抄録
【はじめに,目的】我々は脳梗塞後の痙縮発症機序について,延髄網様体神経核は脊髄反射弓の興奮性や筋緊張を調節するため痙縮との関連を推測している。しかし,延髄網様体脊髄路と痙縮に関する報告はない。本研究は,痙縮発症マウスを用い延髄網様体神経細胞の活動性変化を観察することを目的とした。【方法】photothrombosis法により脳虚血を作成し,痙縮評価としてHoffmann反射のRate Dependent Depressionを用いた。頚髄前角に逆行性トレーサーであるコレラ毒素Bを注入し,脊髄へ軸索を投射している延髄網様体神経細胞をラベルし,そのラベルされた細胞の神経活動変化を神経活動依存的に発現増加するc-Fosを用いて免疫組織化学的に検討した。さらに延髄網様体に順行性トレーサーを注入し延髄網様体脊髄路の走行を確認した。痙縮発症後,延髄網様体脊髄路を錐体交差部で切断し,痙縮をH反射RDDで評価した。【結果】その結果,脳梗塞群における脊髄に投射している延髄網様体神経細胞のc-Fos陽性面積は,コントロール群と比較し有意に増加した。さらに脳梗塞7日後に痙縮を確認したマウスに,延髄網様体脊髄路切断(切断群)もしくは偽手術(対照群)を行い,その3日後に再度H反射RDDを確認したところ,脳梗塞7日後に有意に弱化していたRDDは対照群と同様にRDD弱化は認められなかった。つまり痙縮様反応が消失していた。【考察】本結果より,脳梗塞後に延髄網様体脊髄路の神経細胞の活動性が亢進していることがわかった。さらに延髄網様体脊髄路から脊髄神経細胞へのシグナルがH反射RDDの弱化を引き起こす要因の一つである可能性が示された。今後は脳梗塞後の延髄網様体の神経細胞の可塑的変化の詳細な検討を行う。【理学療法学研究としての意義】痙縮発症メカニズム解明により,新たなリハビリテーション治療の開発の可能性がある。