫染色し,後角表層に出現したミクログリア数を各群で比較したところ,コントロール群のミクログリア数は有意に増加したが,それらと走運動群のミクログリア数には著しい相違はなかった。PSL7日後の脊髄後角においてHDAC1を発現している細胞タイプを免疫染色により検討した。HDAC1陽性核はCD11b陽性ミクログリアとGFAP陽性アストロサイトに検出されたが,NeuN陽性ニューロンには認められなかった。さらにHDAC1陽性ミクログリアとアストロサイト数は,ナイーブ群と比較してPSLにより有意に増加した。ミクログリアにおけるHDAC1の発現が走運動により影響を受けるかについて見たところ,PSLによって3×104μm2当たり約16個に増加したHDAC1陽性ミクログリア数は,走運動により約7.4個と有意に減少した。【考察】走運動は吻側延髄腹内側部や中脳水道周辺灰白質におけるオピオイド含量を増やしたり,損傷坐骨神経での炎症性サイトカインを減少させることが報告されており,運動による疼痛の軽減にはこれらが重要な役割を演じると考えられている。一方,脊髄後角ミクログリアやアストロサイトで合成・放出された因子も疼痛の発現や維持に重要な役割を担うが,脊髄後角ミクログリアでの変化,とくにエピジェネティクスに関わる因子に着目して運動が疼痛を軽減するメカニズムの解明に取り組んだ研究はこれまでに見られない。本研究は脊髄後角ミクログリアにおけるHDAC1を介したヒストンあるいは標的因子の脱アセチル化は神経障害性疼痛の発現に重要な役割を担うこと,および脊髄後角ミクログリアにおけるHDAC1発現の抑制は中等度強度の走運動がもたらす疼痛軽減効果のメカニズムの一つとなる可能性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】薬物に拠らないで疼痛を軽減できる方法のひとつが運動であるが,そのメカニズムの詳細は不明である。本研究は脊髄後角ミクログリアで誘導されるエピジェネティクス修飾の変化に基づき,走運動が神経障害性疼痛を軽減するメカニズムを解明しようとするものであり,理学療法研究として意義深いものである。
  • ―麻痺側・非麻痺側の比較―
    玉村 悠介, 林 義孝, 新田 勉, 松浦 道子, 吉川 創, 糸田 昌隆, 田中 信之
    セッションID: 0011
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者において誤嚥による肺炎は,リハビリテーション対象者を含め,生命維持に影響を与えることから,予防が極めて重要であり,その予防手段の1つに,気道の異物を除去する咳嗽がある。咳嗽のメカニズムは4相に分かれており,第1相は咳の誘発,第2相は深い吸気,声門の閉鎖,第3相で胸腔内圧を上昇させ,第4相で声門を開き肺内の空気を一気に呼出させる。第3~4相にかけて,体幹筋力が必要であり,先行研究でも効果的な咳嗽を行うためは体幹筋力が重要とされている。しかし,脳卒中片麻痺により,麻痺側体幹筋力の低下をきたす症例では,効果的な咳嗽が困難であると予測されている。そこで,脳卒中片麻痺患者が随意的な咳嗽を行った際の麻痺側,非麻痺側の体幹筋活動を計測し,これらを比較,検討することを目的とした。【方法】対象は,当院に入院中の脳卒中片麻痺患者10名(男性5名,女性5名),平均年齢は63.2±9.4歳であった。体幹筋活動の測定は,表面筋電図(ノラクソン社,マイオリサーチXP)を使用し,対象筋群は腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋とした。電極貼着位置は,腹直筋が臍の2cm外側,外腹斜筋が第8肋骨外側下,内腹斜筋が上前腸骨棘を結んだ線の約2cm下方とし,それぞれ筋線維走行に沿って貼着した。また,麻痺側,非麻痺側を比較できるよう,左右両側に貼着し計測した。測定肢位は車椅子座位及び椅子座位とし,最大吸気位から思いっきり咳嗽を行った際の筋活動を測定した。始めにMMT測定姿勢に準じた体幹屈曲で最大随意収縮を行い,その際の各筋活動の筋積分値を正規化のための基準値とした。そして,咳嗽時の筋活動を記録し,体幹屈曲時の筋活動に対する百分率(以下%iEMG)として評価を行った。麻痺側,非麻痺側の筋活動は対応のあるt検定を用いて比較し,各々の有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて紙面にて説明し,同意の署名を得た後に実施した。また,事前にわかくさ竜間リハビリテーション病院および武庫川女子大学大学院の倫理委員会の承認を得た。【結果】腹直筋の%iEMGは非麻痺側が14±0.06,麻痺側が14±0.04,外腹斜筋の%iEMGは非麻痺側が63±0.54,麻痺側が53±0.43,内腹斜筋の%iEMGは非麻痺側が30±0.14,麻痺側が22±0.11であった。t検定の結果,内腹斜筋において非麻痺側の筋活動が麻痺側に比べ有意に高かった(p<0.05)。【考察】咳嗽の第4相では,胸腔内圧が非常に高いレベルに達した後に横隔膜の弛緩と声門が突然に開き,呼気筋群の強い収縮によって,腹腔内圧が胸腔内圧よりも高くなるため,横隔膜は押し上げられ爆発的な呼気(咳嗽)が起こるとされており,咳嗽には腹筋群と横隔膜が交互にはたらくことが必要とされている。しかし,脳卒中片麻痺患者では,麻痺側横隔膜運動の低下や,腹筋群の低緊張が咳嗽力を低下させる要因と報告されている。また,脳卒中片麻痺患者では,体幹が麻痺側に傾斜した座位姿勢をとる症例が多く,左右非対称の胸郭アライメントが麻痺側腹筋群の筋長を変化させ,長さ-張力曲線の影響から麻痺側体幹筋活動を低下させることが推察される。咳嗽における筋活動について,先行研究より咳嗽時の腹筋群の活動として,腹直筋よりも内外腹斜筋の活動が高く,腹直筋の活動は低いと報告されている。今回の研究でも腹直筋が最も麻痺側,非麻痺側との差は少なく,内腹斜筋において有意な差が認められた。これらのことから,脳卒中片麻痺患者の咳嗽力の低下には,麻痺側内腹斜筋の筋活動の低下も要因となっている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,脳卒中片麻痺患者において麻痺側体幹筋活動の向上を図ることは,咳嗽力の向上につながり,誤嚥性肺炎の予防にも効果的である可能性が示唆された。今後は,従来の「息を吹く」などの呼吸筋トレーニングに加え,背臥位での体幹屈曲,回旋運動や寝返り動作練習など,麻痺側腹筋群の筋活動を向上させる運動療法の展開を図ることが必要と考える。
  • 森田 真一, 吉岡 豊城, 水野 稔基, 増田 崇, 田平 一行
    セッションID: 0012
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】神経筋疾患,脊髄損傷,術後血行動態不安定を有する患者では,病状の進行とともに自己での体位変換が困難となり,褥瘡の発生リスクが高くなる。そのような患者には,一般的にエアマットレスの使用が推奨されている。一方,自分で体位変換が困難な患者は,無気肺・肺炎など呼吸器合併症の発生リスクも高くなる。呼吸器合併症の予防には早期離床・深呼吸・有効な咳嗽が必要であるが,臨床上,柔らかいマットレスでは体動が不安定となり,咳嗽練習,呼吸筋トレーニングに難渋する印象がある。そこで今回我々は,マットレスの硬さ(体圧分散能)が咳嗽力に及ぼす影響について検討した。【方法】健常成人28名(男性14名,女性14名,年齢27.8±5.2歳)を対象とした。対象はランダムに硬さを設定した3種類のマットレス(標準マットレス:N,エアマットレス設定Hard:エアH,設定Soft:エアS)で背臥位をとり,咳嗽力(咳嗽時最大咳流量:CPF),肺機能(努力性肺活量:FVC,一秒量:FEV1.0),呼吸筋力(最大呼気圧:MEP,最大吸気圧:MIP)を測定した。また,体圧分散能とは接触面積を拡げ体圧値を減少させることをさし,今回3種類のマットレスで接触面積と平均体圧値を測定し,平均体圧値を体圧分散能の指標とした。使用機器は,エアマットレスOSCAR(モルテン)を用い,咳嗽力・呼吸機能測定は,スパイロメーター(MICROSPIRO HI-801:NIHON KOHDEN),呼吸筋力測定は,呼吸筋力計(VITAL POWER KH101)を使用した。体圧分布測定には,体圧分布計(NITTA BIG-MAT VIRTUAL)を用いた。統計解析は,3種類のマットレス間での比較にボンフェローニ法を用いた。また3種類のマットレス間で有意差を認めた咳嗽力,肺機能,呼吸筋力の項目については,マットレスの硬さとの関係性を調査するため,平均体圧値との相関分析を行った。その関係性を調査するためには群間における変化率を求める必要があり,最も硬いと予測されるNを基準として最も柔らかいと予測されるエアSとの変化率(%)を求め,変化率同士でピアソンの相関分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には口頭および書面にて本研究の目的や方法,リスク等を十分に説明し承諾を得た。また,本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】体圧分散能は低い順(平均体圧値は高い順)に,N,エアH,エアSで全てに有意差を認めた。CPFとMEPは,エアSがN(p<0.05),エアH(p<0.01)に比べ有意に低かったが,N,エアH間には差を認めなかった。MIP・FVC・FEV1.0は,いずれも3群間で有意差を認めなかった。今回,CPFとMEPに有意差を認めたことから,マットレスの硬さとの関係性では,平均体圧値とCPF(r=0.46,p<0.05),MEP(r=0.41,p<0.05)の変化率同士にそれぞれ相関を認めた。またCPFとMEPの関係性を調査するため相関分析を行った結果,CPFとMEPにおいてもNを基準としたとエアSとの変化率(r=0.58,p<0.01)に相関を認めた。【考察】エアSのみ有意にCPFとMEPの低下がみられ,その他の指標はマットレス間で有意差を認めなかった。またNを基準としたエアSとの変化率の結果から,CPFとMEPは体圧分散能の影響を受けることが示唆された。一般的に,咳嗽のメカニズムでは,第2相(吸気相)で肺活量,第4相(呼気相)では呼気筋力が必要とされる。今回,FVCに変化を認めず,MEPに変化を認めたことから,CPFの低下はMEPの低下に起因していることが考えられた。MEPの主動作筋である体幹深層筋(腹横筋・内腹斜筋)は,咳嗽時には呼気筋と同時に姿勢の安定としても働く。不安定なマットレス上ではこれら体幹深層筋の姿勢の安定作用が大きくなるため,CPF,MEPの呼気筋としての効率を低下させたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】エアマットレス上で,咳嗽および呼気筋力トレーニングを行う際は,接触面からの体圧の影響を受けるため,マットレスの硬さを硬く設定する必要がある。しかし,エアH以上の硬さであれば,必ずしも硬すぎる環境を選択する必要はない。ベッド上背臥位を強いられる患者は,病状の進行や廃用による二次的障害から,健常成人に比べ環境因子の影響を強く受けるものと考える。そのため,我々が臨床場面で行う咳嗽練習や呼気筋力トレーニングでは,マットレスの硬さを考慮すべきであり,咳嗽力や呼気筋力を高めるための一助になりうるものと考える。
  • ~咳嗽時最大呼気流量,咳嗽加速度に着目して~
    赤壁 知哉, 井上 裕水, 田平 一行
    セッションID: 0013
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】機械的咳介助(mechanically assisted coughing:MAC)は自己喀痰困難者に対し,気道分泌物を除去する目的で咳嗽の補強や代用として使用される。本邦では平成22年度より神経筋疾患患者を対象に医療保健適応となり,平成24年度には脊髄損傷や脳性麻痺患者等にも使用でき対象疾患が拡大されている。短時間で疲労や痛みが少なく効果的に排痰できる一方,気胸や不整脈などの副作用を引き起こす可能性があり,リスク管理が重要である。これまで使用報告は多くされてきたが,圧変化による換気力学的指標の報告は皆無であり,明らかとなっていない。今回,我々は機械的咳介助装置の圧変化が咳嗽力の指標となる咳嗽時最大呼吸流量(cough peak flow:CPF)や咳嗽加速度(cough volume acceleration:CVA)へ及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は喫煙歴のない健常成人男性10名(平均年齢23.9±2.9歳,身長1.70±0.04,体重61.4±6.8)とし,事前に肺機能検査,最大努力時の随意咳嗽を測定した。機械的咳介助装置としてはカフアシスト(フィリップス・レスピロニクス合同会社製)を使用し,フロートランスデューサー,圧トランスデューサー取り付け,フェイスマスクを介して実施した。測定肢位は端座位とし,被験者には声帯を開いた状態を維持するように指示した。機器の設定は吸気・呼気時間1秒,休止ポーズ1秒とし,吸気圧・呼気圧を4段階(±10cmH2O,±20cmH2O,±30cmH2O,±40cmH2O)に変化させ,各5サイクル行い,得られたデータはA/Dコンバータ(Power Lab 16/35,Model PL3516:ADInstruments)を介してパーソナルコンピュータに取り込んだ。各設定圧の最も高いCPFを測定値とし,呼気上昇時間,CVA,吸気量,呼出量,吸気圧,呼気圧を算出した。各測定項目の設定圧間の比較には一元配置分散分析を用いて実施し,多重比較にはTurkey-Kramer法を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。【結果】CPF,CVA,呼出量,吸気圧,呼気圧は全ての設定圧間で有意差を認めたが,呼気上昇時間においてはいずれも有意差は認めなかった。また,吸気量においては±30cmH2Oと±40cmH2O間でのみ有意差を認めなかった。喀痰にはCPFが160L/min以上必要とされるが,今回の結果からは±20cmH2Oの圧で達成できた。また,最大努力時の随意咳嗽と±40cmH2O時の咳嗽を比較すると,CPFは58%,CVAは89%,呼気上昇時間は48%であった。【考察】Bachらによると喀痰には最低でも160L/min以上のCPFが必要とされる。今回の結果から咳嗽不可となった場合でも±20cmH2O以上の圧設定により喀痰可能なCPFが生成できると考えられた。また,一般的に呼気圧・吸気圧は同様の設定で使用されることが多いが,吸気量に関しては30cmH2Oと40cmH2Oでは有意差は認めなかった。これは,高肺気量位では肺コンプライアンスは低くなることが関連していると考えられ,30cmH2O以上の吸気圧は負担が大きい割には有効な吸気量が得られないものと推測された。また,呼気上昇時間は咳嗽時の声帯機能を表すと報告されており,機械的咳嗽装置は随意咳嗽よりも著明に呼気上昇時間を短縮しており,咳嗽時の声帯機能を十分に代用出来ていると考えられた。本研究の限界として,今回の結果は健常成人で行っているため,実際に使用する患者よりも肺・胸郭のコンプライアンスや気道抵抗は良く,呼気流量が出やすかったことが考えられる。そのため実際は症例ごとに応じた設定が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】これまで機械的咳介助は在宅や臨床現場で使用されているが,呼気・吸気圧設定に関しては一様となっていることが多く,設定変更に関しても経験的なところが多い。本研究の結果は圧設定と換気力学的指標の関係性が示され,臨床現場において圧設定の指標の一助となると考えられる。
  • 田平 一行, 赤壁 知哉, 井上 裕水
    セッションID: 0014
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】前回我々は,肺活量,胸腔内圧,気道抵抗,声帯機能を設定することで咳嗽時流量波形のシミュレーションの可能性について本学会で報告した。しかし気道抵抗や胸腔内圧は予測値を用いているため,これらが精度に影響している。気道抵抗の測定は通常安静呼吸時であり,肺気量や胸腔内圧が大きく変動する咳嗽時の変化は明らかにされていない。そこで今回,食道バルーンを用いて胸腔内圧,気道抵抗を測定し,呼気流量への影響について検討した。更に,咳嗽時流量波形のシミュレーションにも応用したので報告する。【方法】気道内の気流は,生理学でも電気回路に例えられ,気道の圧力差=気流×気道抵抗というオームの法則が適用できる。気流発生時の気道内圧は直接測定できないが,肺弾性圧と食道(胸腔)内圧の和で表され,肺弾性圧は,肺コンプライアンスから算出可能である。そこで本研究では,肺コンプライアンスの測定後,咳嗽時の気道抵抗・胸腔内圧を測定した。また,シミュレーションのパラメータとして安静時の気道抵抗,最大呼気筋力(PEmax)を測定した。尚シミュレーションのモデルは,咳嗽時に気道内圧と胸腔内圧が等しくなる点(等圧点)の上流(肺胞側)に注目し,電気回路におけるコンデンサの放電モデルを用いた。肺コンプライアンスの測定被験者は健常若年男性1名で,被験者に食道バルーンを鼻から挿入し,マウスピースを加えさせ,最大吸気位からゆっくりと呼気を行わせた。この時約500ml呼出する毎に気道を閉塞させ,口腔(気道)内圧と食道(胸腔)内圧を測定した。呼気量と(口腔内圧-胸腔内圧)の変化の関係から肺コンプライアンスを算出した。咳嗽時の胸腔内圧および気道抵抗の測定被験者に残気量位より各吸気位(最大吸気,4L,3L,2L,1L)から咳嗽を行わせた。この間,胸腔内圧および流量,肺気量を測定し,全気道抵抗=(胸腔内圧+肺弾性圧)/流量より咳嗽時全気道抵抗(Rcough)を算出した。また等圧点より上流の抵抗(Rus=肺弾性圧/流量)も算出した。尚,肺弾性圧は肺気量を肺コンプライアンスで除して求めた。安静時気道抵抗(Rrest)の測定は,安静呼吸を5回中の平均気道抵抗とした。最大呼気筋力は,最大吸気位より最大努力の呼気を行わせ,その際の口腔内圧をPEmaxとした。解析方法Rcough,RusはRrestとの比率を,胸腔内圧は最大呼気圧との比率を求めた。各肺気量位における咳嗽時の各種パラメータの変化を視覚的に解析した。これらの結果を基に,PEmax,Rrestを用いた胸腔内圧,気道抵抗の近似式を作成し,流量波形のシミュレーションを行った。【説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。【結果】胸腔内圧の変化:流量出現の約100ms前より上昇し,最大値はPEmaxの80%程度で,PEmax測定時の胸腔内圧と同程度であった。肺気量位別では1L吸気時はやや低下していたが,その他は最大吸気と同程度であった。気道抵抗の変化:いずれの肺気量位でもRcough,Rus共に,咳嗽開始時は∞であり,終了時RcoughはRrestの4~5倍程度にRusは約90%に収束していた。また,終了時のRusはRcoughの約20%に収束していた。咳嗽時流量は,最大吸気4L,3L,2L,1Lの順に高かった。流量波形のシミュレーション:良好な流量シミュレーション波形が得られたが,1L吸気ではやや高めの波形となった。【考察】咳嗽時の胸腔内圧は,吸気量を変化させてもほぼPEmaxの80%となる事が確認できた。咳嗽時の気道抵抗は,いずれの肺気量位でも安静時の4~5倍に増加していた。これは,咳嗽時の胸腔内圧の上昇によって等圧点より下流(口側)の気道が狭窄する影響と考えられた。吸気量を変えても胸腔内圧,気道抵抗の変化が小さいことから,気流量の変化は肺弾性圧の影響を受けていると考えられ,現在用いているシミュレーションのアルゴリズムを支持する結果であった。胸腔内圧および気道抵抗の変化をPEmaxを基に数式で近似したことで,流量波形のシミュレーションの精度が向上できた。今後データ数を増やし,また呼気努力を変化させた検討も加えて行く必要がある。【理学療法研究としての意義】今回の研究より咳嗽時の流量波形のシミュレーション精度が向上し,咳嗽に関わる各要因の関係性がより明確になった。標準的な流量波形のモデルが出来れば,疾患毎,個人毎の咳嗽力低下の原因を判定することが可能となり,治療方法の選択や治療効果の判定への利用が期待できる。
  • 瀬和 瑶子, 冨田 和秀, 奥野 裕佳子, 大瀬 寛高, 居村 茂幸
    セッションID: 0015
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】腹壁筋への電気刺激療法(以下,腹壁電気刺激)は,脊髄損傷患者の咳嗽を補助する目的で行われており,その有効性が報告されている(Gansen et al.,2010)。我々は,腹壁電気刺激により,換気能力の低下した患者の持続した換気補助として咳嗽補助以外にも応用できると考え基礎的研究を進めてきた(Sewa et al.,2013)。一方,呼吸機能や咳嗽力は肢位の影響を受けやすいことが報告(Badr et al.,2002)されており,臨床応用を想定した場合,姿勢の影響も考慮する必要がある。しかしながら,姿勢と腹壁電気刺激の効果に関する報告は少なく基礎的知見を得られない。本研究の目的は,腹壁筋に一定強度の低周波電気刺激を行い,ティルトアップ姿勢変化にともない呼気流速や換気量等がどの程度変化するかを検証することとした。【方法】対象は健常男性8名(20.2±0.8歳)とした。電気刺激は日本光電製Neuro pack EMB-5504を使用し,呼気流速をトリガーとして,呼気開始直後から自動的に1.5秒間の電気刺激が出力するように設定した。電極は,縦14cm×横4cmを使用し,下位肋骨から2~3cm下方に,臍を挟んで横に貼付した。電気刺激強度は70mA(予備実験により被験者全員が耐えられる最大の強度)とした。電気刺激条件は,周波数50Hz,パルス幅200μsの双極性矩形波とした。測定肢位はティルトテーブルに背臥位となり,0,30,60,90度とした。呼気流速はフェイスマスクに取り付けた差圧トランスデューサーを介してアンプで増幅し,換気量は呼気流速を積分することで算出した。測定項目は最高呼気流速(PEF),平均呼気流速(MEF),一回換気量(TV)とし,測定は各肢位で電気刺激なし(以下,off)で3分間計測した後に電気刺激あり(以下,on)で2分間計測した。呼吸が安定した後半1分間に得られた波形を解析対象とした。統計学的検定は各肢位でのoff,onの比較には対応のあるt検定,各肢位間の比較には,フリードマン検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会にて承認を得て実施した。研究対象者には書面と口頭にて,研究の目的と内容を説明し,すべての対象者において同意を得た。【結果】PEFは傾斜角度が上がるにつれ,off,on共に,統計的有意な差ではないが,増加する傾向にあった(off;0度:0.41±0.11,30度:0.44±0.11,60度:0.50±0.08,90度:0.49±0.11,on;0度:0.56±0.15,30度:0.61±0.22,60度:0.59±0.16,90度:0.64±0.16 L/s)。また,各肢位におけるon,offの比較では,60°を除く3肢位においてonで有意に高値を示した。MEFはoff:0.21-0.23 L/s,on:0.31-0.34 L/sの範囲であり,共に肢位の影響はみられなかったが,onで有意に高値を示した。TVはoffでは傾斜角度が上がるにつれて増加する傾向があったが,onでは肢位により差がなかった。(off;0度:0.56±0.11,30度:0.58±0.13,60度:0.61±0.1,90度:0.63±0.1,on;0度:0.65±0.08,30度:0.61±0.1,60度:0.60±0.14,90度:0.62±0.09L)また,各肢位におけるon,offの比較では0度で有意な増加がみられたが,他の肢位では見られなかった。【考察】PEFはonとoffの両者とも,傾斜角度の増加に伴い,増加した。一般的に体幹の傾斜角度が増加すると,換気量が増大することが知られている(Angela et al., 2005)。今回も,一回換気量の増大が見られたため,胸郭や肺の弾性収縮力の増加によりPEFが高まったと考え得る。MEFはonで有意な増加がみられたが,肢位による変化はon,off共に見られなかった。これは,呼気時間の減少がみられていたことから,電気刺激による腹圧上昇により,一気に呼気が促されたためと考えられた。このことは,ピークのみならず,呼気相で高い流速が一定して保持できていることを示している。TVはPEFと同様に,offでは傾斜角度の増加に伴い増大傾向にあった。しかし,onでは肢位による影響を受けず一定であり,特に0度での増加率が高く,一方で90度ではoffと同程度であった。これは,背臥位において,腹部の担う換気量が座位に比べて大きくなることから(Andrew et al.,1991),電気刺激での腹部圧迫による効果が大きくなると考えられた。一方で,体幹傾斜角度が増加すると,胸部が担う換気量が大きくなるため,腹壁電気刺激は換気量を増加させるほどの効果は得られなかったと思われる。【理学療法学研究としての意義】腹壁筋への電気刺激療法は,特に背臥位において,呼吸機能の低下した患者の気道クリアランスを改善させる多めの理学療法の一つになり得る可能性がある。
  • 今岡 真和, 樋口 由美, 藤堂 恵美子, 上田 哲也, 北川 智美, 石原 みさ子, 平島 賢一, 水野 稔基, 安藤 卓, 呉本 冬馬, ...
