理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1538
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足関節背屈における可動域制限因子の検討
鶴田 歩藤縄 理大関 貴弘
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抄録

【はじめに,目的】足関節の背屈運動には,近位脛腓関節,遠位脛腓関節,距腿関節の3つの関節が関与している。これらの各関節の機能異常により足関節背屈可動域制限が生じ,関節モビライゼーション(Joint Mobilization:JM)によって,可動域制限を改善させるという報告が多い。しかし,背屈可動域制限にこれらの3つの関節が,それぞれどの程度関与しているのかを明らかにした報告はない。本研究の目的は,足関節背屈制限があり,且つ近位脛腓関節の制限がない対象者に対し,遠位脛腓関節と距腿関節にJMを個別に行い,それが足関節背屈角度に及ぼす影響を調査し,背屈制限への関与を検討することである。【方法】対象は,足関節背屈制限がある女子大学生(平均年齢:20.25±1.41歳)の両下肢,計40脚とした。除外基準は,下肢に急性期および亜急性期の整形外科疾患を有している者,進行性の下肢関節疾患を有している者とした。全被験者に対して足関節背屈可動域を測定し,近位脛腓関節,遠位脛腓関節,距腿関節の副運動検査を行った。これらの検査にて,近位脛腓関節に制限がない者を抽出し,グレードIIIの関節包ストレッチを実施する介入群,介入群と同様の手技で接触し,ストレッチを実施しない対照群に分類した。介入群では,遠位脛腓関節と距腿関節に対してJMを個別に実施した。各JM実施直後に,実施前と同様に背屈可動域を測定した。介入群-対照群の分類,各JMを施行する順番はランダムとした。また,背屈角度の測定は,足関節背屈角度測定器を製作し,信頼性を検定後(ICC(1,1):0.692~0.971,ICC(2,1):0.986),JM施行者とは異なる3名の検者によって測定した。分析は,正規性を確認後,全体的な変化量の比較には,介入群と対照群間,JM施行順序の違いの2要因について二元配置分散分析を,各関節の変化量の比較には,Mann-Whitney U-testを用いて検定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者に対して本研究の目的,方法を書面および口頭にて説明し,文書により同意を得た。なお,所属施設の倫理委員会にて承認を得た(第25838号)。【結果】全体の背屈角度の変化量は,JM施行順序の違いによる有意差はなかったが,介入群では有意差に大きかった(介入群:対照群 右4.0±1.70°:0.7±1.16°,左5.3±2.98°:0.1±1.29°,p<0.001)。同様に,距腿関節の変化量は,介入群で有意差に大きかった(介入群:対照群 右1.9±1.29°:0.5±0.70°,左1.9±0.57°:0.3±1.16°,p<0.01)。遠位脛腓関節の変化量は,介入群で有意差に大きかった(介入群:対照群 右2.1±0.74°:0.2±1.14°,左3.4±3.31°:-0.2±0.92°,p<0.001)。全体的な変化量に対する,各関節の変化率を算出すると,距腿関節が約40%,遠位脛腓関節が約60%になった。【考察】一般的に足関節背屈制限に対しては,距腿関節を中心に背屈ストレッチを行うことが多い。しかし,今回の結果では,足関節背屈制限に対して,関節性の因子として距腿関節が約40%,遠位脛腓関節が約60%関与していた。遠位脛腓関節の関与がより大きくなったのは,同結合が線維性連結であり,背屈時に前方が広くなった楔状の距骨滑車が後方に入り込んでいくのを制限していたことが理由として挙げられる。JMによって遠位脛腓関節の副運動が増して背屈時に離解が大きくなり,距骨滑車がより後方へ滑りやすくなったためと推察できる。距腿関節はJMにより同関節の副運動が増して,距骨滑車がさらに後方へ滑走やすくなったと考えられる。このように,足関節背屈における関節性の制限因子としては,遠位脛腓関節の方が,より大きな制限因子であることが判明した。【理学療法学研究としての意義】足関節背屈可動域制限に対して理学療法を実施する場合,遠位脛腓関節と距腿関節の副運動と筋やその他の軟部組織の評価を適切に行う必要がある。その結果,関節性の制限因子がある場合は,筋性因子へのアプローチを行う前に,関節モビライゼーションを実施しなければならないことを示唆している。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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