理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0185
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口述
42℃温水頚下浸水による温熱負荷が高齢者の血中IL-6動態に及ぼす影響
山城 麻未児嶋 大介木下 利喜生櫻井 雄太東山 理加太田 晴基荒木 昇平吉岡 和泉幸田 剣田島 文博
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キーワード: IL-6, 温熱負荷, 健常高齢者
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抄録

【目的】わが国は超高齢社会を迎えており,老年人口が高い比率となっている。高齢化社会を支える手段として,高齢者の長期的な健康維持は非常に重要であり,運動習慣の獲得が推進される。近年,運動が身体にもたらす効果は解明されつつある。その一つとしてInterleukin-6(以下IL-6)が挙げられる。IL-6は骨格筋の収縮により産生され,これまで認識されてきた液性免疫の中心的役割を担うだけでなく,糖代謝や脂質代謝の活性化等を有する多機能サイトカインであることが明らかになった。しかし,様々な慢性疾患を有する高齢者にとって,IL-6を発現させるだけの運動は困難である。我々は第45回日本理学療法学術大会において,健常若年者の42℃温水頚下浸水により,血中IL-6濃度を上昇させることを発表した。そこで,高齢者においても同様の生理反応があるならば,42℃温水頚下浸水による温熱負荷は,高齢者の健康維持の一助となる可能性があると考えた。本研究は,42℃温水頚下浸水による温熱負荷が健常高齢者の血中IL-6動態に及ぼす影響を,健常若年者と比較して検証する。【方法】被験者は,健常若年男性8名(年齢;25.9±1.2歳,身長;173.3±1.4cm,体重;70.1±4.2kg,BMI;23.3±1.3kg/m2),健常高齢男性7名(年齢;68.4±1.4歳,身長;164.4±1.2cm,体重;60.2±2.7kg,BMI;22.3±1.2kg/m2)を対象とした。除外基準は,糖尿病や心疾患,慢性炎症性疾患,皮膚疾患を有する者とした。また,測定前日からの激しい運動やカフェイン,アルコールの摂取を禁止した。被験者は28℃の室内にて30分間安静座位をとり,その後42℃温水に20分間頚まで浸かり,再び28℃の室内にて安静座位で2時間過ごした。実験中は食道温を連続的にモニタリングし,また自由飲水とした。採血は浸水前,浸水直後,浸水1時間後,浸水2時間後に行った。測定項目は深部体温,血中IL-6,TNF-α,高感度CRP,ヘマトクリット値とした。統計解析は頚下浸水前後でANOVAを行い,post hoc testとしてTukey's LSDを用いて検定を行った。高齢者と若年者の比較は,Student's t-testを行った。有意水準は5%とした。【結果】深部体温は,若年者において浸水前(36.9±0.1℃)と比較して,浸水直後(40.4±0.1℃)(P<0.01),浸水1時間後(37.4±0.1℃)(P<0.05)で有意な上昇を認め,高齢者では浸水前(36.8±0℃)と比較して,浸水直後(38.7±0.1℃),浸水1時間後(37.6±0.1℃),浸水2時間後(37.4±0.1℃)で有意な上昇を認めた(P<0.01)。また,浸水直後,若年者と比較して高齢者が有意に低かった(P<0.01)。血中IL-6濃度は,若年者において浸水前(0.9±0.3pg/ml)と比較して,浸水1時間後(1.6±0.4pg/ml)で有意な上昇を認めた(P<0.05)。しかし,高齢者では浸水前後で血中IL-6濃度に有意な変化は認めなかった。また,両群間でも有意な変化を認めなかった。TNF-α,高感度CRP,ヘマトクリット値は,各群の浸水前後および両群間において有意な変化は認めなかった。【考察】深部体温は浸水直後で若年者より高齢者の方が有意に低かった。この原因として,高齢者は加齢に伴い皮膚血流量と皮膚血管拡張反応が低下しており,42℃温水頚下浸水によって加温された静脈還流量が,若年者と比較して減少したためだと考える。若年者では血中IL-6濃度が有意に上昇したが,高齢者では変化を認めなかった。動物実験では,42℃温熱負荷によりIL-6が発現したと報告されている。今回,炎症反応の指標であるTNF-α,高感度CRPの上昇もなく,また,浸水中に骨格筋を収縮するような運動も実施していないため,動物実験と同様に,若年者は温熱負荷によってIL-6が発現したことが推測される。筋収縮により産生されるIL-6は,TypeIおよびTypeII筋線維から発現され,特にTypeII筋線維からの発現量が多いと報告されている。加齢によりTypeII筋線維が萎縮することで,高齢者ではIL-6発現量が少ないと推測される。さらに,高齢者は深部体温が若年者と比較して上昇しなかったため,42℃温水頚下浸水による温熱負荷では,高齢者におけるIL-6産生が不十分であると推察される。以上より,若年者では血中IL-6濃度が有意に上昇したが,高齢者では変化がなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において,42℃温水頚下浸水による温熱負荷では,高齢者の血中IL-6濃度が上昇しなかった。今後,温熱負荷が高齢者の健康維持の一助となる効果を検証する指標として,意義のあるものだと捉えている。

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© 2015 日本理学療法士協会
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