    セッションID: 0016
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】介護老人保健施設(以下:老健施設)の入所者は車椅子を使用する虚弱な者が多く入所している。この虚弱の因子としてサルコペニアが知られており移動能力の低下や転倒リスクの増大,死亡リスクの上昇との関連が報告されている。80歳以上のサルコペニア有病率は10~50%と言われているが,老健施設に多く入所する移動能力が低下した集団のサルコペニア有病率は明らかではない。サルコペニアは筋量が減少する症候群であり,運動や栄養の介入により改善することが報告され,特に栄養面ではビタミンD摂取が有効とされる。運動介入との併用による筋量の改善や,筋量の低下を予防することが報告されている。そのため,移動能力の低下した車椅子使用者(以下:車椅子群)の,サルコペニアと血中のビタミンD濃度について検討することを目的とした。【対象および方法】対象は大都市近郊の老健施設に入所する女性71名,平均年齢85.0±19.8歳とし,測定期間は2013年9月中旬とした。車椅子群と比較検討する対象は同一施設に入所する歩行可能者(以下:歩行群)とした。屋内は歩行しているが屋外は車椅子を使用している者も歩行群として取り扱った。測定項目は,サルコペニア判定の指標Skeletal Muscle Mass Index(以下:SMI)値と血液中ビタミンD濃度25(OH)Dに加え,握力,要介護度,過去1年間の転倒歴,長谷川式簡易知能評価スケール(以下:HDS-R),FIM,年齢,身長,体重,BMIとした。SMI値は生体インピーダンス法にて測定した骨格筋量から,計算式:骨格筋量(kg)/身長(m)2を行い算出した。サルコペニアの定義はアルゴリズムに従い行い,SMI値は6.75kg/m2をカットオフ値として用いた。25(OH)D測定のための採血は看護師が行った。握力測定は左右それぞれ2回測定した平均値を採用した。HDS-R,FIMは過去3カ月以内で最新のデータを採用し,要介護度,過去1年間の転倒歴,年齢,身長,体重,BMIはカルテから情報収集した。統計学的検討は歩行群と車椅子群の2群比較をχ2検定,対応のないt-検定,Mann-Whitney U検定を用いて行なった後,有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は大阪府立大学大学院研究倫理委員会の承認(承認番号2013-103)を受け実施した。この研究への参加者には書面を用いて十分説明を行い,同意を得て実施した。【結果】対象の移動様式は車椅子群42名(59.2%),歩行群29名(40.8%)であった。2群の単変量解析ではサルコペニアの有病率は車椅子群17名(41.5%),歩行群6名(21.4%)と車椅子群は有意にサルコペニアを有病していた。25(OH)Dは車椅子群11.4±3.7ng/ml,歩行群14.5±4.2ng/mlと車椅子群は有意に低下していた。過去1年間の転倒歴は車椅子群20名(47.6%),歩行群5名(17.2%)であり車椅子群は有意に転倒歴を多く有していた。握力は車椅子群7.5±4.0kg,歩行群11.2±3.5kgと車椅子群は有意に低下していた。また,FIMは車椅子群72.7±24.9点,歩行群99.9±13.5点と車椅子群は有意に低下していた。なお,その他の2群比較では有意差を認める項目はなかった。次に,移動様式を目的変数,単変量解析で有意な関連が認められた「サルコペニア」「25(OH)D」「過去1年間の転倒歴」「FIM」を説明変数とし,強制投入したロジスティック回帰分析を行った。その結果,歩行群に対して車椅子群は有意に25(OH)Dが低下(オッズ比0.70,95%信頼区間0.551-0.897),転倒歴があり(オッズ比4.74,95%信頼区間1.006-22.035),FIMが低値(オッズ比0.92,95%信頼区間0.872-0.967)であった。【考察】車椅子群では25(OH)Dの低下,転倒歴,FIMの低値が独立した因子であることが示唆され,サルコペニアは車椅子群に有意な関連因子ではなかった。血中ビタミンD濃度(25(OH)D)が低下した原因は腸管の反応性低下,皮膚産生能の低下などが推測され,ビタミンDは食事からの摂取だけでは推奨値20ng/mlを維持できないため車椅子群は栄養補助の必要性が高い集団と考えられる。車椅子群で「過去1年間の転倒歴」,「FIM得点低値」が有意な独立関連因子であったことは,これまでの先行研究と一致しており,日常生活で車椅子を使用している者は転倒予防やADL維持へ介入の必要性が高いと考えられる。【理学療法研究の意義】車椅子使用者はサルコペニアの有病率が高く,ビタミンDは不足していた。また,転倒歴のある者,ADL低下している者の割合も多い集団であり,生活環境へ介入する必要性を支持する検討となった。さらに,ビタミンD不足が歩行可能な者と比較して低下していた点から,栄養補助の必要性は高くリハビリテーション栄養という視点を十分に考慮するための知見となる。
  • fMRIを用いた検討
    西口 周, 山田 実, 谷川 貴則, 積山 薫, 川越 敏和, 吉川 左紀子, 阿部 修士, 大塚 結喜, 中井 隆介, 青山 朋樹, 坪山 ...
    セッションID: 0017
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】一般的に,加齢に伴う脳萎縮などの脳の器質的変化が,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)や軽度認知機能障害(mild cognitive impairment:MCI)の発症リスクを高めるとされている。また,ワーキングメモリ(working memory:WM)低下はADやMCIの前駆症状であり,認知機能低下と共にWMに関連する脳領域の活動性が低下すると報告されている。つまり,ADやMCIの発症を予防するためには,WM関連領域の脳活動を高め,脳萎縮を抑制することが重要であると予想されるが,脳萎縮とWMに関連する脳活動の関連性はまだ十分に検証されていない。そこで本研究では,地域在住高齢者における脳萎縮とWM課題中の脳活動との関連性を機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて明らかにすることを目的とした。【方法】対象は地域在住高齢者50名(73.5±5.2歳,男性27名,女性23名)とした。Mini-Mental State Examination(MMSE)<24点の者,重度な神経学的・整形外科的疾患の既往を有する者は除外した。全ての対象者のWM課題中のfMRI画像及び構造MRI画像は3.0TのMRI装置(シーメンス社MAGNETOM Verio)にて撮像した。WM課題としてはブロックデザインを用いて,画面上に映る点の位置がひとつ前の点の位置と一致するかを問う1-back課題と,画面上に映る点の位置が中心かどうかを問う0-back課題を交互に8ブロック行なった。また,構造MRI画像をVSRAD advanceにより処理し,対象者の脳全体における定量的な灰白質萎縮割合を算出した。統計解析は,統計処理ソフトウェアSPM8を用いてfMRIデータを処理した後,1-back課題と0-back課題のサブトラクションを行ない,WM課題中の脳活動部位を同定した。続いて,相関分析にて脳萎縮割合とWM課題中の脳活動部位の関連性を検討した。なお,WFU PickAtlasを用いて,解析範囲を前頭前野,内側側頭葉に限定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,署名にて同意を得られた者を対象とした。【結果】本研究の対象者のMMSEの平均値は,27.5±1.9点であった。WM課題において,右の海馬,海馬傍回を中心とした領域,両側の背外側前頭前皮質(Brodmann area:BA9),右の下前頭回(BA45)を中心とした領域に賦活がみられた(p<0.005,uncorrected)。また,脳萎縮割合と関連がみられたWM課題中の脳活動部位は,両側海馬及び両側の背外側前頭前皮質(BA9),右前頭極(BA10)を中心とした領域であった(p<0.005,uncorrected)。なお,これらの関連性は負の相関を示しており,脳萎縮が小さいほど上記の領域の脳活動量が大きいという関連性が認められた。【考察】本研究の結果により,脳萎縮の程度が低いほど,視空間性WM課題中の海馬,背外側前頭前皮質を中心とした領域の脳活動が高いことが示唆された。視空間性WMは前頭前野や海馬の灰白質量と関連すると報告されており,本研究はそれを支持する結果となった。海馬を含む内側側頭葉は記憶機能の中枢であり,一方,背外側前頭前皮質はWMを主とする遂行機能を担う領域とされており,双方ともにともに加齢による影響を受け,萎縮が強く進行する領域であると報告されている。つまり,これらの領域の活動が低下し萎縮が進行することが,記憶機能や遂行機能の低下を主とする認知機能低下を引き起こし,ADやMCIの発症リスクを高める要因の一つになりうると考えられる。今後は,二重課題や干渉課題といったWMの要素を取り入れた複合的な運動介入を行ない,関連領域の脳活動を高めることで,脳萎縮を抑制できるかどうかを検証していく必要があると考える。本研究は横断研究のため脳萎縮と脳活動の因果関係は不明であり,また脳の詳細な萎縮部位は同定していないことが本研究の限界であると考える。今後は,詳細かつ縦断的研究を行なうことが検討課題である。【理学療法学研究としての意義】高齢者の認知機能低下を抑制することは,近年の介護予防戦略において重要な役割を担っている。本研究の結果により,脳萎縮の程度には記憶や遂行機能に関連する領域の脳賦活が関連することが示された。本研究を発展させることで,脳萎縮や認知機能低下抑制を目的とした非薬物療法のエビデンスを構築するための一助となると考えられる。
  • 福永 裕也, 齋藤 圭介, 原田 和宏, 袴田 将弘, 香川 幸次郎
    セッションID: 0018
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】リハビリテーション専門職にとって移動能力の評価は極めて重要である。移動能力を評価する代表的指標であるRivermead Mobility Index(RMI)は,英国や米国をはじめ多くの国々で使用されている。測定対象に関しても,当初は脳卒中標本で開発されたが,脊髄損傷や下肢切断など適用範囲も広く,本邦においても一般高齢者や脳卒中患者を対象とした信頼性と妥当性の検証が行われ普及しつつある。我々は昨年度の本学会において,特に信頼性の問題から移動能力の測定方法が確立していない認知症高齢者に対するRMIの応用可能性を検討し,再現性・検査者間信頼性を支持しうることを報告した。本研究では,認知症高齢者標本におけるRMIの構成概念妥当性を構造方程式モデリング(SEM)を用い検討することを目的とした。【方法】岡山県内1ヶ所の医療施設に入院中の認知症高齢者全員121名のうち,認知症の原因疾患特定困難な者,パーキンソン病など身体機能障害を呈する疾患罹患者を除く117名(平均年齢85.1±6.4歳,男性31名,女性86名)を対象とした。診断の内訳は,アルツハイマー型89名,脳血管型20名,混合型8名であった。調査項目はRMIの他,基本属性・医学的属性,知的機能としてMini-Mental State Examination(MMSE)と柄澤式老人知能の臨床的判定基準(柄澤式),行動・心理症状(BPSD)としてDementia Behavior Disturbance Scale(DBD),障害老人の日常生活自立度判定基準(寝たきり度),Barthel Index(BI),転倒歴で構成し調査を実施した。RMIの構成概念妥当性に関して,尺度の内部構造に関する一次元性を構造方程式モデリングによる検証的因子分析を用い検討した。また他変数との関連性から構成概念妥当性を検討すべく,移動能力の下位概念であるImpairmentレベルの指標としてMMSEと柄澤式,上位概念としてBIと転倒歴,BPSDの指標としてDBD,移動水準の指標として寝たきり度,そして年齢と発症後期間を取り上げ,RMIとの関連についてSpearman順位相関係数を用い検討した。さらに,内部一貫性を確認するためKR-20信頼性係数で検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は吉備国際大学倫理委員会の承認を得て実施した(受理番号:08-17)。調査に際し,認知症高齢者本人および家族に趣旨を十分に説明して実施した。【結果】RMIに関して,検証的因子分析における移動能力を上位概念とした1因子モデルの適合度は,CFI=0.983,TLI=0.988と許容水準を満たす適合度を示した。次にSpearman順位相関係数を算出した結果,MMSE,柄澤式,BI,転倒歴,DBD,寝たきり度と統計的に有意な相関関係を認め,年齢と発症後期間については有意な相関関係は認められなかった。KR-20信頼係数は0.93を示し,高い内部一貫性が確認された。【考察】RMIに関して検証的因子分析を行った結果,1因子モデルが統計的な許容水準を満たす適合度を示し,尺度の内部構造の一次元性が確認された。さらに相関分析において各変数間で統計的に有意な相関関係を認め,またその関連性は移動能力の測定指標として示すべき特徴が認められた。以上の結果は,RMIの構成概念妥当性を支持するものと判断された。また信頼性係数も高い値を示しており,昨年度の本学会で報告した再現性・検査者間信頼性を支持しうる結果を裏打ちするものとなった。以上のことよりRMIは,認知症高齢者標本においても信頼性と構成概念妥当性が確認され,その有用性を支持するものと考えられた。ただし本研究は入院標本における検討結果であり,今後は通所利用者など地域生活標本を用いた検討が課題である。【理学療法学研究としての意義】認知症高齢者の移動能力指標に関しては,信頼性の確保が課題とされ構成概念妥当性をも支持しうる指標は皆無であった。本研究結果は,移動能力に関する法則性の解明や介入上のアウトカムとしてRMIを使用できる可能性を示唆する大きな成果と考える。
  • 牧迫 飛雄馬, Teresa Liu-Ambrose, 島田 裕之, 土井 剛彦, 朴 眩泰, 堤本 広大, 上村 一貴, 鈴木 隆雄
    セッションID: 0019
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】高齢者における積極的な身体活動の実施は,身体機能のみならず,認知機能にも影響を与えることが示唆されており,アルツハイマー病の中核症状のひとつである記憶機能低下との関連も示唆されている。さらに,高齢者の習慣的な身体活動は,記憶において重要な役割を有する脳内の海馬の容量変化と関連することが報告されている。本研究では,認知症への移行リスクが高いとされる軽度認知障害を有する高齢者を対象として,3軸加速度が内蔵された身体活動量計によって計測した強度の異なる身体活動量と海馬容量,記憶機能との相互関連性を検証することを目的とした。これらの相互関連性を明らかにすることによって,記憶機能や海馬容量の加齢変化に対してどのような強度の身体活動促進が有用であるか,また身体活動の促進を起点とした記憶機能への影響に関するメカニズムについての仮説を提案することが本研究の意義となる。【方法】軽度認知障害の基準(Petersenら,2001)に該当し,身体活動量計測,記憶機能検査,頭部の磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査を完遂した地域在住高齢者310名(平均年齢71.3歳,女性172名)を対象とした。身体活動量は,3軸加速度計が内蔵された身体活動量計(modified HJA-350IT,Active style Pro,Omron Healthcare)を使用して計測した。対象者には身体活動量計を連続した14日間で装着してもらい,日中(6時~18時)の75%以上のデータが7日間以上計測できた対象者のみが本研究に含まれた。身体活動量計で得られたデータから,身体活動の強度別に1日あたりの低強度の身体活動時間(1.5~2.9METs)と中強度の身体活動時間(3.0~5.9METs)を算出した(分/日)。記憶機能検査では,ウェクスラー記憶検査の論理的記憶および視覚性記憶,Rey聴覚性言語学習検査による言語性記憶を実施した(いずれも遅延再生を指標として使用)。また,脳画像解析ソフトウェア(FMRIB Software Library 5.0 FIRST)を用いて,頭部MRI撮像で得られたT-1強調画像から海馬容量を算出した。それぞれの強度による身体活動量と海馬容量,各記憶検査との関連を調べるために,相関分析および年齢を共変量とした回帰分析を用いた。また,身体活動量,海馬容量を観測変数,記憶機能を潜在変数とした共分散構造分析により,これらの変数間の相互関連性を調べ,最適なモデルの検証を行った。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。【結果】中強度の身体活動時間は海馬容量と有意な正の相関関係(r=.20,p<.01)を認め,年齢で調整した後も関連性は有意であった(β=.17,p<.01)。しかし,低強度の身体活動時間と海馬容量の有意な関連性は認められなかった。また,いずれの強度の身体活動量も記憶検査とは有意な相関関係を示さなった。共分散構造分析の結果,最良な適合度を示したモデルにおいては,中強度の身体活動量は記憶機能とは直接的な関連は認めなかったが,中強度の身体活動量は海馬容量と有意な関連性を有しており(β=.20,p<.01),海馬容量が記憶機能と直接的な関連性を示した(β=.28,p<.01)。つまり,中強度の身体活動量は海馬容量を介して記憶機能に影響していることが示された。なお,この最終モデルの適合度指標は,モデル適合度を判断するための統計的な許容水準を十分に満たす値であった(GFI=.989,CFI=.983,RMSEA=.045)。【考察】低強度ではなく中強度の身体活動時間が海馬の容量と有意な関連を認め,この中強度の身体活動は海馬容量との有意な関連性を介して,記憶機能とは間接的に関係していた。本研究の結果から,積極的に中強度の身体活動を実施している軽度認知障害を有する高齢者では海馬容量が維持されており,そのことが記憶機能の成績にも影響していることが確認された。このことから,積極的な中強度の身体活動の促進は,海馬容量および記憶機能の維持・改善に有効となり得る可能性があるものと考えられた。今後は,中強度の身体活動の増大が,将来の海馬容量や記憶機能の変化に影響し得るか否かについての検証が必要である。【理学療法学研究としての意義】中強度の身体活動の促進は,海馬容量の維持・萎縮抑制を介して記憶を保持することに有用である可能性がされ,このことは高齢者の認知機能低下を抑制するための運動介入の有用性を支持するものであり,理学療法研究の発展に意義のある結果であると考える。
  • 中村 凌, 三栖 翔吾, 上田 雄也, 澤 龍一, 中津 伸之, 斉藤 貴, 杉本 大貴, 村田 峻輔, 山﨑 蓉子, 堤本 広大, 中窪 ...
