理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1582
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大内転筋は大腿内側四頭筋か?
滝澤 恵美鈴木 雄太伊東 元鈴木 大輔藤宮 峯子内山 英一
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抄録

【はじめに,目的】4つの筋から構成される大腿四頭筋の筋束の分離性は実際には不明瞭である。しかし,各筋の張力方向が異なるため,機能解剖学的に筋を分けて理解することは重要である。大内転筋は大腿四頭筋と同様に大きく,かつ扇形のため部位毎に張力方向が異なる類似点を持つ。しかし,この筋は1つの筋として理解されている。これまでに著者らは,大内転筋の各部位の筋形態や神経支配,モーメントアームを調べその特徴を報告してきた。本報告の目的は,これまでに得たデータから大内転筋の筋束毎に筋線維長/モーメントアーム比と関節トルクを算出し,この筋の機能的な分離性を検討することである。【方法】大内転筋を大腿深動脈の貫通動脈,内転筋裂孔を基準に4つの筋束(AM1-AM4)に分けて分析した。1.生理的断面積(PCSA)と筋線維長(MFL)の計測:男性のホルマリン固定遺体10体(左7肢,右3肢)を使用した。死亡時の平均年齢は79歳(75から91歳)であり,神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮,著明な筋萎縮および過剰筋が見られる下肢は除外した。PCSAは,筋腹の最大部を筋線維に対して垂直に切断後,断面をデジタルカメラで撮影し画像解析ソフトを用いて求めた。MFLは,筋を伸長させ起始から停止までの距離を定規で計測した(Takizawa, et all. 2011)。2.神経支配の調査:ホルマリン固定遺体21肢(男性18肢,女性3肢)を使用した。著明な筋萎縮および過剰筋が見られる下肢は除外した。閉鎖神経後枝と脛骨神経を同定し,大内転筋の各筋束への分布を肉眼で観察した(Takizawa, et all. 2012)。3.モーメントアームの計測:未固定凍結遺体5体を使用した。大腿骨を他動的に矢状面上で動かしながら大腿骨頭および大内転筋の各筋束の起始および停止部の座標値を3次元磁気式デジタイザーで取得した。座標値を用いて関節角度とモーメントアームを算出し,5体のデータから近似式を求めた(滝澤,他。2012)。4.分析:解剖学的肢位(屈曲/伸展0°)における各筋束(AM1-AM4)のモーメントアームを近似式から求めた。推定されたモーメントアーム(MA)と上述1のMFLおよびPCSAの体格補正後の平均値を用いて,MFL/MA比と関節トルク(PCSA*MA*固有筋力)を算出した。なお,固有筋力は5kg/cm2とした。【倫理的配慮,説明と同意】使用した遺体は,本人および家族が教育・研究のため使用されることを同意している。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】近似式から求めた解剖学的肢位における大内転筋各部位のモーメントアーム(cm)は,AM1(8.4),AM2(11.2),AM3(14.6),AM4(16.6)だった。MFL/MA比は,AM1(1.4),AM2(1.4),AM3(1.9),AM4(2.6)であり,モーメントアームを考慮してもなおAM4の筋線維長が長かった。関節トルク(kgm)は,AM1(1.1),AM2(2.3),AM3(2.3),AM4(1.8)であり,AM1が他の筋束に比べ小さな値だった。神経支配は,AM1とAM2が主に閉鎖神経後枝,AM3は閉鎖神経と脛骨神経の二重神経支配,AM4は脛骨神経であり,3つの異なる支配パターンを示した。【考察】筋の構造やその配置は単なるデザインではなくその機能を反映する。MFL/MA比の大きな筋は,トルク発生可能な可動範囲が広く,さらに素早く関節を動かすことに関係する。大内転筋を4つの筋束に分けMFL/MA比を求めたところ,特にAM4の値が大きかったことから,この筋束は大きく素早く関節を動かす際に有効な筋束と考える。なお,大内転筋の中でこの筋束のみが脛骨神経(単一)の支配を受けていたことから,他の筋束から独立して収縮する可能性がある。AM2とAM3は同程度の関節トルク値を示したが,その神経支配は異なっており制御が異なる可能性がある。AM1のMFL/MA比はAM3やAM4より小さく,さらに関節トルクも小さいため限られた肢位における関節の安定性に関与していると推察した。【理学療法学研究としての意義】大内転筋の各筋束に潜在する関節トルク(大きさ,スピード)の違いと神経支配の違いから,この筋は機能的に大腿内側四頭筋として認識し評価および運動療法を検討することが適切かもしれない。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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