理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1074
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訪問理学療法を利用する要介護高齢者のFunctional Independence Measureと関連する運動機能は何か?
齋藤 崇志大森 祐三子大森 豊渡辺 修一郎
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抄録

【はじめに,目的】在宅要介護高齢者(高齢者)に対する訪問理学療法の主な役割は,日常生活活動(ADL)能力の改善を図ることである。ADL能力は国際生活機能分類(ICF)において「活動」に該当する。「活動」を改善するためには,「環境因子」への間接的介入や「活動」への直接的介入など様々な介入が有用であり,「心身機能・構造」への介入が唯一の手段ではない。しかしながら,理学療法士(PT)は,「心身機能・構造」への介入,すなわち,運動療法を行う専門職である。運動療法を通して「活動」を改善することはPT以外の医療や介護の専門職には困難であり,PTがその専門性を発揮するべきである。ADL能力を改善するための運動療法を行うためには,ADL能力に関連する運動機能を同定する必要がある。先行研究において,通所介護サービスを利用する高齢者のADL能力と運動機能の関係が報告されている。しかしながら,訪問理学療法を利用する高齢者を対象として,ADL能力と運動機能の関係は検討されていない。本研究の目的は,訪問理学療法を利用する高齢者のFunctional Independence Measure(FIM)に関連する運動機能を明らかにすることである。【方法】対象者は,新規で訪問理学療法を開始した在宅高齢者連続127名の中で,取り込み基準(65歳以上,かつ,自宅内歩行が可能)を満たし,除外基準(Mental State Questionnaireの誤解答数が9以上の者,Brunnstrom Recovery StageがStageIV以下の重度の運動麻痺を有する者,神経筋疾患を有する者,後述する運動機能測定が不可能な者)に該当しない41名(男性16名,女性25名,平均年齢81.0歳)であった。測定項目は,運動機能とFIM(運動項目)であり,訪問理学療法開始時に担当PTが測定した。運動機能の指標として,2.4m歩行テスト(2.4GT)と等尺性膝伸展筋力体重比(KE),Modified-Functional Reach Test(MFRT),握力の測定を行った。2.4GTは2.4mの距離を歩く所要時間を測定するテストであり,最速歩行による所要時間を測定した。KEは左右の測定値の中で低い方を障害側KE(KE-AS),高い方を健常側KE(KE-NAS),左右平均値を平均膝筋力(KE-AV)とした。MFRTは3回測定したうちの最大値を採用した。握力は最大値の左右平均値を採用した。FIMは担当PTが評価した。統計解析は,まず,FIMと各運動機能の相関関係を明らかにするために単変量解析を行った。FIMは,運動項目の合計点とセルフケア(SC),移乗(TF),移動(MO)の小計点の4つに分類し,それぞれ運動機能との相関関係を分析した。次に,FIMに関連する運動機能を明らかにするために重回帰分析を行った。年齢と性別は調整変数として強制投入し,FIMの各4分類を従属変数,単変量解析で相関関係を認めた運動機能を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistics(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問理学療法の概要およびデータの学術的利用について事前に対象者に対して説明し,同意を得て実施した。【結果】単変量解析の結果,2.4GTとKE-AV,MFRT,握力は,FIMの各4分類と共通して相関関係を認めた。そのため,この4つの運動機能を重回帰分析における独立変数に採用した。重回帰分析の結果,FIM合計点と有意な関連が認められた運動機能は,2.4GT(β=-0.64)であり自由度調整済み決定係数(R2)-=0.38であった。SC小計点においては,2.4GT(β=-0.65)であり,R2=0.38であった。TF小計点においては,MFRT(β=0.49)であり,R2=0.22あった。MO小計点においては,KE-AV(β=0.42)と2.4GT(β=-0.41)であり,R2=0.45であった。【考察】2.4GTは,SC小計点を除く,全てのFIMに共通して関連する運動機能であった。また,MFRTとKE-AVは,特定のFIM下位項目と関連があった。この結果から,膝伸展筋力とバランス能力,そして,歩行能力を改善する運動療法が,訪問理学療法を利用する高齢者のADL能力の改善に寄与することが示唆された。ただし,決定係数が0.22~0.45と低値を示したことから,ICFに基づく「背景因子」への間接的介入や「活動」への直接的介入など様々なレベルへの包括的介入の1つとして運動療法を位置付けるべきである。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,運動療法が訪問理学療法を利用する高齢者のADL能力の改善に寄与する可能性を示したことである。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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