    セッションID: 0020
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】生命予後を予測する上で重要であると報告されている手段的日常生活活動(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)障害は生活環境に対する身体能力が不適切であるか,自己の身体能力に対する認識が不適切であった場合に生じると考えられる。加齢により身体能力が低下することから,高齢者において環境に対する身体能力を適切に保つことには限界がある。そのため,高齢者において身体能力の変化の認識も含めて身体能力に対する認識が適切であることはIADL障害の発生に関連する要素であると考えられる。身体能力認識能力を計測する方法の一つとして,Functional Reach(FR)の計測値と予測値の差を算出する身体能力認識誤差(Error in Perceived Functional Reach Distance:ED)の測定が多くの研究で用いられており,先行研究において,EDは転倒,抑うつと関連することが報告されている。EDの絶対値が大きい人は身体能力認識能力が低く,生活環境に合った適切な運動が行えていないと考えられ,それがIADL障害につながると予想される。さらに,自己の能力を過大評価・過小評価している者に分けて考えることで,EDの絶対値のみではとらえきれない対象者の特性を調査することができると考えられる。しかし,EDとIADL障害との関連性は明確にはなっておらず,さらに過大評価・過小評価に分けて調査した研究は少ない。そこで,地域高齢者の中でも加齢による身体能力の変化が著しく大きく身体能力の認識がより困難であると考えられる要介護高齢者においてEDとIADLとの関連があると仮説を立て,その関連をEDの大きさや身体能力の過小評価および過大評価に着目しながら明らかにすることを目的とした。【方法】対象者はデイサービスセンターに通う65歳以上の要支援または要介護認定を受けている地域高齢者60名のうち,Mini Mental State Examination(以下,MMSE)の点数が23以下である26名を除外した34名(85.4±6.0(歳),男性6名)であった。評価項目は,FR,ED,IADLの3項目とした。測定手順は,始めに測定開始位置を決め,遠位から円柱状の棒を近づけ,棒に手が届くと視覚的に判断した時点で合図をしてもらい,その位置から測定開始位置までの距離を最大リーチ距離の予測値とし測定を行った後,FRの測定を行った。EDは,FRから予測値を引いた値として算出した。認識誤差の大きさの評価にはEDの絶対値を用いた。さらに,EDの絶対値の標準偏差を用いてEDの値を0±1標準偏差(cm)を基準に値の小さいものから順に過大評価群,適切認識群,過小評価群の3群に分けた。IADLの評価指標には,老研式活動能力指標(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence:以下,TMIG)のうち,5点満点で表される手段的自立の評価を用い,5点をIADL障害なし群,5点未満をIADL障害あり群とした。統計解析は,IADL障害の有無とEDの関係を見るためにロジスティック回帰分析を使用し,従属変数をIADL障害の有無,独立変数をEDの絶対値または,適切認識群をreferenceとして過大評価群・過小評価群へのオッズ比を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会の承認を得た後に行われ,事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明して同意を得た。【結果】IADL障害なし群は20名,IADL障害あり群は14名であり,FRの平均は20.9±7.0 cm,EDの絶対値の平均は7.7±5.2cmであった。IADL障害ありに対するEDの絶対値のオッズ比は1.2(p<0.05)であった。身体能力を過大評価している者は5人(ED:-10.1±4.4cm,IADL障害あり:3名(60.0%)),適切認識群は13人(ED:0.5±3.0cm,IADL障害あり:2名(15.4%)),過小評価している者は16人(ED:11.4±3.4cm,IADL障害あり:9名(56.3%))であった。IADL障害ありに対する過小評価群のオッズ比は7.1(p<0.05),過大評価群のオッズ比は8.2(p=0.07)であった。【考察】本研究の結果から,要介護高齢者においてEDの絶対値とIADL障害の有無に関連があることが明らかになった。IADL障害は,身体能力だけでなく身体能力の認識とも関連している可能性があると考えられ,本研究においてはEDを測定したことで身体能力の不適切な認識により発生したIADL障害を評価でき,この結果が得られたと考えられる。また,自身の身体能力を過小評価・過大評価群におけるIADL障害の有無に関するオッズ比は同程度であったことから,過小評価,過大評価いずれにおいてもIADL障害と関連があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】身体能力認識誤差を知ることにより,IADL障害の推測に利用できる可能性があることが示唆された。今後,身体能力認識誤差へのアプローチがIADL障害予防の一助になると考えられる。
  • 新井 智之, 小野 絵美, 加藤 仁志, 高橋 かおり, 佐藤 絢, 細井 俊希, 丸谷 康平, 藤田 博曉
    セッションID: 0021
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】理学療法士は日常的に高齢者を対象とすることが多いため,高齢者に対する正しい知識を身に付ける必要がある。高齢者に対する知識を調査した先行研究では,医療・福祉関連職種またはその学生は,日常的に障害を持った高齢者と接する機会が多いため,その他の職種に比べ,否定的な印象や間違った知識をもつ傾向にあるとされている。しかし理学療法の領域において高齢者に対する正しい知識や印象を調査した報告はない。そこで本研究では理学療法学科学生の高齢者に関する知識や印象の調査し,今後も理学療法学生に対する高齢者教育の一助とすることを目的とする。【方法】対象は理学療法学科に通う学生328人(平均年齢は20.0±1.2歳,男性166人,女性162人)とした。対象者に対し,高齢者に関する知識や印象に関する評価尺度である日本語版加齢の事実に関するクイズ(The Fact of Aging Quizzes:FAQ)と日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版を調査した。FAQは高齢者に関する質問25項目からなり,2件法で答えるクイズである。FSA短縮版は14項目からなり,「①そう思う」から「⑤そう思わない」の5件法で記載し,合計点が低いほどエイジズムが高いことを示す尺度である。調査の後,FAQの全体の正答率と各質問項目の正答率を算出した。またFSAは全対象者の合計点,各質問項目の回答分布を算出した。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由が記載された文書を用いて説明を行い,書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施している。【結果】調査の結果,全対象者のFAQの正答数の平均は14.7±2.7点であり,正答率は58.8%であった。男女別では男性が58.6%,女性が58.9%であった。FAQの中で正答率が50%未満であった項目は10項目であった。特に正答率が低い項目は,項目8「高齢のドライバーが事故を起こす割合は65歳未満のドライバーより低い」が33.3%,項目16「高齢者は若い人より鬱状態になりやすい」が20.2%,項目19「今では人口の30%以上が65歳以上である。」が31.8%,項目20「医療従事者の大半は高齢者を後回しにする傾向がある。」が21.9%,項目23「高齢者は年とともに信心深くなる」が26.4%,項目24「大多数の高齢者は,自分に苛立ったり,怒ったりすることは滅多にないと言う。」が33.6%であった。一方で正答率が高い項目は,項目1「高齢者(65歳以上)の大多数はぼけている」が88.3%,項目4「高齢になるにつれ,肺活量は低下する傾向がある」が93.4%,項目5「高齢者の大多数はほとんどいつも惨めだと感じている」が91.3%,項目6「体力は高齢になると衰えがちになる」が95.5%,項目12「高齢者は一般に新しいことを習うのに若い人より時間がかかる」が92.2%,項目14「高齢者は若い人より反応が遅い」が91.6%であった。一方,対象者全体のFSAの得点は55.7±8.0点であった。またFSA項目の中で,回答分布が点数の低い方に偏っていた項目は,「多くの高齢者は過去に行きている」のみであった。【考察】本邦におけるFAQの正答率に関する先行研究では,放送関係者で約70%,介護職員や看護学生では50~60%程度と報告されている。本研究の理学療法学生の正答率58.8%であり,他の学生や医療福祉関連職種と同程度であることが示された。また各質問項目を調査した結果,理学療法学生において正答率が低く誤認していた項目は,高齢者の取り巻く社会的状況,高齢者の精神状態や生活状況に関する内容が多かった。一方,正答率が高く正しく認識されている項目は,心身機能の加齢変化に関する内容であった。以上のことから理学療法学生の高齢者に対す知識や印象については,心身機能の加齢変化に関する内容については高く,高齢者を取り巻く社会的側面や心理的側面については低いことが明らかとなった。理学療法教育の場面においても,社会的側面や心理的側面などを含めた総合的な高齢者教育が必要であると考える。【理学療法学研究における意義】障害を有する高齢者と接する機会の多い医療関連職種は,高齢者に対して間違った印象を持ちやすいとされる。しかし医療関連職種こそ,高齢者に対する正しい知識を身に付けた人材を育成することが必要である。本研究の結果は,今後高齢者のリハビリテーションを担う理学療法士を育成するために必要な老年学教育を確立する上で有用な情報である。
  • 長谷部 藍, 加藤 仁志, 寺島 和希, 入山 渉, 鳥海 亮
    セッションID: 0022
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】医療技術の発展に伴い我が国の高齢化率は25.1%に達し超高齢社会となっている。さらに,2050年には高齢化率は39.9%になると予想されている。そのため,理学療法士は高齢者に関わることが多く,理学療法士は高齢者に対する正しい知識や認識を持つ必要がある。エイジズムとは,「年齢を理由に個人や団体を不利に扱い差別すること」である。医療職を目指している学生は,高齢者に対する知識を高め,このエイジズムを弱めることが理想である。佐藤らによる理学療法学生に対する先行研究では,高齢者に対する否定的偏見を持っていることが示唆された。しかし,この先行研究ではエイジズムと高齢者に関する知識の両面から検討しておらず,さらに横断的研究であった。そのため本研究では,理学療法学生の高齢者に対するエイジズムを,高齢者に関する知識も交えて検討すること,エイジズムおよび高齢者に関する知識を縦断的に検討し変化について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は4年制大学理学療法学科の6期生~9期生の209名とした。The Fact of Aging Quiz(以下,FAQ)を用いて高齢者に関する知識を調査し,日本語版Freboniエイジズム尺度短縮版(以下,エイジズム尺度)を用いてエイジズムを2013年7月~8月の間に調査した。6期生のみ2012年8月(3年次)にも調査した。各学年の結果を横断的に比較するためにTukey法を用いて多重比較を行った。また,6期生の3年次,4年次で縦断的に比較するために対応のあるt検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には目的,調査方法,参加による利益,不利益,自らの意志で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表等を記した書面と口頭による説明を行った。同意書への署名により研究参加の同意を得た者を対象者とした。本研究は群馬パース大学保健科学部理学療法学科卒業研究倫理規定に触れないことを研究倫理検討会で承諾された。【結果】エイジズム尺度の合計得点は,6期生(4年)は17.2点,7期生(3年)は18.5点,8期生(2年)は20.6点,9期生(1年)は23.7点であった。FAQの正答率は,6期生(4年)は29.1%,7期生(3年)は27.4%,8期生(2年)は30.4%,9期生(1年)は31.1%であった。統計学的解析の結果,エイジズム尺度は学年が上がるにつれて有意に低くなった。FAQは9期生(1年)の方が7期生(3年)より有意に得点率が高かったが,その他の学年間では高齢者に関する知識の差は認められなかった。縦断的なエイジズム尺度の結果は,6期生の3年次は18.8点,4年次は17.2点であり,エイジズム尺度の差は認められなかった。FAQの結果は,3年次は31.0%,4年次は29.1%であり,高齢者に関する知識の差は認められなかった。【考察】横断研究では,学年が上がるにつれてエイジズムは低くなるが高齢者に関する知識には学年間に差がなかった。小野らによる先行研究では,高学年になるほど加齢に関する正しい知識を持ち,エイジズムも低いことが示された。本研究のエイジズム尺度は先行研究を支持する結果となったがFAQは先行研究を支持しない結果となった。このことから,エイジズムを下げるのは高齢者に関する知識ではない何かであると考えた。縦断研究では,エイジズム尺度,FAQともに有意差はみられなかった。先行研究では,看護学生の臨床実習での経験がエイジズムを強めるとされている。しかし,本研究で対象とする理学療法学生の3年次7月~4年次8月の間に臨床実習が3回あり,理学療法学生の臨床実習での経験はエイジズムを強めないと考えた。また,横断研究では各学年間エイジズム尺度が低くなるという結果になったが,縦断研究ではエイジズム尺度に変化がなかった。そのため横断研究と縦断研究に矛盾が生まれている。横断研究と縦断研究では対象としている人物が異なり,ベースラインも違うことから,6期生(4年)はもともとエイジズム尺度が低く,9期生(1年)はもともとエイジズム尺度が高いのではないかと考えられた。また,学年が上がるにつれエイジズムが低くなるのは,生活スタイル,世代の違いなどが要因ではないかと考えられた。今後,この要因を明らかにするために調査していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】理学療法学科の学生のエイジズムは学年が上がるにつれ低くなった。しかし,高齢者に関する知識は9期生と7期生の間にしか有意差は認められず,学年による差異は認められなかった。また,同学年の3年次と4年次を比較するとエイジズム,高齢者に関する知識ともに変化がなかった。本研究の結果は,理学療法教育はエイジズムを維持するのに寄与しているという参考資料として有意義であると考えられた。
  • 藤原 亜希子, 横井 輝夫, 藤原 一貴, 渡部 由香子
    セッションID: 0023
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】はじめての長期実習を終えた学生は,患者をどのようにみているのだろうか。単に運動器疾患を持った対象とみてはいないだろうか。患者を全人的に捉えているだろうか。心配である。我々の心の原風景を歌っていると思われる2曲(故郷・浜辺の歌)を学生に聴かせ,理学療法に意欲がわかない患者への学生の想いの変容を比較し,音楽介入の可能性を検討した。【方法】対象:はじめての長期実習を終えた3年生32名(男性16名,女性16名,平均年齢21歳)である。方法:まず電子オルガンで前述の2曲を聴かせる群と聴かせない群に,学籍番号の偶数と奇数によって分けた。次に両群に「脳卒中2回目の75歳の男性患者。軽い左の麻痺のため,日常生活にはそれほど支障はありませんが,病院では車いすで移動し,リハビリには意欲がなく休みがち。長男から今やっているリハビリは回数が少なすぎる。前の病院でやっていたように,もっとリハビリの回数を増やしてほしい。1回目の時は良くなったのに,今回はちっとも良くならないじゃないかと電話があったことを今朝のミーティングで連絡をうけた」(「吉備国際大学 医療・福祉領域の連携スキルの学習」より場面を転用),このシチュエーションを学生に提示し,担当の理学療法士であるあなたは,どのような対応をとりますかと問い,自由に記述させた。その後,音楽を聴かせる群は別室に移動させ,この2曲を2度聴かせた。音楽を聴かせない群には「ここでしばらく休んでいてください」と指示し,15分程度待機させた。そして,再度両群に同様の質問に回答させた。分析は意味のまとまりごとにシンボリックなラベルをつけ,それらをグループに編成し(表札づくり),データを構造化した(KJ法)。さらにグループ(表札)毎にラベルの枚数に比例した大きさの円を描き,グループ間の量的な差異を可視化させ,質的,量的両面から分析した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の目的と方法,研究への参加は任意であること,もし研究に参加しなくても不利益をこうむることはないこと,無記名であり個人は特定されないこと,成果は学術誌などに公表すること,調査への回答をもって本研究への参加に同意したものとすることを書面と口頭で説明し,回答を求めた。【結果】音楽介入なし群の介入前・介入後,および音楽介入あり群の介入前の3条件下の記述では,「患者の意欲をリハに向ける工夫」「患者の状態を家族に伝えリハの目標を決める」「患者に意欲がわかない理由を聞く」の大きく3群に構造化された。そして,ラベル数は「患者の意欲をリハに向ける工夫」が最も多く,次に「患者の状態を家族に伝えリハの目標を決める」が続き,「患者に意欲がわかない理由を聞く」は少なかった。一方,音楽介入後の記述では,大きく4群に構造化され,記述内容にリハという言葉そのものが少なくなった。目的として「患者の意欲をリハに向ける工夫」と並んで「患者の意欲を上げる」が現れた。そして,リハの目標を決めるために家族に患者の状態を伝えるのではなく,長男の期待が患者の負担になっていることなど「患者の想いを家族と共有」し,「家族に理解を求める」ために患者の状態を家族に伝え,「患者の想いを理解」しようとしていた。ラベル数は「患者の想いを家族と共有する」が最も多く,次いで「患者の想いを理解」しようとするが続き,患者の「意欲をリハに向ける工夫」と「患者の意欲を上げる」が同数であった。【考察】音楽介入なし群の介入前・介入後,および音楽介入あり群の介入前の3条件下では,まずリハありきでリハを行うことが目的化し,そのために患者の状態を家族に伝え,家族に協力を求め,患者に意欲がわかない理由を聞いていた。一方,音楽介入後は,学生に患者への慈しみの心が芽生え,他の3条件に比べ,はるかに患者への心理的距離が近づいていた。そして,必ずしもリハを行うためではなく,患者の生きる意欲を高めることが目的になり,そのために患者の想いを理解し,患者の想いを家族と共有しようとしていた。今回の学生の患者への想いの変容は,我々の心の原風景が歌われた音楽を聴くと情動が揺すぶられ,理学療法を専攻する学生としての心の鎧が脱ぎ捨てられたために生じたと思う。鎧を脱ぎ捨てた結果,患者を運動器疾患を持った対象としてだけでなく,自分と同じ一人の弱い立場の人間としてとらえ,(本来誰しもが持っている)慈しみの心をもつ学生一人ひとりの個が立ち上がり,患者への想いが変容したのだと推察できる。【理学療法学研究としての意義】我々の心の原風景が歌われた音楽は,医療人として最も不可欠な心性である患者や家族への慈しみの心を学生に育てることができる可能性が示唆されたこと。
  • 円背ベルト装着での歩行解析
    徳田 良英
    セッションID: 0024
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】卒前教育で行う学内実習の課題には,教育内容の特徴を理解しやすくするために教育的に改良したある種のモデルを活用することが多い。例えば高齢者疑似体験装置(インスタントシニア)の利用などがそれに相当するが,学生が高齢者・障碍者のどのような特徴を模擬したものか十分に理解しないで安易に特殊なメガネと錘を身にまとい,あたかも高齢者・障碍者を理解した気にさせては誤解が生じかねない。これに対して筆者は学部教育の一環として2006(平成18)年度より健常な学生が高齢者の姿勢や動作に近似させる簡易装置(以下,円背ベルト)を学生らが試作し評価することに着手している。円背ベルトは高齢者に多い円背姿勢を簡便に再現することを目的とした軽量な簡易補助装置で,安価で制作が簡単,装着時に調整が可能で,苦痛を伴わないものとしている。既存の器具でなく,学生がモデルを考案することは教育的に意義がある。これまでに円背ベルトを用いた研究課題として,椅子からの立ち座り動作や浴槽の跨ぎ動作などを行い,その成果は本学術大会やWCPT学会にも公表してきた。本稿はこれら一連の研究の一環で,円背ベルトを装着した歩行が円背高齢者の特徴的な歩行をどの程度再現するか,その相似点,相違点を検証することを目的とする。【方法】対象は健常な成人男子大学生12名(身長173.4±4.1cm)とした。課題は,円背ベルト未着での被験者が普段行う歩行(通常歩行)と,円背ベルトを装着しての歩行(円背歩行)の2種類とした。円背姿勢は,立位にて円背ベルトを装着し,伊藤らの定義に準じ円背指数15以上の姿勢をベルトで保持した。円背指数はMilneらの方法で被験者のC7棘突起とL4棘突起にマーカーを貼り付け,側方より撮影した写真画像に第C7棘突起とL4棘突起を結んだ直線の距離Lと,この直線と脊柱の最も背面の突出した頂点と距離Hを計測しその比より算定した。動作解析は床反力計(kistler社製)と三次元動作解析装置(Vicon社)を用い,サンプリング周波数100Hzとした。反射マーカーはVicon Plug-In Gait Full Body Modelに準拠し全身の36か所に貼り付け計測した。室内の歩行路で約4mの距離を裸足で通常歩行,円背歩行の順で行った。歩行速度は各被験者の普段通りとし,各歩行の際に意識して変えることがないように指示をした。なお被験者の平均歩行速度は,通常歩行が1.1±0.1m/sec,円背歩行が1.2±0.1m/secであった。計測は通常歩行,円背歩行それぞれの 1)身体重心(COG)の高さと左右の動揺幅,2)股関節屈曲・伸展の可動範囲と股関節伸展トルク,3)足部挙上高さ,4)体幹回旋角度とし,データを比較した。統計学的解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用いて有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を順守し,被験者に目的,方法,内容,成果の公表方法を口頭および書面にて十分に説明し,書面にて同意を得て行った(承認番号24-019)。【結果】1)COGの高さの平均は通常歩行967.0±29.0mm,円背歩行875.4±37.1mmであった。その左右の動揺幅は通常歩行24.0±18.0mm,円背歩行50.0±20.0mmで円背歩行が大きかった。2)股関節の可動範囲は左右それぞれ通常歩行40.6±4.4°,40.8±4.8°,円背歩行29.2±7.7°,28.8±6.0°であった。左右股関節伸展最大トルクの体重比はそれぞれ通常歩行1063.0±203.6 Nmm/kg,1126.4±178.4 Nmm/kg,円背歩行882.9±165.8 Nmm/kg,913.5±240.7 Nmm/kgで円背歩行が小さかった。3)左右の足部挙上高さは通常歩行162.3±22.6mm,164.0±17.1mm,円背歩行125.8±20.1mm,123.1±17.1mmで円背歩行が小さかった。4)体幹の回旋角度は通常歩行17.0±3.0°,円背歩行8.2±2.0°で円背歩行が小さかった。【考察】円背ベルトの装着で身体重心の高さは低くなり後方に変位する高齢円背者の姿勢を再現できたと考える。これにより重心が後方に変位するため,下肢の振り出しにくさが顕著になったと考える。また,下肢が十分に振り出せず股関節が十分に伸展しないことから股関節伸展最大トルクは小さくなったと考える。股関節の可動範囲は円背ベルト装着で減少し足が上がりにくい状況が再現されたと考える。歩行時に足が十分に上がりにくいことを体現させ円背の高齢者の歩行時のつまずきや転倒のリスクを理解する教材としても有益なモデルと考える。体幹回旋の制限は円背姿勢による脊柱の可動性が制限されるほかベルトによる固定の影響の複合要因が考えられる。【理学療法学研究としての意義】教育場面で円背高齢者の特徴的な動作を学生の円背モデルが模擬することで代用し得る内容が明らかになり,学部教育の教材にも応用の可能性が示唆された。
  • 小貫 睦巳
    セッションID: 0025
