理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0093
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口述
努力呼吸における胸郭形状の解析
呼吸機能と胸郭形状の関係性について
平山 哲郎石塚 達也小関 泰一本間 友貴西田 直弥岡崎 倫江川崎 智子小関 博久泉崎 雅彦石田 行知柿崎 藤泰
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抄録

【はじめに,目的】呼吸時の胸郭の動きは,上部および下部ともにヒトに共通してみられる非対称な運動を呈している。ヒトには,非対称で共通した胸郭の形態や運動が存在することが報告されており,呼吸運動においても同様な特徴が観察されるものと考えている。このヒトに共通してみられる非対称な動きが残存し強調されると,一定の運動方向への定着が生じる。この状態では,筋群の緊張や筋長の変化によって拮抗する筋との相互関係が崩れ,運動の非効率性が容易に生じる。これらの定着した形態や運動に対し,胸郭の相対的な関係性を考慮した理学療法を展開することで,呼吸機能をはじめとする身体機能に良い結果をもたらす。そのため,健常成人の胸郭形状や特異的な運動と呼吸機能との関係性の解明は,呼吸器ならびに運動器疾患をみていくうえで臨床的意義があり,それらに対する理学療法の一助となるものと考える。本研究では3次元画像解析装置と呼吸機能検査装置を用いて,呼吸運動における胸郭の水平面上の運動と呼吸機能との関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は整形外科的および神経学的に問題のない健常成人男性19名とした(年齢:25.2±3.7歳,身長:173.7±7.2cm,体重:67.6±8.4kg)。測定肢位は座位とし,上肢の影響を除くためにレッドコード(redcord, Staubø, Norway)を用いて肩甲棘と上腕骨長軸が一直線となるゼロポジションで固定した。課題動作は安静呼気,最大吸気,最大呼気とし,可及的に脊柱の矢状面変化が生じないよう測定前に十分な練習を行った。肋骨回旋運動量は3次元画像解析装置(QM-3000,Topcon Technohous,Tokyo)を用いて胸郭の水平断面図を作成し検討した。そして胸郭中心線より左右水平面上の断面積を算出し,安静呼気位,最大吸気位,最大呼気位で比較した。呼吸機能検査には電子式診断用スパイロメータ(AS-507,ミナト医科学社,大阪)を用い,AS-507指定の実施方法で計測した。統計学的解析はそれぞれの項目で左右断面積比をwilcoxonの符号付順位検定を用いて比較した。また呼吸機能と水平面上の胸郭形状との関係をPearsonの積率相関係数を用い検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS18J(IBM社製)を使用し,有意水準はそれぞれ5%未満とした。【結果】安静呼気位における胸郭水平面上の断面積比は,上部胸郭で左側が有意に大きく(p<0.01),下部胸郭では右側が有意に大きかった(p<0.01)。最大吸気位における胸郭水平面上の断面積比では,上下部胸郭ともに左右差が減少する傾向が示された(p=n.s.)。最大呼気位における胸郭水平面上の断面積比では上部胸郭で左側が有意に大きく(p<0.01),下部胸郭では右側が有意に大きかった(p<0.01)。呼吸機能検査においては,安静呼気位における上部胸郭左右水平断面積比の差が増大している例でTVが増大する傾向が示された(r=0.40)。また下部胸郭左右水平断面積比の差とTVは強い負の相関を示した(r=-0.71)。また,上部胸郭左右水平断面積比の差とPEFRでは中等度の負の相関が示された(r=-0.51)。【考察】今回は3次元画像解析装置,呼吸機能検査装置を用いて呼吸運動における胸郭形状の変化と呼吸機能の関係性を検討した。胸郭形状変化の特徴として,最大吸気位では胸郭形状に左右差が認められなかったが,最大呼気位では上部胸郭レベルで左側と比較し右側肋骨の前方回旋位,下部胸郭レベルで右側と比較し左側肋骨の前方回旋位を示す有意な形状変化がみられた。また呼吸機能との関係において,安静位における下部胸郭の左右差の増大に伴い,横隔膜の活動性が低下することが考えられ,換気機能にも影響を及ぼすことが示唆された。また上部胸郭の左右差が増大し1回換気量も増大している例では,吸気筋の過活動が生じることで,呼出機能の低下を招くものと考えられる。このように呼吸運動における胸郭運動や呼吸機能との関係性を理解することは,呼吸器をはじめとする多くの疾患に臨床応用できるものと考える。【理学療法学研究としての意義】今回の研究から,呼吸運動における胸郭形状の変化と呼吸機能の関係性が明らかとなった。水平面上の胸郭形状の左右差を考慮したアプローチは,呼吸器ならびに運動器疾患をみていくうえで有用であり,それらに対する理学療法の一助になるものと考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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