理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0154
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慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動に伴う注意機能の改善と頚動脈内膜中膜厚の関係
小林 茂平田 一人織田 恵輔吉川 貴仁藤本 繁夫
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抄録

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)は主に換気障害とガス交換障害のために炎症性変化が生じ,全身の生理機能が低下する。さらに,安静時および運動時の低酸素血症の存在が血管内皮障害を介して脳血管にも及び,高次脳機能の注意・認知機能の障害に影響すると考えられる。我々は,COPD患者の運動時低酸素血症(以下,EIH)と活動性の低下が注意・認知機能に関与したことを報告してきた。特に同患者は高齢者が多く,生活習慣病の合併がある症例が見られ,動脈硬化の関与が考えられた。そこで本研究ではCOPD患者の運動介入後の注意機能に及ぼす頚動脈内膜中 膜厚(以下,IMT)の関係を検討する。【方法】対象は症状安定期にある男性のCOPD患者12名,平均年齢73.5±6.5歳で,GOLDの病期分類軽症1名,中等症:7名,重症:3名,最重症1名であった。その中で運動中に指先での酸素飽和度が88%以下となった症例(以下,EIHあり群)8名は平均年齢75.5±5.8歳であった。一方,EIHを認めない(以下,EIHなし群)4名(平均年齢69.5±5.8歳)を対照群とした。プロトコールは20分間の安静に続いて,リカンベントエルゴメータによるAT強度10分間の運動を50回転/分で施行し,終了後10分間の安静とした。また,安静時および運動中・後の前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(以下,oxy-Hb)は近赤外線分光法(以下,NIRS)を用いて,注意機能に関与していることが報告されている前頭前野にあたる前額部の左右2ヶ所で測定した。注意機能検査としてTrail Making Test(以下,TMT)を安静時に2回,運動終了3分後と6分後に施行した。日を変えて頚動脈壁エコーによりIMTを測定し,左総頚動脈と球部の二箇所の肥厚最大値を求め,その平均値をIMTの肥厚程度(以下,mean IMT)とした。分析は安静時に対する運動後のTMT時間,oxy-Hbの変化量とmean IMTを両群で比較し関係を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はO大学医学部倫理委員会の承認を得て臨床研究として実施した。対象者には事前に口頭と文面にて研究内容と方法を説明し同意書を得た。【結果】1 TMTの変化EIHあり群は安静時91.8±20.4秒から運動後82.0±19.2秒に有意(P<0.05)な改善を認め,EIHなし群では安静時98.0±18.2秒から運動後84.0±13.3秒に有意(P<0.01)な改善を認めた。群間比較においては両群で有意な差を認めなかった。2 oxy-Hb濃度の変化EIHあり群は安静時を基準として運動後に2.5±2.3μmol/Lの有意(P<0.01)な増加を示し,EIHなし群では同様に3.1±2.1μmol/Lの有意(P<0.01)な増加を示した。群間比較においては両群で有意な差を認めなかった。3 IMTの結果EIHあり群のmean IMTは2.1±0.7mmであり,EIHなし群のmean IMTは1.2±0.5mmで,両群間に有意(P<0.05)な差を認めた。また,mean IMTは⊿TMT(安静時に対する運動後の変化量)と有意な負の相関(R=-0.54,P<0.05)関係が認められ,IMTが厚い症例ほどTMTの改善が少なかった。,同じく,⊿oxy-Hb濃度との間では相関(-0.49,(P<0.1)傾向にとどまり,IMTは厚い症例ほどoxy-Hb濃度の増加が少ない傾向が認められた。【考察】今回,AT強度の10分間の運動において,運動後のoxy-Hb濃度の増加に伴ってTMTによる注意機能が改善した。oxy-Hb濃度の増加は脳血流量の増加を反映しており,脳血流量の増加が注意機能改善に関係したものと思われた。このことは運動がEIHの有無に関わらず脳血流量を改善し,注意機能を改善する可能性がある。しかし,meanIMTはTMTの変化量と負の相関を示し,oxy-Hb濃度の変化量とは負の傾向を示した。このことは,IMTが反映する脳動脈硬化の存在が疑われるCOPD患者では,運動後のoxy-Hb濃度の増加が少ないことに伴ってTMTの変化も少なかった。以上より,動脈硬化が疑われるCOPD患者では,低酸素血症と合わせて動脈硬化の存在が,運動において脳血流量を増加することができないメカニズムとして加わり,注意機能の改善効果が乏しいことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】COPDにおける運動介入が同患者の注意機能改善に有効と考えられたが,同患者で低酸素血症に加えて脳動脈硬化が注意機能障害の一因子と考えられた。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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