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】当日ブリーフレポート方式(Brief Report of the Day:以下BRDと略)授業は,南山大学の宇田光によって考案されたActive-Learning形式の授業手法である。技術習得教育である理学療法教育ではすでに演習形式授業が一般的に行われているが,座学中心の講義形式の授業では未だ一方通行の従来型講義が多勢を占めていると考えられ,FD活動等授業の工夫を求められる事も多い。この研究の目的は理学療法養成校の講義形式の授業でBRD方式を取り入れ,従来の授業と比べどのような利点があるのかを調査し,学生のアンケート結果から現代の理学療法学生の特性を分析し,今後の学生指導や授業の工夫に必要な情報を明らかにする事である。【方法】BRD授業の特徴は毎回の授業の中でその最後に小レポートを課す授業形式で,①テーマ確認,②構想段階,③情報収集段階,④執筆段階,という手順で授業を進める。この方式に則り,専門学校(4年制)と大学でそれぞれBRD授業を行った。両校とも対象は理学療法学科2年生とし,開講時に授業の進め方を十分説明し,終了時にアンケート調査を行った。アンケートは無記名とし集合調査法にて行った。アンケート内容は,BRD授業の満足度,集中度を5段階の順序尺度で確認し,さらに従来の講義とBRD授業とどちらが良いか,及びBRD授業の特性について当てはまると思われる6要素を選択する質問を3段階の順序尺度で確認した。アンケートの解析には,宇田のデータと比較し差があるのかどうかを知るためにそれぞれの回答をカイ二乗独立性の検定を行い,また大学と専門学校間の違いも同様の手法で確認した。さらに,これらの結果を基にカテゴリカル主成分分析を行い,カテゴリーの数量化と成分負荷を算出し,大学と専門学校の特徴を掴みそれぞれの学生の特性を探った。統計処理にはIBM SPSS Statistics ver.22を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】今回の研究にあたり,学生には研究の主旨を十分説明し,アンケートの結果は本研究以外には使用しない事,本研究に参加しなくても成績や指導での不利益にはならない事,データは厳重に管理し研究終了後は直ちに適切な方法でデータを消去する事を文書に明記し口頭にて説明し,アンケートの提出を持って同意とみなした。また,本研究は本学研究倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】BRD授業に参加した学生は,大学が43名(男性29名,女性14名,平均年齢19.4歳),専門学校が56名(男性43名,女性13名,平均年齢21.7歳)であった。BRD授業の満足度と集中度については宇田の結果・大学・専門学校いずれも差は見られずすべて同様の結果であった(1.非常に低い~5.非常に高いの5段階のうち,3と4合わせていずれも80%)。しかし従来の講義とBRD授業とどちらが良いかについては,宇田の結果と大学の結果に,また大学の結果と専門学校の結果にそれぞれ有意差がみられた(いずれもp<0.05)。男女別に分けて様々な検討を加えるなどを行った結果,大学の男子学生が従来の講義とBRD授業とどちらが良いかについて態度を保留し「どちらも変わらない」としている点が特徴的であった。さらに,カテゴリカル主成分分析の結果,成分負荷は3つの主成分に分けられ,大学の方では第1主成分は「満足度」「集中度」「授業に変化がある」「目標が明確」「期末テストのみで決まらない」が挙げられ,第2主成分は「私語が少ない」「緊張感有り」,第3主成分は「丸暗記でない」が挙げられた。専門学校では第1主成分が大学と同様の項目が挙げられた事に加え,大学の第2主成分である二つの項目も第1主成分に含まれる結果となった。さらに専門学校の第2主成分は「期末テストのみで決まらない」であり,第3主成分は大学と同じ「丸暗記でない」が挙げられた。【考察】全体として学生は大学でも専門学校でもBRD授業について宇田の結果と同様に一方向的な座学よりも好意的に受け止めている事がわかった。BRD授業の利点としては学生が能動的に授業に参加するようになる点等が挙げられた。一方,大学の男子学生が授業方式について他の結果と異なる理由については不明であるが,専門学校や女子と比べた場合の何らかの特性が関係している可能性が考えられる。またカテゴリカル主成分分析の結果は第1主成分で満足度や集中度のように学生自身の内面からの成分が強く出ている(寄与率44%)結果となった事は,大学の第2主成分にある環境面に依存した外的因子も一部関係している(寄与率17%)ものの,現代の理学療法学生は,自身の内面に目を向ける傾向が強いという特性が窺える。【理学療法学研究としての意義】BRD授業のような能動的な授業を通して,現代の理学療法学生の特性を明らかにする事はFD活動等を含め理学療法教育を今後さらに発展させる意義があると考えられる。
  • 福田 章人, 澳 昂佑, 奥村 伊世, 川原 勲, 田中 貴広
    セッションID: 0026
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】国内において内側型変形性膝関節症(膝OA)患者は2400万人いると推測されている。膝OA患者は高齢化社会となり年々,増加している。膝OA患者では,疼痛から日常生活での活動量が減少することにより下肢筋力が低下し,更に膝OAが進行するという悪循環を招いてしまう。膝OA患者は歩行立脚期における膝内反モーメントの増加によって,膝関節内側コンパーメントの圧縮応力が増加し,痛みが誘発されることが明らかとなっている。さらに膝内反モーメントの増加によってlateral thrustが出現する(Schipplenin OD.1991)。これに対して外側広筋は1歩行周期において筋活動を増加することによって膝内反モーメントの増加やlateral thrustによる側方不安定性に寄与し,初期の膝OAにおいては膝内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。しかしながら,この外側広筋の筋活動が立脚期,遊脚期それぞれの周期別の活動については明らかにされていない。この筋活動の特徴を明らかにすることによって,膝関節に対する歩行周期別トレーニング方法の開発に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の外側広筋の筋活動の特徴を表面筋電図(EMG)を用いて明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人7名(25歳±4.5)と片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度の分類はKellgran-Lawrence分類(K/L分類)にIIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。歩行中の筋活動を計測するための電極を外側広筋,大腿二頭筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。歩行計測前,MMTの肢位にて3秒間のMVC(Maximum Voluntary Contraction)を測定した。歩行における筋活動の測定は音の合図に反応して,快適な歩行速度とした。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間正規化した。各筋の立脚期,遊脚期,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCに正規化した。統計処理はOA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数を用いて検証した。健常成人とOA患者のEMG振幅を歩行周期別にMann-Whitney U-testを用いて比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋のEMG振幅は有意な正の相関関係を示した。1歩行周期における外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した。また,立脚期,遊脚期それぞれの外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した(立脚期健常成人:21.79±3.63%,膝OA:72.09±19.06%,遊脚期健常成人:15.8±4.3%,膝OA:39.3±18.8%)。【考察】健常成人と比較して,外側広筋の筋活動が増加したことは先行研究と一致した。OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋の筋活動が相関したことは,側方不安定が増加するにつれて外側広筋の筋活動が増加したことを示す。さらに遊脚期,立脚期の周期別に外側広筋の筋活動が増加したことは立脚期における側方安定性に寄与する外側広筋の筋活動を遊脚期から,準備している予測的姿勢制御に関連している反応である可能性が示唆された。また,遊脚期において外側広筋,大腿二頭筋の筋活動が増加することにより正常な膝関節の関節運動を行えないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】変形性膝関節症患者の歩行時筋活動を解明することで歩行能力改善を目的とした歩行周期別トレーニングとして,遊脚期における筋活動に着目する必要性を示唆した。
  • ―変形性膝関節症例の歩行分析―
    井野 拓実, 大角 侑平, 小竹 諭, 上原 桐乃, 三浦 浩太, 大森 啓司, 吉田 俊教, 大越 康充
    セッションID: 0027
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)において認められるラテラルスラスト(以下,スラスト)とは歩行時の立脚中期に特徴的に観察される膝関節の横ぶれと広く認知されている。また本所見は膝OAの悪化要因および重症度の指標であると報告されている(Chang, A. et al. 2004, Kuroyanagi, Y. et al. 2012)。しかしスラストは臨床家の視認により同定されているのが現状であり,これがどのような動態であるかは十分に解明されていない。本研究の目的は,膝OAにおけるスラストの動態を明らかにすることである。【方法】人工膝関節全置換術術前の膝OA15症例15膝を対象とした。除外基準は,独歩困難,中枢性神経疾患,リウマチ,重篤な腰部疾患,外傷性OA,足部・股関節疾患,足底板による保存療法,重度肥満を有する症例とした。整形外科専門医1名および臨床経験10年以上の理学療法士2名による診察または前額面ビデオ画像評価によりスラストの有無を確認した後,対象をスラストあり群(女性8例,年齢67.4±11.2歳,BMI 26.3±3.1 kg/m2)とスラストなし群(男性1例,女性6例,年齢73.4±6.0歳,BMI 26.8±5.7 kg/m2)へ分類した。三次元動作解析装置にて定常歩行を計測し,ポイントクラスター法にて膝関節の6自由度キネマティクスを解析した。また各症例について,膝伸展角度,膝屈曲角度,疼痛評価としてvisual analog scale(以下,VAS),giving wayの有無,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下,JKOM),膝OA重症度:北大分類(以下,北大分類),X線画像立位長尺による大腿脛骨角(以下,FTA),内反または外反不安定性評価として内反または外反ストレスX線画像を用いた関節裂隙開大量,そして術中所見によるACLの変性または有無を調査した。膝関節キネマティクスおよび各々の項目についてスラストあり群とスラストなし群で比較検討した。統計解析は対応のないt検定またはカイ二乗検定を用いた(p<0.05)【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し実施された。また実施前に生命倫理委員会の承認を受け,全ての被験者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た。【結果】立脚初期,スラストなし群に較べスラストあり群では急激な内反角度の増大が認められた(スラストなし群:2.5±1.8° vsスラストあり群:5.7±1.7°,p=0.003)。また,スラストあり群では立脚期の屈曲角度変化量が有意に小さく(スラストなし群:9.8±2.8° vsスラストあり群:6.1±4.2°,p=0.049),脛骨がより外旋位である傾向が認められた。ストレスX線画像を用いた内反不安定性評価において,スラストあり群では内反不安定性が大きい傾向であった(スラストなし群:6.6±1.3mm vsスラストあり群:8.1±1.8mm,p=0.079)。症例の背景因子,およびその他の項目について両群間に有意差は認められなかった。【考察】本研究結果からスラストの特徴は,立脚期における急激な内反角度の増大かつ膝屈曲角度変化量の減少であることが明らかとなった。また,この時期の脛骨はより外旋位であった。更にスラストあり群では内反不安定性が大きい傾向であった。以上よりスラストは動的なマルアライメントかつ内反不安定性が混在した病態であると考えられた。本研究で示されたスラストの所見は,膝関節における衝撃吸収能力の低下,膝外側構成体の過大な伸張ストレス,膝内側コンパートメントの圧縮応力の増大を示唆し,膝OAの主要な悪化因子と考えられた。【理学療法学研究としての意義】膝OAにおけるスラストの動態を詳細に解析した研究は少ない。スラストは膝OAに認められる病的運動の代表的なパターンであると考えられる。膝OAの保存療法においては適切な膝屈曲運動の獲得,脛骨の回旋マルアライメントの是正,そして内反不安定性の制御が重要であると考えられる。本知見は膝OAの運動療法や装具/足底板療法の発展,ひいては予防医学や予後予測に寄与することが期待される。
  • 佐藤 大志, 浅井 友詞, 天野 徹哉, 安田 裕規, 岡田 真実, 石井 康太, 日高 三智, 水谷 陽子, 水谷 武彦
    セッションID: 0028
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は,加齢とともに変形などの症状が経年的に進行する退行変性疾患である。治療は保存療法が第一選択であり,発症の段階から進行予防に配慮したうえで,長期的な展望を考慮する必要がある。膝OA患者に対する理学療法では,運動機能障害の進行を予防すること,すなわち歩行能力を維持することが重要な目標の1つである。長期的な予後を踏まえて理学療法介入を行う疾患に対しては,客観的な指標を用いて将来の運動機能の変化を予測し,治療方針の決定や理学療法の継続を判断する必要がある。本研究では,保存療法を実施している膝OA患者の歩行能力の変化と身体機能との関連性を検討し,歩行能力の変化を予測する身体機能的因子の検査特性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,当院にて膝OAと診断され,2009年2月から2013年11月まで理学療法を継続していた13名(男性3名,女性10名,年齢76.0±5.5歳)であった。取込基準は15m以上の屋内独歩が可能な者とし,除外基準は1ヵ月以上理学療法を中止した者,調査期間中に下肢の骨折や手術の既往が発生した者とした。対象者の1週間の外来理学療法回数は1.2±0.4回であった。対象者への理学療法として,大腿四頭筋運動を中心とした下肢筋力強化運動や膝関節を中心とした下肢関節可動域運動の運動療法と,温熱療法や電気療法を中心とした物理療法を実施した。研究デザインは後ろ向き研究で,ベースライン調査として膝伸展筋力・膝屈曲筋力・疼痛(VAS)・膝関節伸展角度(膝伸展ROM)・膝関節屈曲角度(膝屈曲ROM)と5m最大歩行時間を診療記録より調査した。さらに,追跡調査としてベースライン調査から約5年後(日数1622.1±105.0日)の5m最大歩行時間の測定を行った。統計解析は,5m最大歩行時間の測定標準誤差(SEM)=0.35から最小検知変化(MDC)=0.99を算出し,「追跡調査時の5m最大歩行時間-ベースライン時の5m最大歩行時間」の変化量が0.99秒未満の者を歩行能力維持群:「1」とし,0.99秒以上の者を歩行能力低下群:「0」として分け,2群の身体機能の比較を行った。続いて,2群の比較により有意差が認められた身体機能に対してReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線分析を行い,カットオフ値を求め,検査特性を算出した。統計ソフトはR 2.8.1を使用し,有意水準は両側5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】2標本t検定の結果,膝伸展筋力に有意差が認められた(p=0.047)。なお,歩行能力維持群の膝伸展筋力は1.47±0.31Nm/kg,歩行能力低下群の膝伸展筋力は1.01±0.43 Nm/kgであった。さらに,ROC曲線分析の結果,曲線下面積(AUC)は0.80(p=0.046)であり,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであった。また,この時の特異度は60.0%,陽性尤度比(以下,LR+)は2.5であった。【考察】本研究の結果より,歩行能力維持群は歩行能力低下群に比べて,ベースライン時の膝伸展筋力が高値を示した。また,ROC曲線分析の結果,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであり,その時のLR+が2.5であったことから,膝伸展筋力検査は歩行能力維持の確定診断に有用である可能性が示唆された。すなわち,理学療法評価時に膝伸展筋力検査が1.10 Nm/kg以上であった場合は,一般的に実施されている膝OA患者に対する理学療法介入によって,歩行能力を維持できる可能性が示唆された。膝伸展筋力検査は,保存療法を実施している膝OA患者の長期的な歩行能力の変化を予測できる可能性があるため,治療方針の決定や理学療法の継続を判断する際に役立つと考える。今後は本研究を基に身体機能の長期的変化を含めた前向き研究や介入研究を行い,より詳細な検討を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】膝OAなどの退行変性疾患に対しては運動機能を維持することが重要な目標の1つであり,適切なプログラムの立案や理学療法の継続を判断する際,客観的な指標を用いることは有用である。本研究の結果から,膝伸展筋力検査が1.10Nm/kg以上であった場合は,膝OA患者に対する一般的な理学療法介入により,歩行能力が維持できる可能性が示唆された。本研究は,理学療法の長期的フォローアップの有効性を示すための一助になると考える。
  • 山科 俊輔, 天野 徹哉, 藤原 裕輝, 玉利 光太郎
    セッションID: 0029
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】変形性膝関節症(膝OA)患者の異常歩行に対する先行研究では,動作解析装置を用いて,関節モーメントなどを定量的に評価したものが報告されている。しかし,膝OA患者に対する異常歩行パターンの定量的評価は,高価な機器を要するため,臨床において積極的に実施されていないのが現状である。一方,臨床での観察に基づく異常歩行の評価は,視点の違いや経験年数の違いにより見解が異なることが多い。そのため,再現性の高い異常歩行の評価が行えているとは言えない。また,数値化が可能で再現性の高いTimed Up&Go(TUG)や日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(JOA)では各患者の歩行障害を把握しきれない。Lateral Thrust等の異常歩行パターンの繰り返しは変形重症化の重要なマーカーとして知られている。したがって,再現性も高く,各患者による障害把握のできる体系化された尺度を開発する必要性は高い。本研究の目的は,膝OA患者を対象に臨床応用可能な異常歩行尺度を考案し,信頼性と妥当性を明らかにすることである。【方法】対象は当院にて膝OAと診断された32名(男性5名,女性27名)とした。除外基準は,膝関節以外の疼痛・関節可動域制限が歩行の著明な制限となっている者とした。膝OA異常歩行尺度は修正歩行異常性尺度(GARAS-M)を参考に,歩行リズム(項目I),前方への推進力(項目II),側方への動揺性(項目III),足部の接地(項目IV),股関節の運動範囲(項目V),肩関節の運動範囲(項目VI),上肢の振りと踵接地の同調性(項目VII)の計7項目とした。各項目0点または1点で採点して総合点を算出し,最低点は0点(異常なし),最高点は7点(著しい異常)とした。計測方法は,3mの歩行路を通常速度で独歩にて1往復し,ビデオカメラを固定した状態で前額面と矢状面の撮影を行った。採点方法は一度撮影した動画を再生ソフト(movie.M)にて観察した。統計処理として,膝OA異常歩行尺度の信頼性は3名の評価者でKappa係数にて合計点,各項目の一致率を検討した。収束的・弁別的妥当性については,膝OA異常歩行尺度と5m最大歩行速度,TUG,リハビリテーションにおける自己効力感(SER)を計測し,Spearmanの順位相関係数にて検討した。同時的妥当性については,変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の合計得点,およびその各下位尺度を目的変数とし,説明変数を膝OA異常歩行尺度,JOA,TUGとした。階層的重回帰分析にて交絡因子(年齢,性別,BMI,K-L分類)を強制投入したのち,ステップワイズ法にて交絡因子から独立して目的変数に寄与する変数を抽出した。解析ソフトはSPSSを使用し,有意水準は両側5%とした。【説明と同意】本研究は倫理委員会の承認(承認番号:25-002)を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】膝OA異常歩行尺度のKappa係数(p<0.05)は合計点が0.63,項目Iが0.61,項目IIが0.87,項目IIIが0.67,項目IVが0.79,項目Vが0.75,項目VIが0.70,項目VIIが0.66であった。膝OA異常歩行尺度と各尺度の相関係数(ρ)は,5m最大歩行速度にてρ=-0.84,TUGにてρ=0.74であり,ともに有意な相関が認められたが(p<0.05),SERは有意な相関が認められなかった。同時的妥当性については,JKOMの健康状態を目的変数としたモデルにおいて,膝OA異常歩行尺度は交絡因子の影響からは独立して,目的変数に有意に寄与(p=0.016)していた一方,TUG,JOAはモデルから除外された。他のモデルは3因子ともに関連性は認められなかった。【考察】膝OA異常歩行尺度は一定の再現性を有し,5m歩行速度やTUGと相関が認められたことにより収束的妥当性を有していることが示唆された。また,SERと相関が認められなかったことにより,一定の弁別的妥当性も有しているといえる。さらに,同時的妥当性については,TUGやJOA以上に膝OA患者の主観的な健康度と関連があり,患者の年齢,性別,BMI,K-L分類の影響からも独立していることが示唆された。これは自身の身体に異常な部位があるという認識であり,自覚的な違和感を抱くということである。そのため,通院回数の増加や将来の変形重症化に大きく影響する可能性がある。しかし,膝OA患者の日常生活や活動状態を交絡因子の影響から独立して説明する力を持たないことにより,日常生活や活動の変容に伴う異常歩行パターンを捉えきれていない可能性がある。今後の課題として,身体機能との関連性,将来のイベントや治療効果の予測妥当性,および反応性を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本尺度は,膝OA患者の特異的な一面である異常歩行パターンを数値化することが可能であり,理学療法の専門性を有した尺度のベースとなる可能性がある。
  • ~運動学的・運動力学的違いから~
    伊藤 俊貴, 小林 巧, 山中 正紀, 武田 直樹, 青木 美佳, 小岩 幹
    セッションID: 0030
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下膝OA)により膝内反変形を呈す患者の歩行の特徴として,患側立脚期の際の外部膝関節内転モーメント(以下KAM)の増加が挙げられており,膝OA患者では限局して膝内側コンパートメントへのストレスが増大していくことが考えられる。この膝内側へのストレスを軽減させる方法として,これまで歩行修正の報告がされており,特に臨床上簡便に行えるものとして,toe out歩行・下肢内転内旋歩行・内側荷重歩行が報告されている。しかし,これらの歩行修正を運動学的・運動力学的な違いから比較,検討した報告はみられない。本研究の目的は,自然歩行,toe out歩行,下肢内転内旋歩行,内側荷重歩行の4つの歩行パターンの運動学的および運動力学的な違いについて検討し,膝OA患者におけるより有効な歩行修正方法について検討することである。【方法】対象は膝OA患者9名(男性1名,女性8名,平均年齢は68.2±6.5歳)とした。膝OAの病期分類にはKellgren-Lawrence分類を使用し,対象者はいずれもgradeII~IVの進行期から末期と診断された。除外因子は膝OA以外の整形疾患と補助具を使用し歩行する者とした。データ収集には赤外線カメラ8台からなる三次元動作解析装置(CORTEX2.5)と,床反力計3枚(AMTI)を用いて記録し,32個の赤外線反射マーカーをヘレンヘイズマーカセットに準じて貼付した。なお,KAMは2相性をとるため立脚初期のピークを第一ピーク,立脚後期のピークを第二ピークと定義し,この時の歩行時患側膝関節角度および外部モーメントを算出した。膝関節角度に関しては,屈伸および内外反角度を測定した。また,膝関節モーメントに関しては屈伸・内外転外部モーメントを測定した。各歩行修正に対する口頭指示は一定とした。自然歩行は「まっすぐ前を見ていつも通りに歩いてください」toe out歩行は「(角度計で15° toe outしたあとに)つま先をこのまま維持して歩いて下さい」,下肢内転内旋歩行は「両腿,両膝を近づけるように歩いて下さい」,内側荷重歩行は「足の外側に体重をかけないように歩いて下さい」とそれぞれ指示した。統計学的分析は,KAMの第一および第二ピーク時の各歩行パターンの膝関節角度と外部モーメントの比較に一元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査実施前に研究についての十分な説明を行い,研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。【結果】KAM第一ピーク時では,下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行が自然歩行と比較して有意にKAMを減弱させた(p<0.05)。また,この時の膝関節角度は,矢状面においてtoe out歩行が下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行と比較して有意に屈曲角度が大きく(p<0.05),また,前額面においてtoe out歩行が内側荷重歩行と比較して有意に内反角度が大きかった(p<0.05)。KAM第二ピーク時では,膝関節角度は矢状面においてtoe out歩行が下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行と比較して有意に屈曲角度が大きかった(p<0.05)。【考察】本研究結果から,自然歩行と比較して下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行がKAM第一ピーク値を有意に減弱させることが示され,膝OA患者への下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行の有用性が示唆された。また,膝関節角度に関してはKAM第一ピーク時,第二ピーク時共にtoe out歩行が下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行と比較して屈曲しており,かつ,KAM第一ピーク時には内側荷重歩行と比較して内反していることが観察された。Jenkynら(2008)はtoe out歩行は立脚期を通して膝屈曲角度を増加させ,立脚前期においては膝内反角度も増加させるとし,動的な膝関節マルアライメントを導くと報告している。toe out歩行と比較し,下肢内転内旋歩行は矢状面,内側荷重歩行は矢状面および前額面のマルアライメントを軽減させる可能性が示唆された。以上より,3つの歩行修正パターンのうち下肢内転内旋歩行と内側荷重歩行がKAM第一ピークや,矢状面・前額面での膝関節角度を減弱させることから,より有効な歩行修正である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者に対するリハビリテーションとして,病期の進行を防ぎ疼痛軽減を図るためにKAMを減少させることは重要である。臨床において膝OA患者へ歩行を指導するにあたり,本研究において観察された各歩行修正の運動学的・運動力学的な違いは臨床上有用な知見である。今後,各歩行修正における筋活動量の検討など,KAMに与える影響をより詳細に調査していきたい。
  • 佐藤 翔平, 石川 大樹, 大野 拓也, 堀之内 達郎, 前田 慎太郎, 谷川 直昭, 福原 大祐, 中山 博喜, 江崎 晃司, 齋藤 暢, ...
