抄録
【目的】本研究の目的は,神経筋疾患患者における1方向弁バルブによる最大強制吸気量(Lung insufflation capacity:LIC)の有効性を示すため,肺活量(volume Cpacity:VC),最大強制吸気量(Maximum Insufflation Capacity:MIC),PEEP弁バルブによる最大強制吸気量(PEEP lung insufflation capacity:PIC)を比較し,検討することにある。【方法】MICを経験している神経筋疾患患者10名。全症例についてVC,MIC,PIC,LICを2回測定(高値採用),VCを100%にした際のMIC,PIC,LICの変化率を比較し,統計学的有意差の有無について調べる。また,その時の患者実施困難感(Visual Analog Scale:VAS)を測定し,Patents Reported Outcomes(PRO)を加える。全ての測定は本人がair stackingできる最大限界圧までの量とし,PICによるPEEP圧は最低20cmH2O以上の圧がかかるに調整し,MIC,LICによる最大圧はリスク管理のため60cmH2Oを超えないようマノメーターを利用する。【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理審査委員会の承認を得て行い,本人に同意を得て行った。【結果】VC100%に比較し,MIC145±14%,PIC155±20%,LIC185±21%の順に有意に増加し,LICが最も高値を示した。またVASによる患者実施困難感はMICよりもPIC,LICは有意に低く,LICのPROは極めて良かった。【考察】MICは神経筋疾患患者における呼吸ケアにおいて有効な咳嗽を得るための手技であるが病態や症状の進行に伴い習得が困難なこともある。今回,我々が行ったLICは他の手技と比較し,最大の換気量を得たことに加え,患者の実施困難感は最も低かった。このことは神経筋疾患患者において,MICはVC以上の最大の換気量を得ているという認識から,LICを測定することによりMICを超えた肺・胸郭の柔軟性をより最大に得ている可能性が示された。LICを行うことは肺・胸郭の柔軟性を最大限に維持することから神経筋疾患患者における拘束性換気障害に対し極めて有効な対処療法になるものと考える。【理学療法学研究としての意義】MICはair stackingする能力により咳嗽力を高める手技である。PIC,LICはその点においてair stackingする能力は必要とせず,直接的に肺・胸郭の柔軟性を維持する手技と考える。それを理解することによりMICによる咳嗽訓練に加え,LICを実践していくことは最大限に肺の柔軟性を保つことが可能になり,神経筋疾患患者の新たな呼吸理学療法の一つになるものと考える。