理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0591
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口述
人工膝単顆置換術前後の運動機能の経過と変形性膝関節症患者機能評価尺度に影響する因子
小林 裕生刈谷 友洋森田 伸田仲 勝一伊藤 康弘藤岡 修司板東 正記廣瀬 和仁井窪 文耶田中 聡加地 良雄森 正樹西村 英樹山口 幸之助山本 哲司
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抄録

【はじめに,目的】人工関節単顆置換術(以下,UKA)は,人工膝関節全置換術(以下,TKA)と比較して良好な運動機能,QOLが期待できると多く報告されている。しかし,術後理学療法は,クリニカルパスの導入により在院日数が短縮され,介入期間が短く術後のQOLを十分に把握できていないと考えられる。TKA術前後のQOLの経過や影響する運動機能因子については報告されているが,UKA術後QOLに影響する運動機能因子の検討はされていない。術前後のQOL向上に影響する運動機能因子を明らかにすることは,効果的な術前運動指導や術後理学療法を実施するための指針となる。本研究の目的は,UKA術前後の運動機能の経過を調査し,QOLに影響を与える運動機能因子を明らかとすることである。【方法】対象は,当院にて両側変形性膝関節症に対してUKA施行され,クリニカルパスに準じて理学療法を行った33名(男性10名,女性23名,年齢73.8±1.5歳,BMI25.5±0.6)とした。Kellgren-Lawrence分類は,術側III~IV,非術側II~IVであった。すべての対象者は,術後2~3週で自宅退院となり,以後外来理学療法は未実施であった。取り込み基準は,年齢60~80歳,片側UKA施行例とし,除外基準はBMI>35,他関節のOA,関節リウマチ,神経疾患,精神疾患,認知症とした。測定項目は,術側および非術側の膝関節可動域(他動屈曲・伸展),等尺性膝伸展筋力,歩行時の主観的疼痛,10m歩行時間とした。QOLの評価には変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下,JKOM)を使用した。測定は,それぞれ術前と術後6ヶ月に行った。等尺性膝伸展筋力には,ハンドヘルドダイナモメーター(μ-Tas F1:アニマ社製)を使用し,トルク体重比を算出した。また,歩行時の主観的疼痛にはVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いた。統計学的解析について,術前,術後6ヶ月の運動機能の比較には対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いた。また,術前,術後6ヶ月におけるJKOMを従属変数,運動機能を独立変数とした重回帰分析を行った。多重共線性を考慮して,独立変数の抽出には事前に単変量解析を行った。抽出された変数に対して交絡因子(年齢,性別,BMI)を分析モデルに強制投入し調整を行った。統計ソフトはSPSSを使用し,有意水準は5%とした。【結果】運動機能(術前,術後6ヶ月)では,術側伸展可動域(-6.7±0.9°,-3.8±0.6°),術側膝伸展筋力(0.8±0.1Nm/kg,1.1±0.1Nm/kg),10m歩行時間(11.9±0.8秒,10.0±0.5秒),術側VAS(39.2±4.7mm,7.0±1.8mm),非術側VAS(15.4±3.9mm,7.1±2.2mm),JKOM(39.5±3.0点,13.9±1.4点)で有意な変化(p<0.01)をみとめた。重回帰分析の結果,交絡因子投入後も同様の因子が抽出され,術前JKOMに影響を与える因子として10m歩行時間(β=0.430,p=0.009,),術側VAS(β=0.444,P=0.005)が抽出された(ANOVA p=0.004,R2=0.361)。また,術後6ヶ月JKOMに影響を与える因子として非術側VAS(β=0.539,p=0.004)が抽出された(ANOVA p=0.039,R2=0.200)。【考察】UKA術前,術後6ヶ月の運動機能の経過に関して,術側は伸展可動域,VAS,筋力の有意な改善がみられ,非術側については,可動域や筋力の変化はないが,VASが有意に軽減している結果となった。歩行やJKOMに関しては良好な改善がみとめられた。術側屈曲可動域(術前131.2±2.1,術後6ヶ月130.6±1.7)に有意な改善がみられなかった理由としては,UKA適応症例は術前より可動域が比較的良好であること,また術前と同等の可動域が獲得されていると考えられる。また,非術側のVASが有意に低下していたが,対象が両側性膝関節症であるため,手術により術側機能が回復し反対側の負担軽減につながった可能性が考えられる。術前JKOMに影響を与える因子は,10m歩行時間,術側VASであった。術前の歩行能力低下や痛みの強さはQOLを低下させることが示唆された。術後6ヶ月のJKOMに影響を与える因子としては,非術側VASが抽出された。術側の可動域や疼痛,筋力は手術により改善が得られるため,術後も残存する非術側の疼痛がJKOMに影響を与えていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】UKA術後は,良好な機能回復,QOL向上を示すことが明らかとなった。しかし,術後6ヶ月のQOLに影響を与える因子は,術側機能ではなく非術側の疼痛であった。術側への介入はもちろんであるが非術側へ着目することで術後のQOL向上に影響することが示唆された。したがって,本研究の結果はUKA術後に長期的な視点でQOLの向上を考慮した理学療法の一助となると考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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