理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0278
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口述
大腿骨頚部骨折術後患者における術後2週での杖歩行獲得に関連する要因についての検討
保坂 洋平滑川 博紀大曽根 賢一上杉 雅文
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キーワード: 大腿骨頚部, 杖歩行, 術後2週
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抄録

【はじめに,目的】大腿骨頚部骨折術後患者の歩行能力再獲得には,年齢,認知機能の有無,脳血管障害の有無,受傷前歩行能力が退院時の歩行能力に影響している要因と報告されている。しかし,これらの報告は退院時や長期的な歩行能力に関する報告が多く,短期に獲得する歩行能力について検討した報告は少ない。近年の医療体制変化による在院日数短縮を鑑みると,短期的な歩行能力を予測することは,速やかに転帰先を決定する上で有意義であると考える。以上の背景から,本研究では術後2週での10m杖歩行獲得について,術後の患者因子及び術後早期の歩行能力から関連する要因を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究は後方視的疫学観察研究である。対象は2012年8月から2014年7月の間に,観血的治療を施行した大腿骨頚部骨折患者連続81症例中,組み入れ基準を満たした50例(男性12名,女性38名,平均年齢75.2±13.4歳)であった。組み入れ基準は,①受傷前歩行能力が独歩あるいは杖で自立,②多発骨折ではない,③術後患肢全荷重可能,④術後脱臼・再骨折がない,⑤入院中に既往の呼吸器・循環器・運動器疾患の増悪がないもの,⑥調査項目の欠損がないもとした。調査項目は患者背景・疾患に関する情報として,年齢,性別,認知症の有無,脳血管障害の有無,既往での運動器疾患の有無,糖尿病の有無,転位の有無,手術までの待機日数,American Society of Anesthesiologists,手術時間,出血量,入院時Alb値,術後CRP値,術後Hb値とした。歩行能力は術後3日目と5日目で評価し,床上を0点,車椅子乗車を1点,平行棒歩行を2点,歩行器歩行を3点,杖歩行・独歩を4点と点数化した。2点から4点に関して,屋内の移動距離を想定した10mをそれぞれ介助なしで可能か否かで判定した。全項目は診療録より調査した。統計学的検討は,対象を術後2週間で歩行能力4点に達した群(杖可能群:n=22)と歩行能力3点以下の群(杖未獲得群:n=28)の2群に分類し,t検定,χ2検定,Mann-WhitneyのU検定にて各項目の2群間での比較を行った。次に,2群間で有意差を認めた項目を用いてロジスティック回帰分析を実施した。変数の選択は尤度比検定による変数増加法を用いた。統計解析はSPSSver21を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】2群間(杖獲得群vs杖未獲得群)を比較した結果,年齢(66.0±13.0歳vs79.3±11.91歳,p<0.01),術後Hb値(10.9±2.21g/dlvs9.32±1.32g/dl,p<0.01),認知症の有無(χ2=8.06,df=1,p<0.05),術後3日目と5日目の歩行能力(p<0.01)が有意差を認めた。その他の項目では差がなかった。単変量解析で有意差を認めた5項目の変数間では相関係数0.9以上を示したものはなかったため,多重共線性はないと判断し,ロジスティック回帰分析の独立変数として採用した。その結果,術後Hb値(オッズ比:1.82,95%信頼区間:1.14-2.85)と術後5日目の歩行能力(オッズ比:7.49,95%信頼区間:2.30-24.39)が抽出され,判別的中率は82%であった(モデルχ2検定p<0.05,Hosmer-Lemeshow検定p=0.787)。【考察】本研究では受傷前杖歩行可能な大腿骨頚部骨折患者の術後2週での10m杖歩行獲得に関連する因子について検討した。その結果,術後Hb値と術後5日目の歩行能力が抽出された。術後Hb値に関して,市村ら(2001)は退院時歩行能力に貧血(Hb値<10g/dl)の有無が影響すると報告している。貧血は末梢組織への酸素運搬能力低下により運動機能低下を招く要因とされているため,本研究においても術後Hb値低下が術後リハビリテーションの進行や歩行能力にも影響したと考えられる。術後歩行能力に関して,藤田ら(2003)は平行棒内3往復達成日と杖歩行50mに正の相関を認めると報告している。本研究でも同様に術後早期の歩行能力が短期的な歩行能力と関連する結果が得られた。しかし,本研究では術後3日目の歩行能力は多変量解析では抽出されず,5日目のみ抽出された。その原因として,術後早期は両群共に炎症性の疼痛が歩行能力低下を招き,術後3日目の歩行能力では短期的な歩行能力を予測することは困難であるからと解釈した。よって術後2週での10m杖歩行獲得の予測としては術後5日目が有効であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】大腿骨頚部骨折術後患者の術後Hb値と術後5日目の歩行能力により,術後2週での10m杖歩行獲得の可否について予測が可能であることが示唆された。これは,転帰先を検討する上で有用であると考える。

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