理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1442
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化学療法に伴う無菌室管理前後における血液腫瘍患者の身体機能変化について
理学療法介入による影響
福井 祥二山下 深雪七野 さやか手塚 康貴
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キーワード: がん, 無菌室, 運動療法
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抄録
【はじめに,目的】がん患者では化学療法前後に身体活動性が低下し,筋力や運動耐用能など身体機能低下が生じると報告されている。中でも無菌室管理を必要とされる血液腫瘍患者は長期間活動が制限され,身体機能低下が生じやすい。近年,化学療法中・後の血液腫瘍患者に対する運動療法の有効性が報告され,がんのリハビリテーションガイドラインにおいても推奨されている。当院では従来は身体機能低下が生じてから廃用症候群として医師から理学療法指示が処方されていたが,2012年4月よりがん患者リハビリテーション料の算定が可能となり,身体機能が低下する前から理学療法介入が可能となった。しかしながら,本邦において無菌室管理前からの理学療法介入による身体機能への効果の報告は散見される程度である。そこで,本研究では理学療法介入前後の身体機能の変化について分析した。【方法】対象は2012年4月以降当院に入院し,無菌室での医学的管理の後,2013年10月までに退院した血液腫瘍患者のうち,理学療法開始時と退院前に膝伸展筋力の測定が可能であった52名(男性36名,女性16名,年齢54.5±13.3歳)とした。理学療法拒否,全身状態不良や死亡などにより測定が不可能であったものは除外した。介入は無菌室管理前後では理学療法室でのエルゴメータ(FUKUDA DENSHI,Well Bike BE-250),歩行練習などによる有酸素運動,筋力トレーニングを実施し,無菌室内ではセラバイタル4(Medica社)による有酸素運動や筋力トレーニングを実施した。また,セラバンドなどを用いた自主トレーニングを指導した。評価は理学療法介入開始時および退院前に膝関節伸展筋力,股関節外転筋力,肘関節伸展筋力をHand Held Dynamometer(Anima社,μTas F-1)により測定した。また,握力,6分間歩行距離,10m歩行速度,Timed Up & Go Test,片脚立位時間を測定した。統計学的分析は対応のあるt検定によって介入前後の上記項目について比較した。筋力は左右の平均値を評価時の体重で除した%体重比を比較に用いた。また各項目の介入前後の変化値と理学療法介入率についてPearsonの積率相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当法人規定の承認を受け実施した。【結果】理学療法開始から退院までの日数は32.7±13.8日であり,そのうち理学療法介入日数は19.3±10.2日であった。理学療法介入率は58.7±15.7%であり,週4.1±1.1日の介入であった。介入前後において股関節外転筋力の%体重比は32.4±7.7%から34.2±7.6%に有意な改善(p<0.05)を示した。膝関節伸展筋力,肘関節伸展筋力,握力の%体重比およびその他すべての項目は介入前後で有意差をみとめなかった。また,理学療法介入率と膝関節伸展および股関節外転筋力の%体重比の変化値にそれぞれ有意な正の相関(r=0.28,r=0.32,p<0.05)がみとめられた。【考察】本研究において倫理的側面からコントロール群を設けることはできなかったが,長時間の点滴治療や無菌室管理によって活動性が制限されたにもかかわらず,介入前後においてすべての身体機能項目で有意な低下をみとめなかった。また,理学療法介入率と下肢筋力の変化値に有意な正の相関をみとめたことからも,理学療法介入が筋力,歩行速度,バランス能力,運動耐用能の維持に寄与した可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】がん患者リハビリテーション料の算定が可能となり,血液腫瘍患者において化学療法に伴う副作用や無菌室管理などによる活動性の低下から生じる身体機能の低下に対し予防的介入が可能となった。しかしながら本邦において理学療法介入による無菌室管理前後の血液腫瘍患者の身体機能低下に対する予防的効果の報告はまだ乏しい。本研究から無菌室管理を必要とし,身体活動の制約を余儀なくされる血液腫瘍患者の1ヶ月以上の入院期間において,週4日程度の理学療法介入が,筋力,運動耐用能,歩行速度,バランス能力などの身体機能の維持に寄与できた可能性が示唆された。
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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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