理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0048
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口述
臨床実習における教育方法について
指導者側の要因に着目して
松崎 秀隆原口 健三吉村 美香満留 昭久
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抄録

【はじめに,目的】臨床実習において,臨床実習指導者supervisor(以下,SV)は認知領域(知識)および精神運動領域(技術),情意領域(態度)の指導を行う。特に専門職としての適性および実習学生としての態度などの情意領域(態度)に関する教育,指導を重視するSVも少なくない。しかし,その教育方法は様々であり,SV自身の教育に関する方法や訓練が十分でない場合も多い。著者らは,臨床実習における学生が感じる不当待遇に関する調査から,約60%前後の学生が実習中に不当待遇を経験していることを明らかにしてきた。そこで今回,臨床実習における教育方法の重要性を把握する目的で,教育,指導方法や,SV自身が過去に経験した不当待遇について調査を実施した。【方法】対象は,福岡県理学療法士会に所属し地区勉強会に参加していた理学療法士Physical Therapist(以下,PT)で,本調査研究に同意の得られた20名(平均年齢30.4±7.0歳,平均臨床経験6.9±5.9年)とした。勉強会終了後に,臨床実習,教育方法および教育(学習)用語を中心に作成した自記式の質問紙調査を実施した。質問項目は36項目からなり,「学生指導への興味関心」,「教育方法に関すること」,「教育に関する講習会への参加経験」「実習指導における不当待遇経験」などである。回答方法は,「ある」,「なし」どちらかを選択し回答,また「認知的徒弟制」,「正統的周辺参加」など教育(学習)用語については「説明を出来る」,「説明できない」などを選択する回答方法用いた。対象者に対しては,質問紙を配布し,回答終了後にその場で一斉に回収し,各項目の割合を算出し検討した。なお,質問項目の内容と回答方法については,先行研究を参考に,著者を含めた複数名で検討を重ね,妥当であると判断したものを採用した。【結果】実習において学生指導・教育に興味があると回答したものは80%であった。また,自身の勉強会への参加経験は,理学療法基礎系,神経系,骨関節系の分野を中心に95%と積極的な参加が認められた。一方で,教育系の学会や,講習会に参加した経験のあるPTはいなかった。また,勤務施設内において,SVになるための研修会(勉強会)を開催している施設は,30%であった。教育(学習)用語の理解について,説明できると回答が得られた語句は,クリニカルクラークシップ75%,OSCE(objective structured clinical examination)25%,OJT(on the job training)20%であった。最後に,自身の実習中の不当待遇の経験について,「経験した」または「感じた」と回答したPTが55%であった。項目別には「言葉による不当待遇」が45%と最も高く,次に「身体へおよぶ不当待遇」,「学業に関する不当待遇」となった。【考察】学生指導や教育に興味をもっている割合が80%と高い値を認めたことは,PTが理学療法教育の重要性を十分に認識していると判断できる。実際にSVを経験したとするPTの70%が,自分にプラスになったと回答しており,苦慮したとする65%を上回る結果を認めた。プラスとされた内訳は,基本的知識の再確認や教育,指導方法であった。また,研修会などへの参加率も95%であり,多くのPTが生涯学習の重要性について十分に理解し,努力していることも分かった。一方,教育(学習)用語については,ほとんどの語句で説明できないことを認め,教育,指導方法についてプラスになったとする回答との矛盾を認めた。これは,「教育」と「指導」という語句の捉え方にも起因していると考える。過去の不当待遇の経験が55%であることを踏まえれば,現在の学生の値との類似性が考えられる。つまり,自らが経験した実習教育方法をそのまま実施する,世代間伝達が臨床実習指導に影響を及ぼしている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】臨床実習における教育的問題点については,あらゆる要因から検討する必要性がある。その中には,多様化するカリキュラムの不透明感など学校側の要因,モチベーションやレジリエンスに対する学生側の要因,そして本調査で検討した,指導者になるための養成研修などを含めたSV側の要因が考えられる。欧米諸国ではSVに対する批判的評価報告が散見される。一方,本邦では臨床実習教育に関するSV側の要因に着目した調査報告は極めて少なく,実態調査としての意義は大きいと考えている。

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© 2015 日本理学療法士協会
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