理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1137
会議情報

ポスター
等速性運動におけるパラメータと荷重下筋放電量との関連
髙松 敬三
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】等速性運動による筋力評価において,膝伸展筋力に対して屈曲筋力が低下している際は前十字靭帯(以下,ACL)損傷を引き起こしやすく,特に女性では膝屈伸力比が低値傾向との報告がある。ACL損傷は女性,スポーツ動作中の方向転換や着地動作,膝関節屈曲外反位での受傷が多い。ACL損傷後の筋力評価では等速性運動によるピークトルクが注視される傾向にあり,臨床で多用されている。しかし,膝屈曲と伸展のピークトルクやピークトルク発揮角度は条件によって差異が生じるとの報告もあり,平均パワーは不十分なこともある。本研究の目的は,等速性運動におけるパラメータと膝関節屈曲位荷重での筋放電量との関連について検討することである。【方法】対象は下肢に既往疾患のない健常女性27名(平均身長162.5±2.3cm,平均体重52.2±1.1kg,平均年齢21.6±1.6歳),対象者の利き足は全て右側であり,右膝屈曲筋の等速性筋出力と荷重下筋放電量を測定した。等速性筋出力はCYBEX HUMAC NORM(メディカ社製)を用い,測定パラメータには角速度60度/秒と180度/秒における膝屈筋のピークトルク,ピークトルク発揮角度,平均パワーを採択した。測定する角速度で軽い運動を1回行い,30秒間の休息をいれた後,最大努力による膝関節伸展屈曲運動を連続5回実施,運動範囲は膝屈曲90°から0°で行い,各々の角速度の間には1分間の休息を設けた。また,荷重下筋放電量は表面筋電計(日本メデイックス社製バイオモニターME6000)を用い,膝15°屈曲位と60°屈曲位(ともに体幹前傾角度60°)における右側片脚スクワット肢位保持での筋放電量を測定した。電極は右側の半腱様筋と内側広筋に貼付し,膝屈曲角度と体幹前傾角度は角度計と電子傾斜計で確定した。測定肢位にて7秒間の最大随意収縮を各々1回行い,7秒間の前後2秒間を除いた3秒間の筋放電波形を解析対象とした。なお,等速性筋出力と荷重下筋放電量の測定は数日の間隔をあけて実施し,order effectを考慮して対象者毎に順序を入れ替えて実施した。膝15°屈曲位と60°屈曲位における荷重下筋放電量の差については対応のあるt検定,等速性運動測定時に得られるパラメータと荷重下筋放電量との関連にはPearsonの相関係数を用いて検定した。なお,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究目的や測定方法を十分に説明し,同意を得て行った。【結果】荷重下筋放電量は,60°屈曲位に比べて膝15°屈曲位が有意に大きかった(p<0.05)。膝15°屈曲位での筋放電量が大きかった19名はピークトルク発揮角度が30.6±1.4°,膝60°屈曲位での筋放電量が大きかった8名はピークトルク発揮角度が61.6±2.2°であった。また,角速度180度/秒での平均パワーと膝15°屈曲位における荷重下筋放電量との間に有意な正相関(r=0.58,p<0.01)が認められたが,その他の項目間には有意な相関は認められなかった。【考察】右膝屈筋の荷重下筋放電量は,60°屈曲位に比べて膝15°屈曲位が有意に大きかった。荷重下動作時の膝屈曲角度と筋活動の関係について,膝軽度屈曲位になると膝伸筋の筋活動は低下し,膝屈筋の活動が増加するとの報告がある。今回の結果も先行研究と一致しており,膝屈曲角度は小さいほうが荷重下での膝屈筋力は大きくなることが示唆された。膝屈曲角度の違いにおける筋放電量の大きさでピークトルク発揮角度を比較すると,膝15°屈曲位での筋放電量が大きかった19名はピークトルク発揮角度が30.6±1.4°と浅い角度へシフトしており,膝60°屈曲位での筋放電量が大きかった8名のピークトルク発揮角度61.6±2.2°であった。このことから,等速性運動時のピークトルク発揮角度の違いで,膝屈曲筋の荷重下筋放電量に変化が生じる可能性はあるかもしれない。また,等速性運動時のパラメータと荷重下筋放電量との関連をみると,角速度180度/秒での平均パワーと膝15°屈曲位における荷重下筋放電量との間に,中等度の相関が認められた。すなわち,角速度180度/秒での平均パワーが大きいほど,膝15°屈曲位では荷重下筋放電量が高いという関係が示唆された。以上のことから,等速性運動測定時に得られるピークトルク発揮角度と平均パワーは,膝屈曲角度によっては荷重下筋放電量を反映する指標になり得るものの,動作能力を推定するためには更なる検討が必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】ACL損傷後の膝屈曲筋への理学療法介入では体幹前傾位スクワット動作を,筋力評価ではスポーツ復帰時期の検討として等速性運動を実施することが多い。よって,等速性運動による測定結果から種々の動作能力を推定していくことは,理学療法士が考慮すべき重要な課題の一つではないかと考える。

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top