    セッションID: 0031
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷に対し,靭帯再建術を行った際には鏡視上,軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後に行う抜釘術に伴った再鏡視時に,膝蓋大腿関節(以下,PF)の軟骨損傷を来たしているケースが散見される。しかし,これらの症例に対する詳細な報告は少ない。そこで今回我々は,これらの症例の特徴や傾向を検討したので報告する。【方法】2010年1月から2011年12月までに当院にて膝屈筋腱を用いた解剖学的二重束ACL再建術を行った219例のうち,再鏡視し得た症例は172例で,このうちACL再々建例や膝関節複合靱帯損傷例,50歳以上の症例,初回再建術時に既にPF軟骨損傷が見られていた症例等を除外した84例を今回の対象とした。内訳は男性40例,女性44例,年齢29.4±9.6歳,再建術から再鏡視までの期間は12.1±2.6ヶ月であった。術後は全例に対し,ほぼ同一プログラムを実施した。再鏡視時にPF軟骨損傷がなかった症例をA群66例(男性33例,女性33例),再鏡視時にPF軟骨損傷が発生していた症例をB群18例(男性7例,女性11例)とした。軟骨損傷はOuterbridge分類を用いて評価した。検討項目は各群の手術時年齢,男女比,BMI,受傷から再建術までの期間,再建術から再鏡視までの期間,筋力,膝前面痛やキャッチングの発生率,以上7項目とした。筋力は全群に対して術後6ヶ月経過時より等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社製)を用いて膝伸展筋力を測定した。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比,及び術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力体重比の値の変化量の比較にはMann-Whiteny U検定を用い,膝前面痛やキャッチングの発生率はχ二乗検定を用いた。その他の項目は対応のないt検定を用いた。統計学的検討にはSPSS Statistics 17.0Jを使用し,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の規定に基づき,説明書および同意書を作成し,研究の目的,結果の取り扱いなど十分に説明を行った後,研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。【結果】手術時年齢はA群29.6±10.5歳,B群36.0±5.4歳でありB群が有意に高齢であった(p<0.01)。男女比はA群男性33例,女性33例,B群男性7例,女性11例,BMIはA群22.0±2.7,B群23.0±3.1,再建術から再鏡視までの期間はA群11.8±2.2ヶ月,B群13.3±3.5ヶ月,受傷から再建術までの期間はA群27.1±59.8ヶ月,B群37.2±76.8ヶ月であり,いずれも両群間に有意差はなかった。術後6ヶ月時の膝伸展筋力体重比(60%/sec)はA群69.4±25.6%,B群57.5±17.1%であり,A群が有意に高かった(p<0.05)。術後6ヶ月と12ヶ月時の筋力の変化量はA群28.6±23.4,B群10.2±12.6であり,A群が有意に高かった(p<0.01)。術後6,12ヶ月時での膝前面痛やキャッチングはそれぞれA群9例(14.1%),6例(6.0%),B群4例(22.0%),9例(50.0%)に認め,12ヶ月時では二群間に有意差を認めた(p<0.01)。【考察】ACL再建時に既にPF軟骨損傷を有していた症例は術後膝伸展筋力が低値だったことが報告されている(Jarvela 2001)。今回の研究では,ACL再建術時にPF軟骨損傷がないにも関わらず,約一年後の再鏡視時に軟骨損傷を確認できたケース(B群)は,術後6ヶ月の時点での膝伸展筋力において低値を示し,術後6ヶ月と12ヶ月での膝伸展筋力の変化量においても有意に低値であった。また,B群の方が有意に年齢が高かった。臨床症状に関しては,PF軟骨損傷が認められなかった症例(A群)も膝前面部の疼痛やキャッチングを認めたため,臨床症状から一概にPF軟骨損傷を疑うことはできないが,B群では術後6ヶ月から12ヶ月にかけて徐々に膝前面部の臨床症状が出現してくる傾向にあった。以上より,ACL再建術後に同一プログラムを実施しているにも関わらず,術後6ヶ月から12ヶ月での膝伸展筋力の改善が乏しく,膝前面部の愁訴を残す症例や,比較的年齢の高い症例では,PF軟骨損傷の発生に留意した理学療法を行う必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】ACL再建術後に発生したPF軟骨損傷は,術後の膝伸展筋力の回復に悪影響を及ぼし,且つ膝前面痛やキャッチングを発症させる因子となりうるため,ACL再建術後は再建靭帯のみならず,PF軟骨損傷に留意した理学療法が必要である。
  • OsiriXを用いた検討
    加藤 茂幸, 浦辺 幸夫, 大岡 恒雄, 白川 泰山
    セッションID: 0032
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝関節前十字靭帯(ACL:anterior cruciate ligament)損傷において,非接触型(ノンコンタクト)ACL損傷は女性に多く発生している。このノンコンタクトACL損傷のリスクファクターとして環境要因,解剖学的要因,ホルモン要因,神経筋要因などの因子が挙げられる。先行研究においてX線写真から大腿骨顆間窩の幅を測定し,顆間窩の狭小とノンコンタクトACL損傷との関係性が報告されている。ノンコンタクトACL損傷の発生機序のひとつとして,大腿骨顆部と靱帯の衝突による損傷が考えられ,顆間窩の幅のみならず形状を立体的に捉えて検討する必要があると考える。そこで本研究では,オープンソースソフトウェアOsiriXを用い,磁気共鳴画像から大腿骨顆間窩の容積とACLの体積を測定し,女性のACL損傷者と健常者を比較検討することを目的とした。【方法】対象は,ACL損傷女性群:片側ACL再建女性11名の反対側健常膝関節11膝(平均年齢21.2歳,平均身長160.1cm,平均体重54.2kg)と,女性群:健常女性10名の右10膝(20.2歳,163.1cm,58.8kg)だった。画像はワイドオープンMRI装置にて膝関節プロトン密度水平断像を撮影した。撮影条件は冠状面および矢状面にてACLに対し垂直になるように位置決めを行い,2mm間隔スライス面の画像データをDICOM形式で書き出した。画像の解析にはオープンソース画像解析ソフトOsiriX(v.4.1.2)を用いた。等間隔ごとの水平断像から大腿骨顆間窩とACLの断面を抽出し,OsiriXを用いて体積計算を行った。本研究では両顆の間の空間を顆間窩として規定した。これら体積計算に加えて,ACL体積比率(顆間窩容積に占めるACL体積の割合)も求めた。また,顆間窩容積とACL体積の相関についても検討した。統計はStudent’s t-testとPearson’s相関係数を用い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究目的および研究内容を書面にて説明し,同意書にサインを得たうえで実施した(倫理委員会:承認番号119001)。【結果】ACL損傷女性群の大腿骨顆間窩の容積は4804mm3,ACL体積は1182 mm3だった。女性群は5680 mm3,1372 mm3だった。大腿骨顆間窩の容積については,群間に有意差が認められた(p<0.05)。一方,ACL体積およびACL体積比率(顆間窩容積に占めるACL体積の割合)は差を認めなかった。また,顆間窩容積とACL体積の相関は有意であった(r=0.6,p<0.01)。【考察】画像解析を行うソフトウェアは数多くあるが,その中でOsiriXはMRIやレントゲン撮影装置から出力されるDICOM形式の画像を表示し解析するオープンソースソフトウェアである。このソフトの有用性は高く,今回はOsiriXにてスライス断面画像から体積計算を行った。その結果,ACL損傷女性の顆間窩容積は健常女性に比べ小さく,大腿骨顆間窩幅の狭小が損傷リスクを高めているという先行研究を支持した。Souryal(1988)は2年間の前向き研究を行い,期間中にノンコンタクトACL損傷を起こした高校スポーツ選手のNotch width indexが有意に低値であることを報告した。その損傷メカニズムについては,膝関節外反位での脛骨回旋時に大腿骨外側顆とACLが接触を起こし損傷に至るのではないかと考えられる。ACL体積比率(顆間窩容積に占めるACL体積の割合)についてFayad(2008)は男女差がないことを報告している。また,Simon(2010)は顆間窩容積とACL体積の相関を報告している。本研究においては,ACL損傷群と非損傷群のACL体積比率には差がなく,顆間窩容積とACL体積の相関は有意であった。これらから顆間窩幅狭小の膝関節においてはACL自体も細いことが推察される。したがって,大腿骨顆間窩幅の狭小が靱帯との衝突による損傷リスクを高めているという可能性に加えて,靱帯自体の体積が小さく細いことがノンコンタクト損傷のリスクになりえるのではないかと考えられた。今後は3次元モデルを用いたシミュレーションを検討してゆく予定である。【理学療法学研究としての意義】ノンコンタクトACL損傷のリスクファクターの解明は損傷予防につながり,損傷予防教室および再発予防の教育に有益な情報となりうる。
  • 宮川 博文, 池本 竜則, 井上 雅之, 中田 昌敏, 下 和弘, 大須賀 友晃, 赤尾 真知子, 本庄 宏司
    セッションID: 0033
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後のリハビリテーション(以下リハビリ)において,受傷前レベルの競技復帰を目標とした場合,膝関節筋力,可動域など傷害部位局所の運動能力の回復に加え瞬発力,全身持久力など全身的な運動能力の回復が必要となる。今回,ACL受傷前の健常な状態での膝関節筋力及び全身的な運動能力測定を実施できたバスケットボール選手の再建術後の運動能力の回復についてフォローアップすることができたので,考察を加え報告する。【方法】症例は19歳女性,WJBLバスケットボール選手であり,バスケットボール試合中に左膝を捻って受傷(非接触型損傷)。受傷後6週で患側骨付き膝蓋腱採取(BTB)による靭帯再建術を施行した。術後リハビリは愛知医科大学ACL再建術後リハビリプログラムに従い,関節可動域エクササイズ,筋力増強トレーニング,スポーツ動作トレーニングそして競技復帰に向けた再発予防プログラムを再建靭帯への保護という観点から,段階的に実施した。運動能力の測定項目は1.等速性膝伸展・屈曲筋力,2.瞬発力,3.全身持久力とした。等速性筋力はCYBEX社製NORMを用い角速度240・180・60deg/secにおける膝伸展,屈曲筋力(Nm/kg)を,瞬発力はコンビ社製パワーマックスを用い最大無酸素パワー(watts/kg)を,全身持久力はフクダ電子社製マルチエクササイズテストシステムML-1800を用い予測最大酸素摂取量(ml/kg/min)を測定した。測定時期は,①受傷2ヵ月前,②術前(受傷後1ヵ月),③術後8ヵ月(チーム復帰時),④術後12ヵ月(チーム復帰後4ヵ月),⑤術後20ヵ月(チーム復帰後12ヵ月)とした。等速性膝筋力は全ての時期に,瞬発力,全身持久力は②術前を除く4つの時期に測定した。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告として紹介する対象者については,本研究の趣旨,内容,倫理的配慮および個人情報の取り扱いに関し,十分な説明を行い,書面にて研究協力の同意を得た。【結果】1.等速性膝伸展・屈曲筋力:測定時期①~⑤の60deg/secにおける膝伸展筋力(Nm/kg)は①患側2.03/健側2.33,②0.84/2.36,③2.54/3.04,④2.39/2.34,⑤2.81/2.81であり,患側,健側共に術後8ヵ月には受傷前以上に回復し,その後も維持され,チーム平均より優れていた。屈曲筋力においても同様の結果であった。2.瞬発力:最大無酸素パワー(watts/kg)は①11.8,③12.4,④12.7,⑤14.5であり,膝筋力と同様,術後8ヵ月には受傷前以上に回復した。3.全身持久力:最大酸素摂取量(ml/kg/min)は①50.5,③47.4,④44.6,⑤51.1であり,膝筋力,瞬発力と異なり,受傷前はチーム平均より高値であったが,術後8ヵ月では受傷前レベルに回復せず,チーム平均より低値であった。術後12ヵ月ではさらに低下を示し,術後20ヵ月で受傷前レベルに回復した。【考察】術後機能評価は一般的に術前との比較を基本とする。しかし,この術前は受傷後であり,筋力において患側は傷害に伴い機能低下し,健側であっても受傷後の安静,運動制限期間により機能低下し健常な状態ではない可能性がある。本症例は受傷2ヵ月前の健常な状態でのチームメディカルチェックによる運動能力テスト結果と術後運動能力の回復を比較し得た希少な症例であった。膝筋力,瞬発力は術後8ヵ月で,受傷前の健常レベル以上に回復し,我々のACL再建術後リハビリプログラムの有効性が確認できた。しかし,全身持久力は術後8,12ヵ月において受傷前レベルに回復しなかった。今回,全身持久力トレーニングは,自転車エルゴメーター,ステップマシン,トレッドミル,水中運動を用い再建靭帯への負荷に注意し,段階的に実施したが,筋力,瞬発力で行っているような定期的な評価を実施せず行ったことが,回復を遅らせた一因と考える。通常,ACL再建術後は手術部位に着目した局所の安定性や可動性,筋力,さらに瞬発力までの評価に止まりがちであり全身持久力まで評価することは少ない。今回の報告は,一例ではあるものの,チーム復帰時に元の競技レベルと比べ,最大酸素摂取量つまり全身持久力が改善されていないことが示され,スポーツ復帰における全身持久力評価の重要性が示唆された。今後は,術後プログラムに競技特性を考慮し,筋力,瞬発力,ステップワーク等の無酸素性運動能力に加え,全身持久力を向上させるため,局所負荷に応じた有酸素性運動プログラムを評価に基づき取り入れることが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】本症例より,ACL再建術後の競技復帰を目標としたリハビリは,膝関節機能に加え,競技特性を考慮した無酸素及び有酸素運動能力の評価,トレーニングの重要性が示唆された。今後,特にこの有酸素運動能力について検討を進め,より安全な競技復帰に寄与したいと考える。
  • 岩根 浩二, 舌 正史, 後藤 美紀子, 齊城 一範, 長谷川 敏史, 長野 真, 河野 茂, 本城 邦晃, 原 邦夫
    セッションID: 0034
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】スポーツ場面において,敏捷性はパフォーマンスを左右する要因の一つであると考える。敏捷性の評価としてスポーツ選手に立位ステッピングテストを用いその有効性が報告されている。我々は,第48回日本理学療法学術大会においてこのテストを前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者のスポーツ復帰時点で実施し,下肢の複合関節運動の協調性や動作の正確性について報告した。今回,この複合関節運動を構成する基礎となる単関節に注目し,ステッピング回数と単関節筋力との関係性を検討した。【方法】対象者はスポーツ中にACL損傷し当院で再建術を施行後,本研究に協力が得られた22名(男性11名,女性11名)とした。平均年齢は21.5歳(15~45歳)であった。対象者の測定条件は,術後6ヵ月以上が経過し医師より競技復帰が許可された患者とした。対象者には,立位ステッピングテストと股関節および膝関節屈曲,伸展の等速性筋力測定を実施した。立位ステッピングテストでは立位で股関節軽度屈曲,膝関節軽度屈曲した姿勢から5秒間全力ステッピング動作を行い足底が床から完全に離床した状態を1回とし回数を求めた。この測定には,デジタルカメラEX-FC150(CASIO社製)のハイスピードモードで撮影した動画を用いた。股関節および膝関節屈曲,伸展の等速性筋力測定にはCYBEX NORM(メディカ社製)を用いた。健側と患側それぞれ60deg/sec,180deg/secの角速度で測定し,ピークトルク体重比(以下%BW)で評価した。統計処理はSPSSを用いてステッピング回数と膝関節および股関節の屈曲,伸展筋力との相関をスピアマンの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究の目的や内容および方法を説明し研究協力の同意を得た。【結果】立位ステッピングテストのステッピング回数は,平均59.32±4.93回であった。ステッピング回数と等速性膝関節屈伸筋力との相関は,60deg/secでは健側,患側ともに膝関節伸展,屈曲すべてで相関は示さなかった。180deg/secでは健側膝関節伸展がr=0.585(P<0.01)患側膝関節伸展がr=0.431(P<0.05)健側膝関節屈曲がr=0.532(P<0.05)患側膝関節屈曲がr=0.569(P<0.01)で有意な正の相関を示した。ステッピング回数と等速性股関節屈伸筋力との相関は,60deg/secでは,患側股関節伸展がr=0.563(P<0.01)患側股関節屈曲がr=0.442(P<0.05)で有意な正の相関を示した。180deg/secでは,健側股関節伸展がr=0.476(P<0.05)患側股関節伸展がr=0.494(P<0.05)患側股関節屈曲がr=0.568(P<0.01)で有意な正の相関を示した。60deg/secの健側股関節伸展,屈曲と180deg/secの健側股関節屈曲はステッピング回数との間に相関は示さなかった。【考察】スポーツ場面では,相手と距離をつめる,相手と距離をとる,相手をかわすなどの一瞬の判断を必要とする場面がある。状況が刻々と変化する中で素早いステップが要求される。ACL再建術後の競技復帰において正確で素早いステップの習得はパフォーマンス向上とともに自らの身体を守ることにつながると考える。結果より,ステッピング回数と筋力との関係性は180deg/secでの健側および患側膝関節伸展,屈曲筋力とステッピング回数との間に正の相関を認めた,また,180deg/secでの患側股関節伸展,屈曲筋力とステッピング回数との間においても正の相関を認めた。これらのことから,ステッピング動作中の膝関節および股関節の動きは,速やかに支持側と離床側が切り換わることが重要であると考える。我々は,ステッピング動作の正確性について過去に報告した。早く離床することだけでなく,受傷は,支持側に発生するため,膝関節が適切なアライメントで支持できているかも評価する必要があると考える。また,60deg/secでの患側股関節伸展,屈曲筋力とステッピング回数との間に正の相関を認めた。このことより,股関節伸展筋,屈曲筋が協調して働きステッピング動作中の骨盤の前傾を一定にたもち骨盤を安定させていると考える。この骨盤の安定性が支持側と離床側の素早い切り換えを可能とし,ステッピング回数に影響を与えたと考える。以上より,ACL再建術後患者のステッピング回数向上には膝関節伸展,屈曲筋力のみならず,股関節にも注目し60deg/sec,180deg/secでの股関節伸展,屈曲筋力の評価が重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】早期の競技復帰を目指す患者にとって,敏捷性の評価やトレーニングができない時期に膝関節筋力および患部外の股関節筋力を向上させることへの動機づけやそのリハビリテーションへの取り組みに対してのフィードバックの一助になると考える。
  • 運動課題前後での変化
    森田 正輝, 多賀谷 伸一, 森永 亘, 永吉 由香
    セッションID: 0035
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝伸展開放性運動を行うことで脛骨前方移動量(以下,移動量)が増加する。移動量は膝関節安定性の指標とされることが多く,移動量の増大は膝靭帯損傷を招くリスクになると考えられている。しかし,実際のスポーツ動作は単的な動きのみならず,様々な動きが複合して構成されており,この時の移動量の変化を知ることは,前十字靱帯(以下,ACL)損傷予防につながると考える。我々は,先行研究においてACL再建術後患者に対し,スポーツ動作を見越した運動課題を与えることで移動量が増加することを報告した。今回,同様の運動課題を用い,移動量の変化に加えACL再建術後に重要視される膝筋力との関連について検討した。【方法】対象は,片側ACL再建術を施行し1年以上経過した女性(平均年齢22.2±2.9歳,術式は全てBTB法)11名22膝(術側11膝・非術側11膝)とした。被検者にジョグ・ダッシュ・ジャンプ・スクワットで構成した運動課題を一定量行わせ,運動課題前後での移動量・膝筋力を測定した。移動量は,ロリメーター(日本シグマックス社製)を用い,Lachman testの肢位で3回ずつ測定した。膝筋力は,COMBITCB-2(ミナト医科学株式会社)を用い,180°/secの等速運動にて膝屈曲・伸展の平均筋力をそれぞれ算出した。得られた測定値を,術側・非術側の2群に分類し,それぞれ運動前・運動後で比較し,Wilcoxon符号付順位和検定を行った。さらに,移動量・膝筋力の運動前後での増加量を算出し,ピアソンの相関係数を用いて検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し,参加に同意を得て行った。【結果】移動量は術側の運動前5.80±0.73mm,運動後6.85±0.91mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。非術側も運動前5.24±0.46mm,運動後6.18±0.47mmで有意差を持って増加した(p<0.01)。膝屈曲筋力は術側の運動前4.79±1.26kgf/m,運動後5.03±1.21kgf/m,非術側は運動前4.84±1.94kgf/m,運動後5.14±1.43kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。膝伸展筋力は術側の運動前9.25±1.17kgf/m,運動後9.47±0.98kgf/m,非術側は運動前9.44±1.23kgf/m,運動後9.57±0.97kgf/mでいずれも有意差は認めなかった。屈曲・伸展筋力とも大きな変化は認めなかったが,全てにおいて上昇する傾向にあった。運動前後での移動量と膝筋力の関係に相関関係は認められなかった。【考察】先行研究と同様,運動課題前後で術側・非術側とも移動量が増大した。Davidによると,ACLは脛骨の前方制動に約85%関与しており,残りはその他の軟部組織が担っていると報告されている。ACL自体に伸張性はほとんどなく,今回の移動量の増加は,運動効果により軟部組織の柔軟性が増大したことによるものである可能性が高い。膝筋力においては,運動を行ったにも関わらず筋力低下は起きず,むしろ微弱ながら増強する傾向にあった。今回の運動課題は我々がアスレティックリハビリの前運動として用いる運動と類似したものであり,筋の賦活により筋力が増強する傾向にあったと考えられる。また,今回の結果より筋力と移動量の関連が薄いことが実証された。ACL損傷は筋疲労との関連を示唆している報告も散見されるが,筋疲労は起きずとも危険因子の一つである,移動量の増加が認められていることを念頭に置く必要がある。【理学療法学研究としての意義】我々,理学療法士はスポーツリハビリを実施する際に筋力に着目してしまいがちであるが,筋力のみでは関節の弛緩性は抑えられないことがわかった。今回の研究結果より,ACL再建術後患者の復帰時期の理学療法場面においても筋力のみに主眼を置くのではなく,動的場面で膝外反しないなどの動作指導・練習を行う必要性が示された。また,移動量が運動後に増加していたという結果を受け,スポーツ活動を見越した真の移動量を測定するのであれば,軽運動を行った後,或いはホットパックの温熱等により膝周囲組織の柔軟性を向上した上で測定することが望ましい。
