理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0108
会議情報

口述
Light Touch効果は感覚運動皮質領域と後部頭頂皮質領域の脳活動と関係する
石垣 智也植田 耕造菅沼 惇一脇 聡子冷水 誠岡田 洋平森岡 周
著者情報
キーワード: Light Touch, 姿勢制御, 脳波
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】立位姿勢の安定化に寄与しない程度の力(1N以下)で,固定点に指先で触れると姿勢動揺が減少する。これをLight Touch(LT)効果という。LT効果には大脳皮質の関与が示されており,LT中の脳活動は報告されている(Bolton, 2011)が,LT効果に関係した脳活動は明らかでない。先行研究は体性感覚誘発電位による検討であり,瞬間的な脳活動を測定するに留まり,周期的変化を示す姿勢動揺との関係を捉えるには適切ではない。また,LT効果は接触点に対する外的注意と関係する(Railey, 1999)が,先行研究では立位中の注意の統制を行っておらず,条件比較が厳密に行えていない可能性がある。そこで本研究では,LT効果に寄与する要因を調整した立位条件を設定し,脳波周波数解析によりLT効果に関係する脳活動を明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人13名(平均年齢23.7±4.1歳)を対象とした。測定姿勢は,閉眼閉脚立位で左上肢は体側下垂位とし,右上肢は肘関節屈曲90°で示指伸展位とした。立位条件は,身体に注意し揺れないように立つControl(C)条件,右示指に注意し揺れないように,固定点にLTを行うL条件,L条件同様に右示指に注意し,自己の姿勢動揺を反映した非固定点(Bolton, 2011)に接触するSensory touch(S)条件,何にも接触せず右示指にのみ注意するAttention(A)条件の4条件とした。各条件のLT効果に寄与する要因は,L条件は固定点接触,感覚入力,指先への注意,S条件は感覚入力,指先への注意,A条件は指先への注意である。測定時間は30秒間とし,手順は最初にC条件を測定した後,各条件をランダムな順序で2試行ずつ測定した。測定項目は,L条件のみ,指先接触力をひずみセンサーELFシステム(ニッタ社)にて,sampling周波数20Hzで記録した。姿勢動揺は重心動揺計G-6100(ANIMA社)にて,sampling周波数は100Hz,使用データは実効値面積とした。脳波は,高機能デジタル脳波計Active two system(Bio semi社)を拡張10-20法に基づく32ch電極配置にて,sampling周波数1024Hzで記録した。脳波の解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社)を用い,各条件において1施行ごとに15 epochs(1 epochを2秒間)を加算平均した後,パワースペクトル解析を行った。その各条件各chのHigh-α成分(10-12Hz)のpower値を用いて,ERD/ERS(event-related desynchronization/synchronization)をERD/ERS=(各条件-C条件)/C条件×100(%)の式に基づき算出した(Del Percio, 2009)。採用値はそれぞれ2試行の平均値とした。統計解析は,C条件に対する各条件の比較を対応のある一元配置分散分析(多重比較検定法Bonferroni)にて行い,C条件に対するL条件の実効値面積の変化率(以下,LT効果)とERD/ERS値間のPearson積率相関係数を算出した。有意水準は5%とした。【結果】L条件における全試行で接触力は1Nを超えなかった(平均0.43±0.15N)。姿勢動揺ではL条件のみC条件に比べ有意な実効値面積の減少を認め(p<.01),脳活動ではL条件のC3.chのみ有意なHigh-α成分の減衰を認めた(p<.05)。相関分析では,LT効果とC3.chにおけるERD/ERS値に有意な負の相関を認め(r=-.60,p<.05),P3. PO3.chでは有意な正の相関を認めた(r=.56,p<.05)(r=.58,p<.05)。【考察】L条件のみ実効値面積が減少し,左感覚運動皮質領域(C3.ch)のHigh-α成分が減衰した。また,LT効果と負の関係を示し,左後部頭頂皮質領域(P3. PO3.ch)では,LT効果と正の関係を示した。L条件は指先に注意し,固定点に接触を行う条件である。つまり,外的注意に基づく空間参照点への接触という他条件との差により,特異的な姿勢動揺と脳活動の変化が示されたといえる。また,High-α成分の減衰は運動に関連した脳活動とされている(Pfurtscheller, 1997)。つまり,右示指に基づく姿勢制御様式への変化が,対側の左感覚運動皮質領域High-α成分の減衰として示され,少ない制御様式の変化でLT効果を得られたものほど,LT効果が大きいという関係を示したと考える。また,LT効果は接触点への空間定位により得られ(Rabin, 2008),空間定位には後部頭頂皮質が関係する(Parkinson, 2010)とされている。これらより,LTによる求心性情報に基づく空間定位が強く行えたものほど,後部頭頂皮質領域High-α成分が減衰し,LT効果が大きいという関係を示したと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,LT効果に関係する脳活動が感覚運動皮質領域と後部頭頂皮質領域であることを初めて示した報告であり,LT効果を用いた理学療法を考察する際の基礎的知見を示した。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top