理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0460
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口述
背上げ角度による呼吸運動の変化
猪爪 友貴樋口 雄哉仲保 徹
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キーワード: 呼吸運動, 動作解析, 体位
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抄録

【はじめに,目的】ポジショニングは症例の酸素化に効果的であるといわれており,その効果の裏付けとなる研究がいくつか行われている。ひとつに起立位と臥位を比較したものがあり,起立位では,腹腔内の臓器が下方に移動し,それにつられ横隔膜が下方に引かれるため,胸腔内の陰圧が高まり1回換気量が増加するというものである。半臥位であるセミファウラー位の研究もある。セミファウラー位は一般的に安静や安楽が必要とされる症例に用いられる肢位である。集中治療が必要な急性期患者では,セミファーラー位にすることで心拍出量が減少し,血行動態は良くなるという報告がある。しかし,これら先行研究では呼吸動態に関しては,楽になるとしているが,そのメカニズムは明らかになっていない。本研究の目的は,臥位における背上げ角度が呼吸様式にどのような与える影響を及ぼしているかを明らかにすることである。【方法】対象は呼吸器疾患の既往がない成人男性10名(年齢21.0±0.7歳,身長171.1±7.5cm,体重62.3±5.0kg)とした。研究は実験的方法で行った。リクライニングベッド(パラマウントベッド社製)を使用し,背上げ角度を0度,15度,30度,45度,60度とした時の安静呼吸時の呼吸運動を測定した。実験方法はまず安静臥位を10分間行い,その後ランダムに設定した条件の背上げ角度にし,その肢位に適応する時間として20分間の安静をさせた。その後安静呼吸を5回以上繰り返し行い,安静呼吸のうち呼吸の安定した3回のデータの平均値を代表値とした。呼吸運動の測定は,3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon社製)用い,体表に貼付した45個の赤外線反射マーカーの位置データから算出した体積の変化量で求めた。体積はマーカーの位置データから78個の6面体を作成し,その構成する位置ベクトルから算出した。6面体の全てを合算した総体積,前面において胸骨頸切痕から乳頭線上までを合算した上部胸郭体積,乳頭線上から剣状突起までの中部胸郭体積,剣状突起から肋骨最下縁までの下部胸郭体積,肋骨最下縁から腸骨稜までの腹部体積と分割した。変化量は安静呼気位に対する安静吸気位の割合を変化率として算出し,それぞれの変化率を各背上げ角度で比較した。計算はVicon Body Builderと表計算ソフトExcelを使用し行った。統計学的判断は,Shapiro-Wilk検定の結果を得て,一元配置分散分析を行い比較した。統計処理にはSPSS statics20を用い,有意水準は5%とした。【結果】総体積の変化率の結果は,0度;106.1±1.8%,15度;104.9±1.1%,30度;104.7±1.4%,45度;105.1±1.3%,60度;105.5±1.3%であった。下部胸郭体積の変化率は,0度;106.9±2.4%,15度;105.3±0.6%,30度;105.0±2.0%,45度;105.1±1.2%,60度;105.5±1.6%であった。また腹部体積の変化率は,0度;111.7±5.6%,15度;108.9±2.8%,30度;108.9±3.3%,45度;109.9±3.3%,60度;112.1±5.2%であった。全ての部位と背上げ角度について有意差は認めなかった。【考察】変化率は0度から30度の背上げ角度で減少し,30度から60度の背上げ角度で増加していた。その中で下部胸郭と腹部においてその様子が特に見られた。0度から30度へ背上げ角度を挙げることで,矢状面において床と対象者の肋骨の走行が平行に近くなり,肋骨の走行が重力線に対して直交し重力により肋骨を押し下げる力が働いたと考えられる。また,30度から60度にかけては,先行研究にもみられたように腹腔内臓器が重力の影響を受け,横隔膜が下方へ牽引され,腹腔内圧が上昇し下部胸郭,腹部の体積が増加したと推測される。これらにより,背上げ角度は呼吸様式に影響を及ぼすことが推測されるが,呼吸流量や酸素摂取量等の呼吸生理学的要因も加味した追跡研究を行いたいと考える。【理学療法学研究としての意義】背上げ角度による呼吸様式の変化を明確にすることで,安静位の設定方法において,術後創部の位置や病態などの症例の身体状況を加味し,症例に負担の少ない背上げ角度設定の基準の作成ができると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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