  • 病棟専従スタッフ設置による効果の検討
    菊池 謙一, 高橋 忠志, 尾花 正義
    セッションID: 0036
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】当院ではより高度な急性期治療と医療連携の強化を実現すべく2011年8月より脳卒中センター内にStroke Care Unit(以下SCU)を開設した。当院SCUは6床の専有ベッドに対して病棟専従の理学療法士(以下PT)が一名配置されている。専従PTは患者が入院後,可及的早期にリハビリテーション(以下リハ)を実施し,離床状況について多職種との情報共有をはかっている。当院でのSCU開設前の体制としては,脳卒中センター内に急性期患者専有の病床を有しているものの,病棟専従のPTの配置はなく,カンファレンスや情報交換の機会は少ない状況であった。SCU開設前後を比較すると,より充実した環境にて急性期の脳卒中リハが行えるようになったと思われるが,その効果を明確に示す必要がある。先行研究では,SCU内でのリハ状況について報告されたものは散見されるものの,SCU開設前後でのリハ効果を検証した報告は極めて少ない。急性期の脳卒中患者における診療形態は施設によって多岐にわたり,専従の療法士の従事内容も施設により異なり,各施設においてSCU開設前後における検証は必要であると考える。本研究の目的は脳卒中患者のリハ状況,転帰先,在院日数,合併症発生率などについてSCU開設前後を比較し,病棟専従のPTが配置されたことによる脳卒中患者への影響・効果を分析することである。【方法】対象は2010年8月~2012年7月に当院に入院した脳卒中患者427名(リハ中止となった患者,転院してきた患者を除く)とした。対象をSCU開設前群(2010年8月~2011年7月に入院),SCU開設後群(2011年8月~2012年7月に入院)の2群間に分け,後方視的にデータ抽出を行い,各分析項目に関して比較検討を行った。分析項目は転帰先,在院日数,理学療法介入までの日数,転帰時の端座位保持自立率,SCU入院上限日数である入院後14日以内の理学療法単位数,合併症(再発・梗塞巣,出血範囲拡大・誤嚥性肺炎)の発生率とした。データ抽出の際,入院当日は1病日とし,再発の定義は,画像検査上,新たな梗塞巣,また出血がみられた場合とした。また,全体の比較に併せて,主な転帰先である自宅退院群,回復期病院への転院群についても各項目別に比較した。データ解析は在院日数,介入までの日数,単位数についてはMann Whitney’s U testにて,端座位保持自立率,合併症発生率については,フィッシャーの正確確率検定にて比較し,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院の倫理委員会にて承認をえて(承認番号2407)から実施した。【結果】開設前/後における各項目の比較では,介入までの日数の有意な短縮(3.1±1.9/2.3±1.5日),理学療法単位数の有意な増加(11.9±4.7/15.2±6.2単位)がみられた。また,自宅退院群,回復期病院への転院群における比較においても,介入日の有意な短縮,単位数の有意な増加をみとめ,回復期病院への転院群においては在院日数の有意な短縮(45.7±35.9/37.9±21.6日)がみられた。合併症発生率における開設前後の比較では再発にて有意な増加(1.5/5.7%)がみられた。その他の項目については有意差はみられなかった。【考察】開設前後の比較では,理学療法介入までの日数が有意に短縮し,理学療法単位数の有意な増加をみとめた。この理由として,PTが病棟専従になることにより,主科担当医師やリハ科医師,療法士間の連携が向上し,より早期から,必要な症例に充実したリハの提供が可能になったと思われる。先行研究では,早期から一日あたりの訓練量を多く行うと,脳卒中発症3ヶ月後の機能障害が改善されると報告されており,本研究においては転帰時の端座位保持自立率では,その効果は示せなかったものの,今後はリハ効果についてもより検討していく必要がある。また,回復期病院への転院群において,開設後に在院日数の有意な短縮をみとめた。この理由として,SCU体制ではカンファレンスの機会が増えたことや,病棟に常に理学療法士が常駐していることで,回診や情報収集でSCUを訪れた主科担当医師やMSWとの情報交換の機会が増え,患者情報の共有が円滑化し,より早期からの予後予測が可能となったことが考えられる。開設後に再発の有意な増加をみとめたが,先行研究では高血圧症が重大な再発因子の一つであると報告されており,本研究でも再発例13例中11例で合併していた。早期離床に伴い特に高血圧症を既往に持つ患者に対してはより慎重にリスク管理を行っていく必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】SCU開設により,脳卒中患者への急性期リハビリテーション環境の充実化を示すことができた。一方,再発例の増加などを認めたため,リスク管理をさらに徹底していく必要性が示された。
  • 大川 雄一郎, 池田 法子, 山田 恵美加, 坂本 実加, 神戸 晃男, 影近 謙治
    セッションID: 0037
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,診療報酬改定により回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟では患者1人に対して1日のリハ実施単位数の上限が6単位から9単位に変更され,充実加算,休日加算が設けられた。回復期リハ病棟では,療法士の増加配置が積極的に行われるようになり,患者1人に対して1日のリハ実施単位数の増加が日常生活活動(以下,ADL)の改善に有効であると報告されている。一方,急性期病棟においては,リハ実施単位数とADL改善に関する報告は少なく,十分なリハ実施単位数の提供がなされているところは少ないのが現状と思われる。今回我々は,急性期脳卒中患者に対してリハ実施単位数がADLの改善に影響するのかを検討し知見を得たので報告する。【方法】対象は2009年10月~2012年3月の間に当院脳神経外科・神経内科に入院し,リハ処方がなされた初発の脳梗塞・脳出血患者で発症2~6週まで継続して評価を行なえた22名とした。性別は男性9名,女性13名,平均年齢66.0±8.8歳であった。病型は脳梗塞14名,脳出血8名であった。除外基準は,①発症2週のFIMの運動項目(以下,運動FIM)が70点以上,②病巣が小脳・脳幹のもの,③重篤な合併症や併存症があり,④整形外科的疾患により著しい疼痛がある者,⑤治療期間中に再発や麻痺の増悪があり,⑥その他著しい認知機能の低下や遅延する意識障害を有する者とした。診療録より基礎情報,ADLの経時的変化として発症2・4・6週の運動FIMスコアを抽出した。次に2~4週・4~6週・2~6週(以下,3期間)における運動FIMスコアの差(以下FIM利得),1日平均リハ実施単位数(実施単位数/実施日数),FIM効率(FIM利得/実施日数)を算出した。その後,3期間のFIM利得の各平均点で,その平均点よりも高いものを高改善群,低いものを低改善群の2群に分け,1日平均リハ実施単位数の差を検討し,さらに3期間のFIM利得とリハ実施単位数の相関を分析した。統計処理は発症2・4・6週の運動FIMスコアをFriedman検定した後,多重比較検定を行った。またMann-WhitneyのU検定で,3期間における高改善群と低改善群の1日平均リハ実施単位数を比較し,さらにFIM利得と1日平均リハ実施単位数をスピアマンの順位相関を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】診療録から得た対象者の個人情報は厳重に管理し,対象者または家族には入院時に本研究の趣旨を説明し同意を得た。【結果】22名の運動FIMスコアの平均点は,発症から2週時32.5±19.9,4週時42.5±22.9,6週時50.1±22.9であり,2~6週にかけて運動FIMスコアは有意に高かった。3期間のFIM利得について,2~4週は10.1±13.2点,4~6週は7.6±7.1点,2~6週は17.6±13.7点であり,2~4週と4~6週で2群のFIM利得には有意な変化はなかった。1日平均リハ実施単位数とFIM効率は,2~4週で3.18±0.69と1.09±1.43,4~6週で3.54±1.09と0.77±0.69,2~6週で3.36±0.80と0.92±0.71であった。高改善群と低改善群で比較すると,2~4週の1日平均リハ実施単位数は高改善群で3.52±0.63,低改善群で2.98±0.64,2~6週の1日平均リハ実施単位数は高改善群で3.81±0.78,低改善群で2.98±0.58であり有意に多かった(p<0.05)。各期間におけるFIM利得と1日平均リハ実施単位数の間に,2~4週と2~6週で有意な相関を認めた(r=0.4,p<0.05)が,4~6週において相関は認められなかった。【考察】近年,急性期病棟では在院日数の短縮が図られ,より効果的なリハが求められている。本研究ではリハ実施単位数の増加が急性期脳卒中患者においてもADL改善に影響するか検討した。その結果,1日の平均リハ実施単位数が1単位(20分)未満の増加においてADL改善に効果を認め,さらに1日の平均リハ実施単位数とADL改善に有意な正の相関を認めたことより,リハ実施単位数の増加はADL改善に影響を与えることが明らかとなった。しかし,1日のリハ実施単位数とADL改善の相関係数はやや低かったため,ADL改善には年齢など他の因子の影響もあると考えられる。1日のリハ実施単位数とADL改善には,発症2~4週で相関を認めたことから,発症早期に重点的に治療時間を増やして,リハを実施することがADL改善により有効と考えられる。今後は症例数を増やし,より詳細な分析を行い,退院時転機などの調査につなげることが必要であろう。【理学療法学研究としての意義】今回の報告では急性期脳卒中患者において,発症2~4週の比較的早期から重点的にリハを実施することで,運動FIMスコアを大きく改善させる可能性があり,より早期に自宅復帰率の向上や回復期リハ病棟への転棟につながる可能性がある。在院日数の短縮が図られる中,急性期病棟においては,より手厚い療法士配置の根拠資料の1つとして役立てられる。
  • 浦川 隆司
    セッションID: 0038
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年,急性期脳卒中リハビリにおいて,早期介入,早期離床が進んでおり,急性期からの積極的なリハビリの必要性が求められるようになっている。脳卒中治療ガイドライン2009においても,廃用症候群を予防し,早期のADL向上と社会復帰を図るために,十分なリスク管理のもとに,できるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められている。当院では2011年9月より365日リハビリ診療体制を開始し,2012年の入院からリハビリ開始まで平均0.8日,入院から離床開始までは平均2.8日となり早期介入,早期離床は進んでいる。そこで,今回リハビリ実施時間を調査し,急性期脳梗塞のリハビリ実施状況について検討した。【方法】2012年10月より2013年1月までに当院へ入院しリハビリ実施した脳梗塞連続212名を対象とし,(男性117名,女性95名,平均年齢75.1±12.0歳,在院日数11.1±7.4日)当院入院中のリハビリ実施日数あたりの単位数について調査した。対象においてリハビリ実施単位数1日3単位以上の場合を高単位群,2単位以下の場合を低単位群とし,各群の特徴を比較,検討した。各因子の群間比較にはMann-Whitney U test,カイ二乗検定を用いた。p<0.05をもって統計学的に有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院では,倫理的配慮として入院時に御本人,又は御家族に個人情報保護に関する説明をしており,個人が特定されないことを条件として院内外へ公表することに同意を得ている。【結果】212例の実施日数あたりの単位数は平均2.5±0.9(中央値2.2)単位であった。症例数は高単位群/低単位群の順に52例/87例,リハビリ実施単位平均は3.7単位/1.7単位であった。年齢は72.7歳/76.0歳,在院日数は10.9日/10.3日,入院中の症状進行例は17例(32.7%)/18例(20.7%),合併症を認めたのは10例(19.2%)/23例(26.4%)でそれぞれ有意差を認めなかった。入院時NIHSS0~6点の軽症例は34例(65.4%)/61例(70.1%)で有意差はなかった。7~21点の中等症例15例(28.8%)/10例(11.5%)で高単位群が有意に多かった(P<0.05)。22点以上の重症例は3例(5.8%)/16例(18.4%)で低単位群が有意に多かった(P<0.05)。入院前Barthel Index(BI)100点48例(92.3%)/56例(64.4%),転帰がリハビリ継続目的の回復期病院への転院43例(82.7%)/42例(48.3%)でそれぞれ高単位群が有意に多かった(P<0.001)。在院日数あたりのリハビリ実施日数は67.1%/65.5%であり有意差は認めなかった。【考察】今回,急性期脳梗塞のリハビリ実施時間を調査し,実施単位数による症例の特徴を検討した。年齢や入院中の症状進行,合併症の有無に影響せずリハビリを実施しており,実施単位数の多い症例は入院前ADL自立し,入院時NIHSS6~21点の中等症であり,回復期リハビリテーション病院にて継続したリハビリが必要な症例であった。入院時の重症度の高い症例に関してはリハビリ実施時間が短かった。急性期脳梗塞リハビリでは病態が安定し,耐久性があり意欲的に取り組むことができる症例が積極的なリハビリが行えると考えられる。今後はリハビリ実施日の単位数増加が望ましいが,リハビリ実施日数が在院日数の約7割程度に留まっていることが課題である。【理学療法学研究としての意義】急性期脳梗塞リハビリでは症状進行や合併症のリスク管理を行い,重症度を考慮し,可能な限り早期からの積極的なリハビリを実施していくことが求められる。
  • 藤田 大輔, 内山 恵典, 田中 正宏, 新津 雅也, 久保 光正, 塚野 未来, 満冨 和彦
    セッションID: 0039
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】脳血管障害は,要介護者における介護が必要になった要因の第1位とされ,脳卒中後の身体機能の障害,活動制限,参加制約は,脳卒中患者自身と患者を取り巻く人々の生活に影響を与えている。特に,自立歩行の獲得は,ICFにおける活動や参加といった地域社会とのつながりを制限することに結びつくことが想定される。そのため,歩行自立の獲得はQOLの面からも重要な課題であると言える。急性期病院では,動作能力の予後を早期に予測することは,ゴール設定や退院や転院の決定などに重要であり,簡便かつ安全に実施できる指標が必要となる。特に医学的管理の面から,安静度を制限されている場合には,臥床状態であっても予測できる指標は有用性が高いと考えられる。そこで,本研究の目的は,急性期病院に入院された脳卒中患者に対して初期評価のデータから退院時の歩行自立に関連する因子を明らかにすることとした。【方法】対象は,2013年6月から10月までに入院された脳卒中患者63名(女性22名,男性41名,平均年齢71±15.0歳)とした。予め小児と意識障害を有し評価ができない者は除外した。測定項目は,NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale),Barthel Index(BI),Br.stage(上肢・手指・下肢),Trunk Control Test(TCT),意欲の指標であるVitality Index(VI)として,初期評価と退院時評価を行った。なお,NIHSSの四肢麻痺の評価は右上肢と左上肢を足した値を上肢機能,右下肢と左下肢を足した値を下肢機能,TCTの麻痺側への寝返りと非麻痺側への寝返りを足した値を寝返り能力として扱った。歩行の群分けは,退院時のBIの移動が15点の者を歩行自立群(39名),その他を歩行自立不可群(24名)とした。統計学的分析は,入院時の年齢(カテゴリー化を行い,59歳以下,60-69歳,70-79歳,80-89歳,90-99歳に分類した),初期評価時のNIHSS,上肢機能,下肢機能,Br.stage,TCT,寝返り能力,VIに対してspearmanの順位相関係数を行い,多重共線性を考慮して,|r|≦0.9となる変数の一方を測定の簡便性の観点から削除した。その後,歩行の自立度を従属変数として尤度比による変数増加法にてロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は,危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。【結果】相関係数の分析より,多重共線性を考慮してNIHSSの合計点数,Br.stageの手指,TCTの合計点数を削除した。抽出された変数は,NIHSSの上肢機能,下肢機能,上肢と下肢のBr.stage,寝返り能力,年齢であった。ロジスティック回帰分析の結果,自立歩行獲得に関連する因子並びにオッズ比は,寝返り能力1.09(95%CI:1.03-1.16),年齢0.26(95%CI:0.01-0.69),VI1.62(95%CI:0.99-2.67)であった。Χ2検定の結果はp<0.05で有意であり,寝返り能力と年齢は有意(p<0.05)であったが,VIはp=0.055であった。VIは有意ではないが,関連因子として妥当であると判断し採用した。判別的中率は,87.1%であった。なお,予測式は,-2.3+VI×0.48+寝返り能力×0.1-1.3×年齢となった。【考察】本研究の結果より,退院時の歩行自立を関連する因子として,寝返り能力,年齢,VIが抽出された。そのため,医学的管理等による臥床状態においても評価が可能である指標を用いて歩行自立に関連する因子を,高い判別的中率で抽出することができた。まず,年齢と体幹機能の指標とした寝返り能力は,先行研究より歩行獲得に関連する因子として示されており,妥当な結果であると考えられる。また,脳卒中患者は高次脳機能障害を生じることが多く,行動の動機からその行動を説明することが難しいため,観察方式のVIは脳卒中患者の意欲を測るために用いることが可能であると考えられる。ただし,行動ではなく質問によって回答を得ていた場合も含まれており,今後,評価する時期を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】従来,運動機能面を中心に予後予測式が考案されてきたが,心理面の評価であるVIが抽出されたことは重要な点である。その理由は,疾患自体の影響や脳卒中後の鬱状態,将来への不安といった心理状態が行動意欲に影響を与え,歩行獲得に関連する因子として示唆されたからである。本研究は,運動機能面に対する理学療法のみならず心理面や生活習慣等を考慮し,行動意欲を高める脳卒中理学療法の必要性を示唆した点に意義がある。
  • リハビリテーション・データベース協議会(JARD)登録データを用いた分析
    松本 大輔, 白石 成明, 杉山 統哉, 鄭 鄭丞媛, 近藤 克則
    セッションID: 0040
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】急性期脳卒中リハビリテーション(リハ)において,海外のガイドラインでは早期リハが推奨されている。しかし,Cochrane Reviewでは24~48時間以内に離床を進めるVery early mobilisationの効果についてまだ確定したエビデンスとは言えないとしている。我が国ではMatsuiらが3日以内の超早期リハ(Very Early Initiation of Rehabilitation:VEI)は退院時の自立度が高いことに関連があると報告しているが,入院初日のVEIがアウトカムに関連するか否かは明らかになっていない。現在,リハに関わるデータベースを構築・運用し,リハ医学・医療の質の向上に資することを目的とした「リハビリテーション・データベース協議会(JARD)」に約20,000例以上のデータが集積されている。そこで,本研究ではJARD登録データを用いて,一般病棟(急性期)脳卒中患者における入院初日VEIとアウトカムとの関連性について検討することを目的とした。【方法】2005年4月から2011年1月までにJARDに登録された脳卒中患者9095名のうち,「一般病棟」退院患者は4698名で,このうち選択基準を満たし,欠損値や異常値を示すものは除外した8病院2085名(男性1301名,女性784名:平均年齢71.6±8.0歳)を分析対象とした。選択基準は「50名以上の患者登録施設」「55歳以上84歳以下」「入院時発症後病日7日以内」「在院日数8日以上60日以下」「入院後リハ開始病日14日以内」である。患者の基本特性および評価項目は性別,年齢,脳卒中病型,National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS),Barthel Index(BI),modified Rankin Scale(mRS)とした。入院初日VEIの効果を検討するために,アウトカムは在院日数,NIHSS,BI,mRSの入院時から退院時の悪化・維持・改善および入院中の脳卒中再発,死亡を用いた。統計解析は入院初日VEI,3日以内,4日以降の3群に分け,各項目の比較をχ2検定,一元配置分散分析・多重比較検定(Bonferroni)を用いて検討した。また,各アウトカムの改善・悪化を目的変数としたロジスティック回帰分析を用い,説明変数に患者の基本特性,入院時項目に入院初日VEIを加え,強制投入法で検討した。なお,入院初日VEIは入院曜日の影響を受け,リハ単位数はアウトカムに影響を与えると考えられるため,調整変数として入院曜日と一日あたりのリハ単位数を同時投入して分析をおこなった。統計ソフトはSPSS20.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究に用いたデータは日本リハ医学会研究倫理審査会でリハ医療の向上を目指すものであり,疫学調査の倫理指針に照らして倫理上の問題がないと確認されている。【結果】VEIの実施割合は入院初日101名(4.8%),3日以内1157名(55.5%),4日以降827名(39.7%)であった。VEIの3群間で患者特性,入院時重症度の全てに有意差は認められなかった。改善割合ではNIHSS(初日71.3%,3日以内65.8%,4日以降62.8%),BI(初日88.1%,3日以内86.3%,4日以降81.9%),mRS(初日73.3%,3日以内67.7%,4日以降62.9%)の全てにおいて有意差がみられ,初日VEIが最も高かった(p<0.05)。一日あたりのPT・OT・ST単位数は初日5.4±2.4単位,3日以内3. 5±2.0単位,4日以降2.5±1.4単位で初日が有意に高かった(p<0.01)。在院日数では同様の傾向は見られたが有意差は認められなかった(p=0.053)。また,患者特性,NIHSS,BI,mRSの悪化割合,入院中の脳卒中再発,死亡については3群間に有意差は認められず,悪化を目的変数とした分析では入院初日VEIは選択されなかった。改善を目的変数とした分析では一日あたりのPT・OT・ST単位数が有意に選択され,VEIには有意差は認められなかった。【考察】今回の結果から,脳卒中患者において入院初日VEIは患者の特性,入院時の重症度に関連なく,症状を悪化させないことが明らかとなった。また,入院初日VEIよりも1日あたりリハ単位数がアウトカムの改善に関連する可能性が示唆された。入院初日VEIにより,廃用症候群を予防し,早期からの評価により効果的なリハプログラムの実践につながると考えられる。本研究の限界として,VEIの内容として離床を促しているのかについては不明である。また,本研究で測定不能な全身状態や重症度を考慮できておらず,VEIが実施できるリハ提供体制の関連性についても検討する必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】多施設共同データベースを用いた本研究で得られた結果は,急性期病院におけるVEIの重要性を示し,診療報酬改訂につながる基礎資料となると考えられる。【謝辞】本研究は厚生労働科学研究費助成金(H19-長寿-一般-028)ならびに老人保健健康増進等事業の助成を受けて行った。
