理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0132
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口述
回復期リハビリテーション病院を退院した患者のADL変化の傾向
FIMを用いての比較・検討
善平 朝彦西山 達也
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抄録

【はじめに,目的】当院は111床の回復期リハビリテーション病院(以下回復期リハ病院)であり,平成25年度には全入院患者のうち65%の患者が自宅退院となった。当院では退院後の生活について電話調査を行なっているが転倒や能力低下の報告もある反面,入院時より活動量が増えたとの報告もある。本調査の目的として,入院中に獲得したActivity of daily living(以下ADL)を,動作・生活環境が定着した6か月後においても維持出来ているのか,また脳血管疾患と骨関節疾患において異なる傾向が見られるかどうかを比較・検討したのでここに報告する。【方法】当院で平成25年6月より自宅退院となった全患者のうち,退院後6か月経過し同意を得られた患者85名(男性33名,女性52名,平均年齢74.2±12歳,脳血管疾患38名,整形疾患47名)に対し電話をかけFunctional Independence Measure(以下FIM)を聴取した。本調査では,入院患者の多数を占める脳血管疾患と整形疾患の患者に対象を絞り行った。全対象,脳血管疾患群,骨関節疾患群に分けそれぞれ退院時,6か月後FIMのFIM総合項目得点を比較した。またFIM運動項目得点を80点以上群,80点未満群に分け,全対象,脳血管疾患群,骨関節疾患群の入院時,6か月後FIM運動項目得点を比較した。統計分析はt-検定を用い有意水準は5%未満とした。【結果】全対象において,退院時FIM総合項目の得点は109.3±20.3点,6か月後の得点は113.9±18.1点で有意差が見られた。(P>0.01)疾患別の分類では,骨関節疾患群の退院時FIM総合項目得点は112±13.5点,6か月後の得点は118.6±10.3点であり有意差が見られた。(P>0.01)運動項目80点を境界とする分類では,80点以上群の退院時FIM運動項目得点は86.9±3.8点,6か月後の得点は88.1±4.1点であり有意差が見られた(P>0.01)骨関節疾患群の退院時FIM運動項目得点は85.8±3.8点,6か月後の得点は87.8±4点であり有意差が見られた。(P>0.01)FIM運動項目80点未満群の退院時FIM運動項目得点は60.3±15.9点,6か月後の得点は70±17.7点であり有意差が見られた。(P>0.01)骨関節疾患群の退院時運動項目得点は68.2±8.3点,6か月後の得点は81.3±8.5点であり有意差が見られた。(P>0.01)【考察】退院後のADLの変化について,石川らはFIM運動項目が80点以上では,屋内ADL自立しており退院後もADLが低下し難く,70点未満の患者では介助量が多くFIMの向上が難しい,と述べている。これを検証する為,本調査はFIM総合項目の比較に加え,FIM運動項目を80点以上群,未満群に分け比較を行った。本調査では,すべての比較において対象全体と骨関節疾患群に有意差が認められたが,脳血管疾患では有意差は見られなかった。先行研究によると,脳血管疾患では入院後1か月間のFIMの向上度が高く,2か月以降のFIM向上度は緩やかになり退院時まで伸びる。またJorgensenらは,脳卒中患者の95%以上の患者でADLがプラトーに達するまでの期間は,全体で12.5週と報告している。脳血管疾患群の平均在院日数は117.6日と発症より1ヵ月以上経過しており,FIMの向上度が低かったことが予想される。また麻痺や高次脳機能障害により,自宅退院後の生活様式や身体能力は発症前とは全く異なることも要因の一つと考えられる。骨関節疾患では,すべての比較において有意差が認められ,特に運動項目80点未満の骨関節疾患において大きく向上した。一般的に骨関節疾患では退院時のADLレベルは高く,在宅復帰率も高い。本調査の骨関節疾患対象者は骨折患者が多く,受傷部の安静が保てれば受傷前に近いADLを獲得できていたことが予想される。また退院し慣れ親しんだ環境において,受傷前と同様の生活を送ろうとすることでADLの向上や,入院時に介助を要した動作が自立した可能性が考えられる。今回FIMでの比較を行ったが,退院後のADLに影響を及ぼす因子として,性格や年齢,同居人数や生活環境などの背景因子や疾患の細分化の関連性も示唆される。今後それらの因子が退院後の運動能力・ADL能力の変化にどのような関連性があるか検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】骨関節疾患群では,すべての対象において退院後のFIMの向上が見られた。自宅退院後も引き続き日常生活動作の継続や,運動の習慣を得ることで更なる身体機能・ADL能力の改善が望める可能性が示唆された。脳血管疾患群では,すべての比較において有意差が得られなかった。患者・家族にとって円滑な自宅生活を送る為に,退院時の環境設定や家族への介助量の説明や指導を行うことが必要であると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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