理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0095
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若年者における慢性腰痛と呼吸機能の関連
木庭 知美德永 理紗金子 秀雄
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抄録

【はじめに,目的】呼吸筋である横隔膜や腹横筋は腹腔内圧を高め,体幹安定性を向上させる作用を持つ。これらの不十分な機能や姿勢調整機能の低下が,腰痛に関連する要因となる。しかし腰痛呼吸機能の観点から調査した報告は少なく,その実態は明らかではない。そこで今回,若年者を対象に慢性腰痛の有無を調査し,呼吸機能に違いがあるか検討することを本研究の目的とした。【方法】対象者は大学生231名にアンケートを行い,運動習慣のない慢性腰痛者29名(腰痛群:男性9名,女性20名,年齢21±1歳,BMI21.6±2.5 kg/m2)と性別,年齢,BMIで腰痛群とマッチングさせた29名(健常群:男性9名,女性20名,年齢21±1歳,BMI20.8±2.1 kg/m2)を対象とした。呼吸循環器疾患,神経疾患の既往がある者は除外した。呼吸機能評価として努力性肺活量(FVC,%FVC),呼吸筋力,胸腹部可動性の3項目を測定した。FVCの測定にはスパイロメーター(スパイロバンク)を使用し,測定肢位は座位で3回測定した中の最大値を採用した。呼吸筋力は口腔内圧計(Micro RPM)を使用し,測定肢位は座位とし,最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)の2つを計測した。PImaxは呼気終末位から最大吸気を,PEmaxは吸気終末位から最大呼気を行い,その圧を3秒間維持させた。測定は3回施行し,最大値を採用した。胸腹部可動性は呼吸運動測定器を使用し,深呼吸時の呼吸運動を0~8(基準範囲:4~7)の9段階のスケール値で表した。測定肢位は背臥位で,右側の上部胸郭(第3肋骨),下部胸郭(第8肋骨),腹部の3か所で2回ずつ測定し,最大値を採用した。呼吸運動評価スケールの測定は1名の検者が行い,信頼性を確認するために健常群のうち10名は呼吸運動評価スケールを再測定した。腰痛群と健常群のFVC,%FVC,PImax,PEmaxを比較するために,対応のないt検定を用いた。また,胸腹部可動性スケール値を比較するためMann-WhitneyのU検定を用いた。スケール値の信頼性をみるため重み付けκ係数を用いた。有意水準は5%とし,それ未満を有意とした。【結果】FVCは腰痛群3.7L,健常群3.9Lで有意差はなかった。%FVCは腰痛群94%,健常群101%となり,腰痛群の有意な低下を認めた。呼吸筋力はPImaxが腰痛群65cmH2O,健常群70cmH2O,PEmaxは腰痛群70cmH2O,健常群84cmH2Oで有意差はなかった。呼吸運動評価スケールは上部胸郭スケール値が腰痛群6,健常群7,下部胸郭は腰痛群5,健常群7,腹部は腰痛群5,健常群5で腰痛群における胸部スケール値の有意な低下を認めたが,腹部には有意差はなかった。重み付けκ係数はすべての部位において>0.7を示した。【考察】本研究では慢性腰痛者と健常者を対象にFVC,%FVCとPImax,PEmax,呼吸運動評価スケールを計測し,2群に違いがあるかを検討した。その結果,健常群に比べ腰痛群では%FVC,PEmax,上部・下部胸部スケール値が低下しており,慢性腰痛者では呼吸機能が低下している可能性が示された。一般に腰痛のメカニズムとして体幹筋力低下や不良姿勢などが挙げられる。体幹筋の中でも,特に体幹安定性に作用する腹横筋の機能障害が指摘されている。腹横筋は呼気筋であるため,このことが慢性腰痛者のPEmax低下に関連している可能性がある。また,胸部スケール値の有意な低下を認めたことは,原因は明らかではないが胸郭の関節運動が制限され,その結果%FVCの低下に関連した可能性が考えられる。若年慢性腰痛者において呼吸機能低下が示唆されたことは,慢性腰痛と呼吸機能の関連について理解を深め,問題を多角的に捉えるための有用な情報になると考える。【理学療法学研究としての意義】若年慢性腰痛者において呼吸機能低下が示唆されたことは,慢性腰痛と呼吸機能の関連について理解を深め,問題を多角的に捉えるための有用な情報になると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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