理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0041
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高齢者における外乱刺激による立位姿勢保持能力と転倒
肝付 慎一
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抄録

【はじめに】高齢化社会を迎えた近年,高齢者の転倒による骨折が増加している。内的要因及び外的要因に大別される転倒の原因はさらに多くの細かな要因から成る。今回,転倒予防を目的に,加齢に伴う内的要因の1つと考えられる立位姿勢保持能力を,外乱刺激による体幹・下肢の筋反応について調査検討したので報告する。【方法】対象は高齢群として当院デイケア利用者15名(年齢82.7±5.7歳,身長154.7±10.7cm,体重53.6±11.8kg)。介護度は要支援1が10名,2が4名,介護3が1名。内,変形性股関節症による人工股関節全置換術術後1名,変形性膝関節症による人工膝関節全置換術術後4名,大腿骨頚部骨折による人工骨頭挿入術後2名,脳卒中片麻痺Brunnstrom stageVI 3名。対照群は健常成人5名(年齢33±9.1歳,身長165.8±4.1cm,体重56.3±5.7kg)とした。調査項目は1)耳介からの垂線位置,2)筋反応時間,3)10m歩行時間を調査した。耳介からの垂線位置は平地で静止立位を行い耳介から垂らした分銅の下垂位置を足関節外果部位置より測定した。筋反応時間は筋電図検査装置(日本光電社製,MEB-2300シリーズ,ニューロパックX1)を用い,外乱刺激から脊柱起立筋,大殿筋,大腿四頭筋,前脛骨筋,腓腹筋の表面筋電を導出し筋収縮開始時間を測定した。10m歩行時間はストップウォッチを使用し10mの最大努力歩行時間を計測した。外乱刺激方法は5°傾斜の板につま先下がりになる様に静止立位保持後,逆の端をシーソーの要領で外乱刺激を行い,その直後の筋の収縮開始時間を記録した。また,検者の腓腹筋部へ記録電極を貼りその波形の立ち上がりを刺激開始点とした。計測は左右2回ずつ行い平均値を算出した。分析は高齢群間における相関関係,及び2群間比較は高齢群と健常成人を行い,さらに高齢群を過去1年以内の転倒歴を有群と無群に分け比較した。検定は全て有意水準5%未満で行った。【説明と同意】検者は同一者が行い,対象者へは今回の趣旨を十分説明して同意を得た。【結果】高齢群間における相関関係は耳介からの下垂位置と大殿筋以外の筋収縮開始時間に有意な正の相関があった。また,10m歩行時間と腓腹筋,大殿筋の収縮開始時間において有意な正の相関だった。2群間比較では,高齢群と健常成人の比較において,高齢群が耳介からの下垂位置は有意に長く,筋収縮開始時間においても前脛骨筋と腓腹筋の反応時間が有意に遅かった。また,転倒有群と無群の比較においては,転倒有群が耳介からの下垂位置は有意に長く,大殿筋以外の筋収縮開始時間が有意に遅かった。【考察】高齢者の立位姿勢運動パターンには,足関節を中心とした筋群と股関節を中心とした筋群の活動により引き起こされ,Manchesterらは高齢者では足関節周囲筋の活動前に股関節周囲筋の活動が生じたのに対し,若年者ではその反対の筋活動様相を示すとしている。今回の調査では高齢群,健常成人ともに遠位筋からの反応パターンを示していた。しかし,健常成人は前脛骨筋と腓腹筋の筋収縮開始時間が高齢群より有意に速く,高齢群より足関節を中心とした筋活動様式であることが示唆された。すなわち,高齢群は健常成人より耳介からの下垂位置がより前方へ位置していることから,前傾姿勢を呈し足関節を中心とした筋活動が健常成人より低下している。さらに,転倒歴のある高齢者はより前傾姿勢になり,筋収縮開始時間の遅延をきたすことで立位バランス能力の低下を惹起すると考えられ,加齢による外乱に対する立位姿勢保持能力の低下,及びその低下の一因が加齢に伴う神経-筋系要因の変化によるものと推察される。今後,転倒予防改善の為に運動介入が立位姿勢保持能力に及ぼす影響を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】外乱刺激による立位姿勢保持能力を解析することで高齢者の転倒予防に役立てる。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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