理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1026
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物理的刺激による骨格筋量変化とストレス応答
大野 善隆後藤 勝正
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抄録

【目的】骨格筋は可塑性に富んだ器官であり,物理的刺激(機械的刺激や温熱刺激など)を負荷すると,骨格筋量が変化することは良く知られている。この物理的刺激によって骨格筋量変化がもたらされる際に,熱ショックタンパク質(heat shock proteins:HSPs)の発現も変化することが報告されている。哺乳類骨格筋細胞におけるHSPs発現は熱ショック転写因子(heat shock transcription factor 1:HSF1)によるストレス応答が関与している。しかしながら,物理的刺激による骨格筋の可塑性発現におけるHSF1の役割は明らかでない。そこで本研究では,物理的刺激による骨格筋量の変化に,HSF1を介したストレス応答が与える影響について,HSF1欠損(HSF1-null)マウスを用いて検討した。【方法】本実験は,HSF1-null雄性マウスおよび野生型雄性マウス(ICR)を用い,ヒラメ筋を対象筋とした。全てのマウスは気温約23℃,明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお,餌および水は自由摂取とした。実験1(機械的刺激の増加による影響):全てのマウスの右後肢を対照群,左後肢を機械的刺激群として設定した。左後肢において,ヒラメ筋の協働筋である腓腹筋腱を切除し,ヒラメ筋に対する機械的刺激を増加させた。実験2(温熱刺激による影響):マウスを41℃の暑熱環境で60分間飼育することで,温熱刺激を負荷した。温熱刺激を負荷しないマウスを対照群とした。各刺激負荷後にマウスの体重を測定した後,マウス後肢よりヒラメ筋を摘出した。筋周囲の結合組織を除去した後,筋重量を測定した。体重あたりの筋重量を算出し,骨格筋量の変化を評価した。【倫理的配慮】本研究は,所属機関における実験動物飼育管理研究施設動物実験実施指針に従い,所属機関の「遺伝子組換え動物実験安全委員会」ならびに「動物実験委員会」による審査・承認を経て実施された。【結果】実験1において,協働筋切除によるヒラメ筋への機械的刺激の増加は,野生型マウスの筋重量を増加させた。さらに,機械的刺激の増加によって生じる野生型マウスの筋重量増加率は,HSF1-nullマウスにおける筋重量の増加率よりも大きかった。一方,実験2で設定した温熱刺激をマウスに負荷することで,野生型マウスの筋重量は増加した。しかし,HSF1-nullマウスに対する温熱刺激は,筋湿重量に有意な変化をもたらさなかった。【考察】HSF1の欠損は,機械的刺激の増加によるヒラメ筋の肥大を抑制した。さらに,HSF1が欠損したマウスでは温熱刺激によるヒラメ筋の肥大が抑制された。哺乳類骨格筋細胞では,温熱ストレスなどの様々な細胞外ストレスによってHSF1が活性化し,ストレス応答が引き起こされることが報告されている。したがって,物理的刺激による骨格筋の適応変化の一部にストレス応答が関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】物理的刺激による骨格筋量の変化を修飾する因子の一つとして,骨格筋におけるHSF1依存性のストレス応答の存在が考えられた。物理的刺激による骨格筋量変化の分子機構が明らかになることで,効果的な物理療法ならびに運動療法の確立につながり,運動器リハビリテーションへ大きく貢献できると考えている。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(基盤C,25350641;挑戦的萌芽,24650411;基盤A,22240071)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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