ポスター
  • 肝付 慎一
    セッションID: 0041
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】高齢化社会を迎えた近年,高齢者の転倒による骨折が増加している。内的要因及び外的要因に大別される転倒の原因はさらに多くの細かな要因から成る。今回,転倒予防を目的に,加齢に伴う内的要因の1つと考えられる立位姿勢保持能力を,外乱刺激による体幹・下肢の筋反応について調査検討したので報告する。【方法】対象は高齢群として当院デイケア利用者15名(年齢82.7±5.7歳,身長154.7±10.7cm,体重53.6±11.8kg)。介護度は要支援1が10名,2が4名,介護3が1名。内,変形性股関節症による人工股関節全置換術術後1名,変形性膝関節症による人工膝関節全置換術術後4名,大腿骨頚部骨折による人工骨頭挿入術後2名,脳卒中片麻痺Brunnstrom stageVI 3名。対照群は健常成人5名(年齢33±9.1歳,身長165.8±4.1cm,体重56.3±5.7kg)とした。調査項目は1)耳介からの垂線位置,2)筋反応時間,3)10m歩行時間を調査した。耳介からの垂線位置は平地で静止立位を行い耳介から垂らした分銅の下垂位置を足関節外果部位置より測定した。筋反応時間は筋電図検査装置(日本光電社製,MEB-2300シリーズ,ニューロパックX1)を用い,外乱刺激から脊柱起立筋,大殿筋,大腿四頭筋,前脛骨筋,腓腹筋の表面筋電を導出し筋収縮開始時間を測定した。10m歩行時間はストップウォッチを使用し10mの最大努力歩行時間を計測した。外乱刺激方法は5°傾斜の板につま先下がりになる様に静止立位保持後,逆の端をシーソーの要領で外乱刺激を行い,その直後の筋の収縮開始時間を記録した。また,検者の腓腹筋部へ記録電極を貼りその波形の立ち上がりを刺激開始点とした。計測は左右2回ずつ行い平均値を算出した。分析は高齢群間における相関関係,及び2群間比較は高齢群と健常成人を行い,さらに高齢群を過去1年以内の転倒歴を有群と無群に分け比較した。検定は全て有意水準5%未満で行った。【説明と同意】検者は同一者が行い,対象者へは今回の趣旨を十分説明して同意を得た。【結果】高齢群間における相関関係は耳介からの下垂位置と大殿筋以外の筋収縮開始時間に有意な正の相関があった。また,10m歩行時間と腓腹筋,大殿筋の収縮開始時間において有意な正の相関だった。2群間比較では,高齢群と健常成人の比較において,高齢群が耳介からの下垂位置は有意に長く,筋収縮開始時間においても前脛骨筋と腓腹筋の反応時間が有意に遅かった。また,転倒有群と無群の比較においては,転倒有群が耳介からの下垂位置は有意に長く,大殿筋以外の筋収縮開始時間が有意に遅かった。【考察】高齢者の立位姿勢運動パターンには,足関節を中心とした筋群と股関節を中心とした筋群の活動により引き起こされ,Manchesterらは高齢者では足関節周囲筋の活動前に股関節周囲筋の活動が生じたのに対し,若年者ではその反対の筋活動様相を示すとしている。今回の調査では高齢群,健常成人ともに遠位筋からの反応パターンを示していた。しかし,健常成人は前脛骨筋と腓腹筋の筋収縮開始時間が高齢群より有意に速く,高齢群より足関節を中心とした筋活動様式であることが示唆された。すなわち,高齢群は健常成人より耳介からの下垂位置がより前方へ位置していることから,前傾姿勢を呈し足関節を中心とした筋活動が健常成人より低下している。さらに,転倒歴のある高齢者はより前傾姿勢になり,筋収縮開始時間の遅延をきたすことで立位バランス能力の低下を惹起すると考えられ,加齢による外乱に対する立位姿勢保持能力の低下,及びその低下の一因が加齢に伴う神経-筋系要因の変化によるものと推察される。今後,転倒予防改善の為に運動介入が立位姿勢保持能力に及ぼす影響を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】外乱刺激による立位姿勢保持能力を解析することで高齢者の転倒予防に役立てる。
  • 星 文彦, 中村 高仁, 菊本 東陽, 鈴木 陽介, 藤本 鎮也, 村田 佳太, 塙 大樹, 武田 尊德, 田代 英之
    セッションID: 0042
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,高齢者の転倒が介護サービスや医療経済の視点から問題視されている。特に認知症患者における徘徊中の転倒は,探索活動や周囲への注意の転移に伴う身体活動への注意の消失が要因と考えられる。バランス機能における予期的制御(プロアクティブ姿勢制御戦略)の観点から歩行中の障害物回避の基礎となる方向転換運動の発現について,方向転換指示刺激から姿勢変化までの応答時間を計測し検討した。【方法】被験者は,本学学生健常男子10名,平均年齢21.9歳,平均身長172.3m,平均体重62.2Kgであった。方向転換動作の測定は,10m歩行路を4-5m程度の定常歩行後,方向指示刺激装置(KKイリスコ社)により進行方向を提示し,対象者がその方向へ素早く方向転換し,そのときの方向転換刺激(矢印ランプ)点灯から頭部・肩甲帯・腰部が回転するまでの潜時を頭頂部・第7頸椎部,第5腰椎部の3カ所に貼付した多機能慣性センサ(ATR社;TSND121)にて計測した。方向転換刺激(方向指示矢印ランプ)と多機能慣性センサの同期は,両足底にフットスイッチを貼付し,右の足部踵接地時に方向転換刺激(矢印ランプ)を点灯させ,同時に同期用多機能センサに磁気刺激を送信し,身体に貼付した多機能センサ3個と同期した。方向指示は左右,直進の3方向各5回,計15回実施した。また,頭部回旋運動潜時の基準値として静止椅子座位と静止立位において,方向転換刺激から頭部の回旋運動が起こるまでの潜時を計測した。サンプリング周波数は100Hzとし,多機能慣性センサのデータは移動平均法(10区間)を用い処理した。統計処理は一元配置多重比較を行い有意水準5%とし,SPSSで処理した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本大学倫理委員会の承認の下(承認番号25048),各被験者には研究の詳細を口頭で説明し書面にて同意を得た。【結果】(1)椅子座位と立位における方向転換刺激から頭部の回旋運動までの潜時について 静止椅子座位及び静止立位における頭部の回旋運動までの潜時は,それぞれ平均274.3 msec(SD 36.0),平均260.5msec(SD 14.4)で,立位が椅子座位に比べ有意に速かった(p<0.05)。(2)歩行中の歩行変換動作における頭部・肩甲帯・腰部回旋運動までの潜時について ①右方向転換時の潜時は,頭部が平均352.9msec(SD 37.6),肩甲帯が平均339.3msec(SD 27.1),腰部が平均386.8msec(SD71.4)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。②左方向転換時の潜時は,頭部が平均317.6msec(SD40.1),肩甲帯が平均376.1msec(SD 39.7),腰部が平均519.2msec(SD38.5)で,頭部・肩甲帯・腰部の順で方向転換がなされていた(p<0.05)。(3)椅子座位・立位と歩行中の頭部回旋運動までの潜時について 頭部回旋運動の潜時は,歩行時が静止姿勢に比べ遅延していた(p<0.05)。【考察】静止姿勢に比べ歩行中の反応時間の遅延は,歩行中の方向転換課題においても注意需要を反映することが確認できた。歩行中の方向転換動作における定位は,視線・頭部・躯幹の順位で行われると報告されているが,本研究の結果においては,頭部・躯幹の順序性に加え肩甲帯・腰部という体幹のねじれ運動を確認できた。また,左右の方向転換の潜時の違いは,右踵接地時に方向指示ランプが点灯するため,支持脚側へ方向転換する場合と遊脚側へ方向転換する場合の運動戦略発起までの処理の違いが反映していると考えられる。本課題においては,支持脚(右方向)側への方向転換開始潜時が逆方向に比べ遅延していた。支持脚(右方向)への方向転換動作は歩行中の支持基底の左右の範囲を逸脱する運動戦略をとることが要求され,より高度なバランス機能が要求されることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究は,理学療法におけるプロアクティブ姿勢制御の評価と治療に関連する基礎的資料となる。
  • 屋敷 美紀子, 岡 真一郎, 森本 浩之
    セッションID: 0043
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】前庭リハビリテーションの一つであるGaze Stability Exercise(GSE)は,前庭機能障害や外傷性頚部症候群患者に対して用いられており,2.0Hzで実施されている。一方で,動体視力の評価であるGaze Stabilization Test(GST)において,健常成人の動体視力は140deg/sec(1.0Hz),歩行中が90deg/sec(0.65Hz)と報告されている(Bryan et al,2010)。めまい,ふらつきに対する順応の促通には多様な条件での刺激が推奨されているが,周波数1.0Hzおよび0.65HzのGSEが姿勢制御に及ぼす影響についての報告は少ない。本研究の目的は,異なる周波数におけるGSEがバランス能力に及ぼす影響について調査することとした。【方法】対象は健常成人10名(男性5名,女性5名,平均年齢21.4±0.5歳)とした。前庭眼反射の検査は,Gaze Stabilization Test(GST)を行った。GSTは,加速度計(小型無線ハイブリッドセンサIIWAA-010,ワイヤレステクノロジー)を使用し,サンプリング周波数1kHzで測定した。対象者には,加速度計を頭頂部に固定し,目線の1m前方に設置されたパーソナルコンピュータ(PC)のランドル環の方向を回答しながら,できるだけ早く頭部回旋するよう指示した。GSTの頭部回旋は,左右35°となるよう調整した。測定値は,課題施行中のyaw方向の角速度を50Hzから100Hzのlow pass filter処理および全波整流後の平均値を算出した。バランス能力の検査は,重心動揺計Twin gravicoder 6100(ANIMA)を用い,バランスパッド(AIREX)上での重心動揺検査を行った。測定条件は,開眼および閉眼での閉脚立位とし,測定時間を60秒とした。プロトコールは,2.0Hz,1.0Hzおよび0.65HzにおけるGSEを立位で1分行い,それぞれGSE実施前および実施後10分に重心動揺検査を行った。統計解析は,SPSS Statistics 21.0(IBM)を使用し,GSTとGSE前の総軌跡長との関係はPearson積率相関分析,GSE前後の総軌跡長の比較には対応のあるt検定用い,有意水準5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認(11-185)を得た後,対象者には事前に研究内容を説明し,書面にて同意を得た上で実施した。【結果】GSTは,148.7±27.2deg/secであり,閉眼時の総軌跡長と有意な負の相関があった(r=-0.46,p<0.05)。GSE前後の総軌跡長は,GSE2.0Hzの開眼では143.7±37.8cmから129.7±33.4cm(p<0.01),閉眼では293.6±77.6cmから257.9±62.2cmと有意に短縮した(p<0.05)。GSE1.0Hzの開眼では,124.8±32cmから130.2±37.3cm,閉眼では268.3±70cmから255.9±65.1cmと有意差が認められなかった。GSE0.65Hzの開眼では129.2±43cmから126.8±40.2cmと有意差は認められず,閉眼では272.7±68.4cmから251.2±73.4と有意に短縮した(p<0.05)。【考察】本研究の結果,GSTはバランスパッド上での閉眼立位と負の相関があった。閉眼でのバランスパッド上の立位は,視覚情報の遮断,床反力低下による体性感覚情報低下により,前庭覚への依存度が高まるとされている。そのため,GSTは前庭機能を評価できる可能性がある。GSE2.0Hzの開眼,閉眼およびGSE0.65Hzの閉眼で重心動揺が短縮し,GSE1.0Hzでは変化がなかった。GSEによる前庭機能の向上は,頭部回旋運動により生じた網膜上の像のずれ(retinal slip)を中枢前庭系による機能的代償(前庭代償)の働きにより起きるとされている。また,先行研究において,GSEは前庭眼反射の最高周波数である2.0Hzで行われており,本研究におけるGSE2.0Hzでの総軌跡長の短縮は先行研究と同様の結果となった。GSE1Hzでは,開眼,閉眼とも総軌跡長の変化はなかった。健常成人の動体視力は140deg/sec(1.0Hz)であり,また前庭代償は,網膜像のずれが小さい刺激では起こりにくいとされていることから,GSE1.0Hzの刺激ではretinal slipが起こりにくく,前庭代償が誘発されなかったと推察される。GSE0.65Hz後の総軌跡長は,開眼では変化がなかったが,閉眼では有意に短縮した。先行研究では,90deg/sec(0.65Hz)の一定速度の視運動性刺激がretinal slipを引き起こすことから,GSE0.65Hzは閉眼時のバランス能力を高めることが示唆された。また,視覚情報による姿勢制御の周波数帯域は0.7Hz程度あり(中川ら,1991),GSE0.65Hzと近似した値であった。そのため,GSE0.65Hz後の閉眼時の姿勢制御は,前庭機能が視覚情報の欠如を補ったと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,GSE2.0HzおよびGSE0.65Hzはバランス能力を高めることが示唆された。GSE0.65Hzは,姿勢制御において視覚依存性が強く,視力低下が起こる高齢者への影響について検討する。
  • 中井 一人, 中川 博文, 金井 章, 今泉 史生, 蒲原 元, 山本 真裕, 吉村 和樹, 三浦 由美, 小林 素視, 江﨑 雅彰
    セッションID: 0044
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者では,転倒予防の観点からバランスの評価は重要であり,その評価方法として片脚立位を用いることが多い。堅山らは片脚立位時の重心動揺と転倒の関連性について,転倒群に有意な重心動揺の増加が認められたと報告しており,片脚立位時の重心動揺を減少させることは転倒予防において重要である。また,建内らは立位時のバランスにおいて足底面の接地状態が大きく関係していると報告している。片脚立位時の重心動揺と足底面の接地状態の関係を調査した研究として,足趾の浮き趾や内側縦アーチと重心動揺の関係を調査した報告が散見されるものの,片脚立位時の足圧分布と重心動揺の関係を調査した研究は少ない。そこで本研究では,高齢者における片脚立位時の足圧分布が重心動揺に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,下肢に運動機能障害を持たず日常生活の自立している健常高齢者27名(男性10名,女性17名,年齢71.1±5.1歳)とし,足圧分布データから,足底を前部,中部,後部の3部位に分け,各部位での単位面積当たりの荷重量を算出した。荷重量の多かった順にパターン分けをし,同じパターンの数が多かった3群に分けた。3群は,荷重量が後部・前部・中部の順で多かった群(以下,後・前・中群),後部・中部・前部の順で多かった群(以下,後・中・前群),中部・後部・前部の順で多かった群(以下,中・後・前群)に分け,総軌跡長,矩形面積,下肢筋活動,下肢筋力,足底感覚を3群間で比較検討した。片脚立位の計測は利き足を対象として実施し,計測姿勢は上肢体側下垂位,遊脚側下肢は身長の15%の高さまで挙上し20秒間保持させた。足圧分布,重心動揺の計測には,Footview Clinic(NITTA社製)を用い,解析は片脚立位開始後5秒から15秒までの10秒間とした。下肢筋活動の計測には表面筋電計(NORAXON社製TELEMYO 2400 TG2)を用い,被検筋は腓腹筋(内側),前脛骨筋,腓骨筋とした。表面筋電図は片脚立位開始後5秒から10秒までの5秒間を解析対象とし,その間の平均積分値を等尺性随意最大筋力発揮時の筋活動で除して正規化した。下肢筋力の計測は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用い,足関節底屈,背屈,外反の等尺性最大収縮を測定した。3回測定した最大値を採用し得られた値を体重で除して正規化した。足底感覚は,二点識別覚を2点知覚計G-160(安田製作所)を用いて,利き足で測定した。測定部位は踵部,母趾球部の二部位とした。統計学的分析は,一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。なお,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】3群の人数,総軌跡長の内訳は,後・前・中群が11名,後・中・前群が6名,中・後・前群が5名であり,総軌跡長の平均は,後・前・中群で52.0±11.9cm,後・中・前群で36.7±4.1cm,中・後・前群で49.2±13.0cmであった。統計解析の結果,総軌跡長において,後・前・中群は後・中・前群に比べ,有意に長かった(P<0.05)。矩形面積,下肢筋活動,下肢筋力,足底感覚には各群ともに有意な差は認められなかった。【考察】本研究の結果,足圧分布が後方に位置していたのは,後・前・中群11名,後・中・前群6名,計17名であった。建内らは,高齢者における立位時の足圧分布について,最大圧部位は踵部で最も多かったと報告しており,本研究も同様に,片脚立位において踵部への圧が増加していることが確認された。また,後・前・中群は,後・中・前群に比べ総軌跡長が有意に長かった。糟谷らは,高齢者では安静立位時の安定性が低下しており,足趾圧を高めることで姿勢調整を行っていると報告している。今回の結果から,先行研究同様,片脚立位においても総軌跡長が長かった群は,足趾圧を高めることで重心動揺をコントロールしていたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】片脚立位の安定する要因を調査することは,転倒リスクを軽減させる上で重要である。先行研究において足圧分布と重心動揺の関係を明らかにした研究は少なく,片脚立位時の足圧分布の特徴を把握することは臨床での治療において重要であると考えた。
  • 橋本 汐理, 国分 貴徳, 藤野 努, 西原 賢, 金村 尚彦
    セッションID: 0045
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢制御は,理学療法領域では一般的に股関節戦略と足関節戦略の2つに大別される。しかし,実際に支持基底面内に重心を保持する際には,それら二つの関節に限らず,体幹を含めた多関節の協調的な運動が相互に行われることで制御されている。静止立位の制御に関する研究では,静止立位において足関節と股関節の角度変化には関係性がみられないが,両関節の角加速度において逆位相での制御関係がみられたとする報告があり,その制御のメカニズムが解明されつつある。しかし,臨床の場面で角加速度を視覚的に捉えることは困難であり,その成果を臨床の評価において享受することは難しい。そこで本研究では,随意的に動揺しやすい姿勢条件を課した状態で,視覚的に捉えやすい身体の体節のVertical Angle(VA:垂直軸に対する角度)に着目して,それらの時系列データの関係性を検討した。【方法】下肢に整形外科的既往がない健常成人女性9名(平均年齢21.6±0.7歳,平均身長162.1±4.4cm,平均体重54.4±4.0kg)を対象とした。計測には8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置(VICON NEXUS 1.7.1:VICON社)と4枚の床反力計(KISTLER社製)を用い,サンプリング周波数は200Hzとした。被験者にPlug-In Gait Full Body Modelに従い35個の直径14mmの赤外線反射マーカを貼付した。床反力計上にて両上肢は体側に固定し,爪先立ちを30秒間保持させた。マーカの三次元座標情報から矢状面上における体幹体節角度(Trunk VA)と下腿傾斜角度(Tibia VA)を算出した。解析には計測開始から15秒経過時のつま先立ち動作の10秒間のデータを抽出し,その間のTrunk VAに対してその前後5秒間のTibia VAのデータに対し,相互相関関数(Cross Correlation Function;CCF)解析により相関のピーク値とその時のTime Lagを算出した。この結果から,静止立位時に外乱を加えたときの重心の変化時間は約700msという先行研究より,ピーク値のTime Lagが±1secの範囲内にある試行のみを抽出した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者には研究の目的と内容について書面と口頭にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た。本研究は所属大学の倫理委員会の承認を得て遂行した。【結果】9人各3試行を行い,データの欠損等がなかった26試行のうち,Trunk VAとTibia VAの相関のピーク値が,±1sec以内に見られたものは9試行であった。そのうちピーク値が負となったものは8施行,正となったものは1試行のみであった。姿勢制御に関与していると考えられるピーク値のTime lagが±1sec以内であった施行のうち,負のピーク値が多いという結果になった。【考察】本研究では,つま先立ち実施時のTrunk VAとTibia VAにおいて,そのほとんどが逆位相で制御されているという結果が得られた。これは,静止立位時の角加速度で股関節と足関節の逆位相の関係性が見られたとするSasagawaら(2008)の報告と同様の傾向性を示している。我々の研究においては,股関節ではなく体幹を計測対象とし,Sasagawaらの報告では関係性が見いだされなかったとされる体節角度変化において,体幹と下腿のVAの間に一定の傾向性を認めた。このことから,静止立位とつま先立ちでは,足関節以上の体節において,同様の姿勢制御すなわち下位体節と上位体節で逆位相での制御が行われている可能性を示唆している。今後は先行研究同様に,つま先立ちにおける運動学的データを多面的に解析していくことで,つま先立ちと静止立位の間の姿勢制御メカニズムの共通性を明らかにしていく必要がある。それにより,臨床場面において垂直軸に対する下腿と体幹体節角度の関係性を評価することで,立位バランス制御能力をより簡便にスクリーニングすることができる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】現在の臨床における立位バランスの評価方法は,数多く提唱されているが,その多くが他項目実施により多面的な評価を行う必要があり,簡便とは言い難い。本研究の成果および今後の研究により,立位姿勢における制御メカニズムと爪先立ちの制御メカニズムに共通性が認められれば,臨床においてより簡便に対象者の立位バランスをスクリーニングすることが可能となり,その意義は大きい。
  • 浅岡 祐之, 星 文彦
    セッションID: 0046
