理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0179
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口述
膝立ちからの一歩踏出し動作のメカニズム
二ノ神 正詞山本 敬三
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キーワード: kneeling, step, メカニズム
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抄録

【はじめに,目的】膝立ち(以下kneeling)やそこからの一歩踏み出し(以下step)動作は,大殿筋や脊柱起立筋といった伸展筋の筋力向上,およびバランス能力向上に寄与すると言われており,運動療法の一つとして教科書的にも紹介されている。しかし,kneelingに関する先行研究では,kneelingの筋活動に着目した報告が多く,kneelingからのstep動作のメカニズムの詳細は明らかになっていない。したがって本研究では,足圧中心,重心などのバイオメカニカルデータや表面筋電図の定量解析から,kneelingからのstep動作のメカニズムを明らかにすることを目的とした。【方法】健常男性11名(身長:168.1±5.4cm,体重:63.6±8.8kg,年齢:21.6±5.0歳)を対象とし,kneelingからのstep動作を課した。開始肢位は両脚を肩幅に開き手を腰にあてたkneelingとし,膝関節が90°となる姿勢とした。被験者には自然速でのstep動作を3回試行させた。踏出脚は,ボールをキックする利き脚とし,全被験者が右脚であった。実験では光学式モーションキャプチャと床反力計および表面筋電図を用いた。サンプリング周波数は,モーションキャプチャで200Hz,床反力計と筋電図で1kHzとした。身体動作の計測ではヘレンヘイズマーカセットを用いた。筋電図の対象筋は,縫工筋,中殿筋,外側広筋,大腿二頭筋,大殿筋,長内転筋(大腿二頭筋,縫工筋,大殿筋は振出脚側,長内転筋は支持脚側,それ以外は両側)の全8筋とし,電極を中心間距離20mmで筋線維に沿って貼付した。筋電図の信号処理では,バンドパスフィルター(10-500Hz)を適用した。また,筋活動量を見積もるために整流し,平均2乗振幅値を求めた。計測データ分析ではVisual3Dを用いた。【結果】足圧中心は動作開始してから右前方,左後方,左前方の3点を順に通り,重心は足圧中心とは反対方向に移動し左後方,左前方,右前方の軌跡をとった。この時の足圧中心移動平均量は前方で0.7cm,右方で5.5cm,後方で3.5cm,左方で14.6cm,重心移動平均量は後方で1.5cm,左方で10.6cmだった。足圧中心軌跡が右前方,左後方,左前方を通ることから,kneelingからのstep動作を動作開始→右前方,右前方→左後方,左後方→左前方,左前方→動作終了(右前方)の4相に分けると,1相で左股内転モーメントが生じ,2峰性の活動をみせる右中殿筋において最初のピーク活動が2相にかけて,左長内転筋も2相にかけてピーク活動がみられた。重心の左後方移動もこの相で起こっていた。2相では右股内転モーメント,右膝伸展モーメントが生じ,右外側広筋のピーク活動がみられた。そして,右股屈曲モーメント・左股伸展モーメント,左外側広筋ピーク活動が3相にかけて,左股外転モーメントが4相にかけて生じていた。また,重心の左前方移動も起こっていた。3相では右大腿二頭筋,右中殿筋の2峰目,右大殿筋,左中殿筋のピーク活動がみられた。また,右股外転・膝屈曲・左膝伸展モーメントが4相にかけて生じていた。この相では振り出し側足部離地も起こっていた。最後の4相では右縫工筋ピーク活動,重心右前方移動が生じていた。【考察】足圧中心が移動することで重心を支持脚方向,次にstep進行方向に移動させていることが確認された。この戦略を行うために,1相では,股関節外転筋である右中殿筋,股関節内転筋である左長内転筋の活動によって足圧中心を支持脚と反対方向に移動させ,2相では,右股内転筋,左股外転筋活動により足圧中心を左方移動させ,左右外側広筋,左股伸展筋活動により足圧中心を後方移動させていると考えられる。3相では,左中殿筋の遠心性収縮により左方移動している重心にブレーキをかけ,左股伸展筋,外側広筋が活動することで増加してくる荷重に耐えるように身体を保持し,そして右股屈曲筋,中殿筋,膝屈筋である大腿二頭筋の活動によって振り出し運動を発現させ,足圧中心が前方移動しているものと思われる。そして4相では,左股外転筋が遠心性から求心性活動に切り替わることで足圧中心が右方移動し,左膝伸展筋が活動することで継続して身体を保持し,右縫工筋,股外転筋,膝屈曲筋が活動することで振り出し動作を継続していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】リハビリテーション分野でトレーニングとして使用されているkneelingからのstep動作において,その動作メカニズムを明らかにすることは,トレーニング方法の再考につながると考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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