理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-B-0115
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ハムストリングスの伸張性とSLR動作時の骨盤の動きとの関係
荷重センサーによる骨盤の動きの推定
中泉 大淺井 仁
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抄録

【はじめに,目的】ハムストリングスは二関節筋であり,下肢伸展挙上(以下SLR)時に伸張され,起始部(坐骨結節)に加わる張力により骨盤が後傾すると言われている。Bohannonら(1984年)は上前腸骨棘と上後腸骨棘とに皮膚反射マーカーをつけ,動画により骨盤後傾を測定した。その結果,SLR角度が増えると骨盤後傾角度も増えることを明らかにした。しかし,SLR時に皮膚が伸張されると,皮膚反射マーカーによる角度測定の信頼性が低くなる可能性があるので,方法論の吟味が必要である。一方,Muyorら(2011年)やLópez-Miñarroら(2012年)は,最終可動域でのハムストリングスの伸張性と体幹前屈時の骨盤傾斜角度との関係を報告している。しかし,ハムストリングスの短縮程度が強いほど,SLR時の骨盤傾斜角度に対する影響が可動域の初期あるいは中間域からも出現する可能性がある。そこで,今回我々は骨盤の後傾度合が上後腸骨棘部から受ける荷重量によって間接的に評価できるのではないかと考え,ハムストリングスの伸張性とSLRの角度を変えた場合の骨盤後傾に伴う荷重量の変化との関係を検討した。研究仮説は以下の通りである:ハムストリングスの伸張性の制限が強いほど小さなSLR角度で骨盤後傾に伴う荷重量が増える。【方法】被験者は神経学的,整形外科的疾患を有していない18~24歳の20名(男性10名,女性10名)であった。ハムストリングスの伸張性により被験者をH群(最大SLR角度80°以上)とR群(最大SLR角度75°以下)とに分けた。実験手順は以下の通りである。(1)ハムストリングスの伸張性は,他動的SLR角度によって評価された。ハムストリングスの伸張効果を避けるために,SLRを左右それぞれ1回ずつ測定し,検査側はSLR角度の小さい側,もしくは左右の角度が同じ場合は左側とした。(2)骨盤部の荷重量の測定は,荷重センサーを取り付けた測定板上で背臥位にて行われ,上後腸骨棘部を荷重センサー部に一致させた。上前腸骨棘上をベルトにて測定板に固定した。開始肢位(SLR0°)での荷重量を0とし,測定角度は5°から最大SLR角度までを5°刻みに設定され,これをランダムな順番で試行した。一回毎の試行手順:測定角度まで検査側下肢が他動的に動かされ,測定角度で3秒間保持されているときの荷重量を測定した。測定条件は非検査側の大腿部の固定のあり,なしの2つである。それぞれの条件での測定は別の日に実施された。得られた荷重量を体重で除した値(%荷重量)をデータ分析に用いた。統計処理にはSPSS Statisitics19.0を用いた。下肢固定の有無の影響を検討するために,すべての被験者がSLRを行うことのできた55°までのデータについて,対応のある反復測定2元配置分散分析が用いられた。下肢固定の有無による主効果が認められなかったため,以下の分析は下肢固定なし条件でのデータを用いた。SLR角度に対するR群とH群との%荷重量の違いを検討するために対応のない反復測定2元配置分散分析を行い,交互作用が認められた場合,角度毎の%荷重量の差を対応のないt検定を用いて分析した。有意水準は5%とした。【結果】R群は9名で,最大SLR角度は55°~75°に,H群は11名で,同じく80°~90°に,それぞれ分布した。両群ともにSLR角度と%荷重量との関係は2次式で近似できた(R群r=0.996;H群r=0.998)。SLR角度55°までの角度と%荷重量との関係においてR群とH群との間に交互作用が認められ,R群とH群とではSLR角度に対する荷重の程度が異なることが示された。角度ごとに両群の%荷重量を比較すると25°および35°以降ではR群の%荷重量が有意に大きかった。【考察】両群ともにSLR角度と荷重量との関係は2次式で近似できたことから,今回の方法の妥当性が確認された。R群ではH群に比べ,小さい角度から%荷重量が有意に大きかったことから,ハムストリングスの伸張性が低下すると,小さいSLR角度から骨盤後傾による代償が行われると考えられた。また本研究では下肢固定の有無による有意な影響はなかったため,下肢固定の有無による骨盤後傾への影響はない可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまでハムストリングスの伸張性はSLR最大角度によって評価されていた。しかし本研究の結果から同じSLR角度でもハムストリングスの伸張性によって骨盤後傾の程度に違いがある可能性が示唆された。そのためハムストリングスの伸張性は,最大SLR角度に加えて,SLR角度と骨盤の動きとの関係から評価する必要があることが示された。

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