理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0118
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口述
関節リウマチ患者への運動療法およびカスタムインソールによる治療効果の検討
三本 坪大小薗 幹
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抄録

【はじめに,目的】関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者の歩行障害は,下肢の関節破壊による変形や痛み,筋力低下などにより引き起こされている。これに対して外科的治療や運動療法,装具療法などが行われ,運動療法は関節リウマチ診療ガイドライン(2014)において,強く推奨されている。一方,装具療法はガイドライン上にはないが,多くのRA患者が足部の痛みを除圧や圧分散で軽減するために足底板を使用している。しかし,足底板の使用により除圧だけではなく,姿勢の変化,動作の誘導,関節運動の効率化を可能にすることも知られている。そのためRA患者の歩容改善を含めた歩行トレーニングにも有用ではないかと考えた。今回,RA患者に対して,筋力トレーニングと有酸素トレーニングに加え,足部障害に合わせた改造足底板(以下,カスタムインソール)を作成して歩行練習を実施した。これらの介入による効果について調査した。【方法】足部変形による歩行障害を認め,2014年4月から理学療法を開始した外来RA患者5名(女性4名,男性1名)を対象とした。平均年齢は72.8歳(66~86歳),平均罹病期間は146.4ヵ月(96~180ヵ月)であった。3ヵ月間,週1回1時間程度で筋力トレーニング(主に膝関節伸展および股関節外転)と心肺機能トレーニングと同時に,靴の中敷き裏面に緩衝材パーツを貼付する簡易な方法のカスタムインソールの作成を行い,痛みが改善し歩容が整うまで調整しながら日常生活での使用を続けた。膝関節伸展と股関節外転の筋力および10m歩行時間,足の痛みのvisual analogue scale(VAS),Life-Space Assessment(LSA)を介入開始前と3ヵ月経過時に評価し検討した。【結果】膝関節伸展の筋力は介入前後で平均20.2%(右27.5%,左12.9%)の改善,股関節外転の筋力は介入前後で平均24.0%(右21.9%,左26.1%)の改善がみられた。10m歩行時間は介入前後で平均19.9%短縮,VASは介入前の平均9.8が介入後で3.7に改善,LSAは介入前平均78.2点が介入後で88.6点に改善され,10m歩行時間とVASはすべての患者で改善がみられた。【考察】RAは炎症性疾患であるため,関節破壊を助長しないよう病期や疾患活動性,関節破壊の程度などを考慮する必要がある。負荷量の設定や運動内容の調整が適切であれば,筋力や持久力が改善し歩行能力は向上すると報告されている。本研究において筋力増強トレーニングを行うにあたり,それぞれの関節の状態や体調に応じて負荷量と運動内容を設定した。筋力が改善したのは,負荷設定や運動内容の調整が適切であったためと考える。更に筋力が改善したことで歩行速度の向上が得られたと思われる。また,RA患者に対する足底板の使用は,前足部圧を軽減し有痛性胼胝に対する除圧に有効といわれており,それによる痛みの改善により歩行速度の向上をもたらすと考える。しかし,長い罹病期間中に痛みを伴う歩行を続けていたRA患者は,日常生活活動を維持するために代償動作での歩行を習得している。そのため足底板を使用しても,急激な歩行時の姿勢変化に短期間では順応できないため他の関節の痛みを生じ,かえって歩行能力を低下させてしまう例も報告されている。そこでRA患者に足底板を使用する際は,調整と歩容の評価により日常生活の中で歩行練習を行いながら順応させることが有効な方法ではないかと考えた。実際の生活での使用状況に合わせて作成したことで,10m歩行時間だけではなくLSAについてもほとんどの患者で改善が見られたと考えられる。また,今回使用したカスタムインソールは,緩衝材パーツの着脱により作成と再調整が可能であるため,歩容や痛みの評価により導き出された問題点に対して,速やかに調整を行うことができる。そのため理学療法士が形状を調整しながら歩行練習を行うことに適しているのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】薬物療法が進歩し,早期から炎症がコントロールされ,高度な関節変形や機能低下をきたすRA患者は減少しているが,歩行障害に悩む患者は未だに多く存在する。筋力や持久力以外の運動療法の有効性に関する報告はまだ少ないため,今回の報告のような様々な介入方法についての検討は必要である。

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© 2015 日本理学療法士協会
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