理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0405
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口述
胸腔鏡下肺全摘除術における術後経過の検討
濱田 和美入江 将考平川 白佳岸本 英孝兵頭 正浩篠原 伸二山下 智弘中西 良一
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抄録
【はじめに】肺癌に対する肺全摘除術は,根治手術の中でも術後の呼吸機能低下や合併症発症のリスクが高く,患者背景においても化学療法後にようやく手術適応となる症例もあり,術後の運動耐容能やPerformance Status(PS)の低下が懸念される治療法である。しかし,肺全摘除術症例の術後近接期の経過に関する報告は少ない。今回,原発性肺癌に対し胸腔鏡下肺全摘除術(thoracoscopic pneumonectomy,TP)を施行し呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を実施された患者の術後経過について,胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy,TL)症例と比較し,その傾向を調査した。【方法】対象は,2009年5月から2013年10月までに,当院で肺癌に対し胸腔鏡下手術を施行され呼吸リハを介入した220例中,TPおよびTLを施行された169例とした。後方視的に,カルテより患者背景と周術期及び術後outcomeを調査した。運動耐容能評価としては,6分間歩行距離(6MWD)を術前,退院時に測定し,術前下肢筋力評価はハンドヘルドダイナモメーターを使用し,大腿四頭筋力を測定した。統計は,matched-pair analysisを行い,TP8症例と,年齢,性別,BMIをマッチさせたTL32症例を抽出した。2群間の解析には,t検定,Wilcoxon検定およびFisherの正確検定を用い,有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,対象者全員に十分な説明を行い,同意を得て評価および呼吸リハを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。【結果】全症例における術後在院日数の中央値は10日(6日~95日)であった。マッチング後の患者背景は,併存疾患(Charlson Comorbidity Index),術前の肺機能・PS・6MWD・下肢筋力の各因子では2群間における有意差は認められなかった。術後に関しては,離床獲得時期,在院日数,合併症ともに2群間において有意差は認められなかったが,術後回復期において,TP群がTL群よりも退院時の6MWDの回復率が悪く(p=0.007),入院時よりもPSが低下していた(p=0.02)。【考察】今回の結果から,TP群は,合併症発症率,術後離床獲得,在院日数において,TL群と同様の成績を示したが,退院時の運動耐容能やPSはTL群よりも低下していた。これらのことから,TP群の術後近接期において,合併症を回避し術後経過良好で退院できても,心肺予備能の指標である運動耐容能や日常生活上の活動量を反映しているPSは,退院時すでに低下を生じていることがわかった。Win Tら(2007)によると,術後肺機能低下に関連して運動耐容能低下は長期持続するとの報告がある。一方,Deslauriers Jら(2011)は,肺全摘除術後の長期評価において,肺機能低下は持続するが,残存肺の機能改善により,ガス交換や運動耐容能は正常に回復するという報告もある。そのため,今後は退院後の適切な評価や介入を含め,症例を重ねて検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回,TP患者の術後近接期の経過について調査した。肺全摘除手術は合併症やそれに関する死亡のリスクが高いため,TP患者の術後経過を把握し,術後合併症予防に努めると同時に,十分な運動療法を施行することで術後の運動耐容能回復および良好なPS,QOLの獲得に寄与すべきである。
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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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