理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-A-0099
会議情報

ポスター
身体重心変動に着目したHip flexor index回帰モデルを作成するイベントパラメータの検証
大倉 俊溝田 康司松原 誠仁坂元 勇太河﨑 靖範槌田 義美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】歩行の評価において客観的指標の確立は課題とされており,窪田は歩行分析が診断と治療の場面に有効に活用されるためには,標準化が必要と述べている。我々は,第49回日本理学療法学術大会にて,Schwartzら(2000)の方法を援用し,健常成人におけるHip flexor index(HFI)回帰モデルを作成し,必要性と有用性について報告した。Schwartzらの方法は健常小児の股関節機能に着目し,HFI回帰モデルをイベントパラメータより算出することで歩行の標準化を試みたものであるが,歩行を標準化する指標としてHFIを算出した際に,イベントパラメータの意義についての検証は行っていない。そこで今回,HFI回帰モデルを作成するイベントパラメータの検証を目的とし,歩行の安定性に寄与すると言われる身体重心変動とイベントパラメータの時期と各変数を比較したので報告する。【方法】対象は,股関節疾患等の既往のない健常成人男性20例(年齢26±3.8歳,身長169.2±5.6cm,体重61.4±5.6kg)である。方法は,光電式3次元自動動作分析装置(Eagle/Hawk Real time system:Motion Analysis社製),6台の赤外線カメラ(サンプリング周波数120Hz),床反力計(サンプリング周波数120Hz)を用いて,3回以上行った自由歩行の試技のうち,歩行が最も自然歩行とみなされるものを分析対象としてデータ収集を行った。データ処理は,光電式3次元自動動作分析装置によって計測された3次元座標値をもとに,松原らの開発した関節モーメント,関節トルクおよびトルクパワー算出プログラムを用いて処理を行い,Schwartzらが提唱するイベントパラメータである最大骨盤傾斜角(MPT),骨盤傾斜範囲(PTR),立脚期最大股関節伸展角(HEST),立脚期股関節屈曲-伸展モーメントの伸展から屈曲に切り替わる割合(TOC),立脚期後半の股関節屈曲パワー(H3),身体重心変動を算出し,身体重心変動とイベントパラメータの時期と各変数を比較した。【結果】身体重心の前後変動とイベントパラメータを比較すると,MPTは身体重心の前後変動速度の減少を示し,PTRは身体重心の前後変動速度の最大,最小の範囲すなわち速度変化を示す結果となった。また,HESTは身体重心の前後変動速度の増加を示し,H3は股関節屈筋群の遠心性収縮による身体重心の前後変動速度の増加を示した。身体重心の鉛直変動とイベントパラメータを比較すると,MPTは身体重心の前後変動速度と同様に鉛直変動速度の減少を示したが,PTRは身体重心の鉛直変動への影響を示さなかった。また,HESTは,身体重心の鉛直変動速度の増加を示し,H3は,股関節屈筋群の筋出力による身体重心の鉛直変動速度,鉛直変動加速度の増加を示した。イベントパラメータと身体重心は前後変動,鉛直変動ともに歩行周期40~60%の範囲で密接に関連していた。【考察】MPTは骨盤前傾のピークを迎える位置で,身体重心の前後変動速度,鉛直変動速度は最小となったことから,歩行の前進すなわち股関節屈曲の効果的な誘導を決定する要因であることが示唆された。PTRは身体重心の前後変動速度,前後変動加速度の増加に伴い骨盤が後傾し,骨盤後傾のピーク示す位置で身体重心の前後変動速度はピークを示したことから,骨盤の前後傾斜に伴う身体重心の前後変位の制御を決定する要因であることが示唆された。HESTは股関節伸展角度がピークを示す位置で,身体重心の前後変動速度がピークとなり,鉛直方向の身体重心は最小となったことから,股関節屈曲の効果的な誘導を決定する要因であることが示唆された。H3は股関節屈筋群の求心性収縮のピークとなる位置で,身体重心の前後変動速度,前後変動加速度はともに増加し,身体重心の鉛直変動速度が最小となる位置で,股関節屈筋群の求心性収縮はピークを示したことから,股関節屈曲の効果的な誘導を決定する要因であることが示唆された。さらに,イベントパラメータと身体重心の変動は歩行周期40%~60%で密接な関連が認められ,HFI回帰モデルを作成するために用いるイベントパラメータの妥当性を確認することができた。【理学療法学研究としての意義】HFIは立脚期と遊脚期の移行期で顕在化しやすい歩容の問題を検出し,前進機構の不具合の結果出現した異常歩行をより反映した指標であること及び,理学療法の介入による歩容の改善の一指標となる可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top