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我々は,日常の立位活動の中で頻回に行われる跨ぎ動作や移動など,大きな姿勢変換が要求される意図的動作として片脚立ち動作を行う。片脚立ち動作に関する運動学的解析では,運動開始時の筋活動について挙上側中殿筋,腓腹筋の活動が他の計測筋に先行し,支持側への重心移動と関連するとし予測的姿勢制御(APA)の視点からの報告が散見される。しかし,いずれの先行研究も片脚立ち動作の下肢または体幹の筋活動のみの報告,あるいは足圧中心(COP),姿勢の経時的変化を分析したものであり,片脚立ち動作における下肢・体幹を含めた全身の筋活動とCOP軌跡を検討した報告は少ない。以上により,本研究目的の1点目として,健常者における片脚立ち動作におけるCOP軌跡,筋活動変化に焦点をあて,APAの観点から運動開始メカニズムについて検証すること,2点目として,課題開始姿勢を挙上側下肢の荷重率を異なる条件とした際に,片脚立ち動作のAPAがどのように働くかを検証することとした。【方法】対象は,視覚および運動機能の障害のない健常男性17名(平均年齢20.8歳,平均身長169.9cm,平均体重61.6kg)とした。課題開始姿勢は,前方の簡易光刺激装置(ユニメック社支援)に視線を向け,両腕を胸の前で組み,重心バランスシステム(ユニメック社JK-101II)の上に立位をとる。課題は,光刺激装置の視覚合図に従い,出来るだけ速く右下肢を挙上し,片脚立位姿勢を3秒保持する。光刺激は,予告無しにアトランダムに刺激した。課題条件として,通常荷重(Nw)条件,右荷重(Rtw)条件,左荷重(Ltw)条件の3条件とし,各々右(挙上側)下肢の荷重率を被験者体重の50%,65%,35%とした。筋電図とCOPデータを波形解析ソフトウェア(ADI社Chart ver5.3)上で,同期した状態で測定し,3条件とも20回計測した。筋電図データは,アナログ出力箱(S&ME社BioLogDL-720)に接続した筋電図センサ(S&ME社DL-141)を用いて測定し,導出筋は左右の脊柱起立筋,大腿直筋,中殿筋,ヒラメ筋の8筋とした。COPデータは,X軸における加速度変化から動き始め,ピーク値を算出した。COP動き始めで時間軸を正規化し,各筋の筋活動開始の潜時を計測した。各筋の筋活動潜時と,COPの動き始めからピーク値までの移動距離と到達時間の値を1被験者から得られる20回試行を平均化した。その値を各々被験者数にて一元配置分散分析,多重比較検定(Tukey法)にて条件ごとに検証した。データ解析には,SPSS ver.16.0を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】埼玉県立大学倫理審査委員会の承認(第25504号)の下,対象者に対し,本研究の目的・主旨・方法を書面および口頭にて説明し,同意書を得て実施した。【結果】(1)筋活動潜時についてNw条件,Rtw条件,Ltw条件のすべての条件で各筋に有意な差を認めた(p<0.01)。いずれの条件においても,右中殿筋はCOP動き始めに約50msec先行した。右中殿筋に次いで,Nw条件,Ltw条件では左脊柱起立筋,右ヒラメ筋の順に,Rtw条件では右ヒラメ筋,左脊柱起立筋の筋活動順序となり,他5筋の活動に比し早期に活動を認めた。また左脊柱起立筋においては,条件間に有意な差を認めた(p<0.01)。(2)COPデータについて移動距離の各条件の平均値は,Nw条件117.4 mm,Rtw条件100.5 mm,Ltw条件114.2mmで,各条件間に有意な差は認められなかった(p=0.184)。しかし,被験者内データでは,Rtw条件は他2条件に比し,短い傾向を示した。ピーク値到達時間の各条件の平均値は,Nw条件0.24sec,Rtw条件0.29 sec,Ltw条件0.19 secで,各条件間に有意な差を認めた(p<0.01)。【考察】いずれの条件においても,片足立ち動作開始時には,挙上側中殿筋,挙上側ヒラメ筋,支持側脊柱起立筋が早期に活動し,先行研究を支持する結果となった。動作を遂行するためには,床反力の大きさや位置を制御しなくてはならず,いずれの荷重率条件においても,その役割を挙上側股関節外転筋が担い,身体に回転力を生じさせ,身体重心を移動させていると考える。COP移動距離の結果から,距離が長いほど側方動揺を制御するために支持側脊柱起立筋が早期に活動すると考えられる。また支持側脊柱起立筋は,Ltw条件ではAPAとして挙上側中殿筋同様,COPの動き始めに先行した活動を認め,条件間にも潜時差を認めたことから,姿勢制御において,荷重率変化により活動順序に変化が生じる重要な筋の1つであると考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法士として,運動メカニズムを把握することは,より効果の高い治療の実践を提供していくことにつながる。臨床での運動療法施行にあたってAPAからの基礎的資料を提供する。
  • ―足関節の筋感覚,関節覚,足底の触圧覚における比較―
    森垣 浩一, 入野 悠依
    セッションID: 0047
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本研究は,足関節の筋感覚と関節覚,足底の触圧覚に対してそれぞれ知覚探索課題を行うことで,即時的に立位姿勢調節能力の安定化に効果をもたらすのかを検討した。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患のない健常成人30名とした。平均年齢は24.83±2.78歳,男性21名,女性9名であった。対象者を無作為に10名ずつ,異なる課題を行うA,B,Cの3群に分けた。課題はそれぞれ,A群が足関節の筋感覚による課題,B群が足関節の関節覚による課題,C群が足底の触圧覚による課題とした。課題の詳細として,A群では足底を横軸不安定板に載せた状態で不安定板の前方または後方先端に錘を載せ,重さを判断させるものとした。錘は160g,320g,480gの3種類を使用し,前方に錘を載せる場合は不安定板の前部先端を床に接地した状態とし,後方に錘を載せる場合は不安定板の後部先端を床に接地した状態として,その後の底背屈運動にて重さの識別を求めた。B群では,足底を横軸不安定板に載せた状態で不安定板の前方または後方の先端下部に高さの異なる板を挟み,高さを判断させるものとした。板は1cm,2cm,3cmの3種類を使用し,不安定板の前方に板を挟む場合は不安定板の後部先端を床に接地した状態とし,後方に板を挟む場合は不安定板の前部先端を床に接地した状態として,その後の底背屈運動にて高さの識別を求めた。C群では,硬さの異なる3種類のスポンジを足底前部または後部で踏み,硬さの識別を求めた。このとき,足関節の関節運動は行わないように指示した。課題の手順は,各群それぞれの課題における3種類の重さ,高さ,硬さを学習した後,左右下肢の前足部,後足部の4部位でそれぞれ識別を求めた。課題を行う順序は,右下肢前方→右下肢後方→左下肢前方→左下肢後方の順とした。また,各課題で使用した3種類の錘,板,スポンジは左右下肢の前後4部位でそれぞれランダムに2回ずつ,計24回用いた。各課題はすべて裸足閉眼立位で実施し,課題中の一側上肢での平行棒の支持を許可した。測定は,課題実施前後に重心動揺計にて開眼,閉眼時の閉脚立位重心動揺を1分間計測した。なお,課題実施後の測定は疲労を考慮し,課題後3分間は安静椅子座位とし,その後測定した。重心動揺の測定にはZebris社製PDMを用い,初期応答を除いた1分間記録した。抽出項目は総軌跡長,楕円面積とした。分析方法は,各群における課題開始前と課題終了後の重心動揺値を,二元配置分散分析を用いて比較した。また,{(課題前-課題後)/課題前}×100の数式を適応して,各課題後における重心動揺値の改善率(%)を算出し,Kruskal-Wallis検定を用いて開眼及び閉眼の,それぞれの条件において3群間を比較した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての対象者に対し研究内容の説明を十分に行い,同意を得た。【結果】課題前と課題後における開眼時の重心動揺値の比較では,A群の総軌跡長に有意差を認め(p<0.05),課題後の重心動揺値は有意に減少していた。課題前と課題後における閉眼時の重心動揺値の比較では,A群の総軌跡長(p<0.01)とB群の総軌跡長(p<0.05)に有意差を認め,課題後の重心動揺値は有意に減少していた。各課題における重心動揺値の改善率の比較では,A群とC群における閉眼時の総軌跡長に有意差を認め(p<0.05),C群に比べてA群の改善率が有意に高かった。【考察】今回の研究結果から,足関節の筋感覚及び関節覚に対する知覚探索課題により,立位姿勢調節能力が即時的に向上することが示唆された。また,足底の触圧覚に対する知覚探索課題においては,即時的効果が認められない可能性が考えられた。静止立位姿勢を保持する場合,足部の感覚情報を基にして,適切な筋出力を行うことで立位姿勢が制御されると考えられる。先行研究では,足底部の知覚向上などにより立位姿勢調節能力が向上することが報告されており,足底の触圧覚情報は重要であると考えられる。しかし,本研究のように短期的な課題では知覚学習が十分に行われなかったと考えられ,足底の触圧覚による課題では立位姿勢調節能力に変化を認めなかったと推察された。一方,足関節の筋感覚や関節覚に対する課題では,実際の筋出力を伴った足関節運動による知覚探索であり,立位姿勢調節を行う上で必要な筋の出力調節に直接的に影響した結果,即時的に効果が認められたと考えられた。また,関節覚に対する課題に比べ,筋感覚に対する課題はより筋の出力調節に影響を与えたと考えられた為,立位姿勢調節能力の向上に効果的であった可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,足関節の筋感覚,関節覚に対する探索課題が即時的に立位姿勢調節能力を向上させることを示唆しており,立位姿勢調節能力の低下した対象者に行う課題の一つとして有用であると考えられた。
  • 山下 智徳, 河村 顕治, 額田 勝久
    セッションID: 0048
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】安定したバランスの維持は効果的な日常生活活動や社会参加を保証し,バランス能力は,生涯の大部分において重要な能力である。近年,バランス能力に対する運動療法として周期的水平揺動刺激が取り入れられている。周期的水平揺動刺激を使用した基礎実験では,荷重立位時に足部の乗ったスライド板を前後水平に揺すると体幹および下肢筋に著明な筋収縮を引き起こすことが観察されている。周期的なスライド板の振動に対して,①感覚入力過程,②運動出力過程,③中枢処理過程といった要因が複雑に関与し姿勢制御が生じる。そのため,周期的水平揺動刺激装置はバランス能力が低下した患者,麻痺性疾患で自発的な運動ができない患者に対して運動効果をもたらすとされている。しかし,周期的水平揺動刺激が与える効果について検討した報告は少ない。そこで今回,動的バランススケールの1つとして利用されているFunctional Reach Test(以下,FRT)を用いて,FRT実施時の下肢運動戦略を条件付けし,周期的水平揺動刺激実施前後の各条件でのFunctional Reach(以下,FR)距離を比較することにより周期的水平揺動刺激が下肢運動戦略のどの要素にどの程度影響を与えるかについて検討することを目的とした。【方法】対象は健常成人男性15名(年齢:28.1±2.8歳,身長:171.7±5.1cm,体重:66.7±6.8kg)。FRTは被験者を壁に垂直な面を向かせて行った。測定肢位は踵間距離を肩幅とし,つま先は踵と平行とした。両肩関節屈曲90°で両手に棒を握らせ,合図と同時に後述する測定条件で,可能な限り上肢を前方へ移動させた時の水平移動距離をメジャーで測定した。被験者には踵が浮かないこと,また前方へ転倒しないことを指示した。バランスが崩れた場合は無効とし,再度測定を行った。測定順序は無作為とし,各条件でFRTを3回ずつ行い,最大値をFR距離として採用した。測定条件としては,①自由(以下,FR);制限を設けない。②股関節戦略(以下,股FR);股関節屈曲のみを許し,足関節は中間位。③足関節戦略(以下,足FR);股関節中間位とし,足関節背屈のみを許すの3条件とした。また,周期的水平揺動刺激は周期的水平揺動刺激装置(オージー技研社製GB-700)を使用し,上肢を胸の前で組み,踵間距離を肩幅とし,つま先は踵と平行とした。視線は前方を注視するように指示した。振れ幅を前後80mm,速度を3rps(1秒当たりの回転数)のサイン波で前後揺動を5分間実施した。その直後に前述した3条件でのFRTを測定順序は無作為に測定した。周期的水平揺動刺激実施前の各条件FR距離を100%として実施後のFR距離を正規化した。周期的水平揺動刺激実施前後のFR距離の変化をR2.8.1を用いて対応のあるt検定を行い,危険率5%未満(P<0.05)を有意な差とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】周期的水平揺動刺激実施後,FR距離は99.5%,股FR距離は105.6%,足FR距離は117.0%と変化を示した。足FR距離のみ有意な差を認めた。【考察】周期的水平揺動刺激を実施する事により足関節から近位に向かって筋活動が生じる事が明らかになっていることから,足FR距離が延長したと考えられる。FRTに関しては,年齢,身長に有意な相関を示し,また,足関節底屈筋や柔軟性が関与している可能性が示唆されるとの報告を認めることから実施前後で変化を認めなかったと考える。足関節戦略は,弱く遅い外乱や安定した支持期底面上での外乱に対し,主に足関節を用い身体を1つの剛体として動く事によってバランスを保持する。周期的水平揺動刺激装置は安定した支持基底面での外乱になるため,足関節戦略を主に使用した姿勢制御になったと考える。若年者と比較して高齢者はバランス制御の際に足関節戦略より股関節戦略を頻繁に用いるとされており,先行研究によると転倒歴のある高齢者は股FR距離と足FR距離の差が大きくなる傾向にあると報告されている。そのため,足FR距離に改善効果のある周期的水平揺動刺激装置は転倒予防としての効果が示唆されると考える。【理学療法学研究としての意義】バランスには多くのシステムが関わり合っており,様々な種類のバランスエクササイズが実施されているが,カテゴリー別の報告はまだ少ない。今回,周期的水平揺動刺激が姿勢制御時の足関節戦略に効果を与えることが明らかとなった。転倒予防には足関節戦略の重要性が報告されている。足関節戦略への改善効果が示唆された周期的揺動刺激は,転倒予防効果が期待される身体バランストレーニングであると考える。
  • 平田 大勝, 岡 真一郎, 光武 翼, 森田 義満, 中田 裕治
    セッションID: 0049
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢制御は,視覚系,前庭系および体性感覚系からの知覚情報を統合処理し,四肢,体幹の筋運動調節系に対する出力を行う一連の過程であり,転倒との関連性から立位姿勢制御の評価は重要である。頸部位置覚は,頭部と頸部の位置関係を得て,頭部の位置を安定させることで,他の立位姿勢制御に関与する視覚および前庭系の安定にも寄与しており,立位姿勢制御において重要な役割を担っている。頸部振動刺激は,頸部固有受容器からの感覚変化が生じることで頭部位置の混乱を引き起こし,自己中心参照枠が変更され,姿勢変化が生じると考えられ,多くの研究に用いられているが,頸部振動刺激が頸部位置覚におよぼす影響を調査した報告は少ない。本研究では,健常若年者を対象に,頸部振動刺激による頸部位置覚の変化と重心動揺の変化との関連を調査することを目的とした。【方法】対象は健常若年者12名(男女各6名),平均年齢23.8±4.0歳であった。頸部関節位置覚の測定(relocation test,以下RT)は,椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着し,100cm前方の壁に投射させ測定した。安静時の投射点と閉眼で頸部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点との距離を測定した。RTは,被験者の後方350cmにデジタルカメラを設置し,画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて解析した。RTは,左右回旋を交互に10回行い,平均値を代表値とした。重心動揺検査は,重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用い,閉眼閉脚立位にて,60秒間測定した。得られたデータを高速フーリエ変換法(FFT)によるスペクトル解析にて,周波数帯域0.02から0.20Hz(FFTA),0.20から2.00Hz(FFTB),2.00から10.00Hz(FFTC)のパワースペクトル密度を算出した。頸部への振動刺激は,頸部後面へバンドにて固定した小型直流モーターFA-130RA(マブチモーター株式会社)を用いて製作した約100 Hzで振動するバイブレータ2機を用いて行った。測定手順は,RT,重心動揺検査,安静座位にて1分間の頸部筋への振動刺激,重心動揺検査,RTの順に行った。ただし,2回目のRTでは各測定の前に10秒間頸部筋へ振動刺激を加えた。頸部振動刺激前後のRT代表値をRTpre,RTpost,総軌跡長(LNG)をLNGpre,LNGpostとし,RTの変化率=RTpost/RTpre,LNGの変化率=LNGpost/LNGpreにて算出した。統計解析は,FreeJSTAT version13.0(佐藤真人,株式会社南江堂)を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った。【結果】本研究の結果,RTpreは67±14 mm,RTpostは71±22 mm,RTの変化率は1.06±0.29,LNGpreは89.97±23.16 cm,LNGpostは82.02±16.15 cm,LNGの変化率は0.94±0.22だった。RTpreとRTpost,LNGpreとLNGpostとの間に有意差はなかったが,RTの変化率は,LNGの変化率と中等度の有意な相関があり(r=0.61,p<0.05),FFTBの刺激前後の差と有意な中等度の相関があった(r=0.62,p<0.05)。【考察】本研究の結果,頸部振動刺激前後の頸部位置覚および重心動揺に有意な差はみられなかったが,頸部位置覚の変化率は,重心動揺の変化率と関連があった。先行研究では,後頸筋振動刺激中は無刺激時と比較して有意にLNGが増大することや筋への振動刺激の残存効果が位置覚の変化を継続的にもたらすことが報告されている。本研究において,振動刺激による影響は,個人差はあるが位置覚が低下すると重心動揺は増大することが示された。周波数解析では,FTTBの刺激前後の差は,頸部位置覚の変化率と有意な相関があった。立位姿勢制御に関連する重心動揺成分は,下腿三頭筋の体性感覚では2Hz以上の周波数帯域,足底圧および触覚では0.021から0.029Hzの周波数帯域にあるとの報告があり,部位により異なっている。本研究結果から,頸部の体性感覚情報は,0.2から2Hzの周波数帯域の重心動揺成分を制御している可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より,頸部位置覚は重心動揺と関連があり,0.2から2Hzの周波数帯域は,頸部筋からの体性感覚情報が制御している可能性が示された。立位姿勢制御の基礎研究として高齢者の転倒予防研究への活用が期待される。
  • 舘 友基, 原田 佳澄, 木村 圭佑, 上原 立資, 大髭 友浩, 松本 紗奈, 井上 拓, 江口 梓, 坂本 己津恵, 松本 隆史, 櫻井 ...
    セッションID: 0050
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)において,入院時点での退院時バランス能力の予測を行うことは重要である。Berg Balance Scale(以下,BBS)は転倒リスクや歩行自立の指標として幅広く用いられ,回復期病棟においても歩行自立の指標として報告が多くされている。また,小栢らはバランス能力は生活活動量との関連が強いと報告している。しかし,回復期病棟患者を対象とした受傷前の生活活動量とバランス能力との関連性や予測を検討した報告は少ない。本研究では,当院回復期病棟整形疾患患者に対して,退院時歩行自立判定に向けたバランス能力の予測を目的に,受傷前の生活活動量が与える影響に関して回復期病棟入院時の諸因子を含めて検討を行った。【方法】対象者は,平成24年6月から平成25年8月の間に整形疾患にて当院回復期病棟へ入院し,入退院時の評価を後方視的に調査できた31名(男性6名,女性25名,平均年齢83.2±5.6歳,平均罹患日数97.7±25.3日,平均在院日数64.4±22.0日)とした。評価項目はBBS,Life Space Assessment(以下,LSA),10m歩行時間,Functional Independence Measure(以下,FIM)とした。BBSは入退院時,LSA,10m歩行時間,FIMは入院時に評価を行った。また,LSAは社)日本理学療法士協会の評価期間を一部変更し,評価対象期間を受傷前1か月間とし,口頭にて家族に聴取した。統計処理にはIBM SPSS Statics18.0を使用し,退院時BBSと各項目間の関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いた。さらに,退院時BBSに関わる因子の検討を行うため,退院時BBSを従属変数,その他の項目を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究のデータの収集,分析にはヘルシンキ宣言に基づいて行い,当院の倫理委員会にて承認を得て実施した。【結果】各項目の平均点は,入院時BBS36.7±13.6点,退院時BBS46.6±11.2点,LSA64.9±36.7点,10m歩行時間22.0±18.2秒,FIM71.7±23.7点(運動項目46.8±13.2点,認知項目24.9±13.4点)であった。退院時BBSと入院時BBS(r=0.836),退院時BBSとLSA(r=0.825)に強い正の相関を認めた。また,重回帰分析の結果,退院時BBSを説明する因子は入院時BBS(β=0.623,p<0.05),LSA(β=0.355,p<0.05)の2変数が抽出された。このモデルの自由度調整済み決定係数はR2=0.788(p<0.05)であった。予測式はy=20.507+0.516×入院時BBS+0.110×LSAとなった。【考察】本研究の結果より,退院時BBSとLSAに強い正の相関を認め,先行研究と同様の結果を示した。受傷前の生活活動量が多いほど,受傷後のバランス能力が維持,改善されやすく,回復が良好な可能性が示唆された。また,重回帰分析の結果から,退院時BBSは入院時BBSとLSAに有意に関連しており,退院時バランス能力は入院時バランス能力と受傷前の生活活動量より予測が可能であることが考えられる。望月らの先行研究によると屋内歩行自立のカットオフ値をBBS43点と報告している。カットオフ値を目安にすることで,入院時点での歩行自立の予測にも有効であることが考えられる。このことから,受傷前の生活活動量を把握することで,退院時バランス能力の予測や歩行自立判定の一助になることも期待される。本研究の限界としては,あくまで当院回復期病棟における整形疾患患者対象の結果であるため各病院や施設で検討を行う必要性があると思われる。【理学療法学研究としての意義】回復期病棟において受傷前の生活活動量を予測に使用した報告は少ない。本研究の結果より,入院時のバランス能力に加え,受傷前の生活活動量を把握することで,より客観的なバランス能力の予測や歩行自立判定が可能であることが